第十五話 脱出と追跡と
「よし、誰もいないな、さぁ行くぞ」
俺は先頭になって部屋を投げ出した。後から子供たちが不安そうな顔でついてくる。
「心配すんなって、それこそ命に変えても守ってやるからな」
子供というのは敏感である、大人の嘘や不安はすぐさま感じとる。俺は怖がらせないように力強く子供たちに伝えた。
「うん、おじさん信じるよ」
根拠はないが、今はそれでも誰かに頼りたいのか子供たちは返事をした。とりあえずはこの先の作業場でセナと合流だ。
今日も精霊たちは出掛けている、時間にして三時間くらいは帰ってこないはずだ。
それまでに出口まで突っ走る。時間は少しも無駄に出来ない。
俺は、部屋を出て作業場に来ると石斧やナイフなど武器となりそうなものを手に取る。
あらかた準備が終わると遠くから女性陣の声が聞こえてきた。
「お父さんお待たせ」
セナを先頭に近づいてくる。少年たちも兄弟の再会に顔が綻んでいる。
「さぁ、ここからが本番だ。こっちだ着いてきてくれ。」
俺は先頭になって下見してきた書斎へと向かった。
誰もいない施設は恐ろしいほど静かで、自然とみんなの呼吸音すら静かになっていった。そして警戒しながら向かっていたので前に来た時より時間がかかり距離も遠く感じる。
しばらくして、目的の扉が見えてくる。
前と同じ立て付けの悪い古い扉である。
「さぁ、この中だ。」
俺は扉に手をかけ、力を込める。
ガタッガダガタ
「えっ!?」
扉は開かなかった。
「そんなバカな!」
俺はパニックになり扉の前で立ち尽くす。
それを見かねたセナが近寄ってくる。
「お父さん、何やってるのよ」
セナは俺の持つ石斧を奪うと、力一杯振り下ろした。
バキッ、バキッ!!
「えっ!?」
俺は目の前の光景に驚き、再度立ち尽くす。
あれ?セナってこんなに力強かったっけ?
俺の中でのおしとやかな少女のセナが壊れていく。
「ふぅ、まぁこれで大丈夫でしょ。さぁ、お父さん、行きましょ」
「あっ、あぁ、セナお前ってそんなに力強かったのか?」
俺は驚きを隠せず声をかける。
「いちおう神官のだからね、鈍器ならある程度は使えるわよ」
セナは壊れた石斧を投げ捨てて答える。
「お姉ちゃんかっこいい」
後ろで子供たちの歓声が上がる。俺はとんだピエロであった。やっぱり素質ってすごいなー。
すっかり存在感の無くした俺はみんなに続いて部屋へと足を踏み入れた。最初来た時より、荷物は増えていて色々な雑貨も部屋の隅に積み重なっていた。
「おっ、鍋だ、なかなかいいデザインだな。」
俺は家事で使えそうな鍋を見つけウキウキで鞄に詰めた。
「お父さん、もたもたしてる暇はないよ。」
セナに叱られ仕掛けのある本棚へと急ぐ。
確かこの辺に、俺はゴソゴソと棚を調べると指先がボタンに当たった。
「これか!」
俺はそのボタンを押す。
ゴゴゴゴ、音をたて本棚はゆっくり開いた。
「よし、ここからは未知の領域だな」
俺はその先へ歩みを進めた。
「これは、予想外だな」
書斎の先では道は三つに分かれていて、先は見通せない。一つずつこまめに探しているとあっという間に時間は過ぎ、精霊が帰ってきてしまう。
「お父さんこっちよ。」
そんなにか、セナは左の道を指し示す。初めてきた場所だが、ずいぶん自信ありげだ。
「セナ、何故わかるんだ?」
「ここならお兄ちゃんとの繋がりがわかるの。こっちから反応があるわ」
なるほど。そういうことなら疑う余地はないな、俺たちはセナの先導のもと左の道をつきすすんだ。
道はわりと広く大人三人くらいは横になっても進めるほどだ。天井も高く相変わらず上では魚が泳いでいる。
カツカツカツ、硬いガラスのような通路は歩くたびに靴音が響く。その中で一際急ぐ足音が聞こえてきた。
俺は足音が聞こえる後ろを振り向いた。
「まさか逃げ出すような度胸があるとはな、子供のくせに生意気な。」
そう、遥か後ろには怒りに燃える精霊がいたのだ。
「まずい、みんな走れ!セナ先導を頼む!」
俺は子供たちを走らせ、最後尾からみんなを急かす。
「逃がすと思うか!愚か者どもが!」
精霊は恐ろしい形相で迫ってきた。
やばい、めっちゃ怖い。謝ってももう許してくれなそうだ。




