第5話 5人で
アヤメさんとルリさんの帰隊祝いだ。
しかし、そんなに絡みもない僕がいてもいいのかと、しかも男だし、とアサギさんに聞くと。
「は?バカか?」
と怒られ。
「別に気にしないけど?」
「・・・・・・はい」
2人とも優しく受け入れてくれた。
そんなこんなで、今は基地を出て5人で夕方の市場に来ていた。
そんな大きな市場でもなく、物が沢山ある訳でもないけどそれなりに賑わっていた。4人とも制服をピシッと着こなしていた、いや、ルリさんは服に着られている感じがする。僕は制服を持っていないので、アサギさんから貰った服を着ていた。ジーパンにロングTシャツだ。しかし、何故みんな制服を着ているのかと聞くと、解放軍に所属して制服で買い物すると少し割り引いてくれるらしい、もっと早く知りたかった、あ、制服持ってなかった・・・。
「あの、アサギさん」
「なんだ?」
市場を歩いていて僕は彼女達から、少し後ろを歩いていた、そこにアサギさんを呼ぶ。彼女は悟られることなく僕の隣に来る。
「その、少ないですが、食事代に」
僕は封筒に入れたお金をアサギさんに渡そうとしていた、ここ最近、とても良くしてもらってばっかりで、まさに夢のよう、これでも足りないぐらいだが、僕には有り合わせが無かった。
「バカ、1番年下が気を使うんじゃない」
しかし、アサギさんはそれを受け取ってくれず僕の頭をペシンと叩く。
「でも・・・」
と、僕が困っていると。
「わかった、これは貰っておこう。だか、もういらないからな」
「あ、ありがとうございます」
アサギさんは渋々だが受け取ってくれた、お金を貰ったという既成事実で、気にする僕に気を遣ってくれたのか、もういらないと言ってくれる。基地では何だかんだ言ってもアサギさんはとても優しかった。
「あらアサギ、いくらレイ君が弟に似て・・・」
「こら!それ以上言うな!」
アヤメさんはその絡みを見ていたらしい、アサギさんをいじっている。アサギさんの弟を知っている?2人は古い仲なのか。弟という単語を聞いて、チグサとルリさんは頭の上に?を浮かべていた。
そして、市場を色々と散策する。
「む、大将、これは高すぎないか?」
「最近品薄でねぇ」
お肉の値段を見て顔を顰める、アサギさん。
「じゃあ、こっちにしてくれ」
「あいよ」
奮発しようと思っていたのか、しかし、お目当ての物は高過ぎて買えなかった。まだ比較的安めなお肉をご購入。
「レイ!見てみて!これ、可愛いくない?」
「えー、そう?」
雑貨を物色しているチグサ、酷い顔をしたカラフルなブタの置物だ、用途は不明。彼女の趣味はイマイチ分からない。
チグサはこんなのが好きなのか、と値段を見るとゼロが1つ多い。
(たっけ!こんなの買えねーよ・・・)
女の子には色々とお金がかかるんだな、と実感させられた。
何やかんやと買い物を済ませて、僕達はアサギさんの家へ帰る。一応男なので、買ったものは僕がすべて持って帰っている。ギリギリ持ちきれる量だったが、重い。そして、何故かルリさんが。
「・・・・・・大丈夫?」
と、気を遣ってくれたが。こんな小さな幼女(年上)に持たせる訳にはいかない。大丈夫です!と笑ってみせた。
●
何とか家に着いた。
「お疲れさん、レイ、キッチンに置いておいてくれ」
アサギさんに言われた通りにキッチンにドサッと買ってきたものを置き、ダイニングの椅子にふー、とため息をつきながら座る。市場から意外と距離があった。手がパンパンだ。
「重かったでしょ?ありがと、レイ」
チグサがグラスに水を入れて、僕の前に置いてくれる。このちょっとした優しさがジーンときて、惚れてしまいそう。チグサは着替えてくるね!と言って自分の家へと走っていってしまった。
すると早速、アサギさんが自分の部屋から部屋着に着替えて出てきた、後にはアヤメさんもいる。あー、体格似てるから部屋着を貸したのかな?2人とも、シャツにハーフパンツで非常に目線に困る。
アサギさんが食事の支度を始める。慌てて僕は、彼女に駆け寄って。
「手伝います!」
張り切って言うが。
「座ってろ」
と、跳ね返された。
僕は断られてしまったが、アサギさんはアヤメさんと一緒に食事の支度を始めた、アヤメさんも料理できるんだ。いや、料理ぐらいするか、僕がしなさすぎなだけで。
椅子でズーンと落ち込んでいると、いつ入ったのか、ルリさんが僕の部屋から出てきた。
制服は脱ぎ、オーバーサイズなシャツだけ着て、ワンピースみたいになっている。ショートパンツとかは履いていない様子。ってその服、僕の!
さも当然のようにそれを着て出てきたが、サイズが僕用なのでデカすぎる服を着ている。風が吹いたらパンツが見えそうで、非常にエロ、もとい、非常にはしたない。
「ちょっと、ルリさんそれ!」
「・・・・・・?これしか無かったから」
あー、そーだよね自分の着替えないもんね、仕方ないね、って違うわい!もー、貸してあげるとしよう。チグサに言っても、僕のより大きいのしか持ってなさそうだし。
「なんだルリ、可愛いのを着てるじゃないか」
アサギさんが振り向きそれに気付き、二ヒヒと笑ってルリさんをいじる。パッと見はお母さんと、その子供みたいだ。
ルリさんは「・・・・・・うるさい」と言って若干頬を赤らめて僕の隣の椅子に座る。なに、可愛い。
座る時にシャツの裾が、股ギリギリまでズリ上がり、細い脚が全てあらわになる。
ちょちょちょちょちょっ!
見ちゃいけないと分かっていつつも、見ちゃうよね男だもん。若干黄色い肌、しかし白く透き通るように綺麗なその太ももは、スリスリしたくな・・・・・・。危ない危ない、犯罪を犯すところだった。
「・・・・・・なんですか?」
ルリさんはそれに気づいたのか、ジトっとした目で僕を見上げる。青、いや蒼い目が綺麗で、ズキューンと何かに撃たれた気がした、胸が、胸が苦しい!
「いえ、なにも!」
僕は慌てて彼女に背を向けた、これ以上見ていたら色々とヤバイ気がしたから。
チグサが着替えて帰ってきた。オーバーサイズのシャツを着たいつもの格好だ。チグサはそれでも今どきの若者の服装、みたいに様になっているが。何故、ルリさんは無限に子供っぽいのか、身長のせいなのか?
「あ、ルリ、レイの着てるの?可愛いね」
チグサは悪気なく、純粋にルリさんの服装を可愛いと言っている。彼女はそれを分かっているのか、アサギさんに言われた時とは違い。
「・・・・・・ありがと」
と、嬉しそうな声で言っていた。ボソッと言っていたからよく分からないけど。そして、もはや僕は彼女を、見ることが出来ず、ずっと背を向けている、目のやり場に困るから。
いい匂いが部屋に広がってきた、お腹がグルルと鳴る。
「出来たぞ」
アサギさんの声に僕は慌てて立ち上がり、配膳する。すると気づいた、ダイニングには椅子が4つしかなく、リビングには机がない。どうしようと考えていると、自分の部屋に椅子があるのを思い出し、それを持ってきた。テーブルと椅子のサイズが合ってなくて、なんかぎこちないけどまあ、いいだろう。
そして、お祈りをして料理に手をつける。今日も美味しそうだ。
●
食事を終えて、3人の酒豪はロックのウィスキーを呑んでいた。アヤメさんも呑むんだろーなとは思っていたが、なんか2人よりも強そうで、そのスピードは異常だ。ちなみにウィスキーは、アヤメさんがバルセルで買ってきたお土産だ。
今日はなにで騒いでいるのかと言うと、この前と同じく、バルセルのスポーツラジオ放送、昨日か一昨日か山の上のアンテナが調整されたらしく、不自由なくこの番組も受信できるようになったらしい。
あの3人は内容を理解して聞いているのか?
「なんのスポーツしてるんですか?」
試しに聞いてみる。
「サッカーだ!ほら、レイもこっちに来い!」
理解していたらしい。僕はいや結構です、と思いつつ、ハハハ、と笑って誤魔化した。
ラジオの熱狂に合わせて3人がワーワーと騒ぐ。見ていて面白い。
また試しに、どこのチームなのか聞いてみる。
「わからん!」
「さー?」
「知らないわ」
ですよね。
ハハハと笑って、視線をルリさんに移す。おっと、太ももは見ないようにグッと堪える。
ルリさんはジトっとした目を3人に向けている、口角は上がっているように見えるので、楽しんでいる、のかな?表情がよく分からない、恥ずかしそうな時は分かり易いのに。
「ルリさん、呑まないの?」
いくら幼女(年上)という見た目でも成人は越えている、呑もうと思えば呑めると思うが。
「・・・・・・お酒は、苦手」
「一緒ですね」
見た目通りというかなんというか、幼女(酒豪)でも面白そうだったが、安心した。
しかし、間が持たない、ルリさん基本的に無言だし、何か話しかけてもワンテンポ遅いし、ソワソワしてしまう。
そこで僕は思いついた、洗い物をしよう!
立ち上がって、台所でガチャガチャしていると。
「おお、レイすまんな!」
「レイありがと!」
「よろしくお願いね!」
3人がお酒を片手に口々に言う、居候の立場だから、これぐらいはね「いえいえ!」と言って洗い物を始める。
すると隣に気配を感じた。
「・・・・・・手伝う」
「うっわ!びっくりした」
ルリさんが音もなく僕の隣に立っていた、ちょっと心臓に悪いから。手伝うと言ってもそんなに量は無いので、大丈夫ですよ、と断ったが。隣を退くことはなく、僕が洗っていった食器を次々と乾拭きしてくれる。
「すみません、ありがとうございます」
「・・・・・・大丈夫」
これ、好かれちゃったのかな?親戚の集まりに行って、従妹と遊んでいると妙に好かれた感じだ、従妹居ないから想像だけど。
「もう大丈夫ですよ」と、言ってルリさんを椅子に座らせ、次の仕事に向かう。
あの後3人は酔いつぶれるに違いない、酔いつぶれてからでは遅いので寝床の準備だ。
アサギさんの部屋に、来客用で1組見つけた布団を敷く、これはアヤメさん用だ。チグサも多分帰らないだろう、あいつは俺の布団で寝かせるとして・・・。ヤバイ、ルリさんの寝床がない、ソファで寝かせる訳にもいかないしどうしよう、思い切ってサッカー実況で騒いでいる3人に聞く。
「え?私と一緒に寝るからいいよ」
チグサだ、なんだそれなら安心。ってやっぱり帰らねーのかよ!お前が帰ったら万事解決なのに!
ルリさんの方を見ると「・・・・・・えっ」となんだか嫌そうな顔をしている気が、きっと気のせいだ。
それじゃ、今日も僕はソファで寝るとしよう。あのボロ臭い、もとい、自慢の自宅で寝るより数百倍マシだ。
●
サッカー実況も終わり、優雅な音楽がラジオから流れる。案の定3人はソファで爆睡していて、起きる気配はない。アヤメさんはさっきまで粘って、音楽を聴きながら最後のウィスキーを呑んでいたが飲み切ると同時に力尽きた。まあ、疲れてるだろうしね。
僕は一人一人抱えて部屋に運ぶ。この人たち、僕がいなかったらずっとここで寝てたんじゃないだろうか、大丈夫なのかそれ?いや、逆に僕がいるから安心して呑んでいるのか?嬉しいような、迷惑なような。
アサギさんと、チグサを運ぶにはもう慣れたもの。
しかし、問題はアヤメさんだ、小麦色の肌はお酒で赤みを帯びて、シャツからはお腹が出ている、褐色のおへそ周りが、とてもよろしい。
しばらく見入ってしまっていると。
「・・・・・・どこ見てるの?」
わっ!ルリさんが起きてるの忘れてた!
「いえ、どこも!」
君は何も見ていない、いいね?と言わんばかりに僕は彼女に視線をやる、?とした顔をされた。まあいいや、告げ口するような人にも見えないし、僕はスっと、アヤメさんを抱き抱えてアサギさんの部屋に運んで行った。これでひと段落。
ふー、とソファに座ると何か視線を感じる、その方向を見ると、ルリさんがジトっとした目をこちらに向けていた。
「どうかしました?」
「・・・・・・何も、おやすみ」
ん?どうしたんだろ?彼女はそう言い残して僕の部屋へと消えていった。やっと1人になれた、みんなでいる時も楽しいけど、やっぱり1人の時間も欲しい。僕はラジオの音楽を小さな音で楽しみつつ、チグサがちょっと残したウイスキーを呑んでみる。
「うっわ、キッツ!」
ロックだから仕方ない、僕は水で薄めてみることにした。
「飲めなくもないけど、微妙・・・」
なんかこれじゃ無い感、なんであの3人はこれをああも楽しく呑めるのか、理解できない。
んー、としばらく色々混ぜて試行錯誤していると。
ガチャ。
僕の部屋のドアが開く。シャツを脱ぎ捨て、半裸のチグサが立っていた。
「トイレ・・・」
ああ、もう。
僕はチグサをトイレへと誘導し、シャツを探す。そのついでにルリさんを見ると、スースーと眠っている。可愛い。違う、早く戻らないと!
シャツを見つけてトイレに戻ると、ちょうど彼女が出てくる、例のごとく目は開いていない。
「はい、ばんざーい」
この前と同じようにシャツを着させ、部屋へと誘導した。もう、僕はお母さんじゃないんだから・・・。
チグサはフラフラとベッドに倒れ込み、ルリさんを踏みそうになる。僕は慌てて引き止めて事なきを得た。一瞬も目が離せない、ヒヤヒヤ物だ。
そんなこんなしていると、眠くなってきたので、僕もリビングの明かりを消して、ソファに横になる。
「今日も楽しかった」
掛布団を深く被り眠りについた。
●
なんか重い・・・
胸の当たり、いや、お腹?というか全身が重い、金縛りか?
月明かりの中、目を凝らして時計を見ると午前2時、ちょうどそんな時間だ。顔は動くので重い体を見ると、不自然に掛け布団が膨らんでいた。
(え?)
ヤバイついに出ちゃったか?こーゆーの嫌いなんだよ、勘弁してくれよ。
恐る恐る何とか動く手で布団をめくって見ると、そこには茶色の髪の毛が。
(ひっ!)
いや、でも、なんだか暖かい。落ち着いて耳を澄ますとスースーと寝息っぽい音もする。あれれ?おかしいぞ?と覗き込むと。
ルリさんだった。
え、なんで??
ルリさんは僕のシャツを両手でがっしりと掴み、僕に半分またがる状態で寝ていた。
どういう状況なの?理解に苦しむ。
彼女の生脚は時折動いて僕の脚と擦れる。サラサラしていてとても・・・、ちょっと!ヤバいって色んな意味で!
さっきは恐怖のため心臓が爆発しそうだったが、今は違う意味で心臓が爆発しそうだ、自分の耳から自分の鼓動が聞こえる。
「ちょっとルリさん」
小声で呼んでも、揺すっても起きる気配はない、無理やり起こすのも悪いし。でも、僕もどうかしてしまいそうだし、どうしようどうしよう、と考える。
すると、彼女はう〜んと、少しうなされているように息を漏らす。
「・・・・・・お兄ちゃん」
また、ギュッと僕の服を掴む手に力が入る。ああ、彼女もどうやら訳ありのようだ。あの紛争でいろんな人の大切な人が亡くなった。そう思うと、緊張や罪悪感は弱まり、せめて、彼女が安心できるようにと優しく手で頭を撫でてあげる。
「・・・・・・ふふ」
ルリさん起きてないよな?覗いてみるが、目を瞑り寝ている。
緊張して寝れないと思っていたけど、人間とは変なもので、いつの間にか僕は眠ってしまっていた。




