第十九話 薬と探索と
「来客だというのにこんな格好で申し訳ない。」
騎士ケビン・クライアットはベッドに伏せたままこたえた。
「いえ、とんでもない、お加減が悪い中面会頂きこちらこそ申し訳ない。」
俺は素直に謝る。面会者がありながら、それでも床から起き上がることも出来ないとは、思っていた以上にケビンの病状は悪そうだった。
「息子たちの行方を探してくださるということでしたが、」
「えぇ、そのために家を出た時の様子を伺いたくて。」
俺はケビンの具合をみて、手短に尋ねた。
「最初に私の病状を心配して妙薬の話をしてくれたのは、長男のクレハだった。その後クレハが、戻らないと今度は次男のキミトがやはり妙薬を探しに行くと出て行ったのだ。」
ケビンは遠くを見つめながら話した。最愛の息子がを次々に行方不明、しかもその原因が自分のためとなると病気以上に気持ちまでふさぎ込んでしまっていた。
「お辛いところご協力感謝いたします。同じ子を持つ親として心中お察しいたします。」
俺も、もしこの子たちがいなくなったと思ったら穏やかではいられない。
あとは屋敷の者に聞いてくれとのことで、我々はケビンの寝室を後にした。
「ご覧の通りお父様もすっかり滅入ってしまって。せめて兄たちの状況でもわかればいいんですが。」
カノンは父を思いやり、呟いた。
なんて父親想いのいい子だ、この半分の気持ちでもコウタにあれば。
俺は、コウタを見ると彼は庭の噴水を見つめていた。
親の心子知らずだな。
その後、屋敷の使用人に話を伺ったが。彼らがどこに行ったのか知るものはなく。
命の妙薬についても知るものはいなかった。
「屋敷の人が知らないとなると、情報は他から仕入れてきたのか。二人が入りびたる場所とか心あたりはあるかい。」
俺はカノンに尋ねた。
「兄さんたちは、騎士団詰め所のある大通り沿いの酒場に通っていました。」
「他に情報もないし、行ってみるか。」
俺は提案し、三人は酒場へ向かい歩き始めた。
「こんにちは」
カノンは慣れない酒場に動揺しならか、扉をあけた。
まだ昼過ぎということもあり、店内のお客はまばらで店員も暇そうにグラスを磨いている。
俺たちは店内に足を踏み入れカウンター席へと腰を下ろす。
「ご注文は?」
三人分の水を置きながら店員が訪ねてきた。
「ホットミルクを」
俺は、酒を飲みたい誘惑にかられながらも我慢する。カノンとコウタも同じものを頼んでいた。
店員が飲物の準備を進めていると、近くの席から声がかかった。
「もしかして、クレハの弟さんかい?」
そこにはがっしりとした体格の男性が二人、酒を飲んでいた。
「はい、そうですが。兄さんをご存じで?」
クレハは恐る恐る話しかける。
「あぁ、俺らはクレハと同じ詰所だからな。夜勤明けにはクレハとよく飲んでいたもんよ。」
どうやら今日も夜勤明けらしく、吐く息はかなり酒臭い。
、
「しかし、クレハも急にいなくなるとはな。これで家督はおれが継げるって息巻いてたのにな。もともとクレハの腕で騎士というのにも無理がある。あいつは内政向きだからな。」
彼らはかなり酔っているらしく、大声で笑いながら話している。
「もしや、兄さんがどこに行ったかご存じですか。」
カノンは男たちに問いかける。
「詳しくは知らないが、変な爺さんに薬の話しを聞いたとか言ってたな。あれはいつだったかな?」
「たしか、警ら隊の要請でスラムに行ったときじゃないか?」
もう一人の男が答える。
「その時の巡回コースはわかりますか?」
カノンは詰め寄って質問する。
「あぁ、えっと詰所に報告書があるはずだ。」
男たちは驚いて答える。
「詰所ですね、わかりました。」
思わぬ情報に、いてもたってもいられず、カノンは店を後にする。
俺とコウタは、口の付けてないホットミルクの代金だけ払うと、急いで後を追いかけた。
コウタと共に騎士団の詰所に到着したとき、カノンはすでに巡回コースの書かれた報告書とにらめっこしていた。
「カノン、コースはわかったか?」
コウタが問いかける。
「うん、覚えた。それほど長い工程を歩いたわけではなさそうだ。」
カノンは書類を返すと、さっそくスラムへ向け歩き出した。
スラムは貧困層がひしめき合って暮らしている。
生まれ持った素質によっては、稼ぎのばらつきが出るのは仕方ないことだ。
そういった者たちは、境遇を受け入れるか、違う道で生きていくかの二択になる。
もちろん素質がすべての世界なので、持たざる者はどう頑張っても上に行くことはできない。
そういった面では厳しい世界だ。
思うところは多々あるが、今はカノンの依頼を優先させる。
俺たちは、カノンを先頭にスラムの路地を進んでいく。
「そこのお兄ちゃん。あんただよあんた、育ちの良さそうなお兄ちゃん。」
しばらく進んでいると、道端に座り込んだお爺さんが声をかけてきた。
カノンはその場で立ち止まり、耳を傾ける。
「私のことですか?何か御用でしょうか?」
お爺さんは薄汚れてシワシワの顔を上げながら
「用があるのはあんたの方じゃろ?ワシを探しておったみたいだしのぉ」
カノンはお爺さんの言葉にハッとする。
「もしや、兄たちに命の妙薬の話しをしたのは、」
「そうじゃ、ワシじゃ。」
お爺さんは笑いながら答えた。
「今の口ぶりだと、この爺さんで間違いなさそうだな。」
コウタはお爺さんを睨みながらカノンに伝える。
「疑り深いのぉ、お主も親のために薬が欲しいんじゃろ?いや彼らと同じく自分のためかのぉ」
お爺さんは目を細めてカノンの表情を眺めた。
「父のため、そして兄たちの所在を確認するため、どうか教えてほしい。」
カノンはお爺さんに向けて深々と頭を下げた。
「ふむ、お主ならたどり着けるかもな」
お爺さんは嬉しげに話し始めた。
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