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第4-1話 バイクで行こう

 朝。

 寝返りが打てなかったおかげで背中が痛いのを我慢しながら上体だけ起こすと、俺の腹の上で二羽のウサギはまだ気持ち良さそうに寝ているのを見つけた。軽くつついてみるとすぐに起きて、


「うーん……、おはよう……」

「おはよー……」


 まだ眠そうだが、タブラさんとの約束があるので早く準備しないといけない。申し訳ないが俺の腹の上から二羽を降ろして、着替えをする。せっかくなので昨日、ボーナスでもらった『旅人に見える服装セット』を着用した。

 部屋を出ると丁度タブラさんも部屋から出るところだった。


「おはよう、リュート君。おや? 今日はあの変わった服じゃないんだね」

「お、おはようございます……、へへっ、そうなん、ですよ……」

「君も素泊まりだろ? どこかで朝食を食べないかい?」

「あっ、そ、それなら良い店を、知ってます」


 俺がそういうとタブラさんを連れ出していつもの肉まん屋へと足を運んだ。良い店と言ってもここしか知らない。俺は昨日の夕飯のお礼にとタブラさんに肉まんを一つ差し上げた。もちろんウサギの二人も一つずつ食べた。残金、三リラ。



 朝食を終えると早速、帝都に向かうために町を出ようと門の所まで行く。


「おはようございます。おや? もうお二人共、出立なさるのですか?」

「ええ、これから帝都に向かおうと思います」

「そうでしたか。また是非お立ち寄りください。特に魔導士さんはこの町をくまなく回られていらっしゃいましたが、お気に召して頂けましたか?」

「えっ、はい……、とても、良い町でした……」


 ただ一心不乱にお金を稼ぐために歩き回っていただけで特に思い入れはないが、そう答えておいた。



「よし、じゃあ行こうか。ちょっと狭いが落ちないように俺にしがみついて乗ってくれ」


 タブラさんは黒色の手袋をつけてメットを被るとバイクに跨った。タブラさんの荷物をできるだけ後ろにずらしてもらったりバイクの側面に括り付けてもらい、俺はタブラさんと密着するように座る。たしかに狭いが好意で乗せてもらっているのだ。文句は言えない。二羽のウサギは俺のカバンの中に顔だけ出して入ってもらう。


「せまいよー」

「うわっ、リュートの靴が入ってる! くっせー!」

「…………」


 そんなこんなで俺達は帝都に向けて出発した。



 いつもの何倍もの速さで景色が通り過ぎていくが、草と木と遠くに見える山しかない。道はおそらく街道というものだろう。人や車が通れるようにしっかり整備されている。二羽のウサギはカバンから顔を出して直接吹きつける風を受け、目を細めて渋い顔をしている。

 時折、徒歩の人や行商らしい馬車と何台かとすれ違ったが、さほど人通りは多くない。

 町を出て二十分ぐらい経った頃に、カバンの中にいるハーディの天使の輪がピカピカと光った。


「リュート、『移動距離、十キロメートル』を達成したから、お金このカバンの中に入れとくね」

「えっ? バイク移動でもいいの?」

「ん? どうかしたかい?」

「い、いえ! こ、こっちの話です……」


 なんという朗報。バイクにただ乗せてもらっているだけでお金が手に入るようだ。帝都までどれぐらいの距離があるかわからないが、稼げるチャンスが到来したと心の中で喜びを爆発させる。

 それにしても、今までは『パンパカパーン!』の効果音と共にボーナスをくれていたのに今回は適当なものだった。めんどくさくなったのだろうか。

 その後も二回ほど天使の輪は光り、着実にお金は貯まっていく。

 


 途中、休憩のために小さな村に立ち寄った。

 そこで本当にお金があるのか確認するために、村に着いてすぐに飛び出して行ってしまった二羽が入っていたカバンの中を覗く。すると、靴の中に十リラの銀貨が三枚入っていた。俺は心の中で小躍りしたが、反対に今まで苦労して歩いた分ほどのお金を一時間ほどで手に入れてしまい、少しむなしい気持ちになった。

 タブラさんと村の人の話を後ろで立ち聞きして得た情報によると、この村は俺達が出発した町と帝都の丁度中間辺りにあるらしい。つまり、もう一時間もすれば帝都に着くというわけだ。お金も貯まりウハウハだ。

 あとは、この村の名産品で織物や果物や野菜といった物があるらしい。それらを町に売りに行くのだが、馬車や人の足だと半日はかかるのでバイクが羨ましいようだ。たしかに、バイクがあれば俺もお金を稼ぎ放題になるので欲しくなるが、どこで売ってるのだろうか。まあ、免許を持っていないが。

 村を散策していると人間の姿になっていたガーディが果物売り場の前で、


「なあなあ、あれ買ってくれよ」


 そう指差したのは、カゴに無造作に入れられた果物たちと違い、商品棚の一角を陣取るように置いてあった、一個の綺麗な赤色をしたリンゴだった。側にいるおばちゃんに値段を聞くと、二リラだそうだ。なんという高級品。普通のリンゴが二十ケントらしいので、こいつはその十倍もしやがる。

 しかし、今の俺は昨日までの俺とは違った。もっと言うと一時間前の俺とは違うのだ。

 そう、金なら唸るほどある。先ほど得た三十リラと持っていた三リラを合わせて三十三リラあるのだ。俺の懐の深さを見せてやろう。一個と言わずハーディの分も買ってやろうではないか。


「す、すみません!」

「はい、どれにしましょ?」

「その綺麗なリンゴを二個ください!」


 言ってやった。ただでさえ高いリンゴを二個買うのだ。大人の階段を駆け上がる気分だ。


「ごめんねえ、そのリンゴは今そこに置いてあるやつしか今日はないの」

「えっ……、あっ、そ、そうですか……、じゃ、じゃあ一個ください……」


 やってしまった。見栄を張って大技を繰り出したらすべって転んだ気分だ。

 そんな俺を尻目に子供の姿になったウサギ達は、買ったリンゴをおばちゃんにその場で切ってもらって仲良く食べていた。



 大満足してウサギの姿に戻った二羽をカバンに入れて、再びタブラさんのバイクに乗せてもらい帝都を目指す。途中と変わらず平凡な景色が続いている。二羽のウサギはバイクが気に入ったのか相変わらず顔に風を当てて渋い顔をしている。

 再び走り始めてから数十分が経過した頃、タブラさんが声を上げる。


「見えたぞ、あれが帝都ルセポリスだ」


 タブラさんの身体の影から前方を覗き込むと、緑の山々の中腹辺りに、まさに城と言いたくなるような立派な城と、そこから麓に連なるたくさんの建物らしきものが見えた。あれがこの国で一番大きな街か。あれからハーディの天使の輪は二回光ったのでさらに二十リラ追加されている。お金もたくさんあるし贅沢できるかもしれない。先ほどまで平凡に見えていた景色も、気分の向上からか美しいものに見えてきた。どんな所か楽しみだ。

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