ついに最終回! UMAたちよ、永遠に……?
ついに最終回です。なんか短いのはあれこれ語るよりもそっちの方がしっくりくるかなって思ったからです。決して手抜きとかそういうわけじゃ……
いつもと変わらない木漏れ日が私を出迎える。森の泉の奥の底、小さな洞窟があったから私はそこを寝ぐらにしていた。最初こそ違和感とかがあったけど、今となっては前よりも寝心地がいい。でもちょっとアパートにあったボロい毛布の方が上かな。なんでだろうね。姿も可愛らしいアイドルの人間になるのはやめた。正直素の姿の方が水中を泳ぐのに楽だしね。ま、あの姿も嫌いじゃないんだけど……。でもわざわざ可愛らしい人間の姿になる必要もないじゃん? だって私は世界一のアイドル、世一ネス子なんだから。どんな姿だって私は世界一の有名怪獣。知らぬ者はいないレジェンドなんだよ。え? イッシー? はて、知らない怪獣ですね。
そういえば他のみんなは何してんのかな? たまーに会いに来るけど、それでも2週間に一度くらいの頻度なんだけどね。でもツチノコちゃんだけは別なんだよね。素の姿でも人間となった姿でも、ぴょこんと水面にその顔を映し出している。そしてちょっと儚そうに目を細めてジッと水中を眺めているんだ。姿を見せてもいいんだけど、会いに行くのは4回に1回くらい。私って意地悪なのかな。だってなんか……ツチノコちゃんが水中を覗き込んでいる顔って可愛いんだもん。いつも頰をプク〜ッて膨らました顔だったり、特に頰を赤らめた顔が印象的だったからね。あんな顔をするツチノコちゃんを見ていたいって思っちゃうんだよ。
その他の3人は人間の姿……というか、ゾンビとドラキュラは姿そのものが人間なんだけどね。基本的に彼らが会いにくるのは夜、昼間にはゾンビとモスマンしか会いに来ない。ま、ドラキュラは日光に弱いしね、仕方ないね。それにしてもモスマンはほとんど素の姿でしか来ない。逆に人間の姿で来る回数なんて全くない。ひょっとして人間に致命傷に近い傷を負わされた私に気を使ってくれているのだろうか。いや、彼のことだから案外アパートからの移動が面倒だから飛んで来ちゃったとかかもしれない。別に首の傷は跡になっただけでもう大丈夫だし、たしかに人間はまだちょっと苦手だけど、この世界にはもう人間という概念が存在しないんだから気を使ってくれなくてもいいのに。それにモスマンがどんな姿で来ても、モスマンであることに変わりはないんだから。私はバカだけど、それがわからないほどのバカじゃないもん。
それに変わってドラキュラはよく来るなぁ。特に満月の夜は確定で来る。よく差し入れって言ってちりめんじゃこを持ってきてくれる。でもしょーじき夜に来るのはやめて欲しいな。ドラキュラの来る時間は結構まばらだから、こっちが気を使ってしまう。ま、ちりめんじゃこ美味しいから別にいいんだけどね。そういやドラキュラに血を吸われることもなくなったなぁ。あの頃は朝起きるときによく吸われてたからなぁ、ほぼ毎朝貧血状態だったよ。これも懐かしいと思うほど過去の話になってしまったんだなぁ。今度ドラキュラが来たら血でも提供してみようかな。普段ちりめんじゃこを貰ってるし。
そういやゾンビは何気に来ないんだよなぁ。ま、前にゾンビが来て一緒に泉で泳いだ時、その日の泉が臭くなっちゃったんだ。そうでなくても彼女の体臭は少々いただけないからね。あの時は慣れてたからなんとも思わなかったけど、ちょっと……ね。なんでだろ。まぁ、今となっては慣れたっちゃ慣れたんだけど……その日、私の新しいお友達が水面に浮かんじゃうことがあるんだ。とほほ、ま、死んだわけじゃないんだから別にいいんだが……。
と、今の私たちはこんな感じだ。ちなみに私の方からも彼らのアパートに行くんだよね。この時は流石に人間の姿になって行く。素の姿じゃ陸もろくに歩けないし、部屋に入るのもできないしね。アパートでは彼らと一緒に雑談とかゲームとかする。その途中によくツチノコちゃんが強引に割り込んで来て、結局は元いた世界と変わんない情景が浮かんでる。でも居心地は悪くない。またみんな揃ってバカやって、叱られて、そんでまたバカやって怒られて……。結局私たちは変わんない。あっちでもこっちでも。でも毎日全く同じ日常が過ぎることはない。だって私たちは1つして同じ者はないのだから。常に変わり続けるものから、全く同じ形が保たれるなんてありえない。そうだよね、たとえ今日が良くない日だったとしても、明日になったらいい日なるかもわからない。たとえ今日が土砂降りの大嵐だっとしても、明日になればお日様が顔を出してギラギラと大地を照らすとも限らない。だからこの世は変わり続けるから好きにも嫌いにもなれる。私はこの世界に来れたこと全然後悔してない。面白くて、でもちょっと怖くて、だけど本当に楽しくて大切な仲間と一緒に来れたことを。
「ねぇ、みんな! 今日は何をしようか!?」
「はぁ……相変わらずのテンションね。私、ついていけないわ……」
「ダメだなぁ、ツチノコは……もっと俺らみたいにハッチャケてもいいのに。」
「本当にそうかな? 実は脳が腐ってついていけなかったりして……」
「ふん、永遠の時を過ごしても、あんたたちみたいな奴とは出会えないだろうなぁ。」
この中で笑ってないのは誰もいない。彼らの日常は誰にも邪魔できない。
『世界を騒がすUMAたちのハチャメチャな日常』を止めることなど誰にもできやしない。
「……どうやら元気にやってるみたいだね。よかったよかった。それじゃ引き続き仲良くやってくれ。僕はこっちで楽しく過ごすから。」
そんな彼女たちの笑顔を見つめる白い影が1つ、ふわふわと宙に浮いていた。その影は太陽の逆光によって表情こそわからないものの、その雰囲気からして笑っているように見えた。
「よかったね、ネッシー。世界一のUMAちゃん。」
彼はもう一度クスッと笑うと、空間を裂くようなスピードで空の彼方へと飛んでいった。
「…….ボスぅ、なんか私の布団から別の女の臭いがするんだけど……それとなんか水のシミみたいなのが……」
「あー……それ、洗濯とかで落とせそうか?」
「みゅ〜……頼むぅ、ボス。」
「ん。」
彼女は自分の部屋の布団をその小さな手に持ちながら愛しの男に染み付いた臭いの抹消を求めた。彼はそれを受け取ると、ほんの少しだけ布団に染み付いた女の臭いを嗅いだ。そういや彼女を寝かせていたのは彼女のベットだったっけ、緊急自体とはいえ無断で使っちゃったのはまずかったかな。ま、当人は臭いしか気にしてないようだし、いいか。彼はその毛布を洗濯機に押し込むと他の洗濯物と一緒に洗った。嫉妬と疑心の眼差しをその背中に受けながら。
「うふふ、うふふ、うふふふふふふ。すごいすごい、ドラキュラちゃんの右腕、まだピクピクしてるよ!」
ところ変わってとある古いマンションの一室では金髪の少女がヒクヒクと動く右手に興奮していた。その気味の悪さは傍目から見たら卒倒ものだろう。彼女の髪の毛をすり抜けてその光景を目にすることができればの話だが。
「んふふふふふふ……ん? ふふっ、また新たな獲物がひい、ふう、みい……いつつも! 今夜はご馳走ね。たっぷり可愛がってあ、げ、る!」
彼女はその口を耳まで裂けんとするほど釣り上げて笑った。その手にドラキュラの右手を抱えながら。
「お姉ちゃ〜ん! 大学のレポート見してー!」
「えー、やーよ。鏡の中から手を増やせばいいじゃない。」
「めんどっちいんだゆぅ〜。いいから見せてよ〜。」
「はぁ……」
別の家、いやここは家ではとても言い尽くせないほどの大きさを持った豪邸では2人の双子がリビングでレポートを仕上げていた。姉の方はもう終わるらしく、文の締めくくりを考えていたが、妹の方は3分の1しか終わっていなかった。そんな姉に妹はレポートを手伝ってもらおうとせがむが、姉はプイッと自分のレポートに集中していた。提出は明後日だというのにこの妹は……。本当に自分の妹かと問いたくなるくらいの怠けっぷりだ。ま、これも悪くないか……
「しょーがない、出てこい私! このレポートを終わらせるぞ!」
「おー……」
「やる気ゼロかよ!?」
「ま、あんただしね。」
彼女たちはやる気が起きぬまま渋々レポートに取り組んだ。実は姉の方もこっそり自分を使って楽していたのだが、それは内緒にしておくつもりだった。
今日も平和。だが明日はどうなるかわからない。様々な種族が混じり合うこの世界は他の世界よりも衝突が起こりやすい。それが些細な喧嘩でも、世界そのものに影響を与えるようなものでもそれはごく普通の日常として起こりうるものなのだ。もちろんそれらを阻止せんとするものもいるが、彼らの手だけで全てが丸く収まるわけではない。環境によっては常に死と隣り合わせなものもいる。常に戦いに身を投じるものもいる。だがこの世界はそれらを全て受け入れる。平和を望むものも、悪の道を進むものも全て。
しかしそれも世界のあり方なのかもしれない。そうして世界は広くなるのかもしれない。いずれ滅びゆくその時まで、今日も世界は回り続ける。この美しも儚い世界を保つために。
そして世界はハチャメチャな日常を送る。全く変わることのない日常を。
今までご愛読、ありがとうございました。沢山の閲覧数は全て自分の励みになっています。1年しかストーリーは続かなかったけど、それでも呼んでくれた方々には感謝の言葉でいっぱいです。皆さま、本当にご愛読ありがとうございました。




