第44話 白い鷹
バルセル国境の街、セレクレア。
ライド隊は順調に地上のミサイル発射装置を攻撃し、僕達は引き続き制空に努めていた。
地上からの対空攻撃もそこまで激しいものでもなく、注意していればまあなんとかなる程。
《ライド1から各機、ミサイル1発は残しといてよ!》
帰り道に何があるか分からない、追撃されたらたまったものじゃないので、1発残すのは普通のことだ。
《あっぶねぇー、使うとこだったぜ!》
脳筋のイメージに劣らないライド4ことゲイルさん、あんなんで大丈夫なのか?
《たく、いつになったら学習するのよ》
それに呆れたように怒るライド3の彼女、うぅ、顔も思い出したくなくて身震いしてしまう。
《また来たよ、って今度は10機!》
増援の戦闘機のお出ましか、ナナリスが知らせれくれる。んー、10機か、相手は出来ないな、てか、バルセルってどんだけ戦闘機いるんだよ、落としても落としても出てくる。
《潮時かな、グレイから各機、進路090、アルサーレ経由で帰投する》
こっちだって弾薬や、燃料にそんなに余裕が無い、ここは一旦引くことにする。
アヤメさんやルリさん、ツルギさんが居なくてもちゃんと戦えている、このままちゃんと帰れる、大丈夫と自分に言い聞かせる。
そして、僕達は旋回して敵機を後目にライド隊と合流、帰投中にアヤメさん達と合流するために進路を真東に向けた。
《あっとぉ・・・・・・、レイ?》
《なに?どーかした?》
なんだかナナリスが歯切れ悪く話しかけてくる。
《感度が弱い目標が高速接近中・・・》
それはまずい。
僕もレーダーで確認した、かなり近い。
《全機当空域を直ちに離脱、全速だ!》
感度が弱いということはあいつだ、純白のラプター。
あんな変態起動をするやつなんかと戦える状態にない、逃げるが勝ちだが、逃げ切れるか?
《なに、どういうこと?》
状況が分からないライド隊は混乱するが。
《はやく!》
《りょ、了解。離脱する》
理由なんて説明している暇はない、距離はまだあるようだけどラプターはかなり早いし、ナナリスのフランカーは僕達のF-15ほど速くはない、急がないと。
燃料の事も考えないといけないけどまだ少し余裕はある、アフターバーナーを使用して全力で逃げるが。
《ピッタリ着いてくるよぉぉぉ》
ナナリスが泣きそうな声で言う、追われるの2回目だしそりゃ怖いよね。それに、徐々に距離を詰められていた、山越えで速度が思っていたほど出ない、アヤメさんとルリさんが居ればなんとかなると思うのに・・・。
《アルサーレまで行けばなんとかなる!急ごう!》
ライド隊の残弾は各機残りミサイル1発、僕は各種AAMが6発、チグサが7発、ナナリスが6発と戦えなくもないけどこの前のあの変態機動を見てたら勝てる気はしない。
アルサーレまでもつかな。
刺し違えてでも・・・、いやいや、僕だけだと殺られておしまいだ・・・。
●
《ーーグレイ隊、厄介な敵を連れて来てくれたわね、地上の対空火器は次弾装填中、すぐには援護できないわよーー》
アルサーレ飛行場のエルゲート陸軍のレーダーが僕達を探知したようだ、アーノル大佐がやれやれと言った感じで言ってくる。申し訳ない、連れてきたくて連れてきた訳じゃないし勘弁して欲しい。
《グラム隊がいれば大丈夫です、ルリさん、お願いします!》
過大評価しすぎかもしれないけど、今ここで最強なのはルリさんとアヤメさんの2人。
《グラム2、ウィルコ》
《私も居るわよ、グラム隊交戦》
グラム隊の漆黒の機体が逃げ帰ってきた僕達とすれ違う。
《グレイからライド1、ライド隊はそのまま帰投、補給ののち待機を》
《いや、だけど・・・・・・、ライド1、ウィルコ、帰投待機する。ライド隊RTB》
ライド1のルイスさんは一瞬迷うが、残弾も残り少ない、僕と同じようにそれが懸命だと判断してくれたのだろう、そのまま直進してトモパーレ基地に帰投する。
そして僕達は上昇反転、グラム隊の後ろに着き援護の体勢を取る。
《ブルー隊の援護は頼めますか?》
《ーー残念ながらトモパーレ基地も現在敵の攻撃を受けていてブルー隊が対応中よ、一応優勢の様だけどすぐには無理ねーー》
マジかよ、そんなに敵の攻勢を受けていたのか、ここは僕達だけで頑張らないとダメみたいだ。てか、ライド隊返しちゃったけど大丈夫かな?ツルギさんがいれば大丈夫か。そう自己完結する。
《了解です。グラム1、どうしましょう》
《そりあえずは手合わせね、やれるとこまでやりましょうか》
そうか、グラム隊はあいつと戦ったことがない、変に手を出すと邪魔になりそうだし少し離れたところで待機しよう。
《ルリ、行くわよ》
《ウィルコ》
そして彼女たち、漆黒のグラム隊があいつ、純白のラプターに襲いかかる。
●
アヤメさんとルリさんがラプターを挟み込む。
性能ではラプターの方が上だろうけど、彼女たちは以前の僕達のように翻弄されるようなことは無かった。
的確に状況を理解し、対策を変える。
《グラム1、フォックス2》
敵は妨害電波を出しているようでなかなか捕捉できない様子だったが、アヤメさんは何をどうしたのか何とか捉えミサイルを発射。ミサイルは一目散にラプターへと突進していき。
バァンッ!
《よしっ》
案外呆気なく命中、ミサイルが爆発し黒い煙が広がり空中に漂う。なんだ、アヤメさん達の手に掛かれば大したことないな。
しかし、そう思ったのもつかの間、煙から無傷のラプターが出てきて優雅に飛んでいる。
《あらあら、APSかしら、厄介ね》
APS(アクティブ防御システム)簡単に言えば戦車とかによく装備されている、飛来するミサイルを爆発物等で物理的に迎撃するシステムだ。航空機に装備された話は聞いたことがない、バルセルが開発したのか・・・。
あの純白のラプター、電波妨害装置を備えていればAPSも備えているのか、本当に落とせるのか?
《久しぶりに腕が鳴るわ、ルリ、本気を出しましょう》
《ウィルコ》
え、今まで本気じゃなかったの?
今までのようになんだか優しい声ではなく、キリッと勇ましい声質になったアヤメさん、実は彼女もルリさんのような戦闘狂じゃないだろうな?ちょっと楽しそうだし。
《APSには飽和攻撃よ、グレイ隊、援護してちょうだい》
《了解、グレイ隊援護します!》
周囲で警戒していた僕達も空戦に参加する、5対1だ負けはしないだろう。
しかし、現実はそう上手くいかず。
《あぁ、クソっ、全然当たらねー!》
辛うじてロックしてミサイルを放つもすぐにミサイルが行き場を見失いどこかへ飛んでいってしまうし、ここぞという場面でも綺麗なコークスクリューで躱される、フレアもAPSも使わずにだ、あまりの理不尽さに腹が立ってきた。
ミサイルが使えなければ機銃を使えばいいと思うのが当たり前だが、旋回性能の次元が違う、ドッグファイトファイトなんて無理な話だった。しかもこの乱戦、下手に撃つと流れ弾が味方に当たってしまうかもしれない。
それに。
《レイ、そろそろ燃料がないよ》
《わ、マジやばい!》
空戦に集中しすぎていた、いつの間にか燃料は無くなり今すぐに帰らないとヤバい状況だった。
こんな所でガス欠で落ちる訳にはいかない。
《ここは私たちに任せて先に帰りなさい》
《いや、でも》
5機で相手しているのになんのダメージも与えられていない、どうしても躊躇してしまう。
《大丈夫》
《ルリさん・・・》
必死に戦うグラム隊の2人、彼女たちも特別被弾した訳では無いし、互角といえば互角だ、2人を信じよう。
《・・・すみません、グレイ隊帰投します。ブロッサム1、エレイン、RTB》
《ブロッサム1、ウィルコ》
《エレイン、りょーかい!》
敵の隙をついて僕達は空域から離脱、トモパーレ基地に帰投する。
《私達も燃料がそんなにないし、ラプターもそんなに持たないでしょう、すぐに戻るわ》
《すぐに落とす》
アヤメさん達も僕達と同じ時間飛んでいる、山越えをしていない分燃料に余裕はあるのだろうけどそんなに持たないはず、ラプターも増槽は着いていなかったし戦えてもあと10分というところか、やる気満々のルリさんがどうにかしてくれることを祈るしかない。
《お願いします》
僕達は戦場を背に基地に帰投した。
●
トモパーレ飛行場。
ブルー隊が空戦しているという話だったが、到着する直前にライド隊と共に敵を翻弄し、ツルギさんが最後の1機を撃墜、上空はクリアな状態で着陸することができた。
そして、駐機場にて僕とチグサとナナリスで西の空を見上げている。
僕達が帰投してから10分、全然2人は帰ってこない。
「遅いな・・・」
「ツルギさん」
後ろからツルギさんがやってきて僕の肩に手をやり同じく空を見上げる、後ろに着いてきていたミサキさんやケイさんも心配そうな顔をしてくれている。
「ルリたち大丈夫かなぁ」
両手を祈るように握ってチグサも不安な様子。
「まだ帰ってこないのかい?」
ルイスさん達も集まってきた。
「グレイニアのアグレッサーだ、大丈夫じゃねぇか?」
ゲイルさんみたいな脳筋でそう考えたい。
「弱い人は死ぬまでです」
「バカ、キール、んな事言うな!」
ルイスさんが怒ってはくれていたが、イラッとした僕が彼女を睨むとあいつはぷいっとそっぽを向く、絶対いつかぶん殴ってやる。
ゴーーーー・・・。
エンジン音だ!どこだどこだと目を細めて西の空をくまなく探す。
「いたぁ!」
ナナリスが指を指す。
「ホントだ!え、でも・・・」
チグサの顔色が一気に悪くなる、僕も目を凝らしてよく探すと見つけた、しかし、そこには1機しかいなかった。
●
漆黒のF-15が1機滑走路に降りてきて駐機場に止まる。
キャノピーが開きそこから降りてきたのはルリさんだった。
僕は一目散に駆け寄る。
コックピットに横付けされたラッタルからルリさんが降りるとそのままペタンと地面に座り込み、僕は慌てて彼女の両肩を掴んで様子を伺う。
「ルリさん大丈夫ですか!?」
「・・・・・・」
コクリと頷くルリさん。
「アヤメさんは?」
「・・・・・・」
俯いたまま言葉を発しないルリさん、え・・・?
「・・・・・・アヤメ、白い奴に・・・・・・」
「え?」
「お姉ちゃんが死んじゃった!!」
完全にギリギリ繋がっていた糸が切れたように、ルリさんがそう叫ぶと僕の飛行服を引き裂かんばかりに引っ張りわんわんと泣き叫び服に顔を埋める。
アサギさんもそうだけどアヤメさんまで死ぬなんて思ってもいなかった、僕の前で初めて泣き叫ぶルリさんを、ギュッと抱きしめる事しかできない。
「ルリ・・・」
みんな言葉が出ない、こんな短期間で2人のエースを亡くした。
しかし、お姉ちゃんって・・・。
僕の服を引っ張ったり、胸を叩いたり、完全に取り乱しているルリさん。こんな状況では聞けない。
みんな死んでいく、次は誰の番だろうか、みんな死ぬ前にこの戦争の決着をつけないと・・・。
それとも、いっその事・・・。
※
白い奴?
嫌な予感がした。
「水咲さん、白い奴って?」
「うん、敵に白色のラプターがいるらしくて、エースらしいよ、部隊マークは鷹って言ってたかな。剣くんが来る前にレイくん達が会敵してる」
白色のラプター?なんの冗談だか、それに部隊マークが鷹?
「ナナリス」
「・・・ん、なぁに?」
今すぐ確認しないといけない、ナナリスも第二次紛争以前からアヤメさんと付き合いがあるみたいだし悲しいだろうが、シュンとしている彼女を呼んで胸ポケットから写真を取り出す。
先の大戦の時、記念にと端島でブルー隊の俺と水咲さん、啓、オメガ隊で海軍から臨時で来ていた黒木さん、内地のエース部隊からやってきた白崎と撮った写真だ。
「こいつ知らないか?」
写真に写る色白で可愛らしい青年、白崎に指をさす。
「んー?アスプロくんにそっくりぃ!ラプターのパイロットだよ、・・・どういうこと?」
察したのか、え?え?と写真と深刻な顔をしている俺を繰り返し見るナナリス。
「え?翼くん生きてるの?」
水咲さんも状況がわかっていない様子、俺だって分かりたくもない。こいつがあのラプターに乗っている。
俺を助けてくれた後にバルセルに亡命するとは言ってたけど、なんで空軍に入ってるんだよ・・・。
「ナナリスの言うアスプロって奴は、俺たちの元同僚、白崎翼だ」
「はいぃ!?」
あいつ、どれだけ敵を作れば気が済むんだ・・・、助けてやれないぞ・・・。いや、俺たちがここにいるのを知らないのかもしれない、もし俺が紛争でレイたちと一緒に戦っていなかったら、この国に愛着が湧くはずもない。それに、二次紛争では負けていた可能性もあるわけで、俺はここにいないはずだ。
運命って最悪だな。
奥歯をかみ締めながら写真をポケットに仕舞った。




