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やっと本編始まるよ  作者: ゆっくりガオウ
22/31

エメラルドグリーンとサファイアブルーの瞳

投稿に3週間以上開ける作者のクズ。本当にごめんなさい、ふつうにサボってましたー!

それから彼女たちは私たちをもてなしてくれた。出された夕食はこの豪邸ならではと呼べるほど豪華だった。彼女たちは常にニコニコと笑っていたが、どうしても私たちは彼女たちを信じられないでいた。

「くつろいでいていいですよ。今夜は両親とも帰りが遅いので。」

「え、えっと……たしか……」

彼女の名前が思い出せない。なにせすごく長い名前だったから。特に私の頭はほかのみんなよりもパーだから。うーんと頭を悩ませていると、

「姉の方です。ヴェリューカ=イェア=ヴァーゴ=グッチです。」

ああ、そうだ。たしかそんな名前だった。早速その名を呼んでみよう。

「ヴィ……ヴェ……」

ダメだ。こんなに長い名前、この首長竜頭じゃ到底無理だ。

「あぁ、呼びづらいと思うので、ヴァーゴでいいですよ。家族もそう呼びますし。」

「えっ、あっ、はい。」

その長さなら余裕だ。どんなに頭がパーンでもそれくらいなら覚えられる。みんなの方をちらりと見ると、表情は疑心暗鬼状態だった。やはり信じられていないのか。まぁ、私も彼女たちのことを100パーセント信じているわけではないのだが。

どんなに彼女たちが笑っても、どんなに彼女たちが自分たちをもてなしても、どうしても私たちの頭にはついさっき出会ったキチガイ女のことが焼き付いているからだ。

「お……お風呂湧きましたよ……もう夜も遅いし泊まっていったらどうですか? 両親には私から言っておくので。」

「えっ、そんな気遣いをしていただくわけには……」

リビングにあるふっかふかのソファーに座っていると、彼女が風呂が沸いた話しかけてきた。それに反応したツチノコがそれとなく対応する。でも彼女の言う通り、たしかに外はもう暗くなっていて出歩くのは危険かもしれない。それに外に出たからといって一晩を過ごすところもない。やはりここは危険を犯してまで泊まるしかないのだろうか。なんて考えていると、


「姉ちゃんッ! 風呂おっ先ーッ!」

「ちょ、ヘルル!? 待ちなさーい!」

彼女に似たような声だが、どこか甲高いトーンが奥の部屋から響いてきた。誰よりも真っ先に反応したのはヴァーゴでその声の方へ駆けていった。

あまりに突然の出来事に、私たちは部屋を飛び出していく彼女の背中をボーゼンと眺めていた。

するとすぐに奥から2人の似た声が聞こえてきた。2人の声はすごく似ていたけれど、口調や声からしてどっちがどっちかはすぐにわかった。



「えー、もう何? 私さー、早く風呂入りたいんだけど。」

私は慌てて風呂場に向かう妹を引き止めた。すると妹は口をパクッと開けて目を細めた。その顔はまるで死んだ魚を見るような表情だった。

「今はダメ! お客様たちが先でしょ!」

「はぁ? なんでよ? 私、今日サークルで疲れてんだよ。見ろよこの汗、気持ち悪いったらありゃしない。」

そう言いながら妹はねっとりと汗で濡れた背中を見せてきた。

「それでもお客様の方を優先させなきゃダメでしょ! バカヘルルッ!!」

「なんだとぉ!! このアホグッチ!!」

「言いやがったなッ!!!」

「やる気かこのクソ野郎ッ!!!」


バキッ! ドガッ! ガンッ!


部屋の奥からは何やら殴り合いが始まった。するとかなり鈍い音が廊下の奥から聞こえてきた。どうやらかなり本気で殴り合っているようだ。

しばらくして音が収まり、廊下をギシギシと歩く音がした。


キィ……


「ひぇッ。」

ゆっくりと開いた扉から、真っ赤に腫らした顔に口からは血を滴らせつつ体中を所々青くさせた彼女が、足をふらつかせながら立っていた。

「ず……すみません……お風呂……空ぐまで……もゔずごじ……まっでくだざい……」


バターンッ!!


そう言い残し、彼女の体は血を吹き出しながら床に倒れた。

「ああっ! 大丈夫ですか!?」

私たちはさっきまでの警戒心などすっかり忘れて、急いで彼女をソファーの上に寝かせた。



姉が倒れたと同じくらいの時間、妹は風呂場にいた。

「くっ……くそ……アホグッチの野郎……本気で殴りやがった……」

鏡に映った自分の体は所々青くなっていたり赤く腫れていた。そんな自分の姿を見て、もう一度クソッ! と口を尖らせると風呂の蓋を開けた。そしてそっと湯船に体を浸からせると、

「ダァー! 染みる! イッテェエエー!!」

激痛が体全身を襲った。その焼け付くような痛さに慌てて湯船から飛び出る。流石にこの激痛には耐えきれないので、最初に体を洗うことにした。そのために洗おうとシャワーの栓をひねると、口から出てくるお湯が体中の傷口を滑った。

「ギィヤァァァァァァァ!!!」


その日の夜、大豪邸の1階から怪物のような悲鳴が辺りに響き渡ったのは言うまでもない。


怪物の咆哮から約2分後、ヴァーゴは目を覚ました。

「うう…….クソッ……ヘルルの野郎……本気で殴りやがった……」

痛む体を震わせながら起きる彼女を、彼らは慌てて手助けした。

「だ!? 大丈夫ですか!?」

「え、ええ……ちょっとすっ転びましてね……すみませんがもう少しここで横になってもよろしいでしょうか?」

「あぁ……はい。」

明らかにすっ転んだ程度ではない怪我だが、そのことにツッコむ前に彼女は瞳を閉じて寝てしまった。

「ハァ……どうする?」

「どうするもこうするも……なくね? 外は危険だし、この人は寝ちゃうし。」

彼女が寝ている横で私たちはあれこれと話し合った。とりあえずこの家に泊まることは決めたが、問題は明日どうするか。自分たちはどこに住むか。といったものだった。

「そうだね……でもネッシーはあの山の泉に住みたいんでしょ?」

「そうだよ。でもみんなが住みたい場所があるのならそこでもいいよ。」

「うーん……」

彼らは頭を悩ませた。せっかく暮らす世界を変えてもらったというのに、このままでは前にいた世界の方が良かったかもしれない。しかしそれではきた意味がない。やはり自分たちが住む場所を見つけなければならない。そのためには……


「ゼェ……ゼェ……風呂……空いたぜ……よかったら入りなよ……」

自分たちの会話を今にも消え入りそうな声が遮った。そして、


バターンッ!!


と大きな音を立てて妹の方も床に倒れた。


その日の夜はモスマンを女性陣と男性陣に分かれて風呂を借りた。床に倒れた妹は姉と一緒にソファーに寝かせておいた。

浴槽はそれはもう豪華で匂いからして違っていた。鏡など見たこともないくらい大きくて、しかも湯気で曇らない。もはや体を綺麗にするはずの空間にいるはずなのに、ここで体を洗うのがとても申し訳なく思えてしまった。特にゾンビなど腐った体を湯船に浸けることさえできずにいる。


結局別の意味で長風呂をしてしまった。上がった時には2人とも目を覚ましていて、恥ずかしい姿を見せて申し訳ございませんと謝った。そして自分たちと入れ替わるようにモスマンが風呂場に飛び込むように向かう。

「それじゃ、お風呂借りますね。」

「ああ、どうぞ。シャンプーとか自由に使っていいですからね。」

「……。」

彼がいそいそと風呂場へ向かう。だが彼は気づかなかった。


自分の背を2つの青い瞳がジロリと見つめていることに。


「うわっ、広っ! 俺たちの生活からじゃ考えられないな。」

初めて見る広さについ妬みの声が漏れてしまう。この家はまさしく彼女たちの城、羨ましいの一言に尽きる。

「それにしても……あの姉妹、随分顔が似てるよな〜、ほんと見分けがつかないや。」

そう呟きながらシャンプーを手に出し、泡立てる。ちょっと長くなってきた髪はいい感じに泡を吸い込んでくれた。

「うっ、垂れてきた。目に染みる〜。」

髪を洗っていると上から泡が垂れてきて目に入った。その痛さに目をこする。



だご、目をこする前のほんのわずかな時間。


彼の瞳の中にボヤ〜ッと緑色のものが映った。それを確認しようとサァッと髪と目の泡を落とし、パチパチと瞬きを繰り返す。



鏡に映っていたのは、緑色の髪にサファイアのような目をランランと輝かせながら自分の背後に近づく女性だった。


「えっ!?」

慌てて後ろを振り返るが、そこには誰もいなかった。

「気のせいか……?」

もう一度、鏡の方を見るがその女性の姿はなかった。彼はホッと一息つき見間違いかと胸を撫で下ろした。きっとさっきまであの姉妹のことを思っていたからそれに対する幻覚を見たのかもしれない。思えばついさっきまで金色の髪を生やしたキチガイ女に出会ったのだ。多分、いやきっと疲れてるのだろう。そんなんだから幻覚を見るのだ。

なんて思いながら彼は体を洗うようの石鹸を取り出した。



だが、彼は気づいていなかった。


彼は見間違いなどしていないことに。


そしてもう1つ気がつかなかった。


彼の首元めがけて2本の腕が伸びていることに。


その腕の主は口元を大きく歪ませながらゆっくりと腕の間隔を狭めていった。その口からはペロリと赤い舌が顔を出す。


そして彼女が怪しげに青く光り、いよいよ腕に首を締め付けんと力が入る。



「あっ、石鹸が滑った。」


グッ


「あっ!!」


ズルゥッ!!!


「クソッ! 一旦退却!」


フッ……


「え?」

手から滑り落ちた石鹸はあらぬ方向へと滑っていった。そう、誰かがこれを踏んづけたのだ。しかし、いったい誰が? ここには自分しかいないはずなのに。だがここにはたしかに誰かがいた。その証拠に明らかに自分とは違う声がこの浴槽内に響いたのだから。

「誰?」

彼は不安に思い辺りを見回す。だがいくら見渡しても辺りには誰もいない。

「え?」

彼はもう一度首を傾げたが、それで全ての謎が解けるわけではなかった。


彼はもう1つ気づかなかった。鏡の中に、自分しか映っていないはずの空間にもう1人、鏡の中にだけいたことに。


「チッ……運のいいやつめ……」

「どうした、ヘルル。お前まさか……」

顔中に絆創膏を貼った双子が互いの顔を見合わせる。

姉の顔は青ざめて、妹の顔はニヤッと不敵な笑みを浮かべていた。

それからすぐに奇妙な現象に恐怖を煽られたモスマンが浴槽を飛び出してきた。


「布団は客室にあります。あ、出て右の部屋です。案内しますね。」

ある程度体も綺麗になり、もう時間も遅くなっているので言われるがまま客室に向かった。

客室はもう言う言葉が見つからないほど広く、豪華だった。

「すみませんが布団は各自でお願いします。それでは私はこれで……」

もはや彼女の声など聞こえなかった。その部屋の大きさに自分たちの思考はフリーズしていた。それは自分たちの思考と言葉を奪ってしまうほど、大きく、美しく、圧倒された。

自分たちはこの部屋で夜を過ごすのか。

もう口がきけないぶん、心が叫んでいる。


ここで寝ることはできないとッ!


だが、なんだかんだで彼らは寝れた。ちゃんと布団も敷いてしっかり枕を頭の下に置いて、これでもかと言わんばかりに熟睡していた。


そんな彼らが寝静まった丑三つ時、2つの影が月光に照らされる。

「お姉ちゃん。どうして止めるの? 欲求を満たすのは大事なんだよ?」

「いい? 私たちはヒトだけどもう人間じゃない。私たちの力は危険なのよ。それを乱用なんてしたらいよいよ止められなくなる。」

4つの瞳は月光を浴びて緑と青に輝く。だが髪だけは2人とも同じ色の輝きを放っていた。

「お姉ちゃん……私…….どうしても抑えられないの。わかってる、自分でもわかってる……でも自分は、自分の殺人癖を……」

「……。」

妹には他人と違う性格がある。それはあってはならない感情。

そう、人を殺す時の快感。妹はそれを持っていた。妹の殺人癖は止まらない。彼女は一生懸命それを抑えようとしている。

だが私は、何もできない。ただただ祈るだけ。


いつになるかもわからない、妹がこの感情をコントロールできるその日を。


だけど本音はもっと別だった。それは、


「でもやっぱり……ヘルルはその癖を早く捨てた方がいいよ。」

「わかってる……わかってるよ! でも……わかんないよ! 止められないんだよ!」

「いや……そうじゃない。止められるとか、抑えられないとか……そういう問題じゃないの…….」

私は1回クッと言葉を飲み込んだ。どうしても言うのが辛かったから。

だけど決めた。ここで言わなくてはいけないから。

そして吐き出すように言った。




「あなた……自覚してないでしょうけど……殺人癖が現れてるとき……なのよ。」

「んん!? なんだって!」


「あんたッ! 殺人を犯す時だけおっそろしいほどドジを踏むのよ!! なんかいつか死にそうで怖いのよッ!!! ドジ踏んで!!!」

「ウェッ!!??」

彼女たちの間をスウッと風が吹いた。

2人の瞳には困惑してオドオドする顔と、今にも笑いそうに震えながらぷっくりと頰を膨らませる顔があった。

ごめんなさい、これからはちゃんと投稿します。

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