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やっと本編始まるよ  作者: ゆっくりガオウ
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1人ぼっちの彼女

これからテストあるからペース落ちます。さーせん。

「それでは次のニュースです。昨夜××市でテロ行為と思われる事件がありました。この事件による死者は50人近くにのぼるとのことです。不思議なことに負傷した人はおらず、警察は計画性のあった殺人として調査を進めています。また、目撃者の証言によりますと、あれは人ではない。化け物が人を食い殺したんだ。

などと発言しており、、、」


ピッ!


「嫌なニュースだね、、、しかもこの辺の近くだなんて。」

アパートから徒歩数分で行ける街。しかも自分たちは昨日この街のスーパーで買い物をしたのだ。亡くなった人たちのことを考え目頭が熱くなるネッシー。


「この事件、私たちのカフェの近くでも起きてるからしばらくの間は全員休みだって、、、」

ツチノコが来たばかりのメールの内容を告げる。今回の事件がいかに人間たちに衝撃を与えたかを物語るように。



「それじゃ俺はもう行くから。」

その場から逃げるように部屋を出るモスマン。幸い彼の仕事場は影響を受けていないらしく普通に仕事がある。


誰も何も言えない状況。ゾンビは庭の土の中でずっと引きこもり状態だし、ドラキュラは押入れでまだ寝ている。



「それじゃ私、買い物に行ってくるから。どこか出かけるのなら鍵ちゃんとかけて行ってね。」

午後の買い出しに行くツチノコ。いつも行っていたスーパーが使えないので少し遠くの方に行くようだ。


ツチノコが出て行ってから数分後、ネッシーはなにかを思い立ったように立ち上がった。

「ちょっとだけ見てこようかな、、、」

決断したらすぐに行動に移すタイプのネッシーは部屋の鍵と財布を持ってアパートを出た。


道中亡くなった人たちのために花屋によって花束を買った。財布の中身は寂しくなったけれど、それをかき消すかのようにサイレンの音がけたましく聞こえてきた。

歩けば歩くほどサイレンの音は大きくなる。




そして大通りに着いた。



強烈な血生臭いにおいが鼻をつく。ウッと鼻をおさえその場にうずくまる。安全テープやネットで街の状況は分からなかったが、においが全てを物語っていた。その時、持っていた花束はクシャッと崩れてしまった。

なんとか立ち上がり花の形を整えるとそっとコーンのところに置いた。手を合わせ目をつぶりじっと祈る。せめて安らかに眠ることを願って。


家に帰るまでの道のりは覚えていなかった。気がついたら家についていたって感じだ。

鍵を開けフラフラと部屋に入る。あいにくゾンビもドラキュラも出かけているらしい。

特に見たいものもないのにテレビのリモコンを取った。

冬はこたつがわりになる机に座りテレビをつける。

昼のこの時間はワイルドショーがやっていたものだが、今はどの番組も今朝のニュースで持ちきり状態。


「なんかないかな、、、」

カチャカチャとチャンネルを変える。テレビの声は巡るましく変わりなにを言っているかわからない。


でもその中でほんの一瞬、ネス湖というキーワードが耳に入った。

慌ててチャンネルをその番組に合わせる。



そして彼女はそのニュースに釘付けになった。


頰からつたう涙もそのままに。





「ご覧ください!このスケール!いよいよこのスコットランドのネス湖に新しい工場が設立されました!いやぁ、立派ですねぇ。ネス湖付近の環境汚染の影響や国民の反対する声もありましたが、ついに誕生しました!」



私はじっとその画面を見ていた。

レポーターの後ろに映る自分の故郷はひどく汚れて自分が出発したとき以上に荒れていた。



「嘘だ、、、こんなの嘘だ!」



人間がこんなひどいことをするはずがない。きっとこれはドッキリとかそういうのに違いない。最新のCG技術の紹介だろう。



必死に自分の心に言い聞かせても涙は止まらない。

どんなに泣いても自分1人しかいない家に虚しく響くだけだった。




またあの時のように。






1人ぼっちだったあの時のように。





私はメモを1枚取り出した。


震える手で書いた字はかろうじて読める程度だった。



『2週間ほど家を留守にします。きっと帰ります。』



なにも持たず靴も履かず流れる涙や鼻水もそのままに彼女は家を飛び出した。




家から走って数分のところには川がある。かつてツチノコとモスマンとで川遊びしたところだ。


軽くストレッチを済ますと服を着たまま川に飛び込んだ。



約30ノットの彼女のスピードは川の流れと合わせると恐ろしく速く1時間とかからずに海へ出た。



「東南アジアの方からインドを通って南アフリカから行けばヨーロッパにつけるはず、、、!」


彼女は海にドプンと潜るとその姿を本来の姿に変えた。


言うなればかつて白亜紀の海を悠々と泳ぐプレシオサウルスに似た姿をしていた。



ネッシー


それは世界で最も有名なUMAであり、最も人間に憧れていた生物。



元の姿に戻るとその巨体からは想像もつかないほどの速度で水中を泳いだ。その速度は彼女ですら一瞬驚くほど。




しかしその速度を有していてもネス湖までの道のりは遠かった。




約5日、彼女は寝る間も惜しんで進み続けた。




そして6日目の朝日が昇ると同時に彼女はネス湖の前に立っていた。



いや立ち竦んでいた。





「こんな、、、こんなのって、、、」


ネス湖はもはや湖とは呼べなかった。ゴミや産業廃棄物が水中に溶け、水面には死んだチョウザメが揺れていた。上に見える工場の煙突から排出される煙は吸っただけでむせ返りそうになった。



「ウッ、、、オェエエエ!」


突然の猛烈な吐き気に襲われその場にうずくまる。つい6日前のあの時とはまた違ったにおいが鼻を刺激する。体中がかき混ぜられるような感覚。


ジワジワと背中が熱くなり喉奥から何かが込み上げてくるのが分かった。


「オェエエエエエエ!ゲボゲボ、、、」


彼女はその場に吐き戻してしまった。


ここ5日間ろくに食べ物は食べていなかったのでゲロというよりは胃酸が多く混じっていた。酸っぱい匂いが嗅覚を支配し、まずい味が味覚を狂わせた。

それらは脳を溶かすかのように意識をもうろうとさせ、頭と景色をグルグルと回した。



そしてまだ嘔吐物が出そうな口元を押さえて急いでその場から逃げ出した。



自分が上陸した浜辺に着く。目を閉じるとさっきの光景が目に映りフラッシュバックとなって襲いかかった。



2週間以内には帰ると言ったので、フラッシュバックを押しのけるかのようにザブザブと海の中に入る。




海の中は来た時よりも冷たくなっているような気がした。



「クッ、、、眠い、、、」


海の中を5日間ぶっとおしで泳いだのだ。無理もない。それに海は川や湖と違って波があるのだ。自分を押し出す波もあれば押し戻す波もある。

来るときは特に気にはならなかったのだが、帰りはなぜかそれを強く感じた。だから自分の体は思った以上に進まない。



うつらうつらとまぶたが重くなる。



「ん、、、」



彼女は1人広い海の中でとうとう寝てしまった。






キュルキュルキュル、、、



突如謎の音で目を覚ます。


耳を済ますとその謎の音はだんだん大きくなっている。




ギャルギャルギャル!



「!?」




ズバズバ!




突如、自分の体に激痛が走った。


見ると自分の体が切り裂かれている。


自分の体を切り裂いた正体は船のスクリューだった。




ああ、むなしきかな。またしても彼女は人間によって傷つけられた。

自分が愛した人間に。



身体中の傷は海水の塩分によってさらに痛くなった。


さらに喉も切り裂かれたので声も呼吸も悲鳴もままならない。



周りの景色がどんどん上がっていく。


それは自分の体が沈んで行くということ。




海の底に着くと同時にギュゥッと胸が痛くなった。


身体中の激痛をほんの一瞬忘れられるほど。



(愛したものに傷つけられた。信じていたものに裏切られた。)


自分の視界がだんだん赤く染まっていく。


それは血のせいだろうか、


それとも激しい怒りのせいだろうか。



でももう自分は助からない。こんな暗い冷たい深海で1人ぼっちで死ぬんだ。



最後の一息をゴボッと出すと同時に、



彼女の意識は海の底へと沈んだ。

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