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第3-1話 まだまだ歩こう

 今日は休日なのでいつも通り自分の部屋でゴロゴロしている。平日は自転車に乗って学校まで行き、つまらない学校生活を過ごして、また自転車に乗って家に帰る生活をしているのだ。休日ぐらいゆっくりさせてもらいたい。

 とは言っても、テレビゲームは飽きたし漫画も何回と読んだやつしかないのでつまらない。外に行っても生憎の快晴だからどこに行っても人がいっぱいだろう。とても行く気にはなれない。


 仕方ないのでベッドに寝転がって、スマホでゲームをしたり掲示板を見たりを繰り返しながら時間を潰す。音楽というものに興味はないので部屋の中にはゲームの音声だけが響いている。特に何も考えず無心でスマホのゲームに勤しむ。

 暇だ。

 このまま寝ても良いが、明日学校に行かなければならないことを考えると、今寝たら変な時間に起きてしまい明日がだるくなる。まあ、どっちにしろだるいのだが。

 とりあえず、目を瞑っているがたぶん寝ない。スマホで疲れた目を休ませているだけだ。

 すると、ベッドの頭の上に置いてあるロボットのプラモデルが、


『おい! 起きろ!』


 と、話しかけてきたのである。おかしい。組み立てるときそんな目覚まし機能つけただろうか。


『このやろ! えい!』


 プラモがこちらに銃口を向けて撃ってきた。額にぺちぺちと衝撃を受ける。

 なんだこのプラモ。ご主人様に向けて発砲するとはなんて奴だ、分解してやろうか。


『もう、またそんなことしてー』


 今度はその隣に置いてある美少女フィギュアが喋り始めた。このキャラの声が流れる機能でもついているのか。いや、そんなものはなかったはずだ。それにこのキャラはもっとハツラツとした声でこんなにほんわかとしていない。


『でも、もうご飯の時間だし起こさないとね』


 そうか、もうそんな時間か。今日はイタリアンな気分だ。

 その瞬間、体の腹部辺りにドスッという衝撃を受けた。なにが落ちてきたのかわからないが重い。なんとか体を起こそうとするが動かない。とりあえず目だけでも開いて状況を確認するために目を開くと――。



 そこには白い天井があった。見慣れない景色だ。


「おっ? やっと起きたか」

「早くしないと朝ご飯の時間終わっちゃうよー」


 その声がする方に頭だけ持ち上げると俺の腹部に折り重なるように、二人の子供が乗っていた。ああ、そういえば昨日この二人とこの宿に泊まったんだっけか。

 そして、体を起こそうとしたが起き上がれない。子供だが二人も乗られると重い。


「あ、あの……、すみません、起きるので退いてもらっては頂けないでしょうか?」

「うーん、どうしようかなー」


 さっき朝ご飯の時間が終わるからと言っていたのにどういうことだ。一番上に乗っている白い髪の女の子が体を上下に揺さぶって衝撃を与えてくる。苦しい。

 しかし、すぐに満足したのか女の子は降りてくれた。そして、黒髪の男の子も続いて降りてくれた。

 俺が起きたのを見ると、


「じゃあ、先に下に降りてご飯食べてるね」

「早くこいよー」


 そう言い残し部屋を出て行く。せっかく朝食付きで泊まったのだ。俺も食べに行こうと上体を起こし、ベッドに腰掛けて靴を履こうとしたが、


「な、なんだこれ……」


 靴は無残にも片方の靴紐をもう片方の靴紐と一つにまとめられ、めちゃくちゃ結ばれている。

 なんてこった。

 頑張って紐をほどいていると俺ではない黒い髪の毛が紐に挟まっていた。



 靴紐をなんとかほどくことに成功したので、改めて靴を履いてから紐を結び直し、俺は脱いでいたブレザーを着てネクタイを軽く締めて部屋を後にした。

 下の階に降りると、昨日は暗くてよくわからなかったが、カウンターがある部屋の隣に木のテーブルと椅子が四セット置いてある部屋があった。

 その一角で先ほどの二人が並んでパンを食べている。

 俺が近づくと、


「よお、遅かったな!」


 ニヤニヤしながら声を掛けられた。お前のせいだろ絶対。

 テーブルの上には二人が食べているお皿の他にシンプルなパンが二個乗ったお皿とカップに入った黄色いスープが置いてある。どうやらこれには悪戯はされていないようだ。

 俺は二人の対面にある椅子に座ってパンを一つ手に取り食べる。うん、パンだ。スープを飲むとカボチャのような味がしたが、すっかり冷めていた。まあ、こちらの方が飲みやすいし、とポジティブに考えて朝食を済ませた。



 特にまとめる荷物もない俺達は朝食後すぐに宿を出た。さて、これからどうしよう。

 昨日だけで二十キロメートルも歩いたから風呂に入りたいので銭湯に行こうかな。

 しかし、財布の中が心もとない。財布の小銭入れの中を覗くと、十円玉のような銅貨が二枚入っている。つまり、二十ケント。

 昨日の大きい肉まんが一個五十ケントであったことを考えると所持金の少なさがよくわかる。キャベツは丁度買えるけど。

 そうなると、またボーナス狙いで歩くしかない。本来ならば過酷な労働を経て、それ相応の対価をもらうのだ。この世界のサラリーがどんなものかはわからないが、十キロメートル歩くだけでお金がもらえるのだ。そう考えると楽なはず。しかし、十キロメートルか――、長い。



 考えていても仕方ないので、とりあえず歩こう。

 俺はいつの間にかウサギの姿に戻った二羽を引き連れて、昨日と同じく町の中を散歩する。先に、銭湯の入浴料や着替えの衣服やタオルなどの日用品の値段の確認を行った。なんとか十リラ増えれば足りそうだ。

 その後、大通りを何往復もしたり、市場をぐるぐると徘徊していると怪しい目で見られたので、町の外に出て門番の人から見えない辺りを歩き回った。

 太陽も天頂付近にまで昇っている。達成の合図はまだか、と思っていると、


「パンパカパーン!」


 俺は待ってましたとばかりに心の中で小躍りをする。早く衣服とタオルとそれを入れるカバンでも買って銭湯に行こう。


「おめでとう! 『この世界に来てから一日経過』を達成したよ! ボーナスとして『旅人に見える服装セット』が贈られるよ!」


 あれ?

 狙っていたのと違うボーナスを達成してしまった。目の前に茶色を基調とした硬そうな材質のポンチョと白いインナーに黒っぽいズボン、さらに茶色のハイカットブーツが並んだ。なんてこった、衣服代が浮いてしまった。

 俺はせっせとボーナスの品々を拾い上げて再び十キロメートル目指して歩き始める。すごく邪魔であった。どうせなら一緒に大きめのカバンが欲しかった。

 その後、両手で衣服とブーツを持ちながら、無事に十キロメートル歩いて十リラを手に入れた。



 町に戻るとまず最初に肩から掛けれる大きめの丈夫そうなカバンを見繕い、それから肌着とタオルにできる布を三つ購入した。この時点で残金、五リラと三十ケント。

 銭湯に着くと当たり前のように二羽のウサギは人間の姿に戻っていて――、


「お風呂ー!」「お風呂ー!」


 ああ、知っていたさ。そのためにタオルも三つ買ったのだ。残金、三リラと八十ケント。

 しかし、ウサギは水に濡れるのを嫌がると聞いたことがあるが大丈夫なんだろうか。まあ、今は人間の姿をしているし普通のウサギと比べるのはもうやめよう。

 女の子の方のハーディにタオルを一枚渡して、男女に分かれて入る。

 男の子の方のガーディはさっさと身に着けているものを脱ぎ散らかして浴場の方に駆けて行った。それを俺が拾って籠に入れる。ああ、子を持つ親はこんな気持ちなんだろうか。


 制服を脱いで浴場に入ると中は簡素なもので、石造りの部屋の中に大きな浴槽があるだけであった。ガーディは既に入浴中だが、ちゃんとかけ湯をしたのだろうか。俺もかけ湯をしてお湯に浸かった。

 入浴中に、これからのことを考えていると俺は気づいてしまう。今夜泊まる宿代がないと。

 素泊まりでも五リラと八十ケントだったはずなので三人で十七リラと四十ケント。

 まずい。ここを出た後にまた十キロメートル歩いたとしても足りない。かと言って、さらにプラス十キロメートルも歩くのはさすがにつらい。とりあえず、暢気に鼻歌を歌っているガーディに相談してみるか。


「あ、あの、ガーディさん……。少々よろしいでしょうか、ご相談が……」

「ん? なんだよ」

「今夜の宿代がですね、俺がもう十キロメートル歩いても三人で泊まると足らないんですよ。それで……、今夜はウサギの姿で眠って頂けないでしょうか……?」


 おお、神よ。お願い頼み申し上げます。


「えーやだよー! お前が二十キロメートル歩けばいいだろ!」


 神はいなかった。いるのは目の前のチビっ子悪魔だけ。


「いや、その、それだけ歩くともう暗くなっちゃいますし、俺も疲れますし……」

「時間がないなら走ればいいじゃん」


 至極まっとうな答えが返ってきた。どこぞの王妃のような言い草だ。だが、帰宅部エースの俺が二十キロメートルも走れるわけがない。


「お、お願いします! 昨日の肉まんをお二人に二つずつ買いますので!」

「えっ? うーん……」


 これでダメならもうどうしようもない。制服とか売れるかなあ。


「しゃあねえなあ。その代わり、お前の腹の上で俺達は寝るからな」


 勝利を勝ち取った。寝返りをうてない刑に処せられたが。

 その後、お風呂あがりのハーディにもお願いすると、最初は渋っていたがガーディも一緒になって説得してくれたのでなんとかハーディも了承してくれた。

 そして、昨日の肉まん屋に行き、大きい肉まんを六個購入した。俺も歩き回ってるんだし二個ぐらい食べないとやってられない。残金、八十ケント。

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