第14-1話 再会しよう
幸運なことに転移した先のすぐそばに村があった。ボートンに向かう途中立ち寄ったひとつだ。
俺は急いでそこに駆け込むと、村に駐在している兵士に応援を頼んだ。俺の話を聞いてくれた兵士は、鬼気迫る俺の勢いにたじろぎ気味であったがすぐに対応してくれた。付近の町や村の兵士を集めてボートンに向かってくれるとのこと。そして、帝都まで馬を出してくれた。俺は馬を操れないので兵士の後ろに乗せてもらう。俺が転移すると自動的に一緒についてくるウサギ達はカバンの中だ。
夜通し山道を駆けて朝日が昇る頃には帝都の城門前に到着する。不眠不休であったが一刻も早くハルバさん達の危機を伝えようと、脇目も振らず街中を馬で駆け抜けて城を目指した。
勢いそのままに城の敷地に入ると、いつの日かと同じようにリーエンさんとごつい兵士が番兵として扉の前に立っていた。ただ事ではない俺らの様子にリーエンさん達がすぐに駆け寄ってきたので、事情を説明するとすぐにごつい兵士は城の中へと消える。これでなんとかなるはずだ……。
一安心し、俺自身のことも心配してくれるリーエンさんの声を聞いていると、突然ぐにゃりと視界が歪み身体の力が抜けてしまう。俺の記憶はそこで途切れた。
目を覚ますと見覚えのある天井が茜色に染まっていた。身体を起こすとベッドが軋んだ音を出した。
「むっ、起きたか。丁度帰ろうとしていたのだが、タイミングが良いのか悪いのかわからん奴だ」
「クルジュ……」
よく眠ったことによりスッキリした頭がすぐさま状況を把握してくれる。ここは兵士になった際に貸してもらった俺の家だ。窓から差す日差しや外の雰囲気から察するに今は夕刻といったところだろうか。そして突然気を失った俺にクルジュが見舞いに来たようだ。窓の外に御付きの兵士が二人見える。
「ボートンからここまでご苦労であったな。転移能力を使ったのか?」
「ああ……」
「そうか。やはりお前を行かせた俺の判断は正しかったんだな、はっはっは」
「違う……、違うんだ。俺のせいなんだ……」
「ほう? 詳しく聞こうか」
クルジュはそう言うと椅子を引っ張ってきてベットのそばに置いて座った。俺は悔しさから少しの間言葉が発せれなかったが、クルジュは待ってくれていた。
顔を伏せてぽつりぽつりとボートンであった出来事を包み隠さずに伝える。俺が話してる間、クルジュはずっと黙っていた。
「――魔物を引き込んだ俺が全部悪いんだ。俺が町を危険な目に……。ハルバさんも俺のせいで……」
「なるほどな」
咎めるわけでも慰めるわけでもなく、クルジュはそれだけを呟いた。
「……怒らないのか?」
「怒る理由がないからな」
「なんで……!」
なんでそんなに達観していられるんだ。そう口にしようとしたが途中で言葉がつっかえた。顔を上げてクルジュを見ると青色の瞳を持つ目から一筋の涙を流していたからだ。
「なんで……、クルジュが、泣いているんだよ」
「いやなに。最初に報告を受けてから気丈に振舞っていたのだが、リュートの話を改めて聞いて堪えれなくなったようだ。すまない」
「謝られても、困る……」
謝るのは俺の方なのだから。迷惑を掛けたという話だけでは済まない。
「それで、リュートはこれからどうしたいんだ?」
「えっ?」
「お前は今自らが犯した過ちに悔いているだけだ。反省も必要だが、大事なのはこれからだろう? それとも叱責され罰を受けたいだけなのか?」
「俺は……」
確かに罰を受けたいという気持ちもあったのかもしれない。責められ追求されて謝罪をしたかっただけなのかもしれない。それで俺のやった失敗を薄めれると思っていたのかもしれない。
しかし、それが何になるというのだろうか。
クルジュの言う通り大事なのはこれからだ。
「俺はあの魔物を倒したい。それでハルバさんの仇を――」
「はっはっは、待て待て。ハルバの奴がどうなったか結論付けるのは早い。あいつはなかなかしぶとい奴なんだ」
「そうだな……、ごめん」
そうだ、ハルバさんは強いんだ。あの状況からでもなんとかしているはず、と願うしかない。
「だが、その心意気は良い。リュートの剣の腕もなかなかと聞いた。頼りにしているぞ」
「うん、頑張るよ」
励みになる言葉に俺の心は少し楽になった気がした。もちろん期待に応えるつもりだが、また躍起になって失敗しないようにしなければいけない。
「今のボートンの様子とか何か報告はあった?」
「まだないな。まあ、昨日の今日だ。明日には何かしらの報告があるだろう」
「そうか……。電話もないって不便だな……」
「電話?」
「あっ、いや、なんでもない」
俺が転移して情報を少しでも早くしたいが、あれは一日に一回しか使えないらしいからおとなしく続報を待つしかないか……。
そこで俺はふっとある事に気づく。
「そういえばハーディとガーディは?」
「ああ、あのウサギ達か。それなら城で預かっているぞ。これまたわんぱくでなあ。朝食や昼食をたらふく食べたかと思えば城にあるだけの菓子を食べ尽くしてしまう始末だ。城内を駆け回って壺を割ったり壁に穴を開けたりとなかなか楽しませてくれている」
「ご、ごめん。弁償するよ……」
「はっはっは、気にするな。例の報告を受けてから俺も気が滅入っていたが、おかげで元気づけられたよ」
クルジュは笑ってくれているが、俺は肩身が狭い思いだ。城に飾られている壺なんかとてつもなく高いだろうし、タンスに隠している千リラでは到底足りないだろう。胃がキリキリしてきた……。
「今夜もあの子らを城で預かっておく。リュートはここで休め。食事も持ってくるよう手配しておいてやる」
「そ、それは、ちょっと悪いかなあ、と……」
今でさえ暴れ回っているのに、この上シャンデリアでも落とされたら目も当てられない。一刻も早く俺の管理下に置かなくては俺の胃が死んでしまう。
「よいよい。話を聞く限りリュートはこの世界に来てからずっとあの子らと一緒だったのだろう。たまにはゆっくりと一人になる時間も必要だ」
「まあ、その通りだけど……」
最近は一緒にいることが慣れてきた面もあるけど、ゆっくりできないのはたしかだ。色々と心配だけどここは甘えることにしよう。
「では俺は城に戻る。ボートンのことで何かわかればすぐにリュートにも伝えよう。俺も忙しいので使いを出すことになるだろうが」
「うん、ありがとう。あいつらに、おとなしくしていたら明日デザートを食べさせてあげるって伝えといてくれ」
「はっはっは、わかった。伝えておこう」
可笑しそうに笑うとクルジュは立ち上がって家から出て行った。御付の兵士達と帰っていくのが窓から見えた。
家の中が静寂に包まれる。この世界に来てからではウサギ達が寝入った時以外ありえないことだ。俺はベットに座ったまま壁にもたれ掛かって深く息を吐いた。
これからか……。
クルジュには堂々と宣言したが、本当に俺があの魔物、ウェアウルフとやらを倒せるのだろうか。頼みの綱であるボーナスでもらった身体能力が上がる能力は発動しなかった。ということは実力で倒すしかない。なにも一人で倒す必要もないけど、あいつの強さから言って、束になって掛かれば良いってものでもないだろう。
やはり俺がもっと強くならなければ。
でもその方法がわからない。がむしゃらに剣を振って鍛えたところでたかが知れている。しかし何もしないとりかは遥かにマシだ。でもウェアウルフを倒すとなると――。
堂々巡りの思案は明かりもつけずに夜更けまで続いた。途中、城の使用人の方が食事を持ってきてくれたが上の空であった。
考えに考えたけど結局答えは出なかった。しかし、何か行動をしなくてはいけないのは明確だ。
明日もう一度クルジュに相談してみよう。
皇帝様のおかげであれだけ落ち込んでいた気分もひとまずは回復した。ウェアウルフを倒してクルジュの悩みの種を少しでも減らしてやりたい。
そうやる気を燃やしたが今日のところはもう寝よう。せっかく一人になれたんだ。思う存分寝て、心身ともに万全にしなければ。
身体をズラしてそのまま横になる。睡魔がすぐに俺の意識を引っ張って行ってくれた。
『起きろー!』『起きろー!』
「グヘエ!」
胸と鳩尾に衝撃を受け、夢も見ない深い睡眠から一気に現実に戻された。
「うーん、今日はイマイチだなあ」
「おもしろい声出なかったねー」
目を開けるとそばで残念がっているちびっ子悪魔が二人いた。
「げほっ、胸は、やめて……。し、死ぬ……」
不意の一撃に心臓が止まってもおかしくはなかった。息も詰まるし確実にこいつらは俺を殺しにかかっている。
「死んでないじゃん」
「ねー」
これっぽっちも悪ぶれた様子もなく恐ろしい一言とそれに同意する声が返ってくる。やはり俺はこいつらに殺される運命のようだ。
「お前が昼過ぎまで寝てるのが悪いんだよ」
「美味しいデザート食べさせてくれるんでしょ?」
「あー、そんなことも言ったような……」
ちゃんと昨日クルジュに頼んだ言伝は届いていたようだ。あんなこと言わなければ良かったと後悔する。
「あとリュートの友達から伝言だよ。『ボートンの町は魔物に奪われたが、住民や兵達は町から離れ無事だ。ハルバも重傷を負っているが命に別状はないらしい。安心してくれ』だって」
「ほ、ほんとに! よかったー……」
ハーディからクルジュからの伝言を聞いて俺は安堵のため息をついた。
ハルバさんは生きていてくれた。おそらく町の人達を逃がすために奮闘されたのだろう。やっぱりハルバさんはすごい。
俺の心を覆っていた暗雲から日差しが差し込んだ気持ちだ。
「なあ、早く行こうぜ」
「あっ、はいはい。行こうか」
もう少しこの喜びを噛みしめていたかったが、仕方がない。二人に急かされながらボーナスでもらったポンチョを羽織り街へ出た。その足取りは軽やかであった。




