第十二話 謝罪と聞き込みと
いま俺の目の前には床がある。
両の手は相手に向かってハの字に揃え、背筋は倒していても丸まらず真っ直ぐに。
日本のサラリーマン時代を思い出すぜ。
「もう、お父さん聞いてるの?」
セナの足元しか見えないが、怒りの熱気は後頭部に感じている。
「大変申し訳なく思っております。」
そういえば昔無茶して取ってきた営業の件で開発部門の人にも怒られたっけ。
懐かしいなー。
「まったく、さっきもむやみに突っ込まないでって釘刺したばかりなのに。」
セナは半ば呆れて言った。
「まぁ、親父も土下座までしてるんだ、そのくらいで許してやったらどうだ。」
珍しくコウタが助け舟を出してくる。
「しかも、面白そうな依頼まで受けてきたしな。退屈してたところだ。」
なるほどそっちが目的か、いずれにしろ助かった。
ジークの話しでは狙われるのは兄弟・姉妹ばかり、おそらくジークもこの二人を期待して俺に依頼してきたに違いなかった。
まさか、マレットのやつここまで予測して俺をここに使いに出したのか。
「ジークの話だとこの付近のモンスターだとしても、街道程の危険はないそうだ、二人がいれば安心だって。」
俺は情けなくも二人に取り繕う。
「もう、お父さんも自分の心配をしてよ。んじゃ、危ないところには近づかない。これでいいわね。
」
「はい、心に刻みます。」
セナは再度呆れていた。こいつ母さんに似てきたな。
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日付は変わり翌日、昨夜はセナのご機嫌を取るため遅くまで旨そうな屋台を食べ歩いた。
そのため今朝は遅めの朝食となった。
「んじゃとりあえず軽く聞き込みから始めるか。被害者の家族は判明している限り二組、聞いて回るのに半日もかからないだろ。」
俺は、ざっくりと計画を立て二人に告げる。
「そっちは親父たちに任せるよ、お昼にここに集合でいいな。」
コウタはそれだけ告げて部屋を出て行った。
「まぁ、聞き込みなら危険もなさそうだしな。」
俺はセナに問いかける。
「まったく、お兄ちゃんはいつも勝手に行動して。そんなんだからリリー様にも迷惑がかかるのよ。」
リリー、確か王女の名前だったか。コウタとパーティーを組んでよく訓練しているとは聞いていたが。
コウタよ変なことはするなよ、王女は一人娘。何かあれば我々一家の首が飛ぶ。
しかたなく聞き込みは俺とセナで行くことにした。まずは最初に事件にあった家族からだ。商人の家柄のようで門からも
立派な造りが見てとれた。
「立派な家だな、これなら身代金もたんまりとれそうだ」
「もう、お父さん不謹慎よ。」
俺はセナに怒られ口を紡ぐ、するとゆっくりと入口の門が開いた。
「こんにちは、あなたが事件を調べているという冒険者さんかしら?」
門の奥では品の良さそうな細身の女性が佇んでいた。
「はい、辛いかと思いますが是非当時の状況を伺いたく。」
セナが淡々と答える。
彼女の話によると、仕事も順風満帆、特に恨みを買った覚えもないそうだ。家族の仲もよく、失踪当日もいつもと変わらなかったという。
「んー、犯人は人ではないのかもな。いなくなった当時はお子さんはどちらへ行かれたんですか。」
俺は当時の状況を聞く。
「あの日は、子供達はお休みでした。私達は仕事がありましたので、子供だけで遊びに行ったんだと思います。」
「遊びに行った場所に心当たりは?」
「よく行っていたのは、海沿いの入江ですね。綺麗な貝殻を拾ってきては自慢していましたから。」
その後いくつか質問したが有意義な情報は得られなかった。
「なんだか不思議な事件ね、街はこんなに平和なのに」
セナは帰り道、門をくぐりながらつぶやいた。
「ほんとにな、モンスターにしても目撃者もなく攫うならそれなりに知能はあるのかもな。とりあえず、もう一件にも聞き込み行くぞ。」
「うん、わかったわ。」
セナも真摯な親の様子を見て、同情心が沸きこの依頼に対する積極性も増していた。
二軒目の家は大通りにあるアパート内の一室だった。父親は王都に出稼ぎしているらしく、家には母親だけだった。こちらも犯人に繋がる情報はなく、当時の子供の行き先もおそらく海だろうとのことだった。
「わかっていたけど、有力な情報なかったわね」
セナは肩を落としながら歩く。
「まぁ、ここで分かればとっくに解決してるだろうからな。午後からはコウタを連れて海の方に行ってみるか。」
そう言って俺たちは宿に戻った。
部屋に戻るとすでにコウタが寛いでいた。
「遅かったな、何かいい情報はあったのか?」
コウタはお茶を飲みながら聞いてきた。
「これといった新しい情報はなかったわ。午後からは目撃情報もあった海に行ってみようかと。」
セナは答える。
「やはり、手掛かりは海か。いちおう海も想定した準備は整えておいた。」
コウタは1人の間、船の手配や装備の確認などをしていたらしい。なかなか頼もしいじゃないか息子よ。
「それは助かる、これならすぐにでも出発できそうだな。」
ひょっとして俺って役に立ってない。
不安になった俺は、せめて昼食の準備して主夫としての存在をアピールするのだった。




