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転生家族〜異世界で主夫しています〜  作者: mikami_h
第一幕 家族の絆の物語
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第十三話 人間違いと労働と

賑わいのある港から少し行った海岸は、ピーク時だというのに人はまばらで静けさを保っていた。


「本当ならみんなでバーベキューでもして海を満喫するんだが、そんな雰囲気でもないな」


俺はプライベートビーチと化した浜辺を歩きながら言った。


「ほんとうね。この事件が解決したら、またみんなで来たいわね。」


セナも後に続きながら呟いた。コウタは少し離れて海を眺めていた。


「やはり事件の影響か、人はいないな、これでは聞き込みもできないな。」


俺はどうしようかと途方に暮れた。


「やはり沖の方まで出てみるか?」


コウタが提案してくる。


「そうだな、ちょっと遠くまで行ってみるか。


「わかった、船の手配に行ってくる。」


コウタは用意していた船を呼びに港の方へ向かっていった。

俺とセナは、待つ間に海岸線まで近づき海の様子を眺めた。


「海はどこの世界でも同じだな。雄大で穏やかだ。」


俺は水平線を眺めながら、その先にはない日本を懐かしんだ。


「目を凝らせば本州くらいは見えてきそうに思えるな。ん?なんだ?」


俺は水平線の彼方で蠢く黒い影を見つめて思った。

魚群か、いや大きいな、イルカ?そんなサイズじゃないクジラか?

影は近づくごとに大きさが増していき、暫くするとあたり一面海は黒く染まっていた。


「な、なんだこれは?」


俺は動揺し立ち尽くす。


「お父さん、なんか様子が変よ。急いで海から離れましょ!」


セナも何かを察知して非難を促してきた。内地へ向けて駆け出そうと180度方向を変えた足に何かが絡みつく。


「うわ!!なんだこれ触手か!?」


それは巨大なイカのような触手だった、俺の隣ではセナも触手に捕まる。


「やばい、海に引きずりこまれる。」


戦う術のない俺にとって、こうなると出来ることはなく、ただ相手の意のままに海へと連れ去られるのであった。


しばらくすると、海は元の静けさを取り戻す。さっきまでそこにいた二人の姿すらなく、その足跡もしばらくして波にかき消された。


-----------------------------------------------


「ちょっと、どうゆうこと?なんで男はおっさんなのよ!!」


冷たい石の感触、ヒステリックな女性の声が岩に反響して鳴り響いている。


「うーん、ここは・・・セナ!大丈夫か!」


俺は目を覚ますと、隣で倒れているセナの無事を確かめた。


「・・・お父さん?良かった無事だったのね、ところでここは?」


どこも外傷はないようで、とりあえず一安心だ。


「俺もさっき目覚めたばかりで、どうやら牢屋のようだな。」


いま二人は周りを石で囲まれた牢屋の中にいる、鉄格子は頑丈で破壊も難しく。

苔の生えた壁では、手をかけて登ることもできなかった。


「どうやら目を覚ましたようだな。」


暫くすると、奥の部屋から先ほどの女性の声が聞こえた。


「妾はこの地を統べる精霊じゃ、お主たちは妾の為に働いてもらうためにここへ連れてきた。」


そういって姿を現した精霊は、人の形を成しているが体は水で出来ているかの如く透明で透き通っていた。


「もっとも、本来はあの場にいた若い男を連れてくる手筈が間違えてこんな冴えない中年を連れてきてしまった。」


精霊はしれっと毒を吐いてくる、ジワジワ効いてくるぜその毒は。


「間違いってことは、私はお役御免で返してくれるってことは・・・」


俺は恐る恐る聞いてみる。


「そんなわけなかろう、帰るときは死んだときじゃ」


ですよねー。隣でセナが軽蔑の目線を向けてくる。すまん、期待はしていなかったが聞いておきたかったんだ。

セナは目線を精霊に向け問いかける。


「もしかして、何組もの兄弟を攫っているというのは、」


「そうじゃ妾じゃ。彼らはここにとどまり、妾の世話をさせておる。もちろん死ぬまでな」


精霊は答える。


「さて、おしゃべりは終わりじゃ。さっそく働いてもらうぞ。男を連れてまいれ。」


精霊が支持を出すと、二足歩行のイカが触手で器用に牢を開け始めた。


(セナ、コウタを呼べるか。あいつにこの場所を知らせてくれ)


俺はセナにだけ聞こえるように告げた。セナも理解したのか小さく頷いた。


「さぁ、こっちに来い。」


俺は、イカの兵士に連れられてその場を後にするのだった。




牢屋を抜けてしばらく歩くと、開けた空間に出た。上を見上げると海が広がり薄い光も差し込んできていた。

薄い膜のようなものが天井を覆いつくしそこから水が漏れてくることもない。空間には空気も満ちていた。

地面からは十数メートルはあろうかという海草が生え。波もないのに漂っている。

海底のように静かな空間には、時折コーン、コーンという何かを打ち付ける音がこだましている。

奥に進むにつれ、その音は大きくなり発信源と思われる場所では少年たちが斧を片手に海藻を切りたたいていた。


「さぁ、貴様もこれで海草を切るんだ。切ったものはあちらに積んでおけ。実は取り分けて、こっちの箱に入れるんだ」


周りを見ると、すでに切り倒された海草と、紫色の丸い実が詰まった箱が並べてあった。

俺は粗悪な石斧を渡され、作業に取り掛かるように促される。


「とりあえず、コウタが来るまでは逆らう術もないしな。」


俺はしぶしぶ石斧を振り上げ近くの海藻を切り落としにかかる。

カーン!


「っ、この石斧切れ味最悪だな。これじゃあ切るというより叩き割るだな。海草も見た目よい固くまるで木みたいだな。」


こんなところ三日と立たずに心が折れる。

コウタよ、早く来ておくれ。


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