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冬を含んだ風が冷たい。


「明日は寒くなりそうだな。」


風が窓を覆う木戸をカタカタと揺らし、家の中でも底冷えの寒さがする。


それでも、この小さな炎を灯す蒔きの量で我慢するしかない。

冬を越えるために暖まるための薪ですら、満足に持てていないのだから。


父も母も亡くし、14才の僕には日々の食べ物を何とかすることしか考えられない暮らし。


それでも、屋根と壁があるだけましなんだと知っている。


「この冬にも何人も死ぬか売られるか、奴隷となるんだろうな。お貴族様にでも買われたなら、その方が今より良い暮らしになるのかな?」


厳しい冬が来る。


暖炉の暖かさと炎の灯りで、明日の狩りで使う木矢の先を研ぎながら、愚痴る。


「それもこれも、世を乱す魔王が悪い。世を治められない王が悪い。」


そして、世の中ではこう続く。


「そして、世を導けない勇者が悪い、か・・。」


軽くタメ息が出る。


「勇者・・か・・。アレスの奴、どうしてるかな・・」


5年前に、王都へ連れていかれてしまった幼馴染みの少年アレス。


村に回ってきた巡回鑑定団に、『勇者の片鱗持ち』としてその日の内に連れていかれてしまった。


歓声をあげる村人と戸惑うご両親、何も判ってなくて兵士に押さえられて足掻くアレス。


大きくクリクリした目を涙で濡らし、綺麗な柔らかなカールの金髪をぐちゃぐちゃに振り乱して、甘えん坊でいたずらっ子でいつも楽しそうに笑っていたアレスが金切り声をあげて泣き叫びお父さんお母さんを叫び呼ぶ姿・・・。


あれから、何一つアレスの話を聞くこともなく、恩賞金を貰ったアレスの父母は、村人のやっかみに耐えられず逃げるようにいなくなってしまった。


もう、それっきりだ。


山合の寒村の狩人見習いなんかには、遠い王国も、さらに遠い魔王の国も、それこそ遠い遠いおとぎ話のお話だ。


今となっては、アレスがこの村にいたことを思い出す人が何人いるというのだろう。


『オラが村の希望、勇者候補アレス』


もう、会うことなど無いはずだった。


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