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No.02 ごちそうは生きる力:02

「ただいま」


 共働きの両親をもつ莉子に「おかえり」と言ってくれる人はいない。

 毎日朝から晩まで働く両親と一緒に食事を取ったことも、中学生に入ったあたりからほとんど無い。

 真っ暗な玄関に明かりを灯すと、その奥に続くリビングの暗さがよりいっそう際立つ。誰もいないのだと、訴えかけてくるような闇が奥へ行けば行くほど濃くなっている。 

 すぐに二階にあがり、自分の部屋へ向かう。ドアを開け、手探りで明かりのスイッチをつける。

 パッと明るくなるはずの室内は、なぜか薄暗かった。八畳ほどの部屋のいたるところに小さな光が揺らいでいる。


「って、なにこれ?」


 目をごしごしとこする。

 光はどう見てもロウソクだ。そして、莉子の記憶にある部屋と、今、目の前にある部屋は明らかに違う。

 とりあえず一旦部屋を出て、ドアを閉じてみる。


『りこ』と書かれた木の札を手に取る。莉子が小学生の頃、工作で作った札だ。この札の通り、ここが莉子の部屋で間違いない。


「んなばかな」


 莉子は独りごちると、今度はそーっとゆっくりドアを開いてみた。

 すると、どこからかドラムロールが響いてくる。光がポ、ポ、ポ、と増えていき、部屋が明るくなっていく。

 だれもが一生の内に一度だって、見るはずも無い光景が浮かび上がってきた。


「――なんで魔王な部屋?!」

「ふっふっふっ。ようこそ我が城へ」

「我が城って、あんたのじゃなくて、ここ私の城……じゃない部屋なんですけど!」


 どこからかエコーがかった声が聞こえてくる。聞き覚えのある声だったが、莉子には思い出せない。

 莉子の城……ではなく部屋は、今やもう部屋ではなくなっていた。

 壁は石造りになっていて、その壁には点々とろうそくが点されている。足元には骸骨が三体落ちており、真ん中には百段以上はある階段が聳え立つ。

 階段の終わりは幾重にも重なったカーテンが見えた。


 どうやって八畳間の莉子の部屋にこれだけものが入ったのか、どこの引越し業者の仕業なのか、莉子には見当もつかず、呆然とするしかなかった。

 

「よく来た勇者よ! まずは誉めてやろう! さあかかってこい!」

「ていうか私が勇者?!」


 やはり、ここは魔王の城らしい。


「……って、なんだこれ。絵じゃん」


 階段は絵だった。リアルに書かれすぎて、暗がりではわからなかった。

 いたずらにしては手が込んでいる。


 誰がこんなことをしたのか、莉子はだんだん腹が立ってきて、ずんずんと部屋の中に入っていった。

 本物なのはロウソクのみで、他は精巧に書かれた絵だ。

 石段の絵をなぞりながら、あたりをキョロキョロと伺う。

 絵の後ろを見てみると、体育座りをしてマイクを握った、赤ジャージ男がいた。


「……なにしてんの?」

「しみじみ飲めば、しみじみとおうおおお〜」

「……ボスはいいから」

「すいません。趣味なんです。こういうの」


 どういう趣味だ! と言いそうになったが、必死にこらえる。そんなつっこみより、つっこむべきことはたくさんある。


「なんで私が勇者なの?」

「そこをつっこむの?」






「ほんとに占いしないの〜?」

「しない。興味ない」

 

 階段の絵の裏においてあったコタツをだしてきて、ナツと莉子は向き合って座っていた。

 魔王の居城らしい風格溢れるおどろおどろしい部屋の真ん中に花柄布団のコタツ。

 ものすごい組み合わせに、莉子は薄ら笑うことしか出来ない。


「なんでそんなに占いをすすめるのよ?」

「ん〜? 俺ねえ、人間じゃないから。人の時間が俺のゴハンなのよ。一時間後を占ったら、一時間分、その分の時間を君からいただいて食べる。りこたんはその分、寿命が減るわけ」

「まるで、悪魔ね」

「悪魔ー? そんなかっこいいもんじゃないですぜえ」


 普通の会話ではないのに、普通の会話のように会話は進む。

 みかんをパクパクとおいしそうに食べるナツが普通の人間じゃないと言われても、莉子には信じることが出来ない。


「じゃあ、占ってよ」

「は?」

「あげるよ。私の時間。生きてても、楽しいことなんてないもの。私の時間、大会までの時間以外、あげる」


 なぜだか、そんな言葉が出た。

 学校には友達がいるし、それなりに楽しくやってるはずだった。それでも、やっぱり心の底では楽しいなんて思っていない。

 楽しいと思うことが、あまりに少ない。


 自殺したいなんて思ったこともない。けれど、生きていきたいと思ったこともなかった。

 走っている時だけなのだ。生きていると思えるのは。生きるって楽しいと思えるのは。

 

「じゃあ、占えないね」

「どうして?」

「大会の結果でしょ? 来週も先の占いをすれば、りこたんは今、この場で死ぬことになるんだよー」


 言ってる意味がわからず、莉子は顔をしかめた。

 ひどいことを言われた、という自覚だけはしっかりと残り、困惑が隠せない。

 なのに、ナツは涼しい顔をしたままだ。


「りこたんねえ、来週の大会の後、死ぬわけ。死因は心臓麻痺。原因は難しくって俺はわかんないけど」

「なんの冗談? つまんないんだけど」

「俺もこんなこと言うのは、初めてよ。でもりこたんの意味のわかんない自己満足な自己犠牲に敬意を表して、教えてあげたわけ」


 ナツの口元は笑ってる。だが、目はちっとも笑っていない。ぞっとして、莉子は身をすくめた。


「生きてても楽しくないのは、楽しもうとしてないからでしょ。むなしく生きてるって現実を変える気もないで、ただぐちってる。そういう人間が俺、一番嫌い。そのあげく、俺に時間をあげる? そんなの、俺に殺してって言ってるだけじゃん。意味もなく死にたがってさ。でも、死ぬ時が来たら、一番『しにたくな〜い』ってわめくのは、そういう人間なんだ」

「なによ、それ」

「あんたはどっち? 死にたい? 生きたい?」



2年位前に書いた話なのです。

ボスのネタは、当時、CMでトミーリージョーンズが歌ってたんです。

きっと今となっては意味がわからないと思いますが、大好きだったので、残しておきました(笑)


更新が一日遅れてしまいました。申し訳ないです。

次の更新は14日を予定しています。



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