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第8-1話 友達になろう

 扉を通ると先ほどまでの豪華な部屋とは違い、殺風景で螺旋階段しかない塔の中であった。石を積み上げられて作られた壁にいくつかの窓があり、そこから光りが差し込んでいるので、ある程度の明るさがあり、湿っぽさはない。


 俺は、皇帝の赤いマントがひらひらと揺れるのを見ながら、灰色の階段を登る。後ろには、背の高い二十代ぐらいの黒髪の兵士がついて来ている。間に挟まれている俺は完全に連行されているそれだ。窓から外の景色が見えるが、それを楽しむ余裕はなかった。


 階段を登る足音だけが響き、誰も言葉を発することなく頂上まで登りきると、そこは屋根はあるが、腰より上の高さには壁がない円形の場所に繋がっていた。

 どうやらここは見張り台のようだ。ここから水を流したかのように灰色や茶色の建物が広がる街と、その向こうに広大な緑の平原に、どこまでも続く青い空と交わる地平線が見える。これぞ絶景という眺めに、自分が置かれている立場を忘れてしまう。


「ふふふ、ここからの眺めを気に入ってくれたかな?」


 皇帝のその言葉に我に返ると、置かれている立場もすぐに思い出して、俺は、その問いに力なく肯定した。


「そうだろうそうだろう。ここは、俺のお気に入りの場所なんだ。キミもそこに腰掛けてくれ」


 お気に入りの場所を他人にも気に入ってもらい、皇帝は機嫌が良さそうであった。中央に置かれた丸い机にある椅子に座るように勧められる。笑顔のおかげか先ほどまでの厳格な雰囲気がなくなったようにも見えた。

 俺は無言で椅子に座ると、皇帝も対面に座り、後ろからついて来ていた兵士は皇帝の後ろに立ったまま控えた。


「さて、話なのだが……。まあ、そう緊張しないでくれ。別に取って食うってわけじゃない」


 皇帝は快活に笑い飛ばしたが、この国の一番偉い人を前にして一般人の俺が緊張するなというのは無理がある。いや、一般人どころか俺は罪人と言っても良いだろう。その負い目が俺をさらに縮こませる。


「まずは、自己紹介からだな。俺は、クルジュ。知っての通り、この国の皇帝をしている。キミは?」

「は、はい、リュートと呼ばれています。た、旅をしています」

「やはり、旅人か! 俺は旅人から聞く話が好きでね。良ければ色々と話を聞かせてもらえないか?」


 青い瞳をキラキラと輝かせた皇帝は子供のように、はしゃいだ声を上げた。

 話と言っても俺は生憎、人に話せるような話を持っていない。旅と言ってもこの世界に来てまだ四日目だし、この国のこともよくわかっていない。そんな俺が話せるとしたら、元の世界の話やラピスとかいう偽死神やこのウサギ達に振り回されている話ぐらいだ。

 俺が返答に困り、俯いたまま押し黙っていると、


「おや、リュートはあまり話しをするのは好きではないのかな? 俺はキミにすごく興味が湧いているよ。後ろに連れている使い魔のことや今回の大会でキミが使った仕掛けとかね」


 やはりそれを訊かれるか。もう善良な大会参加者とは思われていないようだ。誤魔化す手段も方法も思いつかないので正直に言うしかないのか。


「俺達のことが知りたいのか? 俺が、ガーディで――」

「私が、ハーディ!」


 後ろにいたウサギ達が俺の前に出てくると、机の上に乗って自己紹介をした。話がややこしくなるから後ろでじっとしていろ、とは言えず。


「こんにちは、ガーディにハーディ。キミ達も俺とお話してくれるかな?」

「別にいいよー」

「いいよー!」


 このウサギ達の口に戸は立てられない。このままでは、洗いざらい暴露されてしまう。


「はっはっは、可愛い子達じゃないか。リュートは良い使い魔を連れているね。でも先に、リュートから話を聞きたいな。見たところ俺と歳はそう変わらないようだし、そんなキミが何故旅をしているのか、どういうことを考えているのか、すごく興味があるよ」


 なんだかすごく興味を持たれているようだ。こんなことは生まれて初めてかもしれない。

 しかし、俺は自分のことを話すのは得意ではないし、別の世界から来たと言っても信じてもらえないだろう。どうしたものか。

 皇帝陛下のお言葉を無視するかのように俺は沈黙してしまう。話したい気持ちもあるがなかなか言い出せない。そんな俺を見かねたのか、


「なあなあ、なんで別の世界から来たことや転移を使ったこと教えてやらないんだ?」


 ガーディが言ってしまった。その言葉はしっかりと皇帝の耳にも届いており、


「ふむ? 別の世界……、転移……」


 何か考える仕草をしている。もうどうしようもないと悟った俺は、あとは野となれ山となれ、どこかの舞台から飛び降りる気持ちで全てを言ってやる、と奮い立たせた。既にビルから飛び降りるのは経験済みだ。


「そうなんです! 実は俺、この世界とは違う世界からやってきたのでしたー! 自殺しようと飛び降りたら怪しさしかない偽死神にアンケートを取られて、そのままこの世界に! そして、十キロメートル移動するごとにお金をもらえたりなどの達成ボーナスがあり、そのボーナスの中のひとつである転移能力を使って、俺はここから一瞬で離れた村までひとっとび! 一日一回しか使えないので走ってこの城まで戻ってきたのでしたー!」


 俺は立ち上がると独演のように全てを暴露して、言い切るのと同時に力強く顔と両手を挙げた。終わった。しかし、今まで溜めていたものを吐き出せた清々しさもある。終わったが。

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