UMAたちは各々の住みたい場所を言う間もないようです。
今回ちょっと短め
「だめだ。」
「そうですか……」
彼の言葉は彼女を冷たく引き離した。彼女は懸命に引き下がるまいと彼に食いついたが、どうあがいても結果は同じだった。
いったいどうしてこうなったのか、時は数分前に遡る。
彼女が彼と同じところに住みたいと言い出して彼の元へと駆けていった。それの光景を口を開けて眺める仲間たち。もはや彼らには彼女を止める気力も残されていなかった。いや、最初からなかったと言った方が正しいのかもしれない。
そんな彼らを放って置いて彼女は笑顔で彼のところへ向かっていた。
「えっと……こ、こんにちは。」
「君は……確かツチノコだっけ。こんにちは。」
(ああ……! やっぱ、見れば見るほどカッコいい!)
目を輝かせながら発せられた視線は彼の顔に満遍なく降り注いだ。その視線に苦笑いしながらも彼は優しい顔で彼女を見つめた。彼の視線はいろんな意味で彼女の体を石にしていった。しかし体の自由が奪われても彼女は彼と視線を外すことはしなかった。
「わ……わたし! そ、その!」
「ん? どした。」
「あ! あぁ! えっとですね!」
「?」
勇気を持って彼に話しかけたものの、石化した体は一切言うことを聞いてくれない。口は震え、手は胸の前でわたわたとしている。それに加えて足の膝小僧もガクガクと崩れ落ちそうだ。しどろもどろと言葉を選ぶもこんな時に限って私の脳はオーバーヒートしている。
「ぷしゅ〜……」
「お、おい。大丈夫か? 水、持ってこようか?」
「え、いや! 必要ないけどいただきます!」
「どっちだよ。」
「もらいます!」
「即答かよ。」
彼は持っていた洗濯物を干し終えるとやれやれと首を振り、家の中へ戻っていった。数秒してから水が入ったコップを彼は持って来てくれた。
「ほい。」
「あぁ……ありがとうございます。とても美味しゅうございます。神様からの恵みのようです。」
「お前、本当に大丈夫か? なんか聞いていたキャラと大分違うんだが……」
「はい! 全く問題ありません!」
「ああ……うん、そうですか……」
彼女は目をぐるぐる回しながら大暴走していた。唯一まともなのは正しい答えを出さないまま自分が発した言動を聞き取る脳だけだ。
(わぁーー!!!! 何言っちゃてんの私!? 私のバカバカ!!! バカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカ!!!!!!)
自分の言葉で自分の首を絞めるツチノコ。もはや彼女の暴走は止まる予感さえ感じさせなかった。ただただ子供のように自分の考えだけを反射的に答え、それ以外は何もしない。これには神様も困り果ててしまったようだ。
「少しは落ち着いたかな……? それで、なんの用だい?」
彼の優しさで溢れた口調は私の心をビンビンに震わせ体温を急激に上昇させた。今なら額にヤカンを置くだけで水が沸かせそうなくらい。それでもなんとか暴走する自分を止め、深ーく深呼吸すると彼の顔をジッと見つめた。彼の顔は完全に私のタイプで心にズキュゥンと矢が軽く億千万本は刺さった。その衝撃になんとか耐えると、私はとうとう自分が本当に言いたかったことを喉元まで押し上げた。
「えっと……その……くぅ……」
「?」
(うぉぉぉ! 頑張れ私ぃ! ここで言えなきゃ女じゃねぇぇぇ!! 言え! 言うんだ! 私ならできる! アイ キャン ドゥー イットォォ!!!)
「私と……私を……あなたと同じ場所に住まわせてください!!」
「えっ……」
私はその場に土下座して何度も頭を地面に擦りつけながら彼にせがんだ。まだ会って数分の人に頭を下げるなどどうかしていると思う。でもしょうがないだろ? 好きになっちゃったんだもん! 初めての『恋』というものを覚えてしまったんだもの! 今更引き返せない。いや、引き返したくない。
私は全身全霊を込めて祈った。
彼がNO言わないことをひたすら願って……
「う、うーん。俺は別に構わないけど……」
「ほ、本当ですか!? やっ、やった……!」
「でもあいつが許さなそうなんだよなぁ……」
「え……?」
喜びも束の間、彼の言葉に私の体は再び石化した。彼は申し訳なさそうに口を開くと、
「ごめんなツチノコさん。俺は全然構わないんだけどさ、多分快堕天のやつが許さないと思うんだよね。住み着くんだったらまず彼女を説得しなきゃだと思うけど、君じゃ無理だな。理屈がどうこうとかじゃなくて単純に彼女が気にいらないから消される、と思う。」
「そ、そんなぁ……じゃあせめてその子と話をさせてください! このまま黙って引き下がれません!」
「……別にいいけど、口だけは気をつけろよ? 彼女、かなりキレやすいから。」
そう言って彼は携帯を取り出し番号を打ち込んだ。数秒後、電話を発信する音が小さく鳴り響いた。そしてその電話番号の主に電話が繋がる。
「もしもしボス!? 今、ちょっと忙しいからなるべく短く話してね!」
「えっ、あっ、いや……私、ボスじゃないんですけど……」
「チッ……」
プツ! ツー……ツー……ツー……
「? なんか切れたんですけど……」
「あー、うん。これはタイミングの問題ですわ。でも彼女のことだから君の声、今ので覚えちゃったんじゃないかなぁ。多分掛け直してもまたすぐ切られると思うよ。ごめんな、君がここに住むのは無理だ。」
「えぇ……そんなぁ。」
私はがっくりと肩を落としその場に崩れ落ちた。一緒の窓の下で暮らせないなんて、これから彼のことをたっくさん知りたかったのに。やはり出会ってすぐの女など一緒に住むこと自体があつかましかったのだろう。私は重い足をヨロヨロと持ち上げ、仲間たちの声がする方へ足を運んだ。
でもやっぱり彼のことが諦めきれなくて、ふっと後ろを振り向いた。
「どうしても……ダメですか?」
「だめだ。」
「そうですか……」
「ごめんね。もし強硬手段とかして一緒に暮らすと君の命がガチでやばいから。いやほんと、冗談抜きで。」
彼の言葉はさっきのアローよりも深く、鋭く私の心に刺さった。しかもその矢には重く太い鎖付きで私のハートをギチギチと締め上げる。それはとっても息苦しくて、ハァハァと口の隙間から呼気が漏れているのがわかる。でも肝心の空気がなかなか吸えない。それどころか吐いているばかりで肺の中の空気がどんどんなくなっていく。それは肺を通して血管の細部から徐々に空気を奪っていき、次第に指先に力が入らなくなった。その時、胸がギュウッと苦しくなった。抑えなければ立っていられないほどに。
苦しい、苦しい、早く空気を、体が求めているものを、早く! 早く! 私が求めているものを!!
ギュ……
「へ……?」
「ストレス……かな? 血圧と心拍数に異常をきたしてるよ。」
後ろから突然温かいものが私の体にそっと抱きついてきた。よく見ればそれはさっきまで見ていた男性の腕で、それはとっても優しかった。
「君が求めるもの……って俺のことだろ? これだから神様は疲れるぜ。誰からも求められるからな。」
「は……はわわ……」
「落ち着くまでこうしててあげる。」
私の体温、心拍数、その他諸々は急激に上昇を始めた。その上がり方はもはや直角に等しいほどの角度と光速に限りなく近い速度で。
まさしく顔から火が出る。
いや、そんな表現では生ぬるい。
言うなれば、『顔からマグマが吹き出す』とまで言わなくては足りない。マグニチュード6で震える口は心の中から湧き上がった言葉を一気に噴火させた。
「ぎ……」
「ぎ?」
「逆に落ちつかねぇだろぉ! このやろー!!!!」
「えっ、じゃあ離れよ……」
「それもだめ! 今は私を抱いて!」
「なんでや……君は色々と矛盾だらけなんだね。」
「いいのよ、矛盾だらけでも。それが生物じゃない?」
彼の腕の中で私はそう呟いた。まだ私の体は火照っていて心拍数はバックバクだったから声が小さくなっちゃったけど、この距離なら充分聞こえるはずだ。いや聞こえていなきゃ逆に彼の聴力を疑う。そんな小さな声を彼に届けて数分間、私は彼の温かさを体の隅々まで感じていた。
タイトルがギャグですよぉ。気がついたかな?




