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やっと本編始まるよ  作者: ゆっくりガオウ
24/31

とりあえず物件探しましょう。

投稿遅れ過ぎだろ……

朝食を済ませたドラキュラたちは彼女たちの皿洗いを手伝った。

「すみません……お客様にこんなことさせてしまって……」

「いえいえそんな! これくらいのこと、して当たり前ですよ。」

ヴァーゴは皿を洗いながら申し訳なさそうに頭を下げたが、ドラキュラはそんなことないと言うように手を後ろでさすりながら言った。お陰で彼女の後頭部に多少の泡がついてしまい、他の仲間たちに笑われてしまった。

それからひと段落して、ツチノコがこの辺りに良い物件がないか、2人に問うた。

「すみませんヴァーゴさん、この辺りに何か良い感じの物件ってありませんかね。できればあの山の近くでお願いしたいのですが。」

「はい。」「はい。」

「えっ?」「えっ?」

すると双子は息ぴったりの呼吸で反応した。その互いの反応に2人は顔を見合わせて、

「どっちに言ったの?」「どちらに申したのですか?」

と同時に聞いた。すると再び彼女たちは互いの顔を見合わせて、

「ちょっとヘルルッ! 同時に喋らないでよ!」

「それはこっちのセリフだよ! お姉ちゃんが黙ってればいいじゃん!」

「なんだと!? 貴様っ、相変わらず口の聞き方がなってないな!」

「その言葉、リボンでも付けてそっくりそのまま返してやるよ!」

と姉妹喧嘩を始めた。突然の出来事に対応出来ず、それを唖然とした顔で見つめる彼ら。そんな彼らを置き去りにして2人の喧嘩はどんどんエスカレートしていった。

「いいからあんたは黙ってろっつてんの! ろくに敬語も使えない妹は引っ込んでろッ!!!」

「なんだとこのクソ姉貴ッ!! あんただって本当は尻被ってるくせに! 私以上に人を殺しかけたくせに!!」

「なっ……ヘルル! それは人様の前では言わない約束だろ……!」

「へっ! 姉ちゃんがなんと言おうが、真実は真実だろ!!」

ヘルルの言葉にピタリとヴァーゴの動きが止まった。彼女は目元をピクピクと引きつらせながら、ギロリと妹を睨んだ。その瞳は殺意と憎悪で満たされ、ただならない殺気を放っていた。だがその殺気に負けんとヘルルもそれだけの殺気を放った。その凍りつくような空気の前にUMAたちはただ立ち尽くすしかなかった。

「殺すよ……? 姉ちゃん。」

「できるの? あんたに……?」

「やってやるさ……その前に念仏でも言い残す言葉の1つでも残しておいた方がいいんじゃない?」

「バーカ。」


プチィッ!!


ヴァーゴがそう言い放つと同時に何かが切れるような音がたしかに辺りに響いた。その音と同時に彼女たちは各々の能力をふんだんに発揮して互いの首を狙った。

「来なさい私ッ!! バカな妹をぶっ飛ばすわよ!」

「来い私ッ!! あのクソみたいな姉を潰すぞ!」

ヴァーゴは自分の髪をフワッと浮かせ、その間から数えきれないほどの自分を出した。

ヘルルは近くにあった鏡を割りその破片からいくつもの自分を出した。

その数はもはや『多い』とか『大量』とかの数ではなかった。言い表すならば、そう『無限』。彼女たちは無限の数の自分を出したのだ。それはおそらく過去最大規模の戦争となろうとしていた。もはや誰も2人を止められない。いや、この無限をいったい誰が止められるのだろうか?

「殺してやるぅ! クソ姉貴ッ!!」

「やってみろッ! アホヘルル!!」

無限vs無限のバトルが今、始まろうとしていた。それぞれの大群が互いの敵を見つめ合い、そして殺す準備をした。

そして、始まるコンマ数秒前、誰かが彼女たちに叫んだ。


「あー……やかましいッ!!! よそでやれッ!!」


ビクッ!


「!?」「!?」

その声に彼女たちは首をすくめ、全員の動きがピタッと止まった。そして先程出していた殺気を沈め、ソロソロと声の方向を向く。そこには仁王立ちをするツチノコの姿があった。その小さい体からは想像もつかないような威圧感は彼女たちを沈黙させるのに充分すぎるほどだった。

しばらくして無限にいた彼女たちは全員2人に戻ったが、ツチノコの前で彼女たちは正座をさせられていた。

「全く……あんたらいったいいくつなのよ……」

「に……21です。双子なので歳は一緒です。」

「ふーん……その歳であんなことすんのか。その歳で自分の感情も抑えられないのか!!??」

「……ッ!」「ヒィッ!」

ガミガミと2人に説教を続ける彼女。彼女の前に2人は言葉を失い、面をあげることすらできなかった。それでも彼女は説教を続けた。それを後ろから見るUMAたちはやれやれと首を振りながら彼女の説教が終わるのを待っていた。結局、彼女の説教は約1時間半くらい続いた。

「それで……ここら辺を知ってるのは姉の方っぽいな……なんかいい物件ってないの?」

「はい……今すぐ知人の不動産屋に電話するのでしばしお待ちください。」

「私はこの部屋の片付けをします。なので客室で待機していてください。」

「ふん、わかったわ。ほらあんたたち、行くわよ。」

彼女はそう言うと先程自分たちがいた客室へスタスタと早足で歩いた。彼女たちは私たちが部屋から出るまでずっと頭を下げていた。

部屋に着くなりツチノコはフゥーッと深いため息をつき、ゴロッと床に寝そべった。

「まさかあんな人たちだとは思いもしなかったわ。あー、疲れた。」

「それにしてもツチノコ、あんたやっぱ凄いよ。まさかあれだけの人数を前にしてあんなことを言うなんて。」

「それは私自身も驚いてるよ。なんであんなことできたんだろ。」

彼女は徐に立ち上がると近くにあった椅子に腰掛けた。そしてテーブルに置いてあったお菓子を1つぽいっとつまんだ。それにつられて他のUMAたちもお菓子を食べる。だってそれ以外にすることがなかったのだから。

しばらく経って部屋のドアがトントンと音を立てた。

「大変お待たせ致しました。一応ここの近くの不動産屋に電話をした結果、山の近くに一軒、よい物件があるとのことでして……」

どうやら彼女の電話が終わったようだ。たしか電話をしていたのは姉の方だから、多少は話が通じるだろう。

「わかった。それで? その物件はどんなところなの?」

「はい、部屋の中は多少汚いですが、掃除すればすぐに綺麗になるそうです。それさえ除けば防虫設備や室内温度の調節も可能であるとのことです。」

彼女の声はとても怯えていて、なかなか部屋に入ってこようとしなかった。まぁ、気持ちはわからなくもないが。彼女の声は今にも消え入りそうだったが、そんなことなどお構いなしにツチノコは

「そうか、ありがとう。」

と言った。その言葉はとてもシンとしていてまるで氷のような声だった。するとその言葉を数秒置いて、

「すみません。もうそろそろ大学に行くお時間なので、追い出すみたいで悪いですけど門の外まで出ていただけませんか? それと先程見た私たちのことはなるべく多言を慎むようにしてください。私たちが勝手に見せておいてそれを慎むよう願うことが言語同断なのは理解しております。ですが、私たちの生活のためにもどうかよろしくお願い致します。」

と彼女はドア越しにそう言った。声のトーンから察するように相当反省しているようだ。それに加え先程見た無限にいる自分たちのことを他人に知られて欲しくないという思いも込められていた。とうとう彼女はドアを開け、私たちに深々と頭を下げた。そして、

「それではお荷物がまとまり次第お伝えください。玄関まで案内致しますので。」

と言うとそそくさに立ち去ってしまった。彼女は頭を下げてから上げるまで一切私たちと目を合わせようとしなかった。やはり気まずいからだろう。あんな光景を他人に見せて、それが噂となり広まってしまったら彼女たちの暮らしはたちまち平穏を失うだろう。無限の力を誰かに乱用されるかもしれない。一生家族と離れ離れになるかもしれない。


私たちはなるべく早く荷物をまとめると彼女を呼んだ。部屋にやってきた彼女はすでに着替えており、さっきよりちょっと豪華そうな服を着ていた。だけどここから見てみれば彼女たちはただの人間だ。さっきの力が嘘のように。

「それでは行きましょう。お荷物は持ちますから。ヘルルッ、あんたも手伝って。」

「はーい。」

そう考えていると彼女は私たちの少ない荷物を持って門のところへ先導した。さっきの能力を使えばいいのに。いるはずの自分を取り出せばいいのに。そうすればもっと楽になりそうなのに。

言いたいけど、言えなかった。


「それでは私たちはこれで。大変ご迷惑をおかけしました。これ、私たちの携帯の番号です。何かございましたら連絡してくださればすぐにでも対処致しますので。ほら、行くよヘルルッ。」

「はい、ご迷惑をおかけしました。」

彼女たちは1枚のメモを渡すと自転車のスタンドを後ろに蹴っ飛ばして、サドルを足に乗っけるとそのまま大急ぎで道の奥へと消えていった。私たちをそれを黙って見ているしかできなかった。


「はぁ……まさかあんなアクシデントが起こるなんて……ヴァーゴ家の恥だわ。」

「気にすることないよ姉ちゃん。私がムキになったのがいけなかったんだからさ。」

2人は自転車を走らせながら会話した。2人の声は風に乗って空気中に散らばった。そんな2人の瞳には無限に広がる世界が映る。

無限の残機と無限の自分、この力を持っている時点でもう私たちは人間ではない。でもヒトであることはやめたくない。私たちがヒトの心を持っている限りは、ヒトであるうちはこの力に寄り添って生きていこう。

未来はきっと明るいはずだから。

2人は自転車のペダルを一層強く踏んで、無限に広がる世界の中へと漕いでいった。


それと同時刻、UMAたちは手渡させれたメモにあった物件を目指して歩いていた。山の近くと言っていたけれどいったいどのくらい近いのだろう。

「ふう……どれくらい歩いたかな。少しは目的地に近づいたかな?」

「まだ3分も歩いてないよ。モスマンさぁ、ちょっとさっきの豪邸でのんびりし過ぎたんじゃない? って今日は日が出てるな、お陰でドラキュラが……。」

ゾンビがチラッと日陰の方を見るとそこには、

「怖くない、怖くない……ゆっくり日陰を歩けば灰にならないんだ……それにあんな怖くて狂ってる女からも逃げ切れたんだ……もう、何も怖くない……!」

千鳥足でそろそろと日陰を歩くドラキュラの姿があった。お陰で一向に足が進まない。前に彼女が愛用していたコウモリ傘や紫外線予防バイザーは前の世界のアパートごと燃えてしまった。ゆえに彼女を魔の光から守る存在はないに等しい。

「あー、もう! 太陽なんて嫌い! 大ッ嫌いッ!!」


彼女たちが目的地に辿り着いたのは、日が少し傾いたくらいの時刻だった。

これにて彼女たちの出番は終了。またいつか出してあげたいけど。

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