あはは、私って結構鬼畜なんだよ? ってあれ? 知ってた? じゃ、いいや……。
おまたせしましたー! いやもうほんとうに申し訳ない。本当はもっと早く投稿できたはずなのに……
「ふう……やっぱ人間を同時に3人はちと厳しかったね。」
彼女はそう言いながらポコッと小さく膨れた腹を撫でた。人間を3人も腹に詰め込んだというのに、彼女のお腹は少ししか膨れてない。それだけ消化が早いのか、それとも胃がブラックホールと直結でもしているのか。それは彼女にしかわからない。
「ん〜、でも腹のキャパを見る感じ、まだまだいけるんだよな〜。あと10人くらいは軽いね。」
彼女はそのお腹をもう一度撫でると、一層笑顔を増した。そしてペロッと舌なめずりすると頭の羽をパチパチと放電させた。
どうやらまだ人間はいるっぽい。先ほどのクレーターに再度人が集まってるみたい。その人数はどんどん増えている。電波を発する物体がさっきよりもずっと増えているから、携帯電話の他にもテレビのカメラとか取材班が来ているな。よしよし、食事は多ければ多いほどいい。その数、電波だけでも20くらいだから、おそらく人間はもっといるな。
彼女はパサッと羽をたたむと長く白い髪に変化させた。そして空色の羽付き帽子をぎゅっと被ると、人間たちの電波がする方へと駆けて行った。
人間たちは自分が思ったよりもいて、さらに騒がしく動き続けることで人の波が構成されていた。どうやら警察も来ているようで、クレーターの近くはキープアウトと書かれたのテープが貼られていた。人間の数は軽く数えただけでも、ざっと30人以上はいた。
私は人の波をすり抜け、時には押し返しながらようやく前の方に出た。
「ゲゲッ。」
どうやら自分は思っていたよりも大きなクレーターを作ってしまったらしい。煙こそ立っていないものの、その分地面にぽっかりと空いた穴が目の前に佇んでいた。
「あっちゃぁー……これはちょっとまずいかもなぁ……だって寝起きだったし、お腹すいてたからこっちまで気が回らなかったんだよなぁ……」
彼女はそっと足のトンネルをくぐり抜けると人だかりから抜け出した。途中、帽子が脱げちゃって頭の横から羽がぴょこんと飛び出しちゃったけど人間の視線は全てクレーターに注がれていたから正体がバレることはなかった。
「ぶふぅ! やっと抜けた。って帽子! 帽子! 戻ってこい!」
とりあえず自分の羽で作った帽子を呼び戻し、頭の上にポスンと乗せる。若干埃がついていたからそれを手で払うと、騒いでいる人間たちの方をチラッと見た。彼らはどうやら自分が抜け出たことも、自分があの穴を作った張本人だということも気づかずにひたすら騒ぎ続ける。私はそんな彼らに対してハァとため息をこぼした。人間たちはあれを作った張本人じゃなくて、それほど大したことじゃないものに興味を惹かれるなんて。
「そんなの面白くない。面白くない奴はいらない。でもいらない奴は食料になるよね。うん、異論はないし、あったとしても認めない。さて、どいつから食べよっかなー。
よーっし、きーまった!」
それから数分後、現場には人っ子1人と残されていなかった。まるで神隠しのようにパッと、初めからそこに存在がなかったかのように。
ただ、悪魔が1匹。雷の力を司り、天候を操り、己が姿を幼き少女とし、その体色と翼の色のようにどこまでも純粋無垢で、そしてなによりも残酷な悪魔が1匹、快楽に満ちた表情で佇んでいた。
「ふぅ……ちょっと食べ過ぎたかな? あーあ、また太っちゃうなぁ。あの忌々しい性別詐欺野郎みたいに付いた脂肪が胸に行けばいいんだけどな。でも200年も生きてるのになんでいつまで経っても大きくならないんだよぅ。はぁ……成長期はまだかなぁ。」
彼女はぷっくりと膨れたお腹を撫でながら口をきつねのように尖らせた。そして膨らみ重くなくなったお腹などものともしないように歩くと物陰にそっと腰掛けた。
「ぷ〜、早く消化しちゃわないと次の食べ物が入らないよぅ。でも、問題はそこじゃないんだよな。私の仕事をさっさと終わらせて、この胸の中のわだかまりを取っちゃいたいよ。そんで早くボスに頭をなでなでしてもらわなきゃ。」
彼女は茂みからサッと飛び出すとどこか別の場所を目指して飛び立った。そんな彼女のお腹はもう元の大きさに戻っていた。まさか先程のわずかな独り言のうちに消化をしてしまったというのだろうか。しかも30人以上もの人間をたった数秒のうちに。
「あっ、でも待って。快楽の契約すんの忘れてた。」
そんな彼女はふと空中で立ち止まると、何かを思い出した。そしてキョロキョロと辺りを見回すと、
「まだ逝っちゃダメ! 契約契約、私に食べられたからには契約を結んでもらわないと! そうでなきゃ私が悪魔っ子でなくなっちゃうでしょ!」
と言って空中にいる何かを掴み出した。それはまるで目に見えないものだった。おそらく彼女にしか見えないものなのだろう。彼女はその見えない何かに話しかけると、その何かをそっと口元に持っていき、ゴクンと丸呑みにした。しかもそれを1つだけでなく、何個も何個も喉の奥を鳴らしながら伝わらせた。おそらく彼女の喉に耳を当てれば何かが食道の壁をこすりながら胃の中に堕ちていく音が聞こえただろう。そんなことができるのは極々限られた生物だけだろうが……。
「ふぅ、とりあえず全員承諾してくれた。流石に30人ぶんとなると時間がかかるけど……とりあえず悪魔らしく……ね、『魂と永遠の快楽』の等価交換ってことで。そもそも魂をこんな風に扱うのって悪魔くらいだし。さて、ぼちぼち行きますか。そもそもあまり時間かけていられないんだった。」
私は全ての魂と契約を交わし、彼らに永遠の快楽を与え終えると海の方を目指して飛び去った。でも自分はどうやって魂に永遠の快楽を与えてるのか知らないんだよな。あくまで自分にはそういう力があるっていうのを聞いたことがあるだけで、それが本当かどうかは知らないんだ。あれ? これってもしかしたら自分って相当悪いことしてるんじゃ……。でももう遅すぎる。だって200年も前から同じようなことを続けているのだから。今更になって『やっぱ私にこんな力はありませんでした、ごめんなさい』は許されない。というか、私自身も沢山の命と魂を吸ってきたから誰が誰の魂だなんて一切覚えてない。そもそも吸ってきた魂の数はとっくの昔に億を超えているんだから。私の天然な頭が正確に覚えられるわけがない。ま、しょーがないよね。とりあえず今は自分にその力があるってことを信じるしかない。
ってこんなにことしてる暇ないんだって! 早く海に行かないと仕事ができない! 私のバカバカ! さっさと終わらせてボスになでなでしてもらわなきゃなのにぃ!
彼女はそう思いながら遥か遠くの海を目指した。
彼女には力がちゃんと発動されているのだろうかということを確認するすべがない。なぜならそれに囚われてしまえば最後、二度とこの世にもあの世にも行けないのだから。そう、彼女はちゃんとこの力を持っているのだ。永遠の快楽を与える力を。しかし、人間の魂は快楽に打ち勝つことができないのである。ただでさえ人間は脳から分泌されるドーパミンが生み出す快楽に勝てないというのに、それ以上の快楽を持つ彼女の力に勝てるわけがないのだ。
一応、もう嫌だと快楽から逃げ出すことも可能らしいが……彼女はそれができた生物に、2世紀の人生の中で1度も出会っていないらしい。もっとも、自分に快楽を与える存在は知っているのだが……何しろ、神様である。神と悪魔が結ばれるということは、この世に災厄をもたらしかねないことに等しい。あくまでそれは我々が想像など遠く及ばない存在である確かであるので、ここでの議論は何の意味もないのだが……。
「よっしゃついた! 全く、この星はほんっと小さいね! 本気で飛ばしたら何百周しちゃうかわかんないよ! ま、いっか。さて作業を始めますか。」
彼女は常に変わり続ける波の上にそっと足を乗せると身体中に羽を纏い始めた。そして海一面を白く染めんとするほど羽を伸ばす。まるで彼女という存在がこの海全てを侵食していくかのように。
やがて海一面は全て彼女自身で埋め尽くされ、波が彼女の羽を漂っていた。そして本体は、まるで塔のように空を突き破り、頭のてっぺんが雲に重なろうとせんとするほどの、体を作り上げていた。その高さはざっと50メートルくらいだろうか。いや、彼女の足と思わしきものは海の底まで伸びている。つまり、全体的な高さで言えば、ゆうに100メートルは軽く超えているだろう。それほど高き塔とごとく巨大化した彼女はその最上階と思えるべきところが花開くように姿を現した。大きさだけなら変わっていないものの、頭から髪の代わりに彼女自身の心を表しているかのごとく純白な羽を生やしている。被っていた羽付きの帽子も、彼女の頭から伸びる小さな翼となってしまった。
そして彼女は徐に目を開け、気を抜いたら落ちてしまいそうな空を見つめた。そして小さな口を僅かばかり開け、
「晴れの日も……いいよね。彼が言ってた。雷が降るから、日差しが降る。空が泣くから、太陽が笑う。天だって感情がある。喜怒哀楽がある。だから面白い。ずっと変わらないことが1番つまんないんだよ、って。そうだね、ボス……でも今は……」
と呟いた。彼女が愛する神が、彼女だけに送った言葉を。
天を司る月の愛娘と呼ばれる女子に。
空の感情の代弁者、天の怒りを地に伝える者に。
純粋無垢で、笑顔を絶やさず、自分なりの愛を不器用だけど必死に伝えようと努力する、ただの可愛らしい女の子に。
彼女はその言葉を噛み締め、味わい、コクンと飲み込み、
「とびっきりの雷を落としたいんだよ。」
とねだった。その言葉を承諾するのは、彼女自身だった。
彼女は一度だけ瞬きをし、軽く体を動かすと、天を通り越して、その先にある月に向かって歌った。
「らー、ららら……らんらんらら……今日の天気はなんだろなー……晴れかな? 雨かな? それとも曇り? はたまた雪かな? なんでもいい、だってどれも素敵だから、それぞれの魅力が詰まっているの、晴れは散歩に行きたいし、雨は美しいメロディを奏でてくれる。曇りは暑すぎず寒すぎず、雪は降ってりゃ世界を変える。ららら……らー……らんらん……でもね、私は雷が好き、そして雷がふりゃ雨が降る。だからね、私はね、雨の日が1番好きなの。ねぇねぇ、お天道様、今日の天気はなんだろな、らー……らんらん……ふんふんふふーん……」
それは彼女が作った、彼女が1番好きな歌だった。天に雨を乞う歌。明日が雨だったらいいのにな、と願う歌。そして雷を降らせる歌でもあった。大地を削り、海をも呑み込み、星そのものが目覚めるくらいのとびっきりの雷を。それくらいの雷が彼女は好きだった。でも自然界でそんなものが作り出せるわけがない。
だから彼女が作る。大自然に多大な影響を与える並の雷を。
地球上に生まれた者にはあと何千年経ってもその力はつかないであろう。
だが、月からの使者ならどうだろうか。地球の常識など一切通じない環境の者だとしたら。しかもその存在が神の元で修行し、何万、何億、何兆もの力をつけているとしたら。どう考えてもこの世の終わりを告げるには、寝言で事足りるくらいである。
「はぁああああああ……」
バチッ! パチパチッ……バチバチ!
彼女は身体中に力を入れ、自分がいるこの星そのものに根を張った。それは彼女がこの星と一体となり、こ天候を全て手中に握ることに等しかった。いや、もはやそれそのものだ。彼女はこの星と一時的に結びつき、この星の全てを自分の意思で操ろうとしているのだ。果たして今の地球上の生物にそんなことができるのだろうか。いや、きっとできない。今の地球の生物では自然並みの力を手にすること自体ができないのだから。
「天よ……怒れ! 雲を落とし、悲しみと怒りの涙を、声を! 全て、この世に降らせるのだ!」
今日、この日、人類は知る由もなかった。
まさか、自分たちの終わりの時が、来るとは。
いつか来るはずのものに、地球の生物は全くそれを考えていなかった。
それが今、たった今、来てしまった。
月という遠いようで近い兄弟から送られてきた、たった1人の女の子によって。
次回の投稿はなるべく早くしたいです。




