白き化け物と小さな怪物
やったー! ゆっくりガオウさんから挿絵を貰ったよー! (自虐)
閉まる扉をただただ見つめるUMAたち。友が視界から消えるまで彼らは瞬き1つしなかった。
「行っ……ちゃった……ね。」
「うん……。」
恐る恐る口を開くゾンビとドラキュラ。そしてその言葉に対し何も言えず、ゴクリと唾を飲み込むモスマン。
いつか来る別れの時。分かっていたはずなのに、必ず避けられない時間だったはずなのに。
何で今、この時なんだとその場にいた全員が思った。
そしてその空気に入れずにいるもう1人のUMA、ツチノコ。
彼女も暗い寝室の中、さらに暗い布団にこもりながらネッシーのことを思っていた。
1人だった私に、人間に追われる日々を過ごしていた私に始めてできた友達。
ずっと笑顔だったその顔が自分にはとても眩しくて、ついつい距離を置くような接し方をしてしまった。
本当はもっと仲良くしたかったのに、いつまでも一緒に居たかったのに、本当の自分を見せるのが怖くて、見られたら離れて行ってしまうんじゃないかという恐怖が常に体を取り巻いていた。
私は自分が怖かった。自分の姿を恐れられ、気味悪がれ、避けられ、珍しがれてきた自分が。
だからこそ誰にも迷惑がかからないように1人で生きてきた。草木生い茂る山の奥でただ1人、孤独を押し殺して。
その扉をいとも簡単に打ち砕いたのは他でもないネッシーだった。私を尊敬と憧れの目で見つめ、友達になろうと接してくれた。私の心の中にあった、ずっとずっと望んでいたもの。自分には無理だと諦めていたもの。
彼女が私たちにくれた大切なもの。
その夜、みんなの枕が涙で濡れたかは……誰も知らない。
時は遡ってネッシーはとある場所へと向かっていた。つい今日、王 正希と名乗る男性と一緒にこの世界に帰ってきた場所へ。
「えーと……確かこの辺だったかな?」
とりあえず近くの交差点に出る。自分が帰ってきた場所はもう少し先の道路だ。
その場所に向かおうと駆け足気味になる。すると自分の頭の上から薄っすらと聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「チースッ! やっぱり来たんだねッ!」
「えっ!? わぁっ!」
「あっはっはっはっ、ごめんごめん、おどかすつもりはなかったんだ。」
声が聞こえたと思えば急に視界の前に現れる白い服をした女性。
確かななしさんと言ったっけ。
「もう! 脅かさないでくださいよぅ!」
「ごめんごめん、代わりに僕のおっぱい揉んでいいから。」
「誰が触るか!」
相変わらず笑顔が絶えないななしさん。ネッシーがいくら怒っても特に気にしていなかった。
「でもさぁ、こんな見た目でも僕一応男なんだよねぇ。」
「……えっ? はっ? 男? 何言ってんのあんた?」
「見た目は完全に女だけど性別というか元は男なんだよね僕。あれ? 言ってなかったっけ? ま、いいや。どうする? 男だけどいい感じに成長した胸、揉んでみる?普段は30秒千円だけど、今はサービスしてタダにするよ。」
「えっ? これ本物?」
そう言われると興味が変に湧いてしまってそっとななしさんの胸に手を伸ばす。
むにゅっ
「うわ……柔らか。」
「でしょ?」
「……なんか妬ましい。あなた本当に男なの?嘘ついてるとかじゃなくて?」
「うん。」
「パッドとかで盛ってる?」
「別に。それは快堕天が使ってる。」
「……あっそう。」
ついさっきまで心は仲間と別れる悲しみで埋め尽くされていたというのに、今は変に落ち着いて自然と笑顔が出てきてしまうほどだった。
「それじゃ行こっか。」
「えっ、あっ、はい!」
胸からスッと手を退けて私はななしさんの後ろを歩いた。見れば見るほど彼は女性そのものだ。腰まで伸びる白く長い髪、少し細い腕、余計な毛やシワがない手と指、一般の女性よりも強調された胸と尻。いい感じに膨らんだ太ももを持つ足。
この人を男性と言い切る方が難しいと私は思った。
ある程度歩き人通りも少なくなってきた道でななしさんはピタリと止まった。そして曇りなのか晴れなのかわからない中途半端な空をジッと見つめた。数秒後、くるりと私の方を向いて
「そろそろ始めるから僕の後ろにいてね。」
と言った。
私はそっと彼の斜め後ろに立った。すると彼はニッと笑って左手をそっと前にかざした。
そして腕全体にグッと力を込めた。
「んっ!」
すると彼を中心に空気が吹き込んで周りの大気そのものが振動した。心なしか彼の長く伸びた髪はふわりと浮き上がり、まるで風が彼の体を取り巻いているようだった。
そっと横から見てみると彼はまだ笑っていた。そんな彼の手の先には半透明な空気が吹き込んで彼の手の中に集まっていった。
「ふんッ!」
キュゥンッ!
まるで思いっきり引かれた矢が飛ぶような音がしたかと思えば、彼の目の前に風がゴウゴウと吹き込んでいた。
「行くよ。僕のはボスほどは長くないからね。」
そう言うと同時に彼の腰の少し下からニュッと白い尻尾が生えた。
それは私にシュルンと巻きついて私の自由を簡単に奪った。
「わっ! 何するん……」
「もう閉まっちゃうよ。」
私の言葉を遮るように彼は言った。そしてそのまま空間の裂け目に飛び込んだ。
ここに来るのは2回目だ。上下左右がなく、壁も床も天井もない藍色の空だけが広がる空間。
私はこの場所にはどうしても慣れなかった。まぁ、まだ2回しか来ていないのだが。
「ちょっ、ちょっ、ちょっ! 私ここ苦手なんです!」
「すぐに慣れるよ。でもさすがに足場くらいは作って欲しい?」
そう言うと彼は手でなにかを形どるとスッと自分の足元に下ろした。
「はいっ。足場作ったよ。とりあえず落下防止用の壁もね。」
私はそこにドサッと降ろされた。やっと尻尾から解放された私はキョロキョロと辺りを見回した。
私は何もないはずの場所に座っていた。手で触る限り何かは自分の下にあるのだが、それは目では見えなかった。
「なっ……なんなんですかこれ!?」
「僕の気の形を変えて作った足場……って言うと分かりづらいか。うーん、そうだなぁ……ガラスの足場って感じでいいや。」
「ガラスの……足場。」
そう言われれば確かにそうだ。見えないけれどある透明な足場。ガラスでできた足場と想像すれば意外と簡単に理解できた。
私が立ち上がると彼はそのまま歩き始めた。
「しっかりついて来てね。僕の後ろを歩かないとそのうちその足場そのうち消えっから。」
「ウェッ!? ちょっと、それ早く言ってよッ!」
そう言われるとネッシーは急いでななしさんの腕に抱きついた。
「歩きづらいなぁ……」
「結局引っ付かなきゃいけないなんて……」
彼らはそのままくっつきながら次元の隙間を歩いた。
「そう言えば……その……ななしさん……でしたっけ? あなたはどうしてそんな力を手にすることが出来たんですか?」
「えっ、あぁ、そうだねぇ。ちょっと話が変わるかもしれないけれどさ、『小林あおい』って聞いたことある?」
「あぁ、まぁ、少しは……前にニュース番組でやっていたので。」
「そのニュースのこと、詳しく覚えてたりする?」
彼がちょっと気になったように問いかけるので私はそのニュースのことを思い出しながら答えた。
「えーとですね……確か、うーん……あっ! 思い出したッ! そのニュースはですね『当時中学生の男子生徒虐殺事件、犯人は未だに見つからず』って感じだったと思います。今から5年前って言ってたっけな。当時、中学2年生の男子生徒が同級生を無残に殺害したっていう事件だったと思うんですが……でもそれがどうかしたんですか?」
私が自分の記憶を元に答えると、彼はちょっと複雑そうな表情で答えた。
「やっぱりまだ残ってるんだね……」
彼が表情を崩したので私は尋ねた。
「いったいどうしたんですか? その事件とななしさんといったいなんの関係があるんですか?」
すると俯いたまま彼は答えた。
「その小林あおいって少年はね……
僕のことなんだ。」
私は返す言葉が見つからなかった。あのニュースの犯人が目の前にいる人だったなんて、知らなかった、思えなかった。
こんなに優しそうで純粋な人なのに。
彼は続けた。
「ねぇ、君はさ『いじめ』ってどう思う?」
「どうって……」
「どうして無くならないと思う? なんでする人がいると思う?」
「……。」
私は言葉に行き詰まった。『いじめ』の問題は度々ニュースにもなっている。それはいよいよ犯罪と法律で言われるようにもなったことも知っている。
しかし、どうして無くならないと聞かれれば答えはなかなか出てこない。
「わかりません……」
「だよね。僕もよくわかんない。でもさぁ、僕が思うにはやっぱり人間だからってとこじゃない? 人間だから公正できる。人間だからきっと変われる。なんでもかんでも厳しく取り締まうのは良くないって言う。けどそれは人間だけの話だし、法律や憲法は人間しか縛れないんだよね。」
「つまり……どういうことですか?」
彼はさっきまでの笑った表情とは一変して、真面目な表情でこう言った。
「相手の気持ちや考えを理解できないとか、感情をコントロールできないとか、人を傷つけることでしか自分を表せないような奴は人間じゃないんだよ。人間の皮を被ったバケモノだよね。だって人間にしか出来ないことがそいつらは出来ないんだから。心が無いんだよねそいつらは。だから残酷なことも平気でする。だからそれは縛れない。だって法律は人間以外は縛れないから、と僕は考えてるんだよねー。どう? 僕の言うことに反論あったら何なりと。」
ななしさんの言葉をネッシーは目を丸めながら聞いていた。
この人は只者じゃない。かと言って狂人というわけでもない。
ならばなんだと言われたら言葉で表すのは難しい。
強いて言うならば、『人生の先輩』って感じ。きっと人間の醜い部分をいっぱい見てきた彼だからこそ言えることなのかもしれない。
私は彼の言葉にすっかり魅入ってしまった。
「ありゃ? 反論は無し? じゃ、いいや。」
彼はおどけた表情で反応するとそのままクルリと方向転換してまた歩き出した。
「まっ、待って下さいッ!」
「お?」
するとその後ろ姿をネッシーが引き止めた。湧き上がる感情を押し殺しながら。
「あなたがボスって言う人のことって、確か王さんって言いましたよね?」
「えっ、そうだけど、それがなにか?」
私は息をフゥと吐いて呼吸を整える。
そして、思いきって尋ねた。
「彼は自分のことを分かってもらうために自分の過去を教えてくれました。だから……
あなたの過去も教えてくれませんか!? 私、知りたいんです! どうやってそれだけの人間になれたのか! 私にあなたを教えてください!
……ダメですか?」
興奮して口調が早くなってしまったことと、彼の過去に勝手に触れようとしたことを、言い終わってから後悔した。でも彼はまたニッコリ笑って
「別に構わないよ。もう何年の前の話だからうろ覚えなとこもあるけど、それでよろしければ。あと立って話すのもなんだね。ちょっと待って。」
すると彼はまた手を動かして何かを形どった。
「どうぞ座って。」
彼がスッと手を差し伸べる。私はその場にゆっくりと座ると柔らかい感色が下半身を包んだ。
「わぁ……! これって!」
「そ、即席で作ったソファーだよ。僕の気の形をソファーの形に変えて……って分からないか。ま、いいや。それじゃ僕の分も作ってと……」
すると彼は自分の後ろに手を動かして彼の分のソファーを作った。相変わらず見えないが。
「それじゃ長くなると思うけど……別に大丈夫?」
「はい! でも言いたくないこととかあったら別に無理に言わなくてもいいので。」
最後まで彼の笑顔が絶えることはなかった。私は藍色の世界の中、見えないソファーに座って彼の過去を共に遡った。
次回の投稿はいつの日か、、、




