ちょっと地球滅ぼしちゃいます。
期間空きすぎぃ! すみません!
「ふんふ、ふんふんふ〜ん。」
異常気象の渦の中で彼女は鼻歌を口ずさんでいた。彼女を止められるものはもういない。人間が誇る全ての武器をもってしても彼女にかすり傷1つ与えられなかった。さらに人間が当たり前に持つ電波を発する機器。そう、スマホと人間が呼んでいるものだ。それのタッチパネルを利用され、そこから指を通して脳の神経回路を支配する。そして自らの電気を使いそれをプツンと切ってしまうのだ。さらに電気はそのまま脳の中へと侵食し、喰らい尽くすように破壊するのだ。
神経を始めとし、脳を完全に破壊された彼らは何もしないまま、ただ世界の崩壊を待っていた。
「よっしゃ、落雷だけじゃつまんないから、今度は竜巻でも作ろうかな。たしかアメリカでは……スーパーセルって言ったっけ? うん? それは爆弾低気圧の名前だったかな? ま、いいや。とりあえずすっごい竜巻を作ってみよう。よーし、時速100キロ超え目指すぞー!」
そんな彼らをほっといて彼女は自分の力を試していた。どーせ、この世界は滅ぶんだし。自分が好き勝手やってもいいよね。
と思いながら。はっきり言って迷惑この上ないのだが、もはやこの世界を救うことは不可能に等しい。ここまで壊滅的な世界が再び美しい星に戻ることなどできるはずもない。しかしその絶望を感じるものはもう誰もいなかった。なぜなら彼らはすでに終わっているのだから。
「グルルルッ! いいぞいいぞぉ! 風よ唸れ! 天よ怒れ! 雲よ……えっと……その……とにかくなんかしろ! この地にその声を! 怒りを! 縦横無尽に叩きつけるのだ!」
彼女はさらにその力を増大させ、世界中に異常気象を巻き起こした。まるで天地そのものが意思を持ち、怒り狂っているかのように。
だがそれを引き起こした彼女には1ミリの悪意もない。あくまで無邪気な笑顔を絶やさず、純粋な心を持って、自分の力の限界を試しているだけだ。自分がどこまで自然を我が物にできるか、自分の力がどこまで世界を破壊し尽くせるか、それが知りたかっただけなのだ。
全ては自分の愛する男に認めてもらうため。力を試すのはそれどけの理由だった。
彼は強い。そして彼はまた強い存在を求める。ならば自分がその存在になってやろう。自分がその存在になれば彼はきっと私を愛してくれる。心の底から愛してくれる。
ならば止まる理由が見つからない。
「いっけー!」
荒れ狂う海、風、空、その中心に彼女の笑顔がある。そして世界は、自身が持つ自然の力で、自分自身を壊し始めた。
そしてついに大地から赤い血が吹き出し始めた。まるで肌が切り傷なのでバックリと裂かれたように。その血を覆うかのように彼女の笑顔となった雨が流れ込んだ。それは傷口からじわじわと内部に入り込み、組織を侵食し、感覚を奪っていく。やがてその笑顔は体全身を侵す毒のようにゆっくりと周り、しかし確実に体を蝕みながら、体を司る全てを破壊していく。
そしてついに、彼女の笑顔は心臓という最も大切な器官に入り込んだ。
「つ〜かま〜えた〜。」
ガッ
グジュッ!
その日、1億年以上の歴史を持った青く美しい星は、この広大な宇宙の中から姿を消した。地球という星ができるのはそれは気の遠くなるような、天目学的数字でしか表せないような時間がかかっただろう。
しかし、壊してしまうのは一瞬だった。消えるのはほんの一瞬の時間、きっかけはどんな些細なことでもいい。
例えばこの『地球』という星に、悪魔が1人降り立った。たったそれだけのことでもいい。
ピルルルル……ピルルルル……ピッ
「ねぇ、ボス。終わったよ。」
「そっか、お疲れ様。ゆっくり休んでていいよ。」
「……ねぇ、来てくれないの? 私、頑張ったんだよ? あなたのために、私、この世界を『あなたのために』全部壊したんだよ?」
「……そうか。でもさ……」
星が消えるほんのちょっと前、彼女は携帯を取り出して愛しい人へ電話をかけていた。全てを破壊し、終わらせた彼女は、その成果を彼に報告し褒めてもらうために。そんな彼からの返事は、とても頑張った彼女に向けたものとは思えなかった。
「お前、星の爆発くらいじゃ死なんだろ。こっちだって忙しいんだよ。だからもうちょっとだけ待って。」
「えっ、いや、たしかにその程度じゃ死なんけどさ。決して痛くないわけじゃないんだよ? それに私はななしさんみたいに次元も越えられないし……って切ったな!」
彼女は携帯を持っている腕をわなわなと震わせながら叫んだ。だがどんなに携帯の画面に怒鳴っても、彼の返事はなかった。そんな黒くなった画面を見つめながら彼女はがっくりと肩を落とすと、もう一度滅びゆく地球を見つめた。
「はぁ……もう全部消えて無くなっちゃうなぁ。それにしても本当にこれでよかったのかな? いくら滅びの運命にあった星とはいえ、私自身が直接手を下す必要があったのかなぁ?」
そしてポツンとそう呟いたが、まぁ、いいかとすぐに開き直った。そして死にはしないが念のため、自身の体を羽で包み、星の爆発の衝撃に備えた。
その時、
ビシッ! ピギィンッ!
「よっ、迎えに来たよ。」
「あーん! ボスゥ! やっぱり来てくれたんだね!」
「おっ、よしよし。改めてお疲れ様。よく頑張ったね。」
「みゅう〜、もっとなでなでしてぇ!」
「おいおい、星の爆発に巻き込まれるだろ。続きは戻ってから。」
「みゅ〜……わかったよ。ぷぅ〜……」
彼は、頰をぷっくりと膨らませながらも自分に抱きつく彼女の頭をそっと撫でた。そしてうっすらと口を笑わすと、右手を空間にかざした。
ふと見れば、2人の姿はもうこの世界のどこにもいなかった。そう、この広大な宇宙を探しても、2人はどこにもいないだろう。彼らは帰ったのだから。自分たちの世界に。本来いるべき場所に。
「っぷぁ! 帰ってきたぁ!」
「ふぅ、なんかお前重くなったか? なんか抱いててすごく疲れたんだけど。」
「むむっ! いくらボスだからって女の子にそんなこと聞くのは許さないぞ!」
「あっ、わかった。お前、少し大きくなったんじゃないか? ほら、成長したってやつだよ。いやぁ、よかったよかった。お前って結構不老不死なイメージあるけど、ちゃんと成長してたんだなぁ。」
「……そ、そうかなあ? えへへ。って、それなら私もっとおっぱいが欲しいなぁ……しょぼん。」
元の世界に帰ってきた2人は家の前で話しあっていた。ついさっきまで世界を破壊し尽くしていたとは思えないくらい会話の内容は軽かった。
「とりあえずボス! 約束はちゃんと果たしてもらうからね!」
「はいはい、ほら、いいこいいこ。」
「んん〜、ボス大好き!」
彼女はまるで猫のように彼に甘えた。彼の優しい手つきは悪魔さえも飼い慣らしてしまうようだ。まぁ、彼の手は普通の人間の手ではなく、神の手と呼んでも過言はないのだが。
「顎の下も撫でて〜。」
「はいはい。」
彼は彼女の顎の下に手を伸ばすと、指を使ってくすぐるように撫でた。
「みゅ〜……くすぐったい。」
「……いつまでやればいいんだ? これ。」
「ん? ん〜……私がもういいよって言うまで!」
「……わかったよ。」
彼女が飽きるにはどれくらい撫で続ければいいのだろうか。きっと満足するのには相当な時間をかけなくてはならないだろう。そのことを思った彼は億劫な気持ちになりながらも、何だかんだ自分のために働いてくれた彼女の顎を撫で続けた。
「飽きた。」
「あっそ。」
前言撤回。わずか2分くらいだった。彼女が飽きるまで。彼女はペコッと頭を下げ彼にお礼を言うと、ぽにぽにという変わった足音を立てながら自分の部屋へ戻って行った。
「はぁ、体は成長しても心は変わらないんだなぁ。さて、俺もさっさと仕事片付けるか。」
彼は部屋に戻って行く彼女を見送ると、軽く腕を組んで上に伸ばした。そして首をひねり肩をほぐすと残っていた仕事を片付けに自分の部屋に向かった。
あいつを迎えに行くため、仕事を未完成のまま出て行ってしまったからなぁ。ま、いいや。ペースあげればすぐ終わるだろうし。
彼は部屋の椅子の上にトンと座ると、1回だけグルグルと椅子を回した。そして脳を完全に切り替えると、パソコンの電源を入れ、仕事を再開した。
「えっと……どこまでやったっけ。あ、ここからか。そうか、ツチノコのことは終わってたんだった。後はえーっと、モスマンとネッシーだけね。」
彼はパソコンの画面に表示されている生物に目を通しながらキーボードで文字を打ち込んだ。今回の彼の仕事はUMAについての研究だった。そこで彼らが生息している星に目をつけたのだが、あいにくその星は崩壊寸前の状態だった。なので念のため2人を派遣すると、自分も急いでその星に向かい調査を行うとしたその時、1匹の死にそうな研究対象を見つけた。ここでの治療は無理と判断した彼は一旦研究を打ち切り、UMAの治療に取り掛かった。とは言っても実際に治療したのは友人の死神、松田穏雅に頼んだのだが。そして意識を取り戻した彼女から、星の件をなるべく伝えずにこっちで生かすやり方を取った。結果は一応こっちで暮らすことになったけれど、他の生物を大量に連れてくることはできなかった。いくらこの広い世界とはいえ、星1つに暮らす生物を全て移住させるのは無理があった。ならばそれらが無駄死にしないよう、また死ぬ時の苦痛を最小限に抑えられるよう、彼女を1人残したのだ。電気を操り自然の力さえも思うがままにできる彼女なら、魂が安らかに眠ることができるだろう。結果的に彼女はそれらの生物の苦痛を最小限に抑え、かつ魂が迷わないようにしっかりあの世へと送ってくれた。ちゃんと次の生物に生まれ変われるよう。そのためには彼女が魂の契約を行わないことが最重要なのだが、どうやら約束通り守ってくれたようだ。自分の魂を喰らいたいという欲求も、悪魔としての役割も、全て我慢してまで俺のために働いてくれた。なんて責任感の強い子なのだろう。非常にありがたい。
俺は遠い世界の住人の魂が安らかに眠ることをそっと祈ると、打ち込んだ情報を再度確認し保存ボタンを押した。
「よしっ、これで終わりっと。さて、寝るか。」
彼はぎゅっと鼻の付け根をつまむと2、3回肩を回した。そして音を鳴らしながら首をひねるとあらかじめ敷いてあった布団の中に潜り込んだ。昨日は少々徹夜に近い時間まで仕事をしていた。UMAを始めとする移住してきた生物の管理、そして神として秩序を守りこの世界を崩壊させないこと。後者は普段からやっているから別になんてことはないのたが、前者が想像以上にきつかった。なにせ移住してきた住人が思っていたよりも多かったのだ。お陰で彼らの移住先を探すのにかなりの時間をかけてしまった。それから帰ってきて、さぁ寝るぞ、という時に彼女からの電話だ。もう眠すぎるし、疲労は取れないしでクタクタだ。
彼は布団の中に篭ると、そのまま1秒とかけずに眠った。
彼が寝るほんの数秒前、
「たっだいまー! ボスー!」
彼女が性別詐欺と呼ぶ男が胸を揺らしながら帰ってきた。
「あり、ボス? 寝てるのかな……ま、いいや。おやつおやつぅ!」
彼は家の静けさに一瞬驚いたが、すぐに切り替えると冷蔵庫の中を漁った。
「今日は……おおっ! バナナだ!」
彼は冷蔵庫からバナナをふさごと取り出すと、1本もぎ取った。そして大きな口をアーンと開けるとそれを皮ごと食べてしまった。
ムチャムチャムチャ……メキョッ……ゴクッ
「んんーおいしい! やっぱバナナは皮ごといくとうまいね!」
彼はメキョメキョとバナナを食べているとは思えない音を出しながら、バナナを頬張った。そしてゴクンと喉を鳴らして飲み込むと、もう1本バナナをもぎ取った。
それからしばらくしてバナナの大きさが取り出した時の半分くらいになった時、部屋の奥から幼い声が響いてきた。
「あー! 勝手におやつ食べてる! ずるい!」
「うわっ、いたの?」
「いるに決まってんでしょ! くそぅ! もう半分以上食べちゃってるじゃん!」
「まさかいるとは思ってなかったんだよぅ。ごめんよ〜。半分は食べていいからぁ。」
「ふん!」
彼女は彼の手からバナナを奪い取ると乱暴な手つきでふさからバナナを折り取った。そして手早く皮をむくとやや未熟で固いが肌のように白いバナナをバクッと咥えた。
「んん〜! おいしい!」
「僕にも一口だけ……」
「あんたはダメ! もう食べたでしょ!」
「ぶ〜……わかったよ。」
彼は口を尖らせながら彼女が食べるバナナを指を咥えて見ていた。
「そんなに見つめてもあげないからね!」
「わかってるって……そういえばさ、新しくきた子は今どーしてるんだろ。」
「ん? ああ、あのUMAたちのことね。さぁ? どうなったかは知らないし。でも意外とまたあっさり会えんじゃない? いろんな世界をふらついてるあんたのことだし。」
「そーかなー?」
「そうだよ。」
彼はそう言いながら首を傾けた。たしかに自分の力が だったら会いに行くことは可能を通り越して余裕だ。
じゃ、いっか。今度、ちりめんじゃこでも持って行ってやろう。
彼はベランダに出て高い高い空を見上げた。空には積乱雲と飛行機雲が重なっていた。
空をぼんやりと見上げるのは好きだ。なぜかって言われたらなんでだろう。答えられないかも。でも空を見つめているとなんだか心が広くなった気がするし、自分の悩みとか嫌なことをこの広い空のどっかに置いていけるような、そんな気がするから。多分きっとそうなんだろう。
それに、この空は次元を超えていろんな世界を繋いでいる。だからこそ、僕やボスは次元を超えられる。
なぜなら、『繋がっている』のだから。僕らはみんな遠い遠い空の果てを通じて、『必ず繋がっている』のだから。
次回、最終回
でも投稿は7月の半ばくらいかも……




