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グレイ・スカイ ー解放への闘諍ー  作者: 嶺司
第二次グレイニア紛争
12/84

第12話 下山

翌6月28日、8時。

ブリーフィングルーム。


今日は朝から皆でここに集まっていた、ローレタラティスに対するこれからの対応についての話し合いだ。


朝一番には、出勤してきたアサギさん達に、夜の騒ぎについて心配されたが、無事な僕を見ると安心したような顔をされた。心配されるのは嬉しいけど、やっぱりまだ信頼はされていないようだ、仕方ないか。


アサギさんに、何で連絡しないんだ!とも怒られたけど、すっかり忘れていた、とりあえず「すみません」と僕は謝った。


「おはよう、先ずはソラ・アオイ特務大尉。解放軍へようこそ」


アーノル大佐だ、集まった皆が、ソラさんに対して拍手をする。入隊直後に大尉か、アサギさんと同じ階級だ。


僕もそうだけど、彼は正式な手続きで軍人になった訳では無いし、それに傭兵。ルリさんを手玉にとるほど強いんだ、階級に見合った仕事をしてくれるはずだ。まあ、僕が言うのもおかしな話なんだけど。


「早速だけど、ローレタラティスの活動が活発になっている様よ、麓に潜入している諜報員からの情報によると、まさに開戦前夜といった感じらしい、配備されている陸軍の規模も、エルゲートからの情報と差異はないわ」


開戦前夜とは言うが、厳密に言うと今は事実上の停戦中であって、協定も結んでいないので戦争は継続中である、それは例えだ。


戦力が麓の街に集結しているようだ、奴らはここを落としてグレイニアを我が物にするつもりなんだろう。


「我が解放陸軍も臨戦体勢を整えつつある、今回はバルセルからの兵器の借用、軍事支援も期待出来る訳で、以前のように負けてばかりではいられない」


既に陸軍には隣国バルセルから戦車やら、ヘリやら色々と借用という形で貰い受けていた。いずれも旧式だが、武器の少ないグレイニアには有り難いものだった。バルセルもローレタラティスの肥大化は許容し難いものなのだろう、ローレタラティスの進撃に備えて国境に1個師団が待機しているとか。


「バルセルの軍事支援、エルゲートの情報支援、我々単体では戦力でローレタラティスに劣るけど、この2カ国の軍事大国の支援があればこの戦争、勝てるはず」


以前とは状況が違う、準備不足で敗走を繰り返す自由グレイニアではない、隣国の支援の元、自分達の国を取り返すのだ。


「麓のローレタラティス前線基地に先制攻撃を考えてあるわ、これはバルセル陸軍との合同でーー」


ドン、ドン、ドン・・・・・・。


建物外から爆発音?のような低い音が壁を伝わり、部屋の空気が僅かに揺れて、みんな息を止めて、ピタッと止まり状況を伺う。何事か、ここには窓がないので状況がわからない。


アーノル大佐がブリーフィングルームのドアを開けて、外通路の様子を伺う。


「何があったの!?」


外を走る人たちも、わかりません!と言った感じ、ただただ状況確認のために、色々な人が奔走していた。


ウゥゥゥゥー・・・。


まもなく警報のサイレンが基地内に響き渡る。


《ーー空襲警報、空襲警報、カルシューレ陸軍基地が攻撃を受けている、繰り返すーー》


先を越された、ローレタラティスによる大規模攻勢が始まろうと、いや、始まった。


「くそっ、やられたか・・・、全機爆装、出撃準備!」


僕達は大佐の命令の元、格納庫に走った。



カルシューレ陸軍基地上空、高度2万フィート。


グレイ1をやや前方に、左から僕、ソラさん、チグサ、アサギさん、ルリさん、アヤメさんの順にアブレストを組んで飛んでいた。対地攻撃のために、胴体下部に通常爆弾を8つ、翼下には通常ミサイルを片翼4発の、計8発搭載し、まもなく国境を越える。


眼下、小さく見える山肌にある陸軍基地は、火災による煙と、ロケット弾によって舞い上がった土煙で黒くモヤがかかったようになっていて地表はよく見えない。


《ーー陸軍は反撃を開始した、空軍も続けーー》


確かにカルシューレ基地より少し遠く、麓のローレタラティス前線基地も土煙を上げているように見える、あそこの街はアサギさんの生まれ育った街だ、彼女はどう思っているのだろうか。しかし、その街は、以前のように街と呼べる所ではなく、建物は焼き払われ、殆どが軍の施設となっていた。


《グレイ1から各機、指示された座標に投下用意》


アサギさんは静かに言う。

生まれ育った土地に自ら爆弾を落とす、たとえ、以前のような街ではなかったとしても、いい気持ちはしないだろう。

僕達は先に指定された座標に機首を向けるよう微調整して、爆弾の安全装置を解除する。


《1、2、3、4番、投下》


4発の爆弾が胴体から放たれ、少し軽くなった機体はフワッと浮き上がった気がした。6機が4発づつ、計24発の無誘導爆弾が、ヒューっと風を切りながら敵基地に降り注ぐ。


ドドドドドンッ!


4発分6つの縦線が地上で爆発し土煙を上げる、ここからは地上がどうなっているのかは遠すぎて見えない。


《ーー弾着確認、目標撃破!空軍、支援攻撃に感謝する、前進開始!ーー》


その号令が掛かると、今か今かとその時を待ちわびていた、カルシューレ基地の陸軍が下山を開始した。


《いけいけ!待ちに待った下山だ!》

《訓練の成果を見せる時だ、第1機甲師団第1戦車大隊、前へ!》

《第2戦車大隊も続け!》

《第1ヘリ集団各隊離陸許可!》

《空挺旅団出撃準備!へリボンだ!》


山の木々の間を砂埃を上げながら戦車が駆け下りる。それは空から見ても分かる、山から花粉が舞い上がるように、山肌は薄茶色っぽく霞んでいく。

また、ロケット弾降り注ぐカルシューレのヘリポートから攻撃ヘリが順次離陸して、ゆっくりと敵基地まで前進を開始しする。


《グレイ1から各機、高度を下げて各個指示された目標に攻撃しろ、グラム隊は制空を頼む》

《グレイ2、了解!》

《ブロッサム1、ウィルコッ!》

《ソード、ウィルコ》

《グラム2、ウィルコ、制空は任せて》

《グラム1、了解、爆弾が無くなったら交代してよね》


そして、僕達はグラム隊の2人を上空に残して横編隊右のアサギさんから右にロールし、背面を下にしながら順次高度を降下させる。


降下して地上を見ると、それは酷いもので、どちらの陣営からもロケット弾が発射され空に白い弧を描き飛んでいく、それを僕達は避けながらローレタラティスの前線基地に襲いかかる。


後方には猛烈な速度で下山する陸軍、前方ではロケットが着弾して火を噴きながら土煙が上がる地上、無数の隕石が落ちてきているような、そんな壮絶な光景だった。


この間にも、誰かの大切な人が亡くなっている。


《ーー対空車両を優先的に攻撃しろーー》

《ソード、ウィルコ。ブロッサム1、後ろについて》

《え?!あ、うん!》

《グレイ2・・・、レイ!後ろにつけ》

《了解っ!》


無線でアサギさんが指示を飛ばし、ソラさんがそれをまとめて、僕とチグサがそれぞれの任務のために奔走する。チグサはソラさんと共に、僕はアサギさんの後ろに引っ付いて、地上目標の攻撃優先目標を選別していく。


チラッとソラさんとチグサの方を見ると、彼らもそんな感じだったが、チグサの右翼につけた30ミリガンポッドが早速威力を発揮していた。適当に撃つだけでも、建物の壁は崩壊し、地面には穴が空く。


ついこの間まで、お前にはまだ早いと言われていた僕が、気付けば銃弾飛び交う戦場を飛んでいる。変な感じだ。


アサギさんが低空で機体を左右に大きく振り補足されないようにしながら、目標を補足選別していく、その情報がデータリンクで共有されて、僕のレーダーとヘルメットシールドに番号付きで表示されていく、いったい彼女はこの一瞬の間にどんな操作をしたらこんな事が出来るのか、僕はついて行くのにやっとなのに。


《グレイ2。1、4、5番を攻撃しろ。私は他をやる》

《りょ、了解!》


えっと・・・、これか!


僕はレーダー画面上の目標を確認して、アサギさんと別れて急上昇、近い目標に照準を合わせる。


対空戦車の弾幕が掠めていく、曳光弾しかハッキリと目視出来ないが、銃弾が通った空気のモヤモヤした跡が目の前に何本も現れる。


昨日まで、この状況は怖くてたまらなかった、しかし、今は怖くない。ただ一心不乱に操縦桿を握り、速度を調節しながら、撃墜されないように空を舞うことだけ。人間、必死になると怖さなんて忘れるものなんだな・・・。


《投下!》


アサギさんが付けてくれた番号の目標に、次々と腹に抱えた爆弾を投下していく、高速で通り過ぎた後に、それは空気の壁を作りながら爆発膨張して付近一帯を吹き飛ばす。


《よしっ》


動かない目標を攻撃するのは簡単、しかし、問題は敵機の対処だ。


《ーー敵機2機接近、方位080。グラム隊、迎撃せよーー》

《グラム1、了解。目標視認、行くわよ》

《ウィルコ、グラム2、交戦》


上空を見上げると、ゴマ粒大に小さな2人が西の空から飛んできた敵機と交戦を始める。空を舞い踊りながらミサイルが放たれ、空に白い雲を描き敵機に命中し、赤黒い煙が花開く。


《グレイ2、8番頼む!》


おっと、呑気に空を見上げている場合ではない。その声はソラさんのもので、レーダー画面を確認、8番は・・・、目の前の戦車だ、すぐにそれを照準器に捉える、爆弾は間に合いそうにない。


《了解!フォックス2!》


右翼から1本のミサイルが放たれ、敵戦車に一直線。戦車は速度を上げて砂埃を巻き上げながら逃げようとするが、もう遅い。ミサイルは命中して、砲塔が吹き飛び火柱が上がる、その上を僕は通り過ぎて行った。


《ソードからグラム隊、爆弾を使い切った、交代します》

《私も!》

《ええ、ちょうど敵機を迎撃したところよ。グラム隊降下》

《グラム2、ウィルコ。対地戦闘に移行》


ソラさんと、チグサが上昇していき。漆黒のF-15、アヤメさんとルリさんが一糸乱れぬ動きで一直線に降下してくる。


アサギさんが選別していった目標をアヤメさん達が次々と攻撃していく、効率のいいように最短距離を飛びながら。

僕も爆弾がまだ1つ残っている、どれを攻撃したら・・・。


《第1戦車大隊、突撃開始!》


どうしたらいいか迷っていると、下山を終えた大量の戦車が横一線に並び地面を耕しながら前進を始めた、その真上には。


《第1ヘリ集団、戦車を守りつつ各個に攻撃始めぇ!》


10機ものコブラ攻撃ヘリが、戦車部隊を追い越して、前線基地に襲いかかる。

予定より早くなったが、自由グレイニアの一大反攻作戦の開始だ。


戦車部隊は麓に降りると、まずは戦車の行く手を阻む地雷原の処理を始める、一緒に降りてきた地雷原処理車を先頭にして、前方に小型の爆発物を大量に射出散布、ババババババンと誘爆により地雷を一瞬で処理すると、なんの躊躇いもなく、舞い上がった土煙の中を煙幕代わりに戦車はその中を爆走し、攻撃ヘリは手当り次第にロケット攻撃を行っている。


《いけいけ!進め!》


熱くなって、僕は彼らを応援してしまう。空から見ると、それはもうすごい光景だ。

カルシューレ基地からのロケット弾と、僕達の攻撃により前線基地からは煙が、炎が上がり、空は黒く染まっていた。そこに戦車とヘリが雪崩込んでいく。僕達に向けられていた対空砲火もだんだん弱くなってきた。


そこに、時は充ちたと言わんばかりに、陸軍基地から降りてきた、CH-47チヌークに乗った空挺部隊が、突入を開始する。


《第1空挺旅団第101空挺偵察大隊、へリボン開始!》

《戦車とともに付近を制圧する、行けいけ!!》


空挺と言ってもパラシュート降下はせずに、チヌークは対空砲火の収まった基地の、ど真ん中に着陸し後部ハッチを開け、陸軍の隊員が次々となだれ降りていく、空になったチヌークはすぐに飛び去っていった。

そして僕達は対地攻撃は攻撃ヘリに任せて、上空の制空に専念、高度を上げ、2機3個編隊でグルグルと空を回っていた。


《ーー安全確保、制圧完了!勝ったぞ!!ーー》


無線の向こう側から歓声が聞こえる、陸軍の猛攻により、ローレタラティス前線基地は陥落。

自由グレイニアの勝利だ。

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