UMAたちは自分たちの新たな住処を探すようです。
久しぶり、このほのぼのとした感じ。ていうか最初はこんな感じの日常系を描きたかったのに、いったいいつからこんなことになってしまったんだろう?
ここは通称『恐ろしの森』一度迷い込んだものは二度と出ることはできないと言われる森だ。
しかし実際はその名前の割には道は入り組んではおらず、迷っても出ることは不可能ではないほどだった。だからその名前を知っている人はもう数えるくらいしかいなくなってしまった。その森の小さな湖に集まるこの世界の新しい住人。彼らは前の世界とは変わらない様子で話し合っていた。
「再会できたのは嬉しいけどさ……これからどうするの? 言っとくけど私はネッシーみたいに水の中で暮らすことはできないのよ。」
「うぇー、そうなの? 私はここに住みたいな。だってこんなに澄んだ湖なんて初めてだもん。」
「俺もネッシーと同意見だな。こんなに木々が生い茂ってるし、生活には困らなそうだ。」
「私はちょっと嫌かな……太陽の光がある程度は軽減されてるけどやっぱり所々差し込んでるし……」
彼らはこの森に住むかどうかで意見が割れていた。ネッシーとモスマンはこの豊かな自然に満足し自分の生活スペースが確保できると思っているからだ。だがドラキュラとゾンビはそんなことは関係なかった。特にドラキュラは日光が苦手なので、昼間は完全に日光が入らない場所を望んでいた。言葉が飛び交い互いに一歩も譲らない状況。
「それじゃ、多数決で決めようよ!」
「いいね! ちょうど5人だし。」
とネッシーが言い出した。それに便乗するゾンビ。彼女たちはくるりとツチノコの方を見て
「ツチノコはどっちにするの!? 当然、この豊かな自然だよね!?」
「いやいや、ツチノコは暗いところが好きだったから私たちと一緒にいい感じの家を探そうよ!」
ツチノコの顔に迫り来る2つの顔。
「さぁ! どっち!?」
彼女たちは自分たちの意見を通し多数決に勝つためにツチノコに詰め寄った。彼女たちは明らかに作ったような笑顔で精一杯ツチノコの気を引いた。
だがツチノコはムッと頰を膨らませて
「うるさいッ!!」
と叫んだ。その声にビクッと首をすくめるとズルズルと後ずさりする。
「住む場所なんてどこでもいいでしょ!! 現にあんなくっそ狭いアパートで暮らしていたんだから!!」
ぷんぷんと怒り混じりの声で彼らをはねのける。たしかに思えば自分たちはあんな環境最悪の小さなアパートで暮らすことができたのだ。それが今、こんなに綺麗な場所に来てしまったものだからあの時のサバイバル意識を忘れかけていた。
「んもう! ……まぁでも暮らす場所ってのはたしかに重要なことだな。とにかくここらへんをみんなで探すよ。異論はない?」
「はーい……」
めんどくさそうに生返事をするネッシーとモスマン。本当はこの湖のすぐそばにいたいのに、もしもそれが叶わぬ願いとなってしまったらこっちに来た意味がない。特にネッシーはその思いを強く感じていた。
そんな彼らの心中も御構い無しにずんずんと森の奥を進んでいくツチノコ。その後を乗り気の足取りと思い足取りが追った。
しばらく、といってもほんの数分の間歩いていると草木の奥が妙に開けているのが見えた。日差しが差し込んでいるその景色は大きな庭のようだった。日に当たると消滅してしまう女を残して彼らはその園庭にそっと入った。
「ちょっ、ちょっとまってよー!」
彼らの後ろを慌てて追いかけるドラキュラ。その手の中にバサバサとコウモリを集め自分がすっぽり隠れるほどのコウモリ傘を作った。それをバッと開くとわたわたと彼らの後ろについていった。
「……あれ? うーん、なんかここ……見覚えがあるような……ないような……」
ふと庭の中心で立ち止まりネッシーが首をかしげる。自分の周りをぐるりと見回すと、見覚えこそあるもののどうしても思い出せないもどかしさが頭の中に渦巻いた。
その疑問を頭に抱えながら先を進むと、ふと屋根の大きい家が1つ見えてきた。その家を見た瞬間、
「あーーーー!!!!」
「うわっ、うるさ……」
ネッシーがモスマンの耳元で叫んだ。そのビリビリとした鋭い声のダメージをもろに食らってしまった彼はしばらくの間足をふらつかせた。そんな彼のことなど一切気にせず彼女は先導するツチノコを追い越してその家へと向かっていった。
「やっぱりそうだ! なんか見覚えあるなって思ってたんだ!」
「ちょっとちょっと、ネッシー。突然走り出さないで。」
1人はしゃぐネッシーの後をやれやれという表情で追いかける。彼女たちはまだここにきたことがないのでなぜ彼女が突然笑顔で走り出したのかわからないでいた。
そんな彼女に近づく影が1つ。庭に生えた草をザッザッと踏み歩きながら彼女との距離を詰めていった。
「ひとんちの敷地内でそんなに大きな声を出すもんじゃないぜ……特に神の前ではな……」
「あっ、正希さん。す、すみません……いるって思わなくて……」
彼は俯いてフゥと息を吐くとゆっくり顔を上げてほくそ笑むと、
「何しにきたの? もしかしてまた相談? 今は洗濯途中で忙しいからもうちょい待って。」
「えっ、あっ、いや……その、みんなで新しく住む場所がなかなか決まらなくて……どうしようかと。」
私がそう尋ねると、彼はすごく嫌そうな顔をして何も言わないままそそくさにその場を離れようとした。私はそんな彼の後ろ姿を黙って見ていた。後ろからは友達の駆け足とそれに合わせるように切れる息の音がした。
すると彼の腰から服をバリバリと突き破って何かが飛び出してきた。
「へぇ、これが噂に聞いていたUMAってやつか! なかなかかわいいじゃん!」
「ネッシーって言ったっけ? どう? あとで我とお茶でもいかがかな?」
「いやいやここは我とでしょ。兄貴は半世紀ぐらい黙っててくんない? 邪魔だから。」
「ごめんね、こんな馬鹿な弟ばっかりで。ついこの間我に給料がそれなりに入ったから、ネッシーさんの好きなもの2000円以内だったらなにか買ってあげるよ。」
「ずるいぞ兄貴ッ! 金で釣るなんて! ネッシーさん、我とでしたらどこでも好きなところへ連れて行って差し上げますよ。」
「なにを寝言言ってんだお前ら。俺たちは兄貴の了承無しに体を離れることはできないだろ。すみませんねネッシーさん。お詫びにあとで菓子物でも出しましょう。」
「でもこの間、兄貴は冷蔵庫の中身全部食べちゃったじゃん。それで兄貴に怒られたばっかりだってのにまた同じこと繰り返す気?」
その彼の腰から生えたものは、7匹の大蛇で互いに絡まりあいながら口喧嘩を始めた。その口喧嘩の内容はどうやら、私を誰がもてなすかということらしい。その口喧嘩を口を開けたまま聞いていると後ろから友達が合流した。
「えっ……いったい何事? なにこの……なに?」
「よ……よくわかんない……彼に話しかけたら突然こんなんになっちゃって。」
私たちはその場に固まってそのシュールな光景を眺めていた。一応彼とは面識があるし、元神の生まれ変わりだということも知っていた。
でもまさかこんな姿をしていたなんて……なんかショックというか残念というか……
そんな感じで幻滅していると、彼の顔はさっきよりもさらにめんどくさそうになって、
「黙れッ!!!!」
って叫んだ。するとその大蛇たちはビクッと怯えると、スッと彼の体の中に戻っていった。
「ごめんな。普段はこんな簡単に出ては来ないんだけど、お前と会うのをまあまあ楽しみにしてたみたいで……決して悪い奴らじゃないんだ。許してやってくれないか?」
「ハァ……まぁ、あなたが言うのなら。」
「すまんな。」
彼は申し訳なそうに頭を下げるとクルッと足を別の方向へ向けた。そしてその方向にスタスタと歩いて行ってしまった。
「なんか……不思議な人だったね。いろんな意味で。」
「ええ、一応神って言ってたけど……あんな姿をしていたなんて……」
ネッシーはその歩く後ろ姿を見てホゥとため息をついた。そしてこれからどうしようかとちらりとツチノコの方を見た。
しかし彼女の視線は彼の背中に釘付けにされていてその目をキラキラと輝かせていた。
「ツ……ツチノコ?」
ネッシーの声は彼女には聞こえていないようで、子供がおもちゃを欲しがるような目をジッと彼に向けていた。
「か……カッコいい……!」
「うぇっ!?」
普段は厳しいあのツチノコの口からは想像もつかない声が彼女の口から漏れた。あのツチノコがカッコいい? そんな言葉とは無縁な性格だと思っていたのに。彼らが彼女の変わりように目を奪われている間に、彼女はその足をズルズルと彼の方へと引っ張った。まるで欲しいおもちゃが見つかりそれに手を伸ばす子供のように。
「ツチノコ!? どうしちゃったの!?」
ゾンビが口も裂けるほどの声で彼女を引き止めようとする。すると我に返ったかのように彼女の足は進行を止めこちらをくるりと振り向いた。
そしてニヤッと悪そうな笑顔で
「ねぇ、あんたたち。どこに住みたいかでもめていて私に最終結論を求めたよね……それだったら……」
「私ッ! 彼と同じ場所に住みたいッ!!! いいよね!? だってあんたたちが私に最終的に求めたんだから!!」
「!?」
彼女の衝撃な発言はその場にいた他のUMAたちを凍りつかせた。
その言葉は次元を超えて翼を生やし敏感なアンテナを持った少女にも届いた。
「なんか今……何かを防がなきゃいけない気がする! 私のボスが危機的な状況にいる気がする!! 待っててねボス!! すぐに終わらして帰るから!!!」
少女のこの発言が後にこの世界を巻き込む重大な事件を引き起こす引き金になるとは、おそらく天界の住人たちでも見抜けなかったであろう。
プライベートがだんだん忙しくなってきたからまた投稿ペース落ちそうだ。




