第二十三話 計略と力業と
月も出ぬ夜に二つの影が動き出す。
「兄貴、あったこれだ!」
筋肉質な男は兄に告げる。
「よし、後は中身をこの海水と入れ替えておけ。」
兄と呼ばれた男は、弟に支持を出す。
「悪いなカノン、コイツは俺たちが上手く使ってやるよ。」
兄はそう言って、手の中の妙薬を見つめるのだった。
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次の日夜明けとともにクライアットの三兄弟は王都へと到着した。
その足で急いで父のもとに急ぎ、兄たちの無事と命の妙薬を手渡しに行くのだった。
「父上!」
カノンは兄たちより先に父の部屋へと向かい扉を開ける。
「おぉカノン、良く戻った。」
ケビンは瞳を潤ませながらカノンを迎える。
「父上、この度は大変ご心配をお掛けいたしました。兄上たちも旅の汚れを落として、間もなく参りますので。」
カノンはケビンに兄たちの無事も告げる。ケビンは驚きの表情を浮かべ目頭を押さえる。
「それと父上、これを」
しばらくしてカノンが懐から小瓶を取り出し、ケビンに手渡す。
「カノン、これはもしや。」
「はい、命の妙薬で御座います。」
「おぉ妙薬まで手に入れてきてくれるとは、」
ケビンは感動し言葉を詰まらせる。
「さぁ父上、早速お飲み下さい。」
カノンに促されケビンは小瓶の中身を飲み干す。
しかし、手渡された小瓶の中身は海水。
それは弱り切ったケビンの体に良いわけもなく、ケビンは咳き込みながら倒れる。
「父上!!どうされました。」
そこへ、タイミングを見計らったようにクレハとキミトが姿を現す。
ケビンは肩で息をしてまともに声も出せずにいた。
そうしている間に、クライアット家の使用人も集まってきた。
クレハは急いで医師の手配を使用人に告げる。
「兄貴、これを。」
キミトがケビンの傍に落ちている小瓶を拾いクレハに手渡す。
クレハはその中身を確認し
「これは海水だ、カノン、父になんてものを与えたんだ!」
クレハはカノンを叱責する。
「そんな馬鹿な、確かに命の妙薬を手に入れてはず、」
カノンは動揺を隠せない、
「父上!お気を確かに、本物の命の妙薬はこちらに、さぁ口をお開けください。」
クレハは本物の妙薬を父に与える。
ほどなくして父の容態は落ち着き顔色も戻りつつあった。
一部始終を見ていた使用人はカノンの悪行に信じられないといった眼差しを向けていた。
「カノンよ、お前のしたことは許しがたい行いだ。処罰は父が目覚めるまで保留とする。しかし、兄たちは救ってくれた恩は忘れていない。父には私たちからも手心を加えていただくように言っておく。」
クレハはそう伝え、カノンはキミトに連れられて自室へと幽閉されるのだった。
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一方、カノンの去った古城ではいつもの静けさが訪れることはなく破壊が繰り広げられていた。
【唯我独尊】
赤い煙を纏う青年は、襲い来るゴーレムや獅子のようなモンスターにも怯まず果敢に剣を振っていた。
「ちょっと、コウタ!こっちまで破片飛んできてるから!あぶなっ。」
コウタの剣により瓦礫となったゴーレムの破片が俺の鼻先をかすめる。
「親父、もっと離れてろ近づくと巻き込まれるぞ!」
コウタが叫ぶが、離れすぎると俺が襲われた時なす術がない。
付かず離れず、なかなか加減が難しい。
しばらくするとモンスターの襲撃も収まり、古城は廃墟と化していた。
「どうやら終わったみたいだな。」
井戸からあたりを見回して俺は確認する。
「そこにいたか親父。歯ごたえのないやつばかりだったな。」
「お前にとってはな。」
俺は冷や汗を拭いながらコウタに応える。
「しかし、奇麗だった中庭もすっかり変わったな。これなら幽霊も出るかもな。」
「ゴースト系か、物理攻撃効かないから苦手なんだよなー。もっと隊長に教わっておくべきだったか。」
コウタは周りを見つめながら言う。
コウタが教えを乞うって隊長も化け物だな。
俺は辺りの変化を見てコウタに伝える。
「気づいたかコウタ?ここに閉じ込められて、がむしゃらにモンスターを倒してきたが。庭の彫刻や壁は破壊されている。扉はビクともしないのにな。」
俺たちは城へと閉じ込められ、二階の窓から中庭まで飛び降りてきたが肝心の門が開かなかった。
そうこうしているうちに、モンスターが集まってきたのだ。
「つまり、門は開かないが壁は壊せるんじゃないか?」
俺はコウタに提案する。
「なるほどね、んじゃ早速試してみますか。」
コウタは大きな剣を高々と掲げる。
【唯我独尊】により体から赤い煙が立ち上り剣に纏わりつく。
赤く色づいた剣は一回りも二回りも巨大に見えた。
コウタが剣を振り下ろすと、赤い雷を纏ったような剣は閃光を発しながら地面を伝い城壁に衝突する。
爆音と土煙を発しながら壁を突き破り、そこには外へと繋がる道が形成されていた。
「まだまだ、隙が大きいなコレも。」
ここまでの威力がありながらコウタは納得いっていないようだった。
「さぁ、これで帰れるな。早くいってカノンを安心させてやろう。」
俺はコウタに声をかけて、帰り道を急ぐのだった。




