第4話 黒きエース
3日が過ぎた。
6月24日、正午。
「はぁ〜・・・」
今日もダメダメだった、午前はアサギさんと模擬戦、午後はチグサと模擬戦、といった感じでこの3日間が過ぎていた。
今日の午前中はいつも通り、アサギさんとの模擬戦をやった、初日よりはついていけるようになった、ような気がするけど。いざ終わって反省会をしていると直すべき事まみれ、ブツブツとアサギさんに小言を言われて、メモをしても書ききれない。
僕は今、食堂での食事を済ませて、いつものベンチに座り空を眺めていた。今日は珍しく青くて綺麗な空だ。
「なーにしてんの?」
ボーッとしているとチグサが、僕の隣に座る。特にこれといっては何もしていない、ボーッとしていただけ。ふと彼女を見ると今日は飛行服のジッパーを上まで上げていたが、逆に胸のラインが強調されて、隠れているのにエロい。
「どこ見てんのよ」
「みてねーよ!」
彼女はまたわざとらしく、胸に手をやり隠す。この会話はデイリーミッションなのか、毎回している気がする。まあ、例の如く見てたんだけど。
「午後からまたよろしくね」
「あ、こちらこそ」
彼女は僕の隣でニコッと笑ってそれを言う、午後の模擬戦はチグサと飛ぶのだが、僕のついで、と言ってはなんだけど、彼女もアサギさんにそれなりに注意されていた、あそこは違うとか、それじゃないとか。それを聞いている時のチグサの目はキリッとしていて、いつものフワフワした彼女とはまた違った良さがある。
すると、空からゴー、と轟音が聞こえた。
あれ?誰か飛んでいたっけ?
「あ、帰ってきたみたいだね」
帰ってきた?
空を見上げると黒っぽい、いや、真っ黒なF-15が2機上空を旋回していた。あれは確か、バルセルに行っていた2人か?どんな人なんだろう。
漆黒のF-15が着陸して、駐機場へとやってくる。アサギさんも、隊舎の方から駆け寄ってきた。
2機は僕達の目の前に止まる。漆黒のF-15、翼には放射状の青の二本線の国籍マークに、垂直尾翼には斜めに直刀の部隊マークが描かれていた。
キャノピーが開き、それぞれから人が降りてくる。
「やっと帰ってきたか、アヤメ、長かったな」
「いや、訓練が長引いてね」
アサギさんの、問いかけに答えたのは、1番機らしい彼女。アヤメという名前のようだ、背丈はアサギさんと同じぐらいあり、スラリとしている。肌は健康的そうな小麦色で、銀髪のショートヘアを風になびかせている、アサギさんに負けず劣らずな豊満な体型。例えて言うなら、いつぞや小説で見たダークエルフのような装いだ、だが耳は尖っていない。その代わりに目は尖っていて、なんだか怖そう。しかし、凛としていてとても綺麗、そんな第一印象だった。
「ルリ、おかえり!」
「・・・・・・ただいま」
チグサが、駆け寄って行ったのは、どうやら2番機のルリと言う彼女、背は僕と同じくらいのチグサよりもだいぶ低くて155センチぐらい、肌は小麦色ではなく黄色に近かった。セミショートの茶髪がサラサラとしていて気持ちよさそうだが、目はジトっとしていて蒼い瞳、少し近寄り難い感じがした。パッと見は守りたくなる感じがするんだけど、なんか、こう、ね?ちなみに胸は無かった。まあ、貧乳は偉大とも言うしね。
てか、他のパイロットも女性だったんだ、ここに男は居ないのか?いや、隊舎で何人か見かけたことはある、居ないことは無いはずだ!
女性陣は4人でキャッキャと騒いでいる。いや、1人、ルリさん?はなんか無言で3人を見ているだけだけど・・・。
それを、僕は遠目に見ている、完全に入るタイミングを逃してしまったから。
「ん?あのこは?」
アヤメさんに存在がバレてしまった。アサギさんに、こっちに来いと呼ばれる。
「レイ・アスールだ。今、パイロットの養成訓練を私から受けているとこだよ」
「よ、よろしくお願いします」
アサギさんに紹介されて、恐る恐る敬礼する。
アヤメさんは、大きな胸を僕に近づけて、んー?と顔を伺う。ちょっと、なんですか?近いですよ。
「アヤメ・シエルよ、よろしく」
「あ、あの、その」
ちょっとなんて言おうか迷って、モゴモゴと言ってしまう。
「・・・男ならシャキッとしなさい!」
「は、はい!」
僕はビシッと背筋を伸ばす。こえぇぇ。
すると、ルリと呼ばれた人が僕の前にチョコチョコと来る。え、思ったより可愛いかも。
ルリは僕を見上げて、ボソッと一言。
「・・・・・・私、ルリ。よろしく」
よろしくぅぅぅ、と頭を撫でたくなるが、そこはグッと我慢する。
「レイ・アスールです、よろしくお願いします」
そう僕も言うと、うん。と言ってアヤメさんの後に走っていった。人見知りかな?
「隊舎に帰隊の挨拶に行ってくるわ、また後で」
そう言い残して、2人は隊舎の方へと歩いていった。ルリさんは、大股のアヤメさんにチョコチョコとついて行っていてなんだか微笑ましかった。
「アヤメさんは26歳、ルリは23歳だからね」
ですよねー、僕が1番年下ですよねー。チグサに注意されるように言われて、ちょっとガッカリする。ルリさんも年上か・・・、と。
「よし、午後の模擬戦、始めるぞ」
「あ、はい」
「はい!」
●
僕とチグサは颯爽と空に舞い上がった。
《始め!》
アサギさんの掛け声で模擬戦が始まる。
僕とチグサはどう間合いを詰めようかと、上空を追い追われグルグルと回る。
だんだんと旋回半径が小さくなっていく。このままでは接近戦に持ち込まれる、僕は反対側に旋回して距離を取ろうとするが、チグサはそれに着いてくる。右に左にと旋回してまさにシザース状態、埒が明かないと一旦急上昇して様子を伺おうと考えたが。
ビー。
ブザーが鳴る、ヒット判定だ。
いつの間にかチグサが、僕の後ろにくっついていた。
《あー!くそっ!》
悔しい声が無線に漏れる。
《もっと我慢しろ!》
我慢つったってどーしたらいいんだよ?奥歯を噛み締めながら考える。
《次、始め!》
また、追い追われの、旋回状態からスタート。
アサギさんに言われたように、とりあえず我慢してみることにする。さっきの様に旋回半径がどんどん小さくなる、まだだ!グッと我慢。すると、チグサは不思議な旋回をして僕と一瞬向かい合う状態となった。
ビー。
ヒットだ。
しかし、僕も咄嗟に引き金を引いている。当たっているとは思うが。
《今のはダメだな》
えー!しょっぱい判定、いや、疑惑の判定だ。
くーーーっ!と悔しがる。
《はい、次!》
そして、チグサに一方的に落とし続けられた。
泣きそうだ。
地上に戻ると、挨拶を終えたアヤメさんとルリさんがアサギさんと一緒に、僕達を見ていた。やばい、見られてたのか・・・。
コックピットから降りてアサギさん達に近寄ると、ルリさんが駆け寄ってくる。チョコチョコとしていて、可愛いく感じてきた。
「・・・・・・下手くそ」
「へ!?」
ガーーーン・・・。
心臓に大きな包丁を突き刺されたかのような、そんな激しい痛みと絶望感に襲われた。僕は堪らずその場にしゃがみこみ。
「どうせ僕なんて、どうせ・・・・・・」
と、ショックを隠しきれない。
今までそんなハッキリ言われたことは無く、立ち直れそうにない。
チグサは、そんな僕に気を使ってか。
「まあまあ、上手くやってるよ?」
と言ってくれる。上手く出来ていないのは自分でも分かっている、お世辞はいい、余計に悲しくなってきた。
「ホンモノの『空戦』というものを見せてあげるわ」
特別だからねと僕の肩を叩いて、アヤメさんとルリさんが漆黒のF-15に駆け寄って、褐色の美女と幼女(年上)がサッとコックピットに乗り込みヘルメットを被る、様になっていてとても格好いい。
彼女たちはすぐに空へと舞い上がった。
●
彼女達の技術は素晴らしかった、僕みたいな素人が素晴らしいと言っていいのかと思うほど。
空では一瞬で情勢が入れ替わり、コンマ何秒で、前後も入れ替わる。アヤメさんにルリさんが追われていたと思うと、次の瞬間にはアヤメさんの後にルリさんがついている、どういう機動でそうなったのかは全然理解できない。ああ、この一瞬のためにパイロットは戦っているのか、そう思えた。
そして、最後に曲芸飛行のようなものを見せてくれた。
スゲー・・・。
グルグルと回っていたかと思うと、バッと飛んでいき、また、真っ直ぐ飛んでいたかと思うと、一瞬空中で止まって見せる。それも、凄いの一言で、どーやってるんだろう!と目を輝かせながら僕は見ていた。
一通り終えると、彼女たちが降りてきた。
僕は2人に駆け寄る。
「さっきのどうやってたんですか!?ブワーて飛んでたらピタッと止まって、またブワーって!」
自分でもなんて言ったらいいのか分からず、擬音語が多い、身振り手振りで説明する。
「わ、わかった、今度教えてあげるから!」
「・・・・・・近い、です」
ハッと気付かされる。興奮のあまりアヤメさんとルリさんに押し迫っており、アヤメさんの大きな胸に自分を押し付けそうなぐらいに近寄っていた。
「あ!その、すみません」
恥ずかしくなってササッと後ずさりする。
「何、向上心があることはいい事よ」
アヤメさんが褒めてくれる、ちょっと嬉しかった。アサギさんは全然褒めてくれないから。
そして、今日はみんなで食事会をすることとなった、