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「リク。こいつが『あのアレス』だってーのか?」


村長は疑いながら、泣き疲れて寝てしまったアレスの顔を覗きこむ。


「・・たぶん。そうです。」


「なんだよ、ハッキリしねーな。」


「だって、子供の頃見て以来だし、子供の時の記憶だからよくわかんないし、何より銀髪だし。」


「まー、アレスだってなら話は早い。役人に知らせたらちっとは金になるだろう。」


「そっ、それは、ちょっと待って・・」


「なんだよ?」


ギロリと睨んで来る、村長。

金が関わると容赦ねーな。


「1日だけ。1日だけ待ってもらえませんか?」


泣き叫ぶアレスを思うと、このまま渡してしまうわけにはいかない。

けど、どうするってんだよ?


「・・1日、ね・・。」


数秒の沈黙に、薪の燃える音が響く。


「ま、いいだろ。1日だけだぞ?さすがに、アレを見たら・・」


村長として、軽くは飢饉や日照りに何度かあった。

その度に、村から身売りを出すこともある。

泣いてすがる子供を、見ることもある。


けど、心が壊れてしまうほどに5年も嘆き悲しんで、それでも戻ってきた子を


「・・・ 仕方ねーとはいっても、鬼には成りきれねーよな。」


「村長!ありがとう!ありがとう!てっきり、村長の事だから金になるなら何だってやる人だとばかり思ってたから、ありが・と・・う・・・!」


「お前な、それ以上言ったら今すぐ突き出すぞ。」


青筋をたてた村長が、片手で頭を掴んで握りつぶされる。


「い!痛いです!すんませんした!!村長は、優しいです!」


「・・ったく!丸1日、明後日の朝一番で迎えに来る。お前、食糧あんまないだろ?せめてこれで、できるだけ良いもん食わしてやれ。」


数枚の銅貨をくれた。


「うん。ありがとう。」


「リク。俺だってよ、あの日のアレスやアレスの親たちのその後を忘れてる訳じゃねーんだぞ。」


戸を開けて、風の冷たさに身を縮ませる村長の背中に、どうしても聞いておきたかったことを訊ねてみた。


「アレスのお母さん達はどうしてるの?」


村長は背中を向けたまま、ため息混じりに呟く。


「村を出ると言ってたが、夫婦だけでギルタヤの街に向かう山の入り口で魔物に喰われた。」


「村長、それって・・・。」


「深く知っても、誰も幸せにならん話だ。夫婦は魔物に喰われたんだよ。よくある話だ。」


「・・・そんなの・・酷すぎるよ・・」


ギルタヤは遠い。歩いて山を行く馬鹿はいない。

なのに、『夫婦だけ』でギルタヤに向かい魔物に喰われた。

つまり、『魔物は人』


さっきまで信じきっていた『のどかな村』が、もう戻らない程の『薄寒い村』へと、姿を変えた。


どれだけ村人に頼み込んでも、どれだけ隠しても、アレスはこの村で生きていくことはできないだろう。


眠れぬままに、朝がきた。





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