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グレイ・スカイ ー解放への闘諍ー  作者: 嶺司
第二次グレイニア紛争
1/84

第1話 教官と僕

ここまで足を運んでくれてありがとうございます。


些細なことでも構いません、何か書いてくれると作者のモチベーションも

爆上がりです!


見られていると実感することでやる気に繋がりますので笑


それでは

「グレイ・スカイ」をお楽しみ下さい。

ーー1年前戦争があった。ーー


その時、僕はまだ19歳で学生だった。


遠い東の大陸にある大国、エルゲート連邦国と。僕の祖国で西の大陸の王国、ローレニア連合王国、東の大陸の北国、ノースエル人導教国による戦争。


半年間続いた戦争は、ローレニア内戦勃発により、事実上エルゲートの勝利で終結。混乱の末、僕の祖国はローレニアとグレイニアの2つに分断された。


内戦と言っても、ローレニア本国地区とグレイニア自治区が戦っていた訳では無い。ローレニア地区で王位を巡った争いが起こり、王子派の勝利で終わったのだが、その後すぐにグレイニア自治区は連合を解消された。


何故、ローレニア本国は連合を解消しグレイニア自治区を独立させたのか、前王派の人が多かったのも原因かもしれないが、僕にはよく分からない、大人の事情なのだろう。


そして、独立したグレイニア自治区には、自由グレイニアが建国された。元々自治区だったこともあり、建国自体はスムーズに行われたのだが。


その後しばらくして、ローレニアで処刑されたアブルニ王派の人々が難民となってこの地に押し寄せて来た。

新しく王となったサヤ王が粛清を行っているとか。


戦後処理で、暫定政府監視団を駐屯させていたエルゲートは我関せず、自国への戦後処理以外は内政干渉になると言って何もしなかった。


そして、更なる混乱が起こる。


逃げてきた難民たちが、僕たちの国、自由グレイニアで蜂起し、グレイニア地区はローレニアの土地、我々の領土だと一方的に宣言。

自由グレイニア軍は、自治軍として多少の軍は所持していたものの、その軍備は整っておらず、蜂起軍はグレイニアの各地を次々と掌握し、ついには自由グレイニアの首都、イスタンが陥落。


そしてそこに、ローレタラティスという国家が誕生した。


僕たち、生粋のグレイニア人は西の山岳地帯、隣国バルセル共和国の国境沿いにある、少し大きな鉱山の街、アルサーレへ避難。ここは山肌にある天然の要塞ということもあって、ローレタラティスはこれ以上攻めてこなかった。

事実上の休戦。

これが後に言う「グレイニア紛争」だ。



そして現在。

6月20日、自由グレイニア暫定首都アルサーレ。

解放軍アルサーレ飛行場。


山を切り開いて作った小さな飛行場。その下、山肌には街が見え、少し開けた所にはビルも何棟か見える。

僕はその飛行場にいた。


「レイ、そんな飛び方じゃ死ぬぞ!」

「すいません・・・」

「謝るぐらいなら最初からやれ」

「すみません・・・」

「ったく・・・」


僕の名前は、レイ・アスール、20歳。最近、食料の配給が少なくてちょっと痩せ気味、平均的な身長でブロンズショートな髪は、毛先が跳ねていて気になっているが直らない、ちょっとしたコンプレックスだ。

両親はここに逃げてくる途中に、戦禍に巻き込まれて死んでしまった。

親戚もここにはおらず、あてもなく彷徨っていると。行く宛てが無いなら、解放軍に入らないかと声を掛けられた。


衣・食・住、全て揃っていると聞いて、僕は喜んで解放軍に参加した。

しかし、現実はそんなに甘くはなく、衣服は作業服と数枚の下着類、食料の配給はほんの少しの保存食、住居に至っては急ごしらえの掘っ建て小屋だ。でも、路上でのたれ死ぬよりかは全然マシだった。


それが半年前の話。


そして今は、パイロットとしての養成訓練に明け暮れている、連日休みなく続くその訓練はもう佳境で、日に日に怒られる量が増えていく。

今日も、また教官に怒られた。


教官は女性で、名前はアサギ・セレステ大尉、歳は確か26歳。背は自分より高くて、175センチ以上はあるんじゃないだろうか、飛行服をピシッと着こなし、体格もスラッとしていろんな意味で良い。そして、キリッとした顔立ちで、茶色のショートボブがとてもカッコカワイイ。のだけど、めっちゃ怖い・・・。

悪さをして、親戚のお姉さんにめっちゃ怒られているような、そんな感じだ。いや、それでは生ぬるい。


話は変わるけど、何故、パイロットになろうと思ったのかというと、空が好きだったから。それと、人がいないからと先輩のパイロットに誘われて、あれよあれよという間に養成訓練を受けていた。


今、戦力になりうるパイロットはアサギさんと、その先輩を含めて4人しかいない、そりゃ勧誘されるわ。

今は居ないが、あとの2人はバルセルに長期の研修か訓練かに行っていて、まだ直接会った事はない。


「ちょと休憩したら、またやるぞ」

「わかりました」


僕は駐機場横にあるベンチに座り込む、アサギさんは山の方に建つ隊舎の方へ歩いていってしまった。

駐機場に止まるのは、2機のF-15、整備員達によって燃料補給が行われている。その機体は薄灰色に塗られていて、両主翼端には2本の青い線が放射状に描かれている、それが解放空軍の国籍マーク。垂直尾翼に部隊マークとかは描かれていない。


そして、解放軍には練習機など準備する余裕もなく、いきなりの実機、緊張してミスもしてしまう。普通のF-15とはシステムが全然違うらしいが、それでもせめて複座機にして欲しいものだ。


こうやってベンチに座って眺めているだけなら、F-15はとてもかっこいい。だけど、自分がそれに乗るとなると話は別だった。

「はぁー・・・」

両膝に腕をつき、ため息をついて項垂れていると。


パン。


誰かに背中を叩かれた。

え?と顔を上げて後ろを見る。


「元気だしなさいよ、男なのにみっともない」


さっき言った、自分をパイロットに勧めた先輩のチグサ・カエルラの姿があった。彼女の歳は24歳、背丈は自分と同じくらいでアサギさん同じく体格に恵まれていて、金髪のショートヘアは、右側の1部を編み込み、アサギさんとは真逆で目はクリっとしていて、黄色い瞳と右目の涙ボクロが印象的だ。


彼女は格納庫で何か作業でもしていたのだろう、飛行服の袖は腕までたくし上げていて、暑いのか前側のジッパーを胸の下辺りまで開け、そこから黒いシャツの下にある胸の膨らみがわかる、とても、エロい。その姿で俺の隣に座る。


「ちょっと、どこ見てんのよ?」

「見てねーよ!」


自分でおっぴろげといてそれは無いだろ、俺は慌てて視線をそらす。まあ、見てたんだけどね。


「男手が少ないんだから、頑張ってよね」

「分かってるって・・・」


男手が少ないとはどういう事なのかというと、先の紛争で、戦える大人の男性は殆どが徴兵され。そして、前線にいたほとんどが戦死か捕虜にされてしまった。


今いる男手は、その時成人してなかった人か、病気や色々な事情で参加できなかった人、また、健常者は鉱山に駆り出されていた。解放軍の男女比は圧倒的に女性が多かった。


だからどこを見ても基地には女性が多い、逞しい事はいいことだろうけど、下手をしたら男の人より怖い。しかも、男だからと皆に過度に期待されてしまって、プレッシャーが酷かった。


「早く一人前になってよね」


チグサは、俺の頭を手でクシャクシャとして格納庫へと戻って行った。ただでさえ跳ねている髪の毛が余計に跳ねる、俺はその跳ねた髪の毛を両手で抑える。


「だから、分かってるって・・・」


離れていくチグサには聞こえていなかっただろう、両手で髪の毛を抑えたまま、アサギさんを待つ。

しばらくすると、彼女が隊舎から戻ってきた。


「よし、行くぞ」

「はい」


アサギさんと僕はF-15に乗り込む、この機体はどういうルートで入手したかは僕には分からないが、計器やらモニターやらは、全てタッチパネルに替えられていて、ヘルメットのシールドにも、ちょっとした目標情報やらが表示されるようになっていた。

ちょっと厨二心を擽られる仕様だ。


しかし、それが複雑すぎて中々慣れなかった、正直、飛んでいる間にやることが多すぎる、ハイテクになり過ぎるのも考え物だ。まあ、元を知らないからよく分からないけど。


滑走路を走り、縦に並んで2人一緒に空に飛び立つ。


今日の空もやや曇り気味、しかし、雲を抜けるとそこは青空だ。

今やっている訓練は発着陸訓練と、緊急回避訓練。アサギさんの後に続いて旋回、上昇、降下、色々な飛行を繰り返す。彼女の機動についていけないと失敗、地上で怒られる羽目になる。


とまあ、そんな訓練が1ヶ月続いていた。

彼女には1回も褒められたことは無い、これでも上達した方だと自負している、誰でもいいから褒めて欲しい。


一通りの訓練が終わって、僕達は地上に戻ってきた。機体を駐機場へと移し、コックピットから降りる。

アサギさんに呼ばれて、駐機場横のベンチに2人で座る。


「あんな操縦じゃ全然ダメだ、もっとエンジンの出力を調整して・・・」


いつもの反省会だ、アサギさんが身振り手振りで教えてくれる、俺はそれを聴いて必至にメモをとる。


「この時はブレーキを掛けすぎると、失速して危ない、ちょっと吹かしすぎるぐらいがいい」

「はい」


分かるような分からないような、何が何だか分からなくなって頭が追いつかず、メモをとる手が止まる。それに彼女はすぐに気づいた。


「・・・・・・よし、今日はこれで終わろう」

「へ?」


いつもみっちりしごかれている、まだ日は高いし終わるような時間じゃない。


「ところで、まだ、あのボロ臭い小屋に住んでいるのか?」

「あ、はい」


ボロ臭いとか言わないで欲しい、自分なりにアレンジして綺麗に使っている。確かに誰かを呼べるような部屋じゃないし、見た目は最悪だ。だけど居住用の隊舎の建設は遅れていて、下っ端の僕が、頑丈なコンクリートでてきた建物に住めるのは、一体いつになることやら。

なんでそんな事を聞いてくるのかなと、アサギさんの顔を伺う。


「いやな、知り合いが畑をしていて、おすそ分けを貰ったんだが、生野菜で1人じゃ食べきれなくてな」

お?ということは?

「お前、最近あんまり食べてないだろ、配給が減っているらしいな、うちに来るといい」


マジか、女性の部屋に行くとかテンション上がる!あのボロ臭い、もとい、自慢の我が家もいいけど、アサギさんはどんな所に住んでいるんだろう。気になる・・・。いや待てよ?食事中に小言をブツブツ言われるかもしれない。それはそれで、自慢の我が家で1人寂しく配給食を食べていた方がいい。


「・・・いや、でも」

んー、悩ましい。どうしたものか。

「上司の好意を断るもんじゃないぞ」

「あ、はい」


決まってしまった。あー、ずっと説教とかヤだなぁ。



アサギさんは先に帰っている、と言って僕に雑用紙に書かれた地図を渡して行ってしまった。

僕はスマホとか携帯電話という文明の利器なんて持っていない、必要ないから、連絡を取る人もいないし。ああ、自分で言って悲しくなる・・・。

って、ここってどこだってばよ・・・。


アサギさんから貰った、地図を見て愕然とする、全く知らない建物の名前ばかりだ。しばらく基地から出てないし、出たとしても近場だけ、飛行場から街を見下ろすことしかなかった。

えー、どうしよう。


あ、そうだ、チグサも街に住んでいたはず、彼女に聞いてみよう。

俺は彼女がいるであろう、格納庫の中に向かった。


「あ、そうですか、ありがとうございます」


彼女も早めに切り上げて帰ったらしい。なんで今日に限って早く帰るんだよ!まったく!

仕方なく自力で行ってみることにした、最悪街の人に聞けばいいやと。



迷った・・・。

ツナギ姿で街を歩く俺を、街の人は不審に思ったのか道を聞こうにも、誰も近づいてくれない。

この辺のはずなんだけどなぁ、似たような建物が多くて方向が分からない。


街は随分前に歩いてから見違えるように変わっていた、アパート類の建物は増えてお店も色々あった、別にウィンドウショッピングをしていて迷った訳では無いよ?建物に特徴が無さすぎるのが悪い。

おかしいなぁとウロウロしていると。


「おい、レイ」


アサギさんらしい声に呼ばれる。

へ?と辺りをキョロキョロする。


「こっちだ」


上から呼ばれているようだ、見上げると部屋着姿のアサギさんが窓から手を振っていた。二の腕がエロい。

どこから上がるのかと、またキョロキョロする。


「目の前の階段だ」


あ、ここだったのか、方向音痴な自分に笑ってしまう。僕はその階段を3階まで上がるとハーフパンツにTシャツ姿のアサギさんが待っていた。長い脚が魅力的だ。

てか、さっきから変なところばかり見ている気がする。欲求不満なのかな?


「遅いぞ、心配したじゃないか」

「すみません・・・」


彼女も心配してくれるんだ、ちょっと嬉しい。


「なんでツナギなんだ?まあいい、入れ」


ドアの向こうに案内される。

ここがアサギさんの部屋か。入るとすぐ大きめのリビングがあり右奥にキッチンが、左奥にまだ部屋がありそうなドアが2つあった。

俗に言う女の子の部屋にありそうな、ぬいぐるみとか、ポスターとか、可愛い感じのものは一切無く、シンプルにまとめられていた。


そして、なんだか美味しそうな匂いがする。

中に入るとダイニングテーブルに人影が見えた。誰だろう?僕は奥に進む。


「遅いじゃない」

「え、チグサ、どうしたの?」

「どうしたのじゃないわよ」


部屋着のチグサがいた。アサギさんと同じく、Tシャツとハーフパンツ姿だが、Tシャツはだいぶオーバーサイズなのを着ている、魅力的な鎖骨が出ていて、ブラジャーの紐がチラッと見えていた。ちょっと、視線に困るな・・・。


僕は彼女の向かいの椅子に座り、アサギさんはチグサの隣に座る。

彼女いわく、アサギさんに誘われたらしい、意外と2人は仲がよかったのか。


「チグサは私の教え子だからな」

「へ!?」

「そうだよ?知らなかったの?」


そんなの聞いてない、初耳だ。自慢げにチグサは腕を組んでふふん、と結構豊かな胸を反らす。確かに、戦闘機の腕はピカイチだと聞いていたが、そんな裏があったとは・・・。


「ていうかなんでツナギなの?」

チグサにも言われてしまった。そんなに変かな?

「え、これしか無くて」

「は?」

「え?」


チグサが、ゴミを見るような引いた目で僕を見る。アサギさんも、ハァー、とため息をついて手を頭にやって、やれやれといった感じで首を振っていた。え、なに、そんなに変なこと?


「服ぐらい買いなさいよ」

呆れ果てているチグサに怒られる。

「だって、基地から出ないし、服とか分からないし・・・」


ダメだこいつ、と言わんばかりの目で見られた。酷い。アサギさんはまた1つため息をついて、奥の部屋に行ってしまう。

ガサガサと奥の部屋から音がする。何をしてるんだろうか。

すぐにアサギさんは出てきた、手に何かを持っている。それを、ホレ、と投げ渡される。こ、これは!


「さっさと着替えろ、風呂場を使え。ツナギはそこに置いておけ、ついでに風呂に入れ」


え?と固まっていると。「早く」と急かされる、僕は慌てて玄関近くにあった風呂場へと走る。浴室の脱衣所で貰ったものを広げると、ハーフパンツとTシャツだ、自分に合わせてみると、何故かちょうどいい。

え?と困惑していると、外から「何をしている、さっさと入れ」と声が聞こえた。は、はい!と返して、いそいそとツナギやらを脱いで浴室に入る。


ちゃんとした浴室とか何年ぶりだろう、キレイすぎて泣きそう。シャワーはどうやって使うのかな?と辺りを見廻す。壁のハンドルを捻ると天井のシャワー口から温水が雨のように降る、はあ、幸せ。


シャンプーと石鹸も端にあった、遠慮なく使わせてもらう。

すごくいい匂いだ、ここは天国かな?


はぁーーー、と夢見心地でくつろいでいると。


「あまり、水を使いすぎるなよ」


脱衣場でアサギさんの声がした。ひっ!と見られてもいないのに体を隠して、シャワーを止める。


「タオルはここへ置いておく、何だこのツナギは汚いなぁ、洗っておくからな」

「あ、はい、すみません」


アサギさんは出ていき、洗濯機の回る音が聞こえる、マジで洗ってくれてるのか、申し訳ない・・・。え、てか、それを洗われたら僕どーやって帰るの?


浴室のドアを開き、誰もいないことを確認して、タオルで体を拭き、さっき見た着替えをまた広げる。

なにも柄のないシンプルな服だが、少し抵抗がある、何故サイズがピッタリなのか・・・。


ええい、考えても仕方ない、着てしまえ!

僕はそれに袖を通した。

・・・・・・洗剤かな?いい匂いがする、新品の匂いはしない、アサギさんと同じ匂いだ。

僕はホワホワしながら浴室から出ると、テーブルには既に料理が並んでいた。


「遅いぞ、さっさと座れ」

「待ちくたびれたー」

「え!すいません!」


テーブルにはパンとポトフ、煮込みハンバーグにサニーレタスのサラダと豪華な食事が並んでいる。豪華すぎて、何か裏があるんじゃなかろうか、と考えてしまう。


「ひき肉が手に入ってな、今日は奮発した」

「ハンバーグとか久しぶり!」


チグサは、わー!と興奮気味、僕だってハンバーグとか、いつ食べたのか忘れたぐらい食べてない。

そして、僕たちはお祈りをして食事を始める。


「うんま!」

「おいしぃ!」


いや、料理ができて、長身スレンダーで体格も色んな意味でよくて、なんでも出来るって卑怯だろ!お嫁に下さい!(怖いのがたまに傷)なんて思うがそんな事を言うと、ハハハ、死ね。とか言われるに違いない、なんて恐ろしい事を思ってしまったんだ・・・。


しかし、料理は本当に美味しくて、それはもう、今までの配給食は、石だったんじゃないだろうか?と思うほど。チグサも頬っぺたが落ちないように支えながら食べている。


「アサギさんのご飯は、いつ食べても美味しいです」


なに!こんな美味しい食事をチグサは、そんなにしょっちゅう食べているのか、許せぬ。

アサギさんは、それを聞いて少し笑っていた。

僕は彼女が笑うところを初めて見た、ちょっとなんか胸にキュンときた気がする。いやいや、気のせいだろう。


「そいえばさー、アサギさん、レイはどうなの?」


僕は咳き込んでしまい、飲んでいたポトフのスープをこぼしそうになる。どう?ってなんだよ。


「ああ、筋はいいぞ。チグサよりも上手いかもな」

へ?

「へぇ!レイ、すごいじゃん!」


チグサが満面の笑みで俺に凄いと言ってくれる、上手い?凄い?実感が湧かない。


「まだまだ詰めが甘いがな」


褒められているのか、怒られているのかよく分からなかったが、アサギさんに上手いとか言われたことは無い、素直に嬉しかった。胸にジーンと来るものがある。


「あ、ありがとうございます」

嬉しくて少しにやけながら、アサギさんにお礼を言う。

「レイは褒めると調子に乗るからな、普段言わないようにしてるんだ」


ハハハと彼女は笑う。そういう事だったんだ、アサギさんも僕のためを思って・・・。いや、褒めて伸びる子だっている、もうちょっと考えて欲しい。


「ほら、もっと食え」


むー、と膨れていると、アサギさんは自分のハンバーグを半分に切って僕の皿に載せる。え?と彼女の顔を見ると。


「最近やつれてるぞ、いいから食え」


その一言によって、何故か、胸の奥底から色々なものが込み上げてきた。それが涙となって目から溢れ出る。


「おいおい、泣くほどでもないだろう」

「ちょっとレイ、どうしたの?」


アサギさんは苦笑いし、チグサはわざわざ立ち上がって僕の背中をさすってくれる、それも嬉しくて、また、涙が止まらない、手で拭いても拭いても、目を押さえても涙が溢れ出てくる。思ってみれば、両親が死んでから泣いたことがなかった、解放軍に入っていくら辛いことがあっても。知らないうちに溜め込んでいたのか。


「大丈夫?」

ひとしきり泣いたら落ち着いた。

「大丈夫、すいませんでした」


僕はアサギさん、チグサに謝る、楽しい食事を湿っぽくしてしまったから。


「いい歳した男が、だらしないぞ?」

「すみません」


怒られてしまった。まあ、そうだよね僕も20歳だし。


「冗談だ、もう泣かなくて平気か?当分泣けないぞ?」


それはどういう事なのか、僕にはまだ分からなかった。ただ、反射的に。


「大丈夫です」

と言ってしまう。

「そうか」

アサギさんは、短く答えた。



それから、食事を全て食べ終えて、僕はお腹いっぱい。色々と話し込んでいると夜も更けてきた。


「僕、そろそろ帰らないと・・・」

基地の閉門時間が迫っていた。しかしまだツナギは乾いていない。

「なに、泊まって行くといい」

へ?ここに?

「部屋が1つ空いている、そこを使え」

えー!女性宅初訪問で初お泊まりは、色々とまずくないですか?いくら違う部屋で寝るとはいえ・・・。返事に困っていると。

「そんなにあのボロ臭い小屋がいいのか?」

「泊まらせてください」

「よろしい」


僕は即答した。


チグサは翌朝早いからと帰って行った、だから早上がりだったのか。しかし、帰る、と言っても同じアパートの斜め上に住んでいるらしい。なるほどね、と言った感じだ、いろいろと納得する。


アサギさんは今、ダイニングテーブルの僕の向かいに座ってブランデーを飲んでいた。長い脚を組んで様になっている。白い太ももがちらっと見えて、なかなかにエロい。


「飲まないのか?」

「お酒、飲んだことなくて・・・」

「何、そうなのか?1口いってみろ」


と言って、さっきまで自分で飲んでいたグラスを僕に渡す。

少し匂ってみる。


「うわー・・・」


匂いだけで酔ってしまいそうなお酒に、ブルブルと震えてしまう。

ん?良く考えれば、これは関節キス!?彼女は酔っている、またとないチャンスなのでは・・・。

僕は律儀に、彼女の唇の跡がついたところを反対にして1口飲んだ。


「うっわ!なにこれ!」

「まだまだ子供だなー」


アサギさんは笑いながら僕からグラスをとって、僕が飲んだところをまったく気にする素振りもなく、ブランデーを嗜んでいた。

大人ってスゲー・・・。


「ブランデーがダメなら、テキーラもあるぞ?」

「大丈夫です」

「大丈夫ってことはいるって事だな」

「いりません!」


何だこの人酒豪かよ、ちょっと見る目が変わってしまいそうだ。それに、それなりに酔っている。絡み酒じゃないことを祈るばかりだ。


「ふぁー、そろそろ寝るか」

彼女が両手を上げて伸びながら言う。ちょっと、腋と横腹が見えてますよ!年頃の女性がはしたない。僕は咄嗟に目をそらす。しかし、やっと寝る気になったか、僕は当の昔に眠い。


「あ、部屋の説明をしていなかったなぁ」


彼女はフラフラしながら奥の部屋へと向かう、僕はそれを支えながらついて行く。いや、連れて行く。


空いているという部屋の明かりを付けると、6畳位の部屋にベッドと机が置いてあり、色はブラウンと白でシンプルにまとめられていた。来客用の部屋かな?ベッドのシーツは張ってある、彼女が張ってくれたのか?てか、泊める気満々だったんだな。

彼女はフラフラとベッドに座り込む、今にも寝そうだ。


「クローゼットの中のものは好きに使ってくれて構わない、机とか・・・、ベッドとか・・・、全部好きにしてくれ・・・。ここが気に入ったら、明日も明後日も泊まっていい・・・」


え?それってどういう・・・?

バサ・・・。

聞こうとするとアサギさんはベッドに横になってスースーと寝息を立てていた。

ちょっと!自分の部屋で寝てください!


「アサギさん、起きてください!」


手を引っ張って起こそうとするが、やはりというか全然起きてくれない。どうしたものか。

仕方ないので彼女を抱えて、部屋まで連れていくことにした。所謂、お姫様抱っこだ。

自分より背の高い人を抱えられるかな?と不安だったが、これでも僕は軍人だ、それなりには鍛えている。勢いをつけて彼女を抱き上げると、アサギさんは意外と軽かった、変な感じだ。


部屋に連れて行く間に、悪いと思いつつもアサギさんの寝顔を薄目で見てみた、普段あんな怖い人の寝顔は、こんなに可愛いのかと、ちょっと惚れそうになる。

彼女の部屋を開けると、俺の案内された部屋とほとんど一緒だった、ちょっと生活感があるぐらい。

僕は、彼女をベッドに置いて布団を被せる。


「シン・・・」


アサギさんはそう呟く、寝言かな?基地にシンって人いたかなぁ。あ、彼氏さんかも!そりゃこんな美人だと彼氏の1人や2人いるわな!・・・自分で言って自分で悲しくなる。聞かなかったことにしよう。

彼女の寝る布団をポンポンと伸ばして、出ようとすると、何かにガシッと腕を掴まれた。


「うわっ!」


幽霊でも出たのかと振り向くと、虚ろな目をしたアサギさんが僕の方を向いていた。


「シン、ありがとう・・・」


そう言うとまた、パタッと倒れて、スースーと寝息を立てて寝てしまった。

一体、誰と間違えているんだろうか?非常に心外である!と、彼女に言える訳もなく、明かりを消して、自分の用意された部屋に戻った。


「ベッドとかいつぶりだろ!」


テンションが上がって飛び乗ってしまう。

ふかふかで気持ちよくて、アサギさんの服と同じ匂いがする。

はぁー、と夢見心地でいると、そこで記憶はなくなった。


爆睡である。












最後まで読んでいただいてありがとうございます!


1万文字、多すぎました・・・。


次回から概ね5000文字でいきます!

なので、ちょっとキリが悪い所があると思いますが、ご了承お願いします。

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