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「大臣。勇者候補が数人死んだとの報告があったが?」
ラサハイム王国、王都ギルタヤの王宮で、若き王『開明王ルアール』を前に膝まずき、右大臣ボルバンシーは窮地に立たされていた。
「へ、陛下!自然と偶然によるものでして、過去最悪規模の雪崩では抗いようもなく、誠に、嘆かわしく・・・」
肥えた体型に似合う吹き出す汗を見ながら、必至のボルバンシーに優しく笑いかける。
「判ったよ。君には荷が重いらしい。勇者達はこちらで見ることにするよ。」
その言葉に、さらに汗が倍程も滴り落ちる。
マズイ!最悪だ!勇者育成の栄誉と資金は、絶対に渡すわけにはイカン!
「あっ!いえ、それにはおよびません!勇者育成は良好な結果を得られているのも事実ですので、今後は安全への一層の配慮をいたします。右大臣職の重要事項の1つと肝に命じて務めておりますれば、以後このようなことの無いように尽力いたします。はい。」
「右大臣。何を勘違いしている?『こちらで見る』と決定事項を伝えているのだよ。」
手にした羊皮紙をボルバンシーに向ける。
「事故が起きてから、現場での捜索はおろか遠見での捜索すら申請してないよね。人力、魔力、勇者、どれひとつ利用していない!勇者の軍事バランスを軽く考えすぎだ。これでは、安心して任せられない。と、言ってるんだよ?」
玉座から立ち上がり一歩踏み出す王に圧されて、ボルバンシーは動揺し、王を見上げたまま一瞬動けずに凝視してしまった。
特に武に秀でたような体つきや残忍な処罰などを強いることなどはしていないのに、この王は、『恐い』のである。
背中が寒くなる怖さ。
開明王ルアールの『王の威』は、従わざる得ない状況に追い込まれる怖さなのだ。
慌ててすぐさま平伏するボルバンシー
「は、はい!直ぐに現場と、遠見の申請をしますし、今後は事故の際は捜索と遠見をするようにいたします。はい!」
ルアールは、ニヤリと笑う。
「うむ。ボルバンシー。そなたの適切な対応を信じよう。『その覚悟』と潔い態度。そなたの決意と覚悟に免じて、失った数と同じだけ勇者を探し出すならば、此度の決定は覆るであろう。それまで今のままで置く。2年待とう。己の力でどこまで出来るものか、覚悟の程を結果で示せ。励めよ。」
あっさりと2年の猶予を与えられた。
しかし、『その覚悟』?潔い態度?
そんなものを表したわけもなく、正に『王に、いいように押しつけられた。』訳だが。
王直々に『己の力で』と言われてしまえば、費用を自分持ちということで決定してしまっていた。
7人もの『勇者の片鱗もち』を探さなければ、降格人事、子爵位の降格返還まで有り得る。
ルアールの目に、獲物を狙う視線を感じとりさらに恐怖が募る。
怯えを隠せぬまま、王の前を辞す。
どうしてこうなった?どうすればよい?
考えに没頭し過ぎて、家に着くまでの馬車の揺れにさえ気付けなかった。
それでもまた、考えに沈み込んでしまう。
死んだ3人と遺体の無い4人。
勇者の片鱗には、雪崩を引き起こせる者もいたかもしれない。
では、逃げた奴がいる?4人?何人かは雪の中か?もし、逃げたとしたら人数は?誰が逃げたのか?
「忌々しい!遠見などに金を出させんでも、雪解けをまてばいいいだろうが!せんてのらは結果を待つしかないとは!」
だが、事故現場から逃走したとしての経路を調査する位は早急に通達するべきだ、と思いつき指示を出す。
「後は、金か・・・。」
執事に命じ金策の必要性と『玩具の女達』の半分を4日後に売るように伝えた。
その体つきが示すように、浪費、享楽を嗜んでいたが、しばらくは今まで通りの遊び方は諦めざるを得ないことに、うんざりしこの事件に一層腹立たしくなった。
「まったく!どれを残すか、吟味せねばな。遊びにさえ職務が入り込んでくるとは、右大臣も楽ではないな!」
お重い腰をあげて、遊び部屋へと向かう。
リクが数枚の銅貨を受け取り、アレスに残された安らぎが1日となっと夜、ボルバンシーにも同じだけの時を刻み夜が過ぎていく。