第55話 昇任
「あーーん、怖かったぁぁぁぁあ!」
「どっ!」
基地に帰ると一目散にナナが嘘泣きをしながら抱きついてきた。抱きつくと言うよりも飛びつく、勢いそのままに来るもんだから吹っ飛びそうになってしまう、そんなにガタイはいいほうでは無い、むしろ細いんだから気を使って欲しい。
ていうか、命を狙われたのは僕の方で、名指しで殺すなんて言われたのだから今までで1番怖かった。
下手くそと罵られながら放たれたミサイルをナナの離脱を待ち、ギリギリフレアで躱すと一瞬で乱戦状態、どこに誰がいるのかもよく分からないまま飛び、何とかラナーの後ろについてはつかれを繰り返していると、どういう訳か奴らは急に反転して帰っていった。
まあ、命拾いしたってやつだ。
「いや、僕の方が怖かったから・・・・・・」
苦笑いで相手するもナナは聞く耳持たず、ギューっと抱きしめられて僕の頬にピアスが当たって痛いし、豊満な胸が当たっていろいろとヤバイ。
「レイから離れなさーい!」
お?と声のする方を見ると、チグサがコックピットから飛び降りこちらに猛ダッシュしてくるのが見えた、ヤバイ!ナナ共々蹴り飛ばされる!
クルッ。
蹴り飛ばせれなかった、ナナが軽快なステップてクルッと回ってチグサの飛び蹴りを華麗に回避。
チグサは勢いそのままに駐機場を滑っていた。怪我してないかな?
「なんで避けるのよ!」
避けるでしょ普通!と頭の中でツッコむ。
「ハグしてくれるって言ってたから、してもらってるだけだもーん。ねー」
可愛くウインクをしながら首を傾け、一段と締め付けてくるナナ、く、苦しい!
するとチグサは立ち上がり、ドスドスと足音大きく近づいてきて、僕とナナの間に手を入れて力任せに引き剥がそうとする。
「はーなーれーなーさーい!」
「いーやーだーん!」
痛い痛い!変なとこ挟んでるから!離れたくても離してくれないナナに僕はどうすることも出来ない。
「私はね、もうレイと、キスは済ましてるの、よ!」
え、今言う??まあ、事実だけどさ、今言う??
「え、ウソ・・・」
今まででギューッと僕を抱きしめていた腕の力をスっと急に抜き、ガクガクと後退りして僕から離れるナナ、悲しそうで絶望に満ちた顔が心苦しい。
えっと、その、と僕はアワアワするが、何か決心でもしたのかナナの顔つきがキリッと強くなる。
「だったら!」
チグサを肘で押しのけ、僕の両頬を柔らかい手で半ば無理やり包むと、口調の割にはチグサよりキリッとした顔立ちのナナリスの顔が一瞬で僕の顔と距離を縮め。
「んっ!?」
彼女の唇と僕の唇が重なった。
や、柔らかい!それにチグサとはなんか違う味がするような・・・。てかこいつ下唇にピアスしてんだった、ちょっと痛いし、舌とか入れてきそうで怖かった。・・・・・・じゃなくて!
ナナの突然の行動に、声も出ず愕然とするチグサ。
状況が読めない僕。
「これで同等だねぇ、別に付き合ってるわけじゃないんでしょー?レイとかそういうの無理そうだしぃ」
ご、ごもっともです・・・、痛いところを突かれる。てか、それって男としてどうなのかとも思うけど、今の僕にはそんな度胸がないのをナナは見透かしていた。だから僕にキスして、チグサと同じ土俵に立ちたかったのだろう、けど急にする?
チグサもそうだけどさ、雰囲気ってあるじゃん?
「キー!この泥棒猫めぇ!」
頭に血が昇ってるのかリアクションが古いチグサ、今にもナナを引っ掻き回しそうで、どうしようどうしようと困っていると下から視線を感じた。
「ル、ルリさん・・・」
真顔で僕を凝視している。透き通った蒼い瞳がなんだか怖い。
「さっきの、見てました?」
静かに頷く幼女(年上)。
そっかー、見られてたかー、困ったなー。
チグサとナナはキーキーと既に取っ組み合いを始めちゃってるし、ルリさんは僕の服の裾をクイクイッと引っ張って、目を瞑り顔をクイッと上げる。
こうなったらしないと、ダメだよねぇー。
ええい、どうにでもなれ!
僕は意を決して膝を曲げ、ルリさんの両肩を持ち、柔らかそうだけど2人より小さい唇に顔をゆっくりと近ずける。
「ん」
ルリさんが吐息混じりの可愛らしい声を漏らす、小さな唇は2人と同じように柔らかく、リップでもしているのかな?僕の唇にピトッと張り付いていた。
「「んな!!」」
取っ組み合いを止めて驚愕する2人。しかし、ルリさんはボクの襟をがっしり掴んで離してくれない。い、息ができません!
「もう、ルリまでえぇ・・・」
半泣きのチグサ、僕も迷ったけどルリさんだけにキスしないのも後々怖いし、自分の命を優先した結果だった。浮気症と言われればそれはそれでごめんなさい、だ。
一際長めなキスが終わると、満足したのかルリさんは真顔だったけど口角を上げて嬉しそうにしているように見えた。
「何ルリまでキスしてんのよ!いつもレイの肘の上にいるくせにぃぃぃ!」
ナナもご立腹のご様子、沸点がよく分からなかったが、ルリさんはその剣幕にわざとらしく僕の後ろにスススッと隠れる。そのせいか、守らないと!という使命感が沸き立つ。
「・・・・・・私だって、レイに手料理ご馳走したもん・・・」
「何だってぇぇぇぇえ!?」
「えぇ!?いつの間に!?」
ああ、懐かしいな。アサギさんが当直の時に彼女の家で、Tシャツをワンピースのように着て細くて白い御御足を見せびらかすようにキッチンに立っていたルリさん、簡単に魚を捌いていて凄かったし、とても美味しかった、また食べたいな。でも、今言うことでしょうか・・・・・・。
「まあまあ、これでおあいこ、っていうか平等なんだから、ね?」
穏便にやり過ごそうと思うも、ギロッと2人に睨まれる。ルリさんは、やっちまった、という感じで後ろから僕の服の裾をギュッと握る。
「あー、そのー・・・・・・」
「だいたいレイはね!」
「優柔不断なのぉぉお!」
2人に詰め寄られ胸ぐらを捕まれブンブンと振られる。首が!もげる!
「あー、終わった?」
はっ!と声のした方を向くとツルギさん達が顔を赤くしてこっちを見ていた、そいえばここ駐機場だった!やばい所を見られてしまった。
「いや、別にいいと思うよ?俺だってさ、人のこと言えたもんじゃないし、どごっ!」
言い終わる前に隣にいたケイさんに、ノールックで横腹を殴られ地面に崩れるツルギさん。人のこと言えない?あー、この前ミサキさんもケイさんもツルギさんの事が好きだって言ってたな、ってツルギさんも答え出してないの?
「け、啓・・・、暴力反対・・・」
横腹を擦りながら呻くツルギさん。それに彼女は冷たいジト目を向けて。
「好きなくせに、大袈裟ですよ」
ペッと唾でも吐き捨てそうな勢いだった。こっわ。
なんかケイさん日に日に怖くなってる気がする、気のせいかな?
《ーーササイ大尉、ニケット大尉、アスール少尉、ミーティングルームまでーー》
グッドタイミング!僕はツルギさんとよかった!と顔を合わせ彼の手を引いて起き上がらせる。
「私も行くぅぅ」と駄々をこねるナナには「話がややこしくなるからダメ!」と却下し。とりあえず皆には部屋で待ってもらうことにして、ミーティングルームに向かった。
その道中。
「レイは誰がいいの?」
ニヤニヤしながら聞いてくるツルギさん、自分だって決めてないのに僕に聞くかね?僕は質問に質問で返した。
「ツルギさんは?どうなんですか?」
「俺は、その、決めれないっていうか決めたくないっていうか・・・」
「僕も一緒ですよ」
「だよなー」
僕の答えは分かっていたようで困ったように両手を頭の上に乗せるツルギさん、自分で言うのもなんだけど、好かれるって辛いな、あんな状況で誰か選べなんて無理にも程がある。選ぶぐらいなら皆で楽しくしていたかった。
「幸いなのは皆仲がいいこと、かな?」
「そう、ですね」
仲良いのかなぁ、チグサとナナってちょいちょいバチバチしてるしいつか流れ弾が飛んできそうで恐ろしい、いや、実際飛んできてて運良く躱すことが出来ているだけだ。
「決めないとダメなのかな?」
「わかりません」
困った困ったと2人で歩いた。
●
ミーティングルーム。
開口一番ガイ大佐に言われたのが。
「レイ・アスール少尉を大尉に昇任させる」
「へ!?」
「な!?」
「おーー!」
大尉?僕が?何かの間違いだと自分の頬を抓るが何も起こらない。ツルギさんに叩いてくれと頼み、結構思いっきりビンタされたが状況は変わらない。ただただ、頬が腫れるだけ。
「何をやってる、夢じゃないぞ。アーノルに礼を言うんだな、あいつの推薦がやっと通ったんだ」
そう言いつつ、ガイ大佐は新しい大尉の階級章を渡してくれ、そのうちの1つを僕の飛行服にピンで留めてくれる。
アサギさんが着けていたのと同じ階級章だ、僕はそれをただ黙ってしばらく見つめる。
「ありがとうございます。でも、ルリさんとかチグサが昇任するのが普通なんじゃ・・・」
嬉しいには嬉しいけど、僕なんかよりも歴戦の猛者のルリさん、僕よりも長く被弾もせずに飛んでいるチグサの方が絶対に昇任した方がいいと思うしそれが普通だと思う、それに中尉ならまだしもいきなり大尉なんて、僕には荷が重すぎし、また倒れてしまいそうだ。だがしかし。
「アーノルの推薦が不満なのか?アサギ大尉も推薦していたと聞くぞ?」
それを聞いたら文句は言えない、アサギさんの名前を出すのは反則だろ・・・。
「皆の前で言うのが筋なんだが、状況も状況だ、君たちの周りは騒がしい者ばかりだからな、自分で伝えなさい」
大佐、よく分かってらっしゃる、皆の前で言っていれば今頃どんちゃん騒ぎだ。嬉しいけど収集がつかなくなると思う。
「さて、それでだ。ササイ大尉、噂の白い奴はどうなのかね?」
そして本題だ。
白い奴、ツルギさんの元同僚でローレニアの諜報員で今はバルセルのパイロット、ツバサ・シロサキ。彼の対応についての話し合いが始まる。
「あいつもあいつで事情があるようで、取り込むのは無理そうですね・・・」
訳あり、と言うやつか。ここまで来るとその言葉が嫌になってくる。
「それよりも、ライド隊ですよ!みんな被弾したって」
僕達が敵本土爆撃に行っている間にシロサキの攻撃を受けたライド隊の4人、みんな無事なのは知っていたけど、どういう状況だったのか。
「ええ、キールが被弾してアルサーレへ降りるためにゲイルが庇ったんですが、あいつの方が重症だ。生きてはいるがすぐには復帰できないだろうなぁ、機体もないし。あ、キールはさっき帰ってきて部屋にいてもらってます」
死ななかっただけ運が良かった、確かにそうだ。
「俺とカリスの機体もすぐには直らない、ツルギさんとレイくんには迷惑かけます」
いやいや、謝らないで欲しい。前も言ったが生きていれば何とかなる、全然迷惑じゃない。
「手を緩めてくれるかも分かりません、様子見ですね」
彼が来なくなったとしても他のやつは攻めてくる、まだどうなるか分からないし、ツルギさんの言うとおり様子見しかできない。
「そうか。シュツット中尉の様子はどうかね?」
大佐も彼女を疑っていたのか、ツルギさんは腕を組みんー、と唸る。
「至って普通、むしろいつも以上にレイにベッタリ・・・」
「変なこと言わないでください!」
大佐の前でやめて欲しい、変な誤解が生まれてしまう。まあ、ベッタリなのは事実だけどさ、面子ってあるじゃん?せっかく大尉になったんだしさ。
「疑うのが馬鹿らしいぐらいですよねー」
ルイスさんも僕達と同じことを思っていた様子。
「あの何も考えて無さそうなナナリスが、あれを考えてやっているようには思えないしなー」
確かに、どう考えてもナナの頭の中は空っぽ、いや自分で言うのもなんだけど、僕の事しか頭に無いんじゃないかと思える、僕に引っ付きたがるし時折見せるアホそうな顔がそうだ。まあ、それが可愛いんだけど。
「それに、敵が取り返しに来てるからスパイかどうかも怪しくなってきましたね」
確かに、スパイならわざわざ取り返しに来ないだろう、帰るなら秘密裏に帰るはずだ。
「なに、そうなのか・・・。証拠が掴めない以上何も出来ないか・・・」
大佐も困ったように腕を組む。
んー、と僕以外の3人が唸る声が部屋に響いた。
「お前の為に悩んでんだよ!」
「ぽっ!」
ツルギさんに後頭部を叩かれ変な声が出てしまった、申し訳ない!
「もう少し様子見だな、何かあったら報告するように。白い奴については、申し訳ないが基本的にはササイ大尉に対応してもらう、以上、解散」
僕達は一礼してミーティングルームを後にした。
●
僕はツルギさんと別れて自分の部屋の前に佇んでいた。
ちらっと見る大尉の階級章、ツルギさんも。
「俺も20歳で大尉だったし大丈夫大丈夫(ま、いろいろあったけど)」
最後に何か言ってた気がしたが触れさせる暇も与えられず、結構適当に励まされた。彼と僕とでは雲泥の差、僕なんかが大尉の階級章をつけてるなんてなんかしっくり来ない。みんななんと言ってくれるだろうか・・・。
喜んでくれるかな、嫌味とか言われそうだな、そんな事を考えているとなかなか部屋に入れずにいた。
ええい、どうせ入らないといけないんだ!と意を決してドアに手を伸ばすと、先にガチャっとドアが勝手に開いた。
「誰かと思ったらレイじゃん、なにしてんのぉ?会議終わったのぉ?早く入り、な・・・よ・・・」
人影に気づいて見に来たらしいナナリス、いつも通りその柔らかい手で普通に僕の手を引いて中に招き入れようとすると、言葉と足が止まった。
階級章の付近に目線を感じ、彼女は五度見ぐらいしている。気づくの早いな。
「え?マジ?」
冷や汗を垂らし小声で言って僕の顔を見るナナ、なんか見たことないキョトンとした顔で笑いそうになってしまう。
「マジ」
と、僕も小声で返すと。
「レイが大尉になってるぅぅぅぅぅぅっ!!」
鼓膜が吹き飛びそうなぐらいバカでかい声でナナが叫ぶ。耳がァァ!
「なななな、なんですって!?」
「・・・・・・っ!!」
チグサとルリさんも、ずっこけそうなほどバタバタと駆け寄って僕の階級章を見ると、卒倒するんじゃないかってほどに目を点にしていた。
「レイが、大尉・・・・・・」
うわ言のようにチグサは呟いている。
「みんなのおかげだよ、ありがとう」
できるだけニコッと笑ってそういうと、チグサは泣き出してしまった。




