新たな世界へ.......ってことはヒロイン交代ですか!?
この感じのタイトル、なんか久しぶり。
ここはなにもない次元の狭間。その空間に2つの影が浮いている。よく見るとその影は話しあっているように見えた。
「……ってなわけで僕は今のボスに弟子入りしたってわけ。まぁ、あん時は僕も必死だったからね。いまいち覚えてないけどボスが言うには涙をボロボロ流しながら足にしがみついてたらしいよ。ハハッ。」
「笑い事……なんですか?」
聞けば聞くほど深刻な話なのに彼はケラケラと笑いながら話していた。私はそんな彼の姿を見て変な安心感を覚えてしまった。でもそれだけのことがあったから彼はこれだけの力を手にすることができたのだろう。私は1人でそう納得した。
「そっから大体……5年くらいかな。ずっとボスのもとで修行してた。」
「えっ!? ……ごっ! 5年ッ!?」
「そうだけど……なにか?」
「そ……想像できない……だってその時は中学生ぐらいだったんでしょ!? それなのに……」
私が困惑の口調で話し続けると、彼は急にそれを遮った。
「あー、ごめん。そろそろ行かなきゃだから。長話しすぎた。早くしないと足場が消えちゃうよ。」
すると彼は気のソファーから立ち上がってまた道を作り歩いた。私は彼の言葉にドキリとして慌てて彼の腕を掴む。
「いやー、こんなに長く話すことは普段はしないんだけどね。ボスの癖がうつったかな。」
相変わらずマイペースで話し続けるななしさん。そんな彼の言葉も耳に入らずに、私は彼から落ちないように必死にしがみついた。
それから5分ほど歩いただろうか、私の息が少しずつ上がってきた頃、ふと彼が足を止めた。
「ついたよ。多分この辺に……」
彼はヌッと右手を伸ばして指先に力を入れた。彼の手の中には気が渦を巻いて集まり、まるで小さな竜巻を作っているようだった。
「あの……1つ質問いいですか?」
「ん? どったの?」
私は彼が気を手の中に集めている中、口をモゴモゴと開いて尋ねた。
「これから行く世界は……その……どんなところなんですか? こう……敵がいないって言ってましたけど……」
「ああ、そんなこと。別に大した世界じゃないよ。ただいろんな生物がいるってだけ。そうだなぁ、うーん……人間がいないってよりも、『人間の概念が存在しない』って言った方が正しいのかな。ただの人間がいないんだよね。って難しすぎたかな?」
「いえ……そんな。」
「あっそう。それじゃあ行くよッ!」
彼が手の中に溜まった気を空間に飛ばした。すると空間がひび割れ外の世界が広がった。
「行こう。」
「……ハイッ!」
ななしさんがすっと私の手を引いた。私は彼に導かれるように次元の狭間を飛び出した。
外に出るとそこは森の中だった。見たこともない森。辺りを見回しても見たこともない地形が広がるばかりだった。
「こっちだよ〜。」
彼が急かすように森の中を抜けるので私は慌てて彼についていった。
しばらくすると木々の間が開け水の音が聞こえてきた。
私はぐっと体を乗り出してその音の響きがする方へと向かった。
そこには太陽の光に照らされ、波がキラキラと輝く美しい泉があった。
「わぁ……! これ、本当に私が住んでいいんですか……!」
「そだよ。誰も使ってないからどーぞ。」
「ありがとうございますッ!」
私はペコリと頭を下げて服を着たまま泉に飛び込んだ。清く澄んだ水は私が幼い頃、ネス湖で泳いでいた時を思い出させた。水は程よい冷たさで私の体を隅々まで癒した。そっと目を開けば太陽の光が水の中まで飛び込んで、美しい空色を見せてくれた。まるで私を歓迎するかのように、泉は私の周りを泳ぎまわった。
「どう? 心地は?」
「もう、最っ高! これ、本当にいいの!?」
「大丈夫、大丈夫。ただここが好きな奴は他にもいるけど、僕の知る限りでは君に害はないと思うんだ。だから別に問題はない……ハズ。」
「ありがとうこざいますッ! このご恩は一生忘れませんッ!」
私はもう一度深々と頭を下げ彼にお礼を言った。そしてドプンと頭から潜り光が差し込む水の中を泳ぎまわった。
「それじゃ、僕はもう行くから。なんかあったらこの電話番号に連絡してくれ。多分、僕を含めた誰かが来てくれると思うから。」
「あー、はい。わかりました。」
彼はサラサラとメモになにかを書くと私の携帯電話を文鎮にしてその場を去った。
私はそれを後ろ目にそっと水中で力を抜いた。そして元の姿にスルスルと戻る。この泉には私の敵はいない。これだけの開放感はいつぶりだろう。いや初めてかもしれない。
私は満たされたこの快感を決して失わないことを願って水中を縦横無尽に泳ぎまわった。
ピルルルル……ピルルルル……
「もしもし? 僕だけど。快堕天、何か用?」
「あー、もしかしてだけどあと何匹かそっちに行くかもしれない。だからちょっとこっち来てくんない?」
「えー、めんどくさい。そういうのはボスに頼んでよ。」
「ダーメ。ボスは今忙しいんだから。どーせあんた暇でしょ? だったら少しぐらい手伝ってよ。」
「ぶ〜……わかったよ。」
しぶしぶ承諾すると彼は携帯の電源を切った。そしてフワッと飛ぶと、また手をかざし気を集める。数秒後、空が歪んで1つの影がその中心に飛び込んだことに気づくものはいなかった。
ピッ
「うーん……一応連絡は取れたけど……私は私の仕事があるからなぁ。」
私はななしさんと連絡を取り終え携帯電話をズボンにしまう。そして残されたボロいアパートをジッと見つめた。一応そのアパートの住人たちに私の電話番号は伝えてある。もしもの時のために彼らの望みを聞くためだ。
しかし、私がこの世界に来た理由は実はもう1つある。この仕事はまあまあめんどくさいけど、終わったら後で愛しの神に頭を撫でてもらえる。それだけのことをしてもらえるのに引き受けないわけがない。
私はフワリと宙に浮くと海を目指して飛び立った。
同時刻、そのボロアパートの住人たちは変にそわそわと落ち着かない様子だった。普段は壁の向こうからあんなに楽しそうな声がするのに、今となってはなにも聞こえてこない。その住人たちはなにもせず、なにも考えず、ただぼーっとその場に座るだけだった。
彼らの中にできたポッカリと空いた穴。その穴はだんだんひび割れながら大きくなっていずれは彼らの心を壊してしまうだろう。そしてその穴を埋める存在は、もうこの世界には存在していない。
彼らは彼女をこの世界から引き離した存在を憎むことも恨むこともせず、じっと時が過ぎるのを待った。
やがて日が沈み月と星々が大地を照らしても、空腹で腹の虫が悲鳴をあげても、やはり誰も動かなかった。
そんな中、ただ1人、わずかに動く影が1つ。
フードを深く被り、凍りつくような眼差しを持つUMA、ツチノコだ。
「あー……もう……ウッガーーッ!」
「!?」
突然ツチノコが部屋の中で奇声を発したので他のUMAたちはビクリと肩をすくめた。
「みんな急にしんみりとしすぎだよッ! なに!? あいつがいなくなったからってそんなに変わるものなの!? 確かにあいつは明るくて元気だよ! でも、もういないんだッ! まったく……部屋が変に広くなっちまったな!」
ツチノコは狂ったように淡々と言葉を漏らした。そんな彼女から発せられる言葉の文法はメチャクチャで羅列は回らず、1つ1つの言葉に意味が無いように思えた。
「もう夕食、夕食! ほらッ! みんな手伝って!」
そう言っていつもより声を出して彼女は台所へ向かって行った。
他のUMAたちが動き出すのには彼女が台所へ行ってから約12秒後くらいのことだった。
プライベートが妙に忙しいんだ......




