第二十六話 採掘とモグラと
王都から片道二日、舗装されていない山道を馬車で揺られ鉱山都市ムーアに到着した。
「歩きじゃないだけマシだが、これだけ悪路が続くと体にこたえるな。」
俺は馬車を降りて、凝り固まった体をほぐしながら歩いていた。
向かう先はスミスに紹介された採掘現場の担当者のもとだ。
鉱山都市とは名乗っているが、採掘量は年々落ち込んでいるらしく街は活気もなく静かだった。
そんな中、ミスリルは鉄や銅などより採掘量も極端に少なく希少な鉱石だった。
「そんなレアメタル数日のうちに発掘できるかねぇ」
俺は半ば諦めていた。
しばらく歩くとスミスの言っていた事務所に到着した。
「モール商会ねぇ、採掘から加工、販売まで手広くやってる割には小さな建物だな。とりあえず入ってみるか、ごめんくださーい。」
扉を開けるとそこには、モグラがいた。
「あら、いらっしゃい。モール商会へようこそ。今日はどんなご用件で?」
受付のモグラ嬢?(声からして女性と思われる。)は聞いてくる。
王都でも犬や猫などの亜人は見たことはあったが、だいたいは人と変わらぬ姿だった。
だが、このモール族はモグラを二足歩行にして、若干巨大化させた感じだ。
大きさは、俺の腰当たりの身長で手は大きく爪は鋭い。つぶらな瞳がチャーミングでよく見ると受付嬢はマスカラしていた。
「スミスの紹介で王都から来たんですが。」
それを聞いた受付嬢は、目をパチパチさせてこっちをみた。
「あら、ほんとにいらしたのね。ちょっと待てってね。」
そう言って受付嬢はヨチヨチ歩いて奥に行ってしまった。
しばらくすると、奥のほうからバタバタとツナギを来たモール族が出てきた。
「これはこれは、遠路遥々と、私は採掘現場の監督を任されておりますビルダーと申します。」
受付嬢と外見は変わらず声と服装が違うだけだった。
まさか一人二役じゃないよな。
「こんにちは、お忙しいところ突然すいません。私はシライと申します。報告は入ってるかと思いますが、ミスリルを探しに来まして」
俺は会釈をして答える、目線の高さが違うので前屈みたいになって窮屈だ。
そんな不恰好を晒しているとビルダーから、椅子を勧められた。
「最近は採掘量の減少と、魔王の進行でここも人が減って寂しい限りですよ。私も机に座って書類仕事しかなかったから、ちょうどいい気晴らしです。」
ビルダーはウキウキと答える。
鼻がヒクヒクしてなかなか愛嬌があるな。
「そう言ってもらえると助かります。しかし、採掘量が減っているってことはミスリルもやっぱり取れにくくなってるとか?」
俺は恐る恐る核心をつく。
「ミスリルに関しては別ですよ。そもそもアレを取りに行こうとする愚か者すらなかなか居ませんから。」
ビルダーは笑って答える。
「えっと、そう申されますと?」
「はい?ミスリルは毒霧の吹き出す採掘場の深層にありますから。普通に行けば数分と経たずにお陀仏です。」
やっぱり、そう簡単にいくわけないと思ったよ。
俺はビルダーの前で頭を抱えていた。
しかしここまで来て手ぶらで帰るわけにも行かなかった。
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採掘場は広く、二人で歩く通路は寂しく不気味なものだった。
シュコー、シュコー
「ほんとにこれで大丈夫なのか?」
顔全体を覆う酸素マスクを付けた俺は隣を歩くビルダーに伺う。
息苦しく視界も悪い。
「大丈夫シュコー、モール族の肌は毒素を吸収しないからマスクだけで防げるシュコー。」
いや、口でシュコシュコ言うなよ。
てか、人族は?人族の肌は大丈夫なの?
俺は不安に思いながらも服の袖をきっちり閉めた。
「さぁ、シュライさん。ここから毒素が強くなるシュコー。道も狭いから気を付けてシュコね。」
もうコイツの語尾はやりたい放題だな。
道幅は急に狭くなり、人一人が何とか通れるくらいになってきた。
モール族にとっては気にならない狭さだろう。
「ここはまだ採掘途中でシュコから、落石にも注意してシュコね。」
ビルダーはさらに俺の不安を煽る。
狭い道もしばらく行くと大きな空間に出た。
そこには辺り一面を覆いつくす色様々な水晶が輝いていた。
天井にも水晶は煌めき幻想的な空間を演出していた。
「これは圧巻だな。」
俺は息をのんでこたえる。
「さぁ、シュライさん。サクッとミスリル掘って帰るシュコ」
ビルダーが強靭な爪を輝かせて採掘作業に入る。
俺もランタンを置きツルハシを手に気合を入れる。
「よっし綺麗なとこだが長居は無用だな。」
俺がツルハシを振り下ろすのと、入ってきた通路で爆発が起きたのは同時だった。




