第4-2話
帝都に近づくにつれ見えてきたのは、どうやって作ったのかわからないほどの白くて大きな城壁であった。都市をぐるっと大きく囲むように建てられていて両端は山の中腹と繋がっている。
さらに近づくと、帝都にくっつくように長い人の列が見えた。あれはなんだろうか。
それは、すぐに判明した。この人々は帝都に入るための門に続いているのだ。タブラさんが言うには税関審査に手間取っているのだろうとのこと。
俺達も列の最後尾に着くと、バイクを降りて一緒に並ぶことにした。並んでいる人達は様々で、普通の旅人のような格好をした人もいれば、馬車を牽いている人もいる。中には大きな剣を背負った人や弓を持った人達もいた。あんな物どこで使うのだろうか。あとはやはりバイクは珍しいようで、見た感じではタブラさんしかいない。
列は少しずつ前に進んでいるが門はまだまだ遠い。カバンから出て人間の姿になった二人も暇そうにしている。
「暇だなー。しりとりでもしよーぜ」
「いいよー」
「じゃあ、俺からな。〝リュート〟」
「〝とんま〟」
「〝まぬけ〟」
「〝欠陥品〟……あっ! 負けちゃった……」
「ははは、弱いなあ、ハーディは」
なんだろ、すごく俺がバカにされた気がする。
二人が連想しりとりゲーム(注:後半はただの俺の悪口)に飽きる頃には列もかなり進み、もうすぐで俺達の番になる。何やら窓口があり、四ヶ所で一組ずつが手荷物や馬車の中の積荷を人の手で確認して手続きをしているようだ。そりゃ時間もかかるわけだ。
俺達の番になり、先にタブラさんが手続きをするために窓口に向かうと、すぐに別の窓口が空いたようなのでそちらに向かう。
「はい、どうも。あなた若そうだけど歳はいくつ?」
「えっ、十八、ですけど……」
窓口の若いお姉さんに歳を聞かれてしまった。これはもしやナンパというやつなのか。年上のお姉さんの母性をくすぐる何かを俺は持っているのかもしれない。
「じゃあ、大人ね……。と、そちらのおチビちゃん達もね。合計で二十リラになりまーす」
「えっ!? お、お金いるんですか……」
「そうよ? 払い終わったらあちらで手荷物検査を受けてね」
なんてこった。街に入るのにお金がいるなんて。まあ金ならあるぜ状態なので素直に払って、手荷物検査を受ける。と言ってもカバンの中に制服と靴が入ってるだけなのですぐに終わった。タブラさんも終わったようでバイクを押しながら俺の方に近寄ってくる。
「無事に入れるようになったみたいだね。俺はどこか宿を探してから街を見て回ろうと思うけど、キミ達は?」
「私、早く色んな所見たーい!」
「俺もー!」
「はっはっは。じゃあ、ここで一旦お別れだな。まあ、街中は広いと言ってもまたどこかで会うだろう。では、お先に失礼するよ」
「あっ、はい。あっ、こ、ここまでありがとうございました」
タブラさんは左手をヒラヒラと振って行ってしまった。二人も元気に両手を頭の上に挙げて手を振っている。良い人に出会えて良かった。
俺達も街に入るべく大きな門を二回くぐり、街の中に足を踏み入れたその瞬間――、
「パンパカパーン!」
ハーディの天使の輪が光り、お馴染みの効果音を口に出した。大声で。
街に入ろうとしてた人や門番の人、その場にいた全ての人の視線が俺達に注がれる。
「おめでと――、んんっ!」
俺は慌ててハーディの口を手で塞ぎ、急いで狭い路地に飛び込む。
「ぷはっ! びっくりしたー」
「いや、俺の方がびっくりしたよ……。ボーナスかな……?」
未だに天使の輪が光ったままだ。末受取りだとずっと光っているのだろうか。
「そうそう。おめでとう! 『移動距離、百キロメートル』を達成したよ! ボーナスとして百リラが贈られるよ!」
「ええっ! ひゃ、百リラだって!」
俺が手を広げて前に差し出すと、百円玉サイズの金貨が一枚と見慣れてきた銀貨が一枚現れた。これが、百リラ。金貨なのか。大事にしまっておかないといけない。銀貨の方は十リラだ。百キロメートルと十キロメートルを同時に達成したから一緒に出てきたのだろう。
「パンパカパーン!」
ま、まだ何かあった。一気にレベルが二つ上がった気分だ。
「おめでとう! 『訪問した集落、三ヶ所』を達成したよ! ボーナスとして転移能力が付与されるよ!」
また、新しい達成項目が現れた。しかし、転移能力ってなんだろう。
「これは、ラピス様を呼ばないといけないからちょっと待ってね」
「俺も呼ぶー」
そう言うと、ハーディとガーディが空に向かって「ラピス様ー」と声を揃えた。すると――、
「はいはーい」
突然、何もなかった空間に紫色の髪をした、いつかの偽死神が現れた。人気のない所で良かったが人に見られたらどうするつもりだこいつ。
ウサギの二人は両手を広げて偽死神のそばに駆け寄って行った。なんだか取られた気分だが、元々はあっち側だし仕方ないかと寂しさを押し殺す。
「リュートさん! お久しぶりですねー。元気にしてましたか?」
「あっ、はい……、そこそこに……」
この偽死神め、俺をこんな所に飛ばしておいてその言い草はどうかと思うぞ、と心の中で叫ぶ。
「能力のボーナスを達成したみたいですね。では、どうぞー」
ラピスとやらが指をパチンッと鳴らすと俺は淡い光りに包まれたが、一瞬で消えた。これだけで終わりなのか。
「では、これで失礼しますね。丁度今から寝ようと思っていたところなので。能力は――、ハーディ、リュートさんに説明してあげてください」
「はーい」
「ではではー」
おい待てよ、もっと色々訊きたいことがあるんだぞ! と、声を荒げることも出来ず、ラピスは現れたときと同じようにスッと消えた。なんなんだあいつは。謎である。
「えっと……、それで能力っていうのはどういう……」
「えっとね、今回与えられた転移能力は、今いる位置と今までに行ったことのある集落との半分の距離の所まで一瞬で移動できる能力なんだよ!」
なんだそれは。なにかすごい能力を手に入れてしまったようだ。