汚れなき純白
遅くなってごめんなさい
時は美月が人間を2人食べ終えた頃
グゥ〜
「ん〜腹減ったなぁ。夕食は食べ終わったけど全然足りないし、、、どっか食べに行こ。」
ホテルに1人取り残されたななしさん。夕食は3人前のカツ丼を食べたが全く腹に応えてないらしい。
窓越しに遠くを見つめるななしさん。軽く舌舐めずりをすると窓を開け、9階の高さから飛び降りた。
夜の三日月に彼の長く白い髪が反射してボウッと光る。その姿は明るい夜の街に溶け込んだ。
「うぇ、これクッソマズ。こんなもん売りつける店員とかマジクソだわ。ハラタツ〜。」
夜道を歩く厚化粧の女。手に持っていたハンバーガーをボロボロ落としながら食べていた。
そしてしばらく歩くとビルとビルの間の小道に食べかけのハンバーガーを捨てた。そのまま知らんぷりしてまた夜道を歩き出す。そのハンバーガーは夜空に輝く三日月のように欠けた形をしていた。
その道に無残に捨てられたハンバーガーをヒョイッと拾う影が1つ。腰まで伸びた白い髪をどかしながら手に取ったハンバーガーを眺める。
鼻を近づけクンクンと匂いを嗅ぐ。
なるべく汚れが少ないところを見つけ、フゥっと息をかける。
そしてパクリとハンバーガーを一口で食べた。
「うん。別に味は悪くないし、むしろ美味しいくらいだ。こんな美味しいものを捨てるなんてもったいない。」
もぐもぐと口を動かしながら呟くななしさん。そしてゴクリと飲み込んだ後、口元についたソースを舐めとり遠くを見据える。
その先には厚化粧の女性が映っていた。
「決ーめった!」
まるで子供が欲しいおもちゃを選ぶように夜食を見つけるななしさん。そのままスタスタと女に近寄っていく。
そして背後からポンッと肩を叩く。
「ヘィ!そこのねーちゃん!」
「うわ!びっくりした。もぅなに?」
「今から僕とお茶しない?若い子にオススメのいいとこ知ってるからさぁ。」
「は?何あんた、気持ち悪。」
当然の拒否反応。しかしななしさんはそんなことをお構いなしに会話を続ける。いや、一方的に話しかけているだけなのだが。
「まーまーそんな冷たいこと言わずにさー。」
「ちょ、離してよ!変態!」
手を振りほどこうとするも、ななしさんの握力の前では無力に等しかった。
「どうしても行かないの?」
「決まってんじゃん!テメェみてぇなきもい胸をした女となんかいくとこねぇよ!バカじゃねぇの!?」
「あっそう、、、じゃ、、、」
ちょっとだけ迷った表情を浮かべると、グイッと手を引き寄せて
「強制連行だ!」
「ちょ!?痛い痛い!離して!」
彼女の声など全く耳に入れずズルズルと引っ張る。
そして光がある都会から薄暗い夜の公園まで文字通り連行した。
「もうなんなのよ!こんなところまで連れてきて!マジムカつくんだけど!」
怒る女を無視して辺りをキョロキョロと見回すななしさん。
誰もいないことを確認するとクルリと女の方を向く。
「それじゃ夜食でも食べますか。」
ビシュ!
ガッ!
「キャッ!何よこれ!?」
自分の周りを突然蛇のようなものが巻きついた。
付け根をよく見るとそれはあの女から伸びていた。
その女はニヤニヤと笑いながら私のことをじっと見据えていた。
「何よあんた!?さっさと離しなさい!」
「離せと言われて離すバカはいないと思うよ。あ、でも僕ってバカだっけ。アハハ。」
ケラケラと笑い続けるななしさん。自分で言った言葉に自分でツボッて腹を抱えて笑っている。
「クッソふざけやがって!いいから離せってんだよ!」
「おお、怖いね〜最近の子は。あと離す気は無いから自分で頑張って〜。無理だろうけど。」
なんとかして振りほどこうとしても全然動かない。むしろさっきよりも締め付けられている気がする。
「あっ。一言言っとくけど君の呼吸に合わせて徐々に締め付けてるから早くしないと死んじゃうよ〜。」
その一言でサァッと血の気が引いた。どうりでさっきからずっと締め付けられていると思っていた。
ハァハァと呼吸がさらに荒くなる。
「おーい。呼吸を荒くしたら時間なくなっちゃうよ〜。」
まるで心を読まれたかのような速さでツッコミを入れられた。しかしそのことにさえ気づかないほど彼女は焦っていた。
殺される。こいつは人じゃない。イヤダ。死にたくない。死にたくない!シニタクナイ!
「ヤダ!ヤダ!死にたくない!離して!」
「だーかーらー、離す気は無いって言ってるよね?物分かり悪いなぁ。」
どうしてこんな時に笑っていられるのだろう。人がこんなにも必死なのに、死にそうなのに。
「笑顔が僕の取り柄だからね。エヘン!」
「あ、、、あっ、、、」
ミシミシミシ、、、
もはや骨が悲鳴を上げている。このままじゃ折れてしまう。
「痛い、、、痛い痛い痛い!」
バキッ、、、!
鈍い音が体中に響いた。
数秒遅れて右腕を激痛が襲った。
「ゔああああああああああああああああ!?」
脳が脊髄を通して全身に痛みを伝えていく。
「ねぇ。」
「痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!」
「うるさい。」
ドス!
目の前の女が突然私の首裏を突き刺した。その途端、私の体は急に力が入らなくなり痛みも消えてしまった。
「話をしよう。君はさっき何をしたか覚えてる?」
「そ、、、そんなの覚えてないわ、、、」
「僕は覚えてるよ。さっき君はハンバーガーを捨てた。その行動って実は、、、」
「何億との命を踏みにじったことになるんだよ。
例えば1匹の豚が生きるのにどれくらいの草を食べる?その食べられた草はどれだけの養分や水を吸ってきたと思う?その水や養分はどれだけの命が作ってると思う?何万何億との命が君を支えているのに、君はそれを捨てたんだ。わかる?」
私は訳がわからなかった。
「簡単な質問をしよう。いや実に簡単な質問だ。鶏が牧場で生まれたするよ。いやヒヨコか。そのヒヨコはどうなると思う?最愛のつがいを見つけて死ぬまで平和に暮らすと思う?
ブッブー。答えは人間に食われるでした。なぜかわかる?」
私は首をフルフルと横に振った。
「答えはね、鶏が人間より弱いからだよ。弱いものは強いものに支配されなければならない運命を背負っているんだ。運命ってね、すっごく残酷なんだ。よく運命を変えるとか、運命を操るとかそういうのあるけどあれって僕できないと思うんだよね。だってそういうやつらが見てるのってただの未来じゃん。未来は変えられるけど、運命は変えられない。僕はそう思ってる。そしてその運命を決めるのは誰でもない強者だ。弱者の運命は強者が決める。そうしなきゃ多分世界そのものが成り立たないと思うんだよね〜。
さて!ここで君の運命はどうなるかわかったかな?」
私は察してしまった。
自分の運命を。
それは目の前にいる化け物に我が血肉を捧げること。
同時に大粒の涙が頬をつたったのが分かった。
「い、、、いや!そんなのいや!」
私は必死に助けを乞うた。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい、、、」
助かりたい。まだ生きていたい。死にたくない。
「謝罪はいらないよ。僕は全然怒ってないからね。もし謝りたいのだとしたら、さっき捨てたハンバーガーに関わった人たちや生命のことを考えるんだね。
それじゃ、バイバイ。」
グパァ、、、
尻尾の先端に十字に亀裂が入り、口のように開く。
その中はまさしく闇そのものでありとあらゆる害悪を含んでいたようだった。
「い、、、いや!」
最後に彼女が思ったこと。
それは後悔だった。
もっと自分のしたいことをやっておけば良かった。
せめて平和に暮らしたかった。
その願いはもう叶わない。
グチュグチュと音を立てて女を飲み込んで行く化け物。彼の尻尾はちょうど人1人分膨らみ、それを愛おしそうに眺める。
「ふっ、、、ふふっ、、、アッーハッハッハッ!平和だって!おっかしい!そんなの無理に決まってんじゃん!この世は幸福と不幸がちょうど半分になるようにできてるんだよ!?それに平和って誰も彼もが同じ立場になるってことだよね!?僕と君たちが同等!?アッーハッハッハッ!ヒィー!腹痛いや。そんな訳ないじゃん!圧倒的に僕の方が上に決まってんじゃん!」
ゲラゲラと声をあげて笑い続けるななしさん。
その背後に近づく白い影。
「相変わらずだねななしさん。」
「おや、美月。どうしたの?」
木の陰から出てきたのは食事を終えた羽田美月だった。不思議なことにあんなに返り血を浴びていたというのに今では少しも汚れていない。
「いやー、やっぱ人間1人や2人じゃ足りないよねって話。」
「だよね〜。それじゃやることは決まってるよね。」
ウズウズと口元が緩む2人。その表情はまさしく純粋な子供そのものだった。
「夜食パーティー、延長戦開始!」
「ウェーーイ!」
思いっきりはしゃぎながら夜の街へと駆けて行く2人の化け物。
その夜、1つの街で無差別大量虐殺が起こったことは翌朝の全ニュースに報道された。
どうしてこんなことするの?
「だってお腹が空いたんだもん。」
次回の投稿も不定期ですが、なるべく早めに投稿していきたいと思います




