第二十七話 鉱石と魔導士と
「まったく、狭いし脆いし最悪ね!」
俺は煙の立ち込める入り口付近で、声を荒げる女性を見つめていた。
背はスラっと高く、細身でスタイルはいい。
顔はマスクで覆われていて確認出来ず、ヒートアップしているので目の部分も曇っている。
「あぁ、これじゃ前も見えないじゃな!」
かなりヒステリックな性格のようだ。声も籠って聞き取りにくい。
俺が遠巻きに見ていると、見かねたビルダーが近づいて行く。
「大丈夫でシュコ?」
「あら?ご心配ありがとう。モール族?、照会の関係者かしら?」
女性はビルダーに訊ねる。
「現場監督のビルダーと申しますシュコー。あっちでツルハシ抱えてるのはシュライさんでシュコー」
ビルダーはご丁寧に俺の紹介もしてくれる。
「ご丁寧にどうも。私はクロスと申します。」
女性も丁寧にお辞儀をしている。
小さなビルダーに合わせているため、かなり不格好ではある。
「クロスさんもここにミスリルを求めにシュコ?」
ビルダーはクロスに尋ねる。
「えぇ、採掘はあまり得意ではないのですが、手あたり次第吹き飛ばしていたらこんなことになりまして。」
クロスは岩で埋もれた入り口を見て告げる。
不得意にもほどがあるだろ、不器用のレベルが違うな。
「それは大変でしたシュコね。ミスリルは数も少ないので一緒に頑張って探すシュコ!」
今は人手も欲しいし、こいつの爆発に巻き込まれるよりは近くで管理していたほうが得策か。
「しかし、ビルダー。この中からどうやってミスリルを探せばいいんだ?俺には違いがわからないぞ。」
俺はビルダーに尋ねる。
「そうシュコねー。ミスリルはこんな感じで紫に光っているシュコー、まずはそれを手掛かりに探してみるシュコ。」
そう言ってビルダーは、ポケットから小さな紫色に輝く鉱石を取り出す。
確かに鉱石は、妖しく光り他の鉱石とか一線を介していた。
「あら、ミスリル持ってたのね。ここで取れた物かしら?」
クロスがビルダーの持つミスリルを見つめながら聞く。
「そうシュコよ。これは僕が初めて採掘した記念すべきミスリルシュコ!」
ビルダーは得意げに話す。
クロスはそのミスリルをしばらく見つめた後、
「ビルダーさん、そのミスリル、少し貸して頂けますか?」
クロスがビルダーに詰め寄る。
まさか盗む気でもないよな、今逃げても出口はないけど。
「そのミスリルはどうやらここに埋まっているものの一部みたいなんです。私の探知呪文で、もしかしたら大元のミスリルを探せるかもしれません。」
不審に思っている俺を横目にクロスはビルダーに告げる。
「魔導士とは凄いシュコー、ミスリルの探知なんて高度な呪文、是非お願いしますシュコー。」
ビルダーはウキウキでミスリルをクロスに手渡す。
ミスリルを手にしたクロスは、胸の前で握りボソボソと呪文を唱える。
「おぉ、すごい輝きシュコー」
ミスリルの輝きはクロスの手の中で一層増し、部屋全体を照らすほどだった。
その後光は収束し埋まった出口とは別の方角を示していた。
「どうやらこの先みたいですね。」
クロスが落ち着いて答える。
「方向さえわかれば後は掘るだけシュコー!シュライさん行くシュコー」
ビルダーに釣られ、俺も光の刺す壁を掘り進める。
壁は固いがビルダーの爪でサクサク掘れている、俺はビルダーの掘った土砂を運び出すことに専念した。
「さすがモール族ねトンネルを掘るスピードも段違いだわ。岩盤を爆破して進むよりよほど安全ね。」
クロスの言葉に今までよく無傷でいられだのだと感心する。
しばらくするとビルダーの爪が空を切る。
「どうやら大きな空洞に出たみたいシュコー」
ビルダーを先頭に我々は大きな空間へと足を踏み入れた。
「おぉ!これは凄い。」
俺は部屋の中を見て思わず声をあげる。
そこには紫色に輝く巨大なミスリルが埋まっていたのだ。
「地面から出てる分だけでこの大きさ、実際掘り起こしたらこの3倍はあるかもしれません。」
ビルダーは語尾も忘れるほと興奮している。
「とりあえず、持てる分だけ持って上がりましょう。」
クロスの提案に俺たちは頷いて作業に取り掛かるのだった。
「ほんとにそれだけでいいシュコか?」
語尾を取り戻したビルダーがクロスに問いかける。
クロスは片手に握れるほどのミスリルで満足していた。
「えぇ、もともと部外者でしたからあまりでワガママ言えないわ。」
ここにきて妙にお淑やかになったな。
俺は抱えるほどのミスリルをカバンに積めながら二人の会話を聞いていた。
「さて、そろそろ地上に戻るとするか。」
俺たちは準備を整え帰る道順を模索する。
すでに手掛かりがあるのか、ビルダーが壁の亀裂を指さして伝える。
「あそこからわずかに風を感じるシュコー、多分外に通じてるシュコね。」
「なら、こんな息苦しいところとはささっと退散しましょ」
そういってクロスは呪文を唱えると、目の前の亀裂で爆発が起きた。
この女は、また生き埋めにでもなりたいのか。
クロスの軽率な行動に注意しようとした矢先、壁から咆哮が轟いた。
グォォォォォ!
「なっ、なんだ!?」
俺は驚いて今だ煙の立ち込める壁を見つめる。
もうもうとした煙のなかから巨大な四足歩行のトカゲが顔を出した。
「あっアースドラゴンだシュコーー!!」
ビルダーが驚きの声を上げる。
頭が焦げて煙の立ち込めるドラゴンは、怒りのまなざしを我々に向けるのだった。




