この感じ、久しぶり
ひさびさにこんな感じの文章を書いた気がする。
ゆっくり目を開けば木々の間から鳥のさえずりが聞こえる。近くに水があるのだろうか、たゆたう水の音がする。私はいったいどうなったのだろうか。あの時ななしさんと名乗る男性と話しあっていて……ネッシーのところへと連れて行ってくれると言っていた。
しかし変に頭が重い。そういえば私たちの家は燃えてしまったのだ。きっとその時煙を吸ってしまったことで脳に酸素が足りてないのだろう。
ふと見れば私たちの仲間が草の上にゴロリと転がっていた。ゆさゆさと体を揺すると目をつぶりながらもゆっくりと目を覚ました。
「ここは……どこなの?」
「私にもわからないわ。目覚めたらここにいたから……」
最初に目覚めたゾンビが頭を抑えながら尋ねた。しかし私にもここがどこだかわからない。
「ん……ツチノコ? それにゾンビまで……私たちあの後どうなったの……?」
ドラキュラも続いて目を開ける。それに遅れてモスマンも。
私たちは今どこにいるのだろうか、所持品は今着ている服を除いて全部燃えてしまった。文字通り無一文となってしまった彼らはとりあえず歩き回ってみることにした。まずはこの森を抜けたかった、そして街があるのならそこに行きたい。彼らの足どりは重くなりながらも少しずつ道なき道を進んでいった。
その道中、ふとツチノコの鼻が何かを感じ取った。一応蛇である彼女の鼻は他のUMAよりよく効く。その匂いは水と混じって薄められていたがどこか懐かしいような匂いだった。彼女の足は自然とその匂いの方向に進み、彼女の仲間たちも彼女の行動を不思議に思いながらも後をついて行った。
彼女の足が向かった先は湖だった。その湖の周りを囲うように木々が生えている。彼らはその間をくぐり抜け湖のほとりへとたどり着いた。彼女が感じ取った匂いは近づくほど一層強くなっていった。
パシャッ
突然水の中で何かが跳ねた。いや、潜り込んだと言った方が正しいのかもしれない。湖の水は見たこともないくらい澄んだいて浅いところなら簡単に見通せるほどだった。全員の視線はその湖に吸い込まれ目は釘で打ち付けられたように固定されていた。すると水面にゆら〜と揺れながら1つの影が現れた。その影は獣の姿を人の形に変えながら彼らに近づいて行った。
「みんな……?」
「ネッシィィイイイイイイッ!!!!!」
「うおっ。」
ドッパァァァァアアンッ!
彼らの目は湖から現れた影に飛び込んだ。空色の髪、丸い瞳、ちょっと肉つきのいい体、彼女の姿はあの頃と全然変わっていなかった。その懐かしさのあまりに彼らは服を着たまま友の胸に抱きついた。しかし一度に4人も水の中に飛び込んだので水柱が何メートルも高く立ち上がった。
そして水柱が崩れ小さな雨となって湖に降り注ぐ。その中で5人はずぶ濡れになった互いの顔を見て笑っていた。彼らの顔は幸せに満ち溢れていた。過ぎ去ったあの時を、夢にまで見たあの時を、また過ごせるようになったと誰もが思っていた。彼らは澄んだ湖の中でいつまでもいつまでも喜びを感じていた……
「そろそろ寒くなってきたから出ようか。」
「そうだね……へっくしゅん!」
ことはなかった……
それらを空の向こうから覗く1つの影、それは彼らをこの世界に連れて来た張本人、ななしさんであった。大地に自分の影を落とさないほど空の上から彼らの行動を見つめ、そして静かに微笑んだ。そんな彼の笑顔は彼らと同じような純粋な笑顔だった。彼は常に笑うことを心がけていた。今まで笑わなかった分、笑うことが許された今だから彼は常に笑っていたかった。怒るよりも、悲しむよりも、笑っていたい。そっちの方が楽しいから。
彼はその笑顔を顔に浮かべたままある家を目指して飛び立った。森を抜けて、空を突き抜け、雲の上を通ってから一気に急降下する。彼らがいる家の周りはあまり高い建物はないけれどそれほど田舎という感じでもなかった。ここんとこは週に5回は行っているかもしれない。そろそろお土産でも持って行こうかなと思っているとその家の屋根がだんだん見えてきた。
そして玄関のところにフワリと着地するとインターホンをポンと押した。ドアの奥で同じ音が室内に響き渡るのが見えていなくてもわかった。するとその音を聞きつけた家の主人がドタドタと物音を立てながら玄関に向かってきた。
そしてどうやって開けたのか自分でも未だにわからない方法を使って家の主人がドアを開ける。
「よっす、うp主。遊びに来たぜ!」
「あれまななしさん。他のうp主は出かけてるけど、まぁゆっくりしていってね。」
「そうさせてもらおうかな。」
そう言って彼は開いたドアを抜け家の奥へと消えていった。
それとほぼ同時刻、翼を生やした少女は海の底にいた。この時期の海は冷たいけれど羽と羽の間に空気を貯めれば熱はシャットアウトできる。もちろんこっちの体温は出ていかないという条件付きなのでどちらかと言えば暑いくらいだった。彼女はめんどくさそうな表情を浮かべながら数枚自分の羽をぷちぷちとむしり取った。そして中に水が入らないようにカミソリ1枚入らないほどぴったりと埋められた翼の隙間からスッと羽を数枚外に出した。そして彼女はゆっくりと目を閉じて精神をそのむしり取った数枚の羽に集中する。するとその羽たちは水中を自由に動き回りながら岩盤の隙間に潜り込んだ。彼女の羽はその細い体を活かしながら岩盤の奥の奥へと進み、そしてとうとうプレートの部分までたどり着いてしまった。そのプレートに根付くように羽の先端は細い糸状のものを伸ばしてプレートを少しずつ溶かしながらさらに奥へと進んでいった。
「うん……」
羽を操っている主は自分の翼にくるまりながらそう呟いた。そしてクイッと腕を引き自分の元へ戻れと羽に合図を送った。羽たちは素早く根を引っ込め、元来た道を戻るようにプレートの間を抜け岩盤の隙間を通りながら彼女の元へと戻っていった。羽は1枚1枚丁寧に彼女がむしり取った場所に入り込んでいった。それを確認した彼女はゆっくりと自分の体を浮上させていった。
誰もいない海上にその小さな頭を浮かべるとブルッと体の水滴を払い落とし翼を服に変え体に纏う。そして携帯を取り出すとある番号にかけながら空へと登っていった。空は彼女が雲に近づけば近づくほど暗雲が立ち込めた。そして自分の身をその中にすっぽりと隠すと雷をパチパチと纏いながら愛しの人に電話する。
「もしもし? 私だけどやっぱりボスの睨んだ通りだったよ。それでどうするの? 私がこの星を消してもいいんだよ? ん? ええ……あぁわかった。それじゃ、『その時』まで。」
ピッと携帯の電源を切ると彼女は自分の体にさらに雷を体に吸収した。
「ああ、やっぱり雷雲が作る雷は美味しいね。都会の電気はどうもいろんな不純物が混じっちゃってるから。それとこの星とはそろそろお別れかな。あんなデカパイ性別詐欺が生まれた星だからどんなひどいところかと思っちゃった。ごめんね。それじゃ、私は私のすべきことがあるから、じゃあね。食べたくなったらまた食べに来るからね。」
いったい誰と話していたのか、それは彼女にしかわからない。ただ唯一その会話からわかることは彼女はもうすぐこの星と別れてしまうこと。ふと見れば彼女の姿はもう空にはなかった。その影は浜辺の近くの砂浜に落とされていた。彼女の影は雲が太陽を遮ったため大地の影と同化した。そのまま誰もいない浜辺に小さな足跡をつけながら彼女は海の側を歩いた。
いつしか彼女の足跡は波によって消され、彼女の姿もそこにはなかった。
次回の投稿はいつの日か……




