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やっと本編始まるよ  作者: ゆっくりガオウ
5/31

pure

ちょいと短め。いやすごく

雨は止みちらほらと星も出た。雲の切れ間からうっすらと三日月も覗いている。


そのか弱い月明かりが1匹の化け物をそっと照らす。


「、、、いい月。」

パシャパシャと水たまりを通って街中を走る美月。その姿だけなら、雨にはしゃぐ幼子のよう。しかし彼女は自分の快楽を望み他の命を喰らう悪魔っ子だ。



グルルルルル、、、



猛獣の呻き声のように腹を鳴らす美月。


辺りを見回し獲物を見つける。


そして幼い口元から小さな舌をチロッと出してそっと上唇を舐めた。



またしても目が黒く深く染まっていく、、、




1人の男は街中を歩いていた。

タバコを咥え酒臭さをより強烈なものへと変えながら街中を進む。その存在は他人から見れば迷惑きわまりない。


そんな男の耳元にハエがとまった。

手を振って追い返すも、また1匹足にとまった。

鼻息を荒くし両手でハエをたたき潰そうとする。


男はふと思った。


なぜこんなにもハエが寄ってくるのだろうと。


いくら自分から酒の匂いがすると言ってもタバコも吸っていたし、何よりハエの数が多すぎる。


視線は自然と路地裏に入った。


ハエどもは路地裏の闇の中ほどたくさんいた。


人間は目の前に恐怖心と好奇心が現れた時、好奇心の方が勝ってしまう生き物。


男の足は震えながらも闇に向かって進んで行った。



何歩か進むとふと足に違和感を覚えた。


何かが落ちている。


それは妙に柔らかく靴の裏からもはっきりと感触が伝わった。


しかし辺りはすでに暗くかろうじて自分の手のひらが見えるくらいだ。


何か明かりになるものはないかとゴソゴソと裾の辺りを探る。



バチッ



フッと自分の視界が明るくなる。

一瞬眩しさに目をつぶり、フラフラと上を見上げる。

そっと目を開くと、それは古びた街灯だった。あまりの古さに蛍光灯は点滅を繰り返している。

男はやれやれと足元に目をやった。



男の目は見開いた。



そこには1人の人間が倒れていた。



しかもその人間は


顔の皮膚を剥ぎ取られていた。


自分が踏んでいたところはその額にあたる部位だったのだ。


顔は分からなかったが、体つきからして女性だろう。


そんなことを思う間も無く脳が思考を停止した。


叫ぶこともできずヘナヘナとその場に倒れこんだ。



すぐに誰かに連絡しなくては。



やっとの思いでその思考にたどり着き、震える体を動かす。


「どうかなされましたか?」


自分の後ろで幼い声がした。


バッと後ろを振り返ると帽子を被りキョトンとした表情をした少女がいた。


「ひっひっ人が、、、」


「人がどうしたんですか?」


「人が死んでいる、、、んだ!」


「、、、それで?」


「警察だよ!警察を呼ぶんだ!」


「なんで?」


「なんでも何もないだろ!人が死んでいるんだぞ!」




「だって私がやったんだもん。」




「、、、は?」


男は理解が追いつかなかった。


目の前の少女が人をこんな酷い形で殺しただなんて、思えなかったから。


「どうして、、、こんな、、、」

長い時を費やしてやっと一言呟いた。


「どうしてって?それは、こうすれば人が寄ってくるからだよう。」


ムスッとした表情で答える少女。


この言葉も彼から一切の思考を奪った。


「カブトムシとかさクワガタを取るときにさ、その虫にあった採集方法をするでしょう?だから私も私なりの方法で人間を捕まえる。こうして放置しておけば他の人間が好奇心で寄ってくるからね。」


エヘンと鼻を高くして話す少女の言葉を男は黙って聞いていた。


『人間を殺したのは、他の人間を捕まえるため。』


この理由がさっぱり理解できなかった。


自分は虫と同じように扱われたということさえも、考えられなかった。


「う、、、うわぁ!」


男は一目散に逃げようとした。



殺される



この少女に殺される



恐怖で震える体を必死に動かし光のある方へひたすら走った。



自分の足音しか耳に入らなかった。



そして男は闇に染まった路地裏から光溢れる街中に駆け抜けた。


そして振り切った。








と思っていた。


体はすでに動かない。というか何か強い力に押さえつけられているかのように全く力が入らない。


「なっ!?こっ、これは?」


「うるさい。黙って。」


少女がそう言って右手をそっと横に動かすと、男の口は何も喋れなくなった。


またしても強い力に押さえつけられているかのように。



「言っとくけど、私、人間じゃないからね。だから人間の法律とかに当てはめないでよね。」


冷たい視線は男の身体中に降り注いだ。


少女は続けた。

「偉い人は言いました。全ての命は平等なのです。ってね。私もその通りだと思う。全ての生物はみんな平等だとね。つまりそれって虫ケラと同じように扱われても文句は言わないってことでもあるよね。」


男は何も言わなかった。いや言えなかった。


「だからさ、、、私は


人間を食べるよ。こんな風に。」


少女はさっきの死体を片手にバリバリと口に運んだ。


食べ方は幼いのに愛らしさのかけらもない。


でもその目は澄み切っていた。


なぜ?



たった数分で死体は少女の腹に収まった。


異様にぷっくりと膨れた腹はもう1人くらい余裕ですと言っているように思えた。


男は恐怖に顔を歪めることもできない。悲鳴をあげることもできない。


何もできない。


「最後に種明かしするね。私は電気を操ることができます。だから、身体中を麻痺させたり脳からの電気信号を書き換えたりして体を支配することが可能です。どう?すごいでしょ。」


またしてもエヘンと鼻を高くして話す。



もう男には何もなかった。自分の人生はここで終わると体と脳で理解していた。


涙も流せない流れない。


「痛いの、、、嫌でしょ?」


少女はボソリと呟き男の薄くなった髪に手を置いた。



バチリと音が脳内に響いたかと思えば全身の力が一気に引いた。


虚ろな目で前を見る。



そこには口を大きく開けた少女の顔が迫っていた。



パクリ!ジュルジュル、、、ペチャクチャ、、、



ゴクリ、、、



男の体は肉の壁に挟まれてなすがままにされていた。


男は最後に何をしただろう。


ふと猫を捨てる少女の姿が浮かぶ。


あのとき叱った少女は、、、



彼の思考は少女の胃液によって完全に溶かされた。



「ごちそうさま。」


少女はしっかりとその言葉を言う。


ごちそうさまの本来の意味は


お命、ごちそうさまでした。


こんなに残酷なことをしながらも少女は命の敬意を忘れない。


いや、残酷なことをしていると自覚すらしていないのかもしれない。



なぜなら少女は純粋だから。

純粋で無邪気だから。



こんなに残酷なことを平気でできるのかもしれない。


少女はそっと闇に溶け込んだ。

他の小説もよろしくお願いします。

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