白い悪魔の美月ちゃんなのです! 私はとってもイノセントなのです!
章でわけるのめんどかったので、そのまま行きます。こっから美月ちゃんパートです。
「ハーイ、みんな! 私のこと覚えてる!? そうッ! 白い悪魔の美月ちゃんなのです! 今日はー、みんなにー、とびっっっっきりの雷雨を楽しんでもらいまーす!」
夜の街中、1人の少女はニカッと口を開け目を細めながらそう言い放った。その無邪気な顔は彼女がいかに幼いかを物語っていた。もちろん、人間たちは彼女の笑顔やその甲高い声には目もくれず、じっと手元の光を眺めていた。
「ぷんす! なんだ、なんだぁ!? みんな俯いて、そんなにそのケータイってやつがいいのかなぁ!? みんなみんな私を見ろぉ! そんなのなんか見ちゃダメェ!」
バチッ!
彼女はプク〜ッと頰を膨らませると、被っていた空色の帽子を脱ぎぴょこんと白い羽を立たせると、その先端をバチバチと放電させた。その小さな稲妻は電線を通して街中へと消えていく。それを確認した彼女はスゥッと瞳を閉じ、小さな手をギュッと握った。
「電気……いっただっきまーす!」
バツンッ……!!
彼女の無邪気な声とともに、街中の電気はフッと消えた。街が闇に包まれる中、彼女は体中に集まる電気を体内へと取り込んでいた。その顔は美味しいものを食べている子供そのもので、幸せに満ちていた。やっていることは都会の大停電という迷惑極まりないのだが。
「う〜〜ん……やっぱ都会の電気は美味しくないなぁ。なんでだろ? やっぱ空気が汚いと電気もばっちいのからかなぁ?」
彼女はゴクンと喉を鳴らしながらそう言った。そもそも電気に味なんてあるのだろうか? あったとしたらそれが大気の汚れなどで変わるのだろうか? それは彼女にしかわからないことなのだろう。彼女は不満顔のままポンポンと腹を叩くとさらに美味しい匂いがする方を求め、スンスンと鼻を鳴らした。
「ん〜……ん? なんか匂いが薄いなぁ。ちょっと場所を変えよっかなぁ。」
だが、闇に包まれた街で一切の照明器具を持たない人間がその場で冷静にしていられるほど、彼らは発達した脳を持っていなかった。視界のほとんどを闇に覆われた人間はパニックを起こし、慌てふためく。それは大きな波となり、渦となり、街の間という間を河のように流れていく。
そんな醜い行動を彼女は見下しながら口をとんがらせた。
「ムッ、なぜそんなに慌てる必要があるんだ? 灯りなら今、夜空に浮かんでいるというのに……」
彼女は人工の灯りなど目もくれず、夜空に浮かぶ天体をそっと見つめた。
「うふふ……綺麗……あんなに美しく輝いてる……ねぇねぇ、お月様。私の『美月』って名前はあなたからとったんだよ。だってお月様はいつだって美しいからね。」
彼女の無邪気な瞳の中には真っ白な三日月が浮かんでいた。彼女の瞳というもう1つの夜空をその月は泳いでいた。
そんな中、彼女はふと疑問に思った。こんなに月が出てるのに、月に紛れて星だって出てるのに、どうして人間たちはそれに気づかないのだろう。別に全く視界が取れないほど月明かりが乏しいわけでもないのに。それに都会ではあまり星が見えないから、この機会に見上げてみたらいいのに。たまには一切の灯りのない夜道というのを歩いてみたらいいのに。
どうして人間たちは闇を楽しむことをしないんだろ? なんて聞いてもどーせ返事はないんだけどね。
「ふぁ……もう夜の11時……普段だったら寝る時間か……そーいやボスが、夜食は控えるようにって言ってたなぁ。あーあ、ごめんなさいボス。もう街中の電気食べちゃったよ。でも仕方ないよね。だってお腹空いちゃったんだもん。」
彼女は独り言をベラベラと喋っていたが、
「それじゃおやすみボス。仕事が終わったらちゃんとナデナデしてね。」
と最後につけ加えると、水色の髪留めを外しパサっと髪を下ろした。そして彼女はスッと目を閉じる。
その瞬間、下ろしていた彼女の白い髪はみるみる白い羽となった。その羽の先は彼女のくるぶしまで伸びると彼女の体を包み始めた。やがて彼女の白い体を白い羽は全て包み隠し、闇に覆われた街の中で静かに夜を過ごした。
結局人間は自分のことに精一杯で彼女の存在に気付くものはいなかった。
「グゥ〜……グゥ〜……ズッ! ケホケホ……」
彼女が目を覚ましたのは日本時間で午前8時半だった。普段ならもっと早く起きている彼女だが、何しろ彼女を起こす役割の神がいない。それに昨日はまあまあ夜更かしをしてしまった。これも普段彼女を決まった時間に寝かす神がいなかったせいだ。お陰で遅寝遅起きという最悪の生活習慣が始まりかけていた。彼女は咳き込むことでなんとか目を覚まし、自分を包んでいた羽を解き始めた。
「う〜……ボスゥ……ご飯まだ〜?」
さらにまずいことに、彼女は寝ぼけている。普段なら彼女の保護者ならぬ将来を誓った神が殴り起こすのだが、残念なことに彼女が目を完全に覚ませるほどの力を持った存在はいなかった。
そもそも彼女の力は人間の想像を遥かに凌駕している。その力、常人の力をだいたい5と仮定すると、その約3澗倍。『澗』という単位を聞いたことがあるだろうか。日常生活で使っている人間などほとんどいないだろう。澗という数字を簡単に表すと、10の36乗。つまり10を36回かけた数であり、0が計36個ならぶ数。うーん、ここまでくるとわけがわからない。まぁとりあえず並の人間、いや人間と比較すること自体が間違っているが、とにかく彼女はとんでもなく強い。それもこんな言葉では表せないほどに。
だが、彼女にも上はいる。2それも人も。その存在の1人は、彼女のことを非常食にしているという元人間。ななしさんである。なぜ彼女のことを非常食にしているのかというと、単純に彼女の肉がうまかったからだそうだ。だがそんな彼だって普段はおちゃらけているけれど、戦えば基本負けない。一部例外を除いては。
その例外であり、元神であり、彼女が愛して止まず、将来を誓ったものこそが、王 正希である。自分には過ぎた力を持ってしまった元人間に強さを教え、1人の悪魔を魅了し、全てを破壊し全てを守る力を持った存在、それが彼である。彼は人間くさい神であり、でもどこか人間とは違ったところを持っている。優しくて、強くて、でも怒るとすごく怖い、八岐大蛇の長男なのです。
そんな彼はたまに呟く、
「わけがわからなくたっていいじゃん。何もわかろうとしなくていいじゃん。のんびり行こうよ、人生は。先走ってちゃあつまんないもんよ。蛇みたいに、自分が好きな道をのそのそと歩いていけばいい。」
という神様の言葉を。自分という元神の言葉を、彼はたまに元人間と悪魔に話したりする。元人間には基本的にスルーされるけど。
そんな彼女の静止役がいない以上、誰も彼女を止められないだろう。寝ぼけた彼女はボヤ〜ッと霧がかった頭で辺りをグルグルと回り始めた。それに伴ってお腹の音もグルグルと鳴る。しばらくそんな行動を繰り返していた彼女だったが、ある時ピタリとその場に止まって、
「あっ……そっか。」
と我に返った。20分くらい歩き回っているうちに頭が目覚めてしまったからだ。彼女はふぁぁと大きなあくびを1つすると、頭から伸びている羽を身体中にまとい服のようなものに変えさせた。そして余った羽は同じ真っ白な髪の毛と、空色の羽根つき帽子に変える。そして後ろの穴から長い髪をポニーテール状にして通し、帽子と同じ色の髪留めで留める。人間体に変身し終えると同時に彼女の腹はもう一度グルグル鳴った。
「あー、お腹空いたなー。何食べよかっなー。正直、人肉の気分じゃないからなー。ま、適当にぶらついてたらなんかあるか。」
彼女は腹の虫をなだめるようにそう言うと、ちらっと街を見下ろした。どうやらまだ街の電気は復興し終えてないらしい。
たった一晩の電気を食べただけで、こんなに社会がストップするとは、人間の科学力も大したことないなぁ。すると多分、食事がある店も閉まってるだろーな。チェッ。
彼女は心の中で呟き、ガックリと肩を落とした。自分がやったことを棚に上げて。
「しょーがない、別の場所に行きますかぁ。」
彼女はフゥとため息をつくと、口をへの字に曲げたまま遠くの方をボ〜ッと見つめた。そしてぴょんぴょんとその場で軽く跳ねると、その視線の先を見据えながら後ろに下がる。ある程度距離をとった彼女はスゥッと息を吸うと同時に走り出した。彼女はグングンスピードを上げ、一直線に屋上の柵を目指す。
ダンッ!
そして柵から約7メートルくらい離れたところで、彼女は思いっきり踏み切った。彼女の幼く小さな体は走った勢いと踏み切りの勢いが合わさり、フワーッと空に浮いた。彼女の軽い体は風に乗り、ビルというビルの上を飛び越える。そのまま彼女はグングン空へ昇って行き、やがて雲の中にまで突入する。
雲の中はとっても寒くて、でも逆にそれが心地よくて、景色は私みたいに白一色で、でもその雲では雷雨を降らせることができないから私はちょっとだけがっかりする。でも、雷雨を降らせられない雲も嫌いじゃない。
彼女はやがて雲の上を突き抜けると、帽子に付いている小さな羽の周りをチロチロと放電させた。その微弱な電気をさっき自分が通ってきた雲に浴びせる。すると摩訶不思議、本来ならばただ小さな水の粒が浮いているだけの雲がフカフカのベッドのように変化したのである。
「わーい!」
彼女は笑顔でそのベッドの上に飛び乗った。雲のベッドはボフンという音を立て、彼女の体を優しく受け止め、包んでいく。
「うっひょお、ふっかふかぁ。それに冷たくて気持ちぃー!」
彼女は大喜びでそのベッドの上を転がった。なぜこの雲は液体ではなく固体なのかというと、彼女が自分の電気で空気中に浮いている水の粒をその場に固定したからだ。原理としては簡単なようで難しい。だが彼女は自在に電気の方向、圧力を操れる。それを利用して水分子の間に電流を流し、強引に固体として空気中に固定させているのだ。
「あー、もう最高! ベッドはふかふかで埃も立たない! さらに文字通り雲の上だからお天道様も邪魔されない!」
彼女はゴロンとその場に寝っ転がるとはるか遠くの太陽を見つめた。普段なら雷を降らしてしまうから太陽を拝むことはあまりない。自分は別に太陽が嫌いなわけじゃない。ただ晴れの日より雷と雨が降る日が好きなだけだし、何より自分は雷雨を操る力を持っているのだからわざわざ天候を晴れにする理由がない。
「んー! お天道様の光って気持ちいいなー! いっそのこと布団でも干したいな! あー……でも多分『あっち』でボスが干してるかもなぁ。それだったら別にいいや。寝よっと。」
彼女はお日様の下で雲という名の布団を被ろうとしたその時、空気を割くような高い音が辺りに鳴り響いた。彼女が固めた以外の場所は全て普通の雲だから余計に。
「むっ、なんだただの飛行機か。」
雲を通り、突き抜けるのはなにも悪魔や元人間だけではない。空を飛ぶものならば誰だって雲を突き抜ける。それは飛行機だって同じことだ。
彼女は飛行機の乗客に向けて笑顔で手を振った。おそらく子供なら誰でもする……ことはないだろう。まさか時速何百キロという速さで飛んでいる飛行機に手を振る人間なんていないだろう。それが悪魔ならなおさらだ。
その日、とある一隻の飛行機の、とある窓際の数人の だけの乗客だけが彼女の姿を見た。だがその存在を信じるものはほとんどいなかった。白い雲の中に同じくらいの白い髪と肌を持った少女がまともに見えたはずもないからだ。それにまさか小さな女の子が雲の上でくつろいでいるなんて、人間たちには想像できないだろう。彼女の存在はすでに人間の常識をぶっちぎりで超越しているのだから。
それからしばらくしてとうとう飛行機は空の彼方へと消えていった。彼女はその飛行機の尾翼が見えなくなるまで手を振り続けていた。そして完全に見えなくなるとまたベッドの上にその体をボスンッと音を立てて寝そべらせた。
「ふぅー……はぁー……お天道様の光もふかふかのベッドも気持ちいい……そーいや朝食まだだっけど、このまま寝ちゃお。起きたらその後食べればいいや。」
彼女は腕を枕がわりにするとグゥグゥと寝息を立てて寝始めた。彼女のぺったんこ胸は寝息と合わさって小さな上下運動を繰り返した。太陽はそんな彼女の顔を照らして、体を適度に温めてくれた。さらにベッドは彼女の体が温まり過ぎないように適度に冷やしてくれた。彼女は幸せそうな寝顔を浮かべながら雲の上で寝続けた。
だが彼女は知らなかった。
自分の寝相が壊滅的に悪いということを。普段ならば寝ぼけたななしさんが彼女を抱き枕がわりに使うから動きが相当制限される。またそうでなくても彼女は普段、自分用のベッドの上で寝ているので、そこから落ちるという経験は全くなかった。ゆえに彼女は自分の寝相が壊滅的ということを知らなかった。またそれに付け加え、彼女が生み出した電気は、無意識の中では強制的に解除されてしまうことだ。意識しているのならどんなに距離が離れても大丈夫なのだが、睡眠という無意識の中ではどうしようもない。その距離はもって10メートルくらいだろう。
そんなこともつゆ知らず、彼女は悪い寝相でゴロゴロと雲の上を転がり……
ヒュー……
とうとう雲の上から落下してしまった……さらにまずいことに彼女は落下しているくらいの風くらいでは決して目覚めない。おそらくこのまま地面に落下しその衝撃でやっと目が覚めるだろう。ん? まさかそのまま永遠の眠りについてしまうのではないかって。そのことなら心配いらない。彼女は大気圏突入くらいでも絶対に死なない。それぐらい彼女は強い体を持っている。ちなみにそれってどんな体かと決して突っ込んではいけない。常人の強さの3澗倍の生物の体など科学的に求めようとする方がおかしいのだから。
ドカァァン!!!!!
彼女が落下し始めてから約20分、やっと彼女の体は無事? 地面に落下した。彼女の体は幸いにも無傷だった。そのかわり、彼女が落下した地面にはかなり大きいクレーターができてしまったが。
彼女の強さは大体18澗、ぶっ飛んでるね。




