第十四話 仕事と退職と
カーン、カーン、カーン
石で石を砕く音が海底に響く。
「よし、こんなもんだろ。はいよ、一丁上がりー」
俺は削った石器を少年に手渡す。
「おじさん、ありがとう。」
うん、少年よそんなんじゃ上手な世渡りはできないぞ。
おじさんに軽くショックを受けながら、次はナイフにとりかかる。
手ごろな石と石をぶつけその衝撃で割っていく。なかなか気に入った形にならないので次々試していく。
何度目かの挑戦でいい感じの鋭い刃物が出来上がる。
俺の周りにはすでに作業に取り掛かってる3人の少年たちがいた。いずれも十に満たないような子供ばかりだ。
「よし、これで実を取るのも楽になるな。」
俺は石器のナイフを手に作業に戻った。
ここでの作業も一週間が経った。最初は難航していた仕事も、方法を変え道具を工夫すれば格段に効率が上がった。
我々作業者への配慮もあり、ちゃんと食事も出て適度に休憩もくれる。
一日十数時間休みなく働かされた以前のブラックな会社よりはよほどホワイトである。
最初の頃は子供ばかりのところへ大人が来たので、精霊にかなり警戒されていた。
しかし、俺の素質を見抜くや否や警戒心も一気に解け今では監視もなく施設内を自由に行動できる。
そうとは気づかず、俺は業務態度が認められ評価が上がったと思い込んでいた。
胸中では適度な仕事が貰えてウキウキで働いていたのだった。
(お父さん!もしかして本当に死ぬまでここで働くつもり!!)
突然脳内にセナの声が響く、最初は驚いたがセナの能力【金蘭之契】はお互いの思考まで繋ぐことができるようだ。
汎用性のある便利な能力だ。
(冗談だよ、それよりコウタとは繋がりそうか?)
(やっぱりダメみたい、ここからではお兄ちゃんの繋がりを感じ取れなくて)
セナの言霊も万能ではない、ここに来てから何度か試みているがコウタと繋がらずここへ呼べないそうだ。距離が原因か定かではないが、コウタが来ないとなると自力で脱出するしかない。
(しばらくは身を潜めて脱出口を探してみるか。セナも変な気は起こすなよ。)
(いや、心配なのはお父さんだから!)
子供に心配される親って、涙が出そうだ。
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翌日から俺は早速動きだした、海藻のある作業場はある程度熟知しているので最初にいた牢屋付近を見に行く。
精霊はおらず、イカの兵士も一緒に出かけているようだ。3日に一度はそんな日があり、その間はわりと自由にできた。
「んー、牢屋は、ここで行き止まりか」
見るところもないので牢屋は早々に後にし、作業場に再度戻る。
作業場からは牢屋以外に三つ通路が伸びている。後の2つは男性陣がいた部屋と女性陣がいる部屋だ。
そして、もう一つの通路を進む。
「この先は何度か行ったが、この扉の先は不明なんだよなー、出口があるとしたらここだと思うが」
俺は期待を込めて扉に手をかけドアをあける。鍵はかかってなく、部屋には沢山の本が並んでいた。
「精霊さんも勉強熱心だねー」
魔術に関する様々な本みたいだが、俺にはさっぱり内容がわからない。床にも本や荷物が散乱している。その中で無造作に置かれた櫛を見つけて手に取る。
「セナの土産に貰っておくかな、退職金代わりって事で」
勝手に自己解釈しながら他にもブラシや鏡を拝借した。
「さて、出口を探しますか。」
本来の目的を思い出し、本格的に捜索を始める。それほど広くない部屋は隅々まで捜索するのにそれほど時間はかからなかった。
「うーん、何もないな外への出口はここにはないのか」
俺が諦めかけたころ、本棚の一画が光出した。
俺は慌てて部屋を後にし立て付けの悪いドアの隙間から中の様子を伺った。
「まったく毎回無理難題押し付けて嫌になるわ」
部屋の本棚がスライドし中から精霊が姿を現した。精霊はブツブツと文句を言いながら、本棚の下にあるボタンを押して出口を隠した。どうやらここが出口で間違いなさそうだ。
(ここまでわかれば長いは無用だな)
俺はそそくさとその場を後にした。




