第75話 イーグル
4時。
格納庫に行くとああでもない、こうでもないと三人でワイワイ騒いでいた。
眠くないのかな?
イーグルのコックピットに乗るナナに、両側からタラップをつけて懇切丁寧に教えているチグサとルリさん。
「だから違うって!」
「えぇんどこがぁーーん」
「・・・・・・それじゃない」
「なにがぁぁん」
二人ともスパルタ過ぎだ、ナナは今にも泣き出してしまいそうで遠くから見ている僕も心が痛い、助けてあげようかな。
「なに、ちょっとは休憩したら?」
「レイ!二人の説明分かりづらいの!」
「あんたが要領悪いんでしょ!」
「・・・・・・アホ」
「ひどいぃぃぃぃん!」
ちょっと酷すぎない?日ごろ僕にしているスキンシップの恨みなのか扱いが可哀想だ。まぁまぁと二人を宥める。
「ー回降りて休憩しよ」
ナナの頭を撫でてやると、うん!と可愛く返事をしてコックピットから飛び降りる、よっぽとストレスだった様子だ。
とりあえずいつものベンチに四人で座る、僕の右にチグサ、左にナナ、定位置膝上にルリさん。両隣の二人はやけに密着してきてちょっと居心地が悪い。
「ちょっと離れなさいよ」
「いーやーだー」
「まあまあ」
宥める身にもなって欲しい。
「ねぇ聞いてよぉレイ、ルリ達教え方適当なの!」
「ちゃんと教えてるわよ!」
「・・・・・・うん」
まあ遠くから聞いている感じ適当では無かった、ナナの要領が悪いのが本当なんだろうけど、これで操縦の腕がいいんだから訳わかんないよね。
「もー、はいはい、僕が後で教えてあげるから」
喧嘩するぐらいならこの方が早い気がする、眠たいけど。
「え?やった!」
尻尾をブンブン振って嬉しがるナナに。
「レイは寝てていいって!」
「・・・・・・うんうん」
僕とナナを一緒にしたがらないチグサとルリさん。
「こんなに言い合ってたら心配で寝れないって!」
と、怒ると二人ともシュンとしていた。エレメントはエレメント、恋敵は恋敵で時と場合をわきまえて欲しい。
「んで、どこら辺が分からないの?」
「んーとねー」
さっきまでとは打って変わって上機嫌なナナ、彼女の説明からしてだいたいはわかった。こうしていると、チグサに教えられていた頃を思い出してなんだか感慨深い。
すると膝上のルリさんが、コックリコックリと首を揺らしているのがわかった。そりゃ彼女だって疲れてるだろう、普段表情に出さないから無理させてないか心配だ。
「あら・・・・・・、ルリさん寝かせてくるからもうちょっと休んでて」
僕は膝上のルリさんの脇を抱えて持ち替え、お姫様抱っこをして部屋に連れて帰る。うーん、とゴソゴソして僕の服を握ってくるのがすごく可愛い。
「あーん、私もお姫様抱っこぉぉぉん」
「静かにしなさいよ」
ナナの要求をはいはいと軽くあしらって部屋に急ぐ、二人にしてるとどんな喧嘩するかわかったもんじゃない。
僕の腕の中で安心しきってるのかスヤスヤと眠るルリさん、こうしてみると彼女も普通の幼女(年上)なのに、空ではツルギさんに並ぶ最強のパイロットって変な肩書きだよなー、とおかしく思う。
さて部屋についた、起こさないように灯りは豆電球だけつけてルリさんをベッドに横にさせて、靴を脱がす。小さくて可愛らしいブーツ、ジッパー式だから簡単に脱がすことができる。
「おやすみなさい」
少し乱れた髪の毛を直してあげると、フフ、と口角だけ上がっていた、普通に可愛い。
よし!早く戻らないと引っ掻き合いの喧嘩をしてるかもしれない!
静かに部屋を出て駐機場に急ぐと、そこは意外に静かだった。
「あれ?」
珍しいな大人しく待ってるなんて、後ろからベンチに座る二人に近づくとなんだか肩を合わせて・・・・・・。
「寝てるのかよ・・・・・・」
仲がいいのか悪いのかさっぱり分からない、犬猿の仲とも思えるチグサとナナは僕を待っている間に疲れていたのであろう、肩を合わせて目を瞑り眠っていた。
ルリさんならまだしも、僕と体格同じぐらいの二人を運ぶのは厳しいよ?
「二人して寝るなよ、風邪ひくよ!」
揺すってもうんともすんともしない。えぇー、運ぶの?どうやって?なんかいつも寝てる人の面倒見てる気がする、僕がいなかったらどうするのさ!
そうだ、チグサはまだ寝ぼけていても言うことは聞いてくれるんだった、ってことで。
「はーい、チグサぁ立ってー」
僕はナナを支えてフラフラと立ち上がるチグサ、よしよし。このまま歩いて行ってくれたら嬉しいけどそれは無理だろうなぁ。
辛うじて自力で立ってくれている間に、ナナをご希望のお姫様抱っこで持ち上げる、意識したこと無かったけどナナって意外と柔らかいな・・・・・・、何考えてんだ僕!首をブンブン振って邪念を振り払う。
そしてフラフラと立ってくれているチグサの前に少ししゃがむと。
「はい、いいよ・・・・・・おふっ!」
どさっと僕の背中に乗るチグサ、背中にはルリさんには無かった柔らかいものが当たって温かみを感じる、ダメダメそんな事考えてたらまた抓られる!
しかし、これ行けるか?
幸いチグサは脚で僕の腰を挟んでくれてずり落ちないようにはしてくれている、寝てるのに器用だな。ん?これ、寝てない説まであるぞ。
「チグサ、本当に寝てる?」
「・・・・・・」
なんかビクッとしたような気もしたけど気のせいだろう、僕の耳元でスースー寝息立ててるし、そう疑ってるからそう感じたんだ、そういう事にしておこう。
頑張れ僕!
汗を垂らしながらノソノソと歩いて部屋に向かう。ツルギさん呼べばよかった・・・、いや怪我人に手伝ってもらうのも変か。ミサキさんに?いやいや、内輪事を手伝って貰うのもな・・・・・・。
頑張るしかないか。
必死の思いで部屋に到着し、肘と足を使ってドアを開けて朝焼けの薄明かりを頼りにナナのベッドに着いたところで力尽きた。
ドサ。
もう無理、動きたくない。
ちょっと乱暴だったかもしれないけど勘弁して欲しい、むしろよくここまで二人同時に運べたものだ、褒めて欲しいぐらいだ。
ナナのベッドだけど横になってハァハァと息を整えていると。
ガシッ、ガシッと両腕を二人に掴まれる。
ねぇ、本当に寝てるよね?チラッチラッっと見ても二人は可愛く目を瞑ったまま。
もういいや、疲れたし眠いし。
二人が更にくっついて腕にしがみついてくるのを気にも止めず、僕は眠りについた。
※
「ねぇ、レイの方が先に寝ちゃったよ?」
「せっかく作戦成功したのに寝るの早いね」
「んー、靴脱がしとくねぇ」
「うん、貴女のベッドで寝ていいの?」
「レイと添い寝できるなら別にぃ」
「そう」
「てか、ルリに怒られないかなぁ?」
「起きる前に戻ればいいでしょ、ほんの一、二時間よ」
「そっか!チグサ頭いいぃ!」
「シッ、大きい声出さないのっ」
「っ!はーい・・・」
「よいしょっ、これで寝れる?」
「うん、大丈夫ぅ」
「それじゃ、おやすみ」
「おやすみなさーい」
※
朝7時。
「・・・・・・」
強烈な視線を感じて目が覚めた。
「ん?あ!」
僕の両側を確認すると腕をしっかり握りしめて、いや、抱いてスヤスヤと爆睡するチグサとナナ、そういえばそうだった。
それにベッドの脇ですごい形相でルリさんが立って僕のことを睨んでいる、まあ傍から見れば無表情だけど。
「・・・・・・ずるい」
「のっ!」
ルリさんが僕のお腹に飛び乗ってくる、重くないけどいろいろとまずいですよ!
「ちょっとルリさん!」
ここはどかないぞと僕の服を握りしめる彼女。かわいい。
「あーもう!みんな起きて、何がどうなったらこうなるのさ!」
腕を揺すって先ずは二人を起こす、んー?と目をゴシゴシしながら起きる二人。
「「おはよー」」
「はい、おはよう。・・・・・・じゃねぇよ!」
「「?」」
キョトンと首を傾げるチグサとナナ、寝ぼけていて状況分かってない様子だ。
「あ!」
「なんでルリがレイに乗ってるのぉ!?」
そこ?そうじゃないでしょ?
「君たち」
「はいっ!」
「はーぃ!」
「・・・・・・っ!」
僕のちょっとイラッとしている声に僕から離れて、ベッドの上で正座をし、ビシッと背筋を伸ばす三人。
「寝たフリしてただろ?」
僕は胡座をかいてチグサ、ルリさん、ナナと順番に見る。
「・・・えっ」
「・・・・・・?」
「ち、違うもーん」
首を傾げるルリさんは本当に寝てたとして、ワンテンポ遅れて返事をしたチグサに嘘をつけないナナ、わかり易すぎる。
「あのねー、どれだけ大変だったかわかってる?」
それから僕のちょっとした説教が始まったのだった。
●
8時半。
説教の後に朝食を済ませて(まあいつもの缶パンだけど)駐機場にて夜中の続きをしていた。
ナナはというと、どうやらチグサとルリさんの話に聞く耳を持ってなかったようで、僕が教えてあげると直ぐに飲み込んで手順通りに作業を進めていた。
ダメだろそれ。
それを指摘しても、「だって・・・・・・」と頬を膨らませるだけ。困ったもんだよまったく!
「おっ、ナナリスもイーグルに乗るようになったのか?」
ツルギさんが取り巻きの二人を連れて格納庫へ様子を見にやってきた。
「フランカーがもう使えないらしくて」
「まあ結構無理やり使ってたもんなぁ、イーグルは使いやすいか?」
コックピットに乗り込んでいるナナに、ツルギさんが下から声をかけてくれる。
「フランカーより全然簡単!」
それにヒョイッと頭だけ出し手を挙げて答えるナナ。
「そうか、出撃してヘマしないようにしろよー」
「はーい」
なんか学校みたい、ノリが軽すぎる。
「ツルギさんの言うとおり、空じゃミスは出来ないからね」
「わかってるもーん」
本当に分かってんのかな、まあ彼女も一応はエースパイロット、信じておこう。
「それに、F-14に似てるから覚えやすいしっ!」
そんなに似てるか?確かに作った会社や国の違うSu-27よりは似てるとは思うけど、改造していて純正とはまるで違うはず、気持ちの問題かな?
「慣れたら模擬戦しとく?」
「やるやるぅ!」
さすがにいきなり実戦で乗れってのはキツいと思う、んー、ルリさんに相手してもらおうかな、実力の差を見せつけてもらおう。
「えーっとじゃあ、ルリさんに・・・・・・」
「レイとがいいぃん」
グイグイと腕を引っ張られる、え、僕?
「レイと模擬戦したことないしぃ、ルリとは嫌ってほどしたしぃ」
ああそっか、アヤメさんとルリさんがバルセルに研修に行っている時に訓練してるのか。僕の方は確かにそう言われてみたらナナとだけ模擬戦をしたことがなかった、ツルギさんとは結果が見え見えだから除くとしてね。じゃー、仕方ないなぁ。
「もう、わかったよ。いつやる?」
「なうっ!」
「はいはい、なうね・・・・・・」
なう・・・・・・NOW・・・・・・、今?
聞き流そうとしたがそうもいかず、ナナを二度見すると既にヘルメットを被り準備万端。はやくはやくぅ、と自分の太ももをバンバンと叩いて僕を急かしてくる。
「・・・・・・先に滑走路に出てて」
「はーい」
僕がタラップから降りてそれを機体から遠ざけるとエンジン点火、キャノピーを閉めて格納庫から出ていく。危ないって!
僕も急いで自分の機体に乗り込み、彼女の後を追った。
●
トモパーレ上空。
《ーーいつ敵が来るかわからん、あまり長々とやるなよーー》
《グレイ了解》
大丈夫、そんなに時間はかからないだろう。
ルールは簡単、後ろに着いて二秒捕捉された方の負け、アホなナナにもわかりやすい。
と言っても遠距離から捕捉されたら面白くないので、ドッグファイトで勝負だ。
《よし、始めるよ》
僕とナナは機首を向け合い距離を詰める。
《格の違いってヤツを見せつけてやるぅ!》
なんかすごいやる気満々だ、ちょっと本気で相手した方がいいかな?
《見せてもらおう!始め!》
その勢いにノってやろう、僕の合図で模擬戦が始まり双方の機体の距離がどんどん縮まる。
あれ、旋回しないの?ナナは真っ直ぐこちらに突っ込んでくる、距離は縮まる一方。
このままだとぶつかる!早めに操縦桿を右に倒すと直後に彼女も右に旋回、機体の腹と腹を見せてすれ違う、チキンレースかよ、危ない事しやがって!
後ろを覗き込むとナナは既に左側に旋回を始めていて機首がこちらに向きそうだ、クイックターンか?
《もう乗りこなしてるじゃん》
《へへぇ》
僕の言葉に、ニヤニヤ笑っている顔が容易に想像出来る声で笑うナナ、ちょっと甘く見てたな。
でも、ここで後ろを取られるような僕ではない、わざと距離を縮ませるように僕も反対側に操縦桿を倒して、射線に入ってないながらもナナとの距離が縮まる。
《ほらほらー、捕捉しちゃうよぉ》
調子に乗らない、今から何やるのか分かってるのか?
僕はエンジン出力を上げて離脱するように見せかけて、直ぐに減速、旋回中ながらも機首を上げエアブレーキを屈指し、ツルギさん直伝のコブラをお見舞いしてやる。
身体にGがかかり直ぐにエンジン出力を上げて機首を戻すと、彼女の姿は無かった。マジか。
《コブラ返しぃ》
甘ったるく舐めまわしてくるような言い方、振り向くと真後ろにナナが居るしめっちゃ近い、まだ諦めるか!と、アフターバーナーを使いながらめいいっぱい旋回し離脱する。
《レイの特技はコブラって知ってるもーん》
《卑怯だ!》
やっぱり無理やりやってるコブラじゃ、初見じゃない彼女には通用しないか。
『詰めが甘い』
アサギさんに叱られた気がした。んー、どうしよ。
対策を考えているとまたすぐにナナは僕の後ろにつく、なんでそんなに早く回れるの?
ええい、こうなったら!
僕はジグザグと捕捉されないように飛び回る。
トモパーレって雲が少ないから、アサギさんにやったように雲の中に逃げれないんだよね。
《待てまてーぃ》
舐められてるのか素なのか、遊ばれてるような気がしてきたがこれで終わりだ!
《わっ!》
決まった。
ナナにピッタリと後ろにつかれた瞬間に速度を下げてコークスクリューをやってみせ、対応出来なかったナナは僕が回っている中をスーと抜けていき、一周周り終わって僕はその後ろにピッタリとついた。
《ふー、よかった》
《理不尽っ!》
理不尽!理不尽!理不尽!となぜか怒ってるナナ、まあね終始優勢だったもんね、分かるよその気持ち。僕もアサギさんに何度も理不尽機動でやられてきたもん。
そして、ナナを二秒間捕捉。
《僕の勝ち》
《悔しい!もっかい!》
《ダメダメ、帰るよ》
《勝ち逃げ卑怯ぅぅ!》
管制から早く帰れって念押しされてる、悔しいのは分かるけどまた今度だ。
ぐずるナナを引き連れて僕達は基地に帰投した。




