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やっと本編始まるよ  作者: ゆっくりガオウ
10/31

王として生けるもの

おまたせしました!そんで長い!

どれくらい気絶していただろうか。気がつくと太陽はとっくに真上に来ていて木々の間から自分を照らしていた。

「ん、、、」

まだ頭がジンジンする。昨日のことははっきりと脳裏に焼き付いていた。

「夢、、、?」

一瞬そう思った。このツボを取り出した時に転んでそのまま寝てしまったのだろうと考えた。


しかしそれは違うとすぐに証明された。

「あれ、、、服がない。それに、、、」

自分の服は上半身だけなかった。辺りを見回すとビリビリに裂かれた自分服があちこちに散らばっている。それに何かが妙だ。もし自分が上半身裸で寝ていたとしたら、こんな山奥だ。風邪をひいているに違いない。しかし体中から何か熱いものを感じ、食後の時のように体がエネルギーで満ちている。いや、それ以上に。体育の成績は5だったが自分の体はそれほどたくましくなかった。それなのに今は筋肉質な体質になっている。腹筋など完全に6つに割れ、胸筋はかなり膨れ上がっていた。

「どうなってんだよ本当、、、」

痛む頭をさすりながらツボを元の位置に戻そうと持ち上げようとする。


ガシャーン!!


「うわっ急に割れたよ。こんな立派なツボなのに脆すぎるだろ。」

自分が触れただけでツボはひびを大きくしながら割れた。

「しょうがない。とりあえず山を降りよう。」

割れてしまったツボを放って置いて山を下山する準備をした。

そういえば家族はどうしているのだろう。昨日の夜、9時には帰ると言っておきながら、帰らなかった自分をきっと心配している。

「ヤッ、、、バ!」

さっと立ち上がり急いで山を降りる。早く帰らなければ。それだけをひたすら思った。入り組んだ山道はまっすぐ降りるのにかなり邪魔だった。

「クッ、、、!この木邪魔だよ!!」


ドンッ!


曲がり道に生えた木を押した。その時だった。


バキッ!メリメリメリ、、、ズンッ!


「、、、へ?」

そこまで力は入れてなかった。扉を開けるくらいの力で押したはずなのに、木は音を立てて倒れた。土煙がもうもうと立ち上がる中、俺はその場に立ち尽くしていた。

「く、、、腐ってたのか?」

折れた木に近づいて確かめてみる。別にどこも腐ってはおらず、至って健康でしっかりした木だった。腐臭も全然しない。

「そんな、、、バカな。」

さっきまであんなに急いでいたのに、目の前の異常に足を止めてしまった。

フラフラと後ずさりし近くにあった岩にトンっと手を置いた。


ズンッ!ビキビキ、、、


そっと手を置いただけなのに、岩は手を置いたところから真っ二つに裂けた。

「あっ、、、ああっ!」

すぐに手を退け自分の厚くなった胸に添える。

「なんなんだよ、、、さっきから、、、俺は、、、俺はどうしちまったんだよ、、、」

急に体を悪寒が襲った。体は熱いのに心は妙に冷えて寒暖差がグルグルと渦巻いた。


「、、、あ、、、あぁ、、、うわぁ!」


急に何かから追われるような錯覚を起こし、その場から闇雲に逃げ出す。もはや、家に帰ることなど考えられなかった。


「ハァ、、、ハァ、、、あれ?なんでだよ、、、」


逃げている最中でも違和感という恐怖は追ってくる。

自分の足が速すぎる。景色が後ろへありえない速度で飛んでいく。それに息も全く切れない。

怖くなって立ち止まった。いったいどこまで来てしまったのだろうと辺りを見回してみる。


ふと後ろを見ると、彼は目を見開いて叫んだ。


自分が走って来た道は、まるで地獄絵図だった。


木々はなぎ倒され、道はえぐれ、草は一本も生えていなかった。

まるで巨大な何かが這いずりまわったかのように。

その道を作ったのは、、、



『自分』


「うわァァァァァァ!!!」

俺はその場にうずくまった。身体中が熱い。汗が滝のように吹き出し、鼓動は早くなり、叫び声が耳の中でこだまする。


すると急に耳がおかしくなった。


キィィィィィイイイイイイイイイイイ!!!!


「ぐぅ!あ、、、ぐぁ!」

強い耳鳴りが急に襲って来た。まるでこの世の全ての音を聞き取っているかのように。

それだけではない。鼻はありとあらゆる匂いを感じとった。様々な匂いが脳を狂わし吐き気の指令を強引に出した。

目は遠方の景色と目の前の景色を交互にピントを合わせる。目の前が見えたと思えばすぐにぼやけ遠くの方にピントが合う。かと思えば今度は近くにピントが合う。

巡るましく変わる世界に俺はついて行けなかった。

頭は悲鳴をあげ、耳は壊れ、目は今にも飛び出しそうなほどだった。

「あァァァァァァ、、、グァァァア!!」

どんなにのたうちまわってもそれが止まることはない。むしろ、辺りの地面を削りどんどん自分の体が埋もれていく。



「やめろぉぉぉおおおおおおおお!!!!!」



叫んだ。誰かに向かって叫んだ。その誰かはわからないがとにかく叫んだ。


すると止まった。


元に戻った。


辺りはシンと静まり返り、自分の荒い息だけが耳に届いた。


「ハァ、、、ハァ、、、フゥ、、、」

呼吸はすぐに整い鼓動も徐々に静まった。

「俺は、、、俺は、、、いったい?」

目の前で起こる急展開の連続。それに脳が追いつかず体だけが独走しているようだった。


「何故だ、、、何故だ、、、何故お前は、、、」

「んあ?」

静かになった耳元で誰かが何かを話している。その声は体の中から発せられているようだった。

「何故、、、汝の体は我が意のままにならぬ、、、貴様いったい何をしたのだ、、、」

「なるほどね、今俺の体の中に、、、」

彼の頭は異常の連続で変に落ち着いていた。そしてその頭で導き出した答えを元に、体の中で話す何かに言った。


「でてけ。」

俺は冷たくそう言った。いや、案外当然の反応かもしれないが。

「いいからでてけ。これは俺の体だぞ。勝手に操られちゃ困る。それにこの力だ、まともな生活ができんだろう。」

「いや、そうしたいのはやまやまなのだが、、、何故か出来ぬのだ。さっきから幾度となく試してあるのだが、不思議なことになかなか離れぬのだ。」

「そんなこと知るか。さっさと出ろ。こんな力、俺にはごめんだ。」

「出れるものならとっくに出ておる。しかしできぬのだ。信じてくれ。」

「うっせーな。とにかく出ろ。こっちは迷惑してんだよ。」

「いやしかし、、、」

戸惑う声。俺はそれにだんだんイライラして来た。勝手に人の体の中に入ったと思えば、出られないだと?ふざけんな、こんな奴なんかに俺の人生をめちゃくちゃにされてたまるか。必ず追い出して、ぶっ潰してやる。


怒りは徐々にあらわになって来た。自分でもこんなに怒れるのかと疑問に思えるくらいに。俺は背中に思いっきり力を込めて叫んだ。



「いいからでてけつってんだよ!!!この野郎!!」


ドシュ!バリュ!


すると腰の少し上から何かが出てきた。尻尾のようだが自分の意思とは関係なしに動いている。俺は怒る頭をそのままにチラリと背後を見た。



そこには蛇が2匹、自分の腰から生えていた。その頭をよく見るとあの寺に描かれていた蛇によく似ている。

出てきた蛇どもはゆっくりと鎌首を持ち上げてキョロキョロと辺りを見回している。

「なるほど、、、こうすれば外に出せるのね。」

俺はこのまま残りの頭を追い出そうと体に力を入れた。しかし、蛇どもは俺の顔を見るなりこんなことを言い出した。

「お主、、、もしや、、、いや、、、まさかな。」

「でも兄ちゃん、、、この感じ、、、この居心地の良さ、、、間違いないよ。」

「あ?なんだお前ら。ま、いいや。待ってろ、今すぐ他の奴らも追い出してやっからな。」

こいつらの話など聞く必要なんてない。そう思っていた。


でも何故だろう。



こいつらには初めて会った気がしない。



「まっ待ってくれ!せめて話をさせてくれ!」

「俺の要求なんて聞かないって言ったのそっちだよね?俺の話は聞かないで自分たちの話だけ聞いてくれってのは随分お偉い立場にいるんだね!」

「頼む!せめて数分、いや数十秒だけでも!」

「ダメ、この調子で他の奴らも追い出すから。一切の抵抗もするなよ?」

「いや、お主わかっておるのか?もし我らを追い出して仕舞えばいよいよこの世の終わりなのだぞ?我らは今、お主という要石に括り付けられている状態にあるのだ。それをお主が離して仕舞えばどうなるか、想像できぬほど、お主は馬鹿ではあるまい。」



「うっせぇ!んなこたどうでもいいんだよ!いいからでてけっつってんのこっちは!お前らの言い分なんか知らんッ!」

とにかく全力で拒絶した。怒りで沸騰した頭は他のことを考えられずにいた。

この世界のことさえも。

しかし、そいつは引き下がらなかった。

さらにとんでもないことも付け加えて。



「お主、、、一千年前の記憶はないか?あの日、兄弟が忌々しい人間どもに八つ裂きにされたことを。」

「は、、、?んなもん知るわけ、、、」


知るわけがない、そう答えようとしたその時だった。



燃える村、火を噴く自分、逃げ惑う人間、刀を持った英雄、酒樽、霊媒師、封印のツボ、、、



一瞬にして目の前に現れた情景。それは寺の壁に描かれていた絵より鮮明に映し出された。

「な、、、!なんなんだ今の!お前ら、今度は何をした!?」

「やはりか、、、信じてもらえはしないと思うがあえて言おう、、、


お主、、、いや、もうそう呼ぶのはよそう。



『兄上』今のはあなたの前前前世の記憶でございます。」


「なん、、、だと?いったい、、、何を言っているんだ、、、?お前ら、、、」

脳の理解が追いつかなかった。それを無視してそいつは続けた。

「お待ちしておりました、、、兄上が最後まで人間と戦い、そして敗れ、死んだあの時から、、、時がすぎ、転生して我々の前に現れてくれるこの日を、、、何千年待ったことか、、、」

「わ、、、分からん。俺には理解できないよ。お前らのことも俺の前世のことも、全部。」

「兄上は何千年もの月日で力を失ってしまったのでございます。それが今こうしてまた1つに戻ることで取り戻すことができた、、、神の力を持った我らが何故天界を追われたのか、、、片時も忘れたことはありません。」

「ちょっと待て、急に話が飛んだぞ。とにかく、結論を簡潔にまとめてくれ、お前らが俺のことを本当の兄だと思ってるんだったら兄の命令に背くなよ?」

「はい、まとめると兄上は我らの長男であり、我ら大蛇の中心核、、、いわゆる本体と言えばよろしいでしょう。それが千年前に人間たちに殺され、今こうして転生を繰り返して我らの前に現れ元に戻った。そういうことでございます。」


かなり意味不明だったが、どこかで理解している自分がいた。要は自分はこいつらの長男でありその生まれ変わり。いわゆるこの化け物らを束ねるボス的な存在なわけだ。見るところこいつらは嘘をついているようではなかったし、出て行くことができないというのもあながち間違いではなさそうだ。こんな時に小説の広い世界感に対応できる頭が働くとは、小説を読んでおいてよかったと心底安心した。


しかし、それは逆に自分の生活が危なくなる。ちょっと触っただけで物が大破するのだ。



広い世界感に対応した頭は1つの結論に至った。



「もう、ここにはいられない。」


俺は弟たちに体の中に戻るように命じた。すると黙って腰の部分に消え元の腰に戻った。まさかと思ってチョンと割れた岩の破片を押してみる。やはり粉々に砕け散ってしまった。俺はホゥとため息をつくと黙って山を降りた。最新の注意を払って下山したので山の木々は傷つかずに済んだ。

山の麓は警察やら救急車やらで賑わっていた。どうやら全力で俺のことを探しているらしい。だからと言って俺の姿を見せるわけにはいかない。このまま行方不明という形で捜査を打ち切ってもらいたい。そう思った。上半身は裸だったので人目につかない裏道をそっと通った。家までの道のりは長かったような短かったような、そんな不思議な時間だった。ジワジワと鳴く蝉が夏だということを物語る。上半身は涼しかったが走っている下半身はとても暑かった。


家に着いた。そういえば家を出てから何日経ったのだろう。部屋にあるデジタル型の時計があれば見れるのだが、おそらく今の自分が扱えばスイッチを入れた瞬間に大破するだろう。

そんなことを考えながら庭の鉢植えを小指でトンと押す。鉢植えは倒れてしまったが幸いにも割れなかった。そのことに安心しながら下にある家の鍵を取る。我が家はもし誰かが家の鍵を忘れてもこの場所に予備を置くようにしている。すぐに帰れるし両親もいたので鍵を持っていかなかった自分をちょっとだけ後悔した。でもあんなことが起こるなんて誰も予測できないと思う。こんな時に鍵を忘れた言い訳を考える自分はきっとどうかしているな、と思いながらそっと鍵をすくう。鍵にはチェーンが付いているのでそこに小指を引っ掛ける。プラプラと左右に揺れる鍵をちょっとずつ鍵穴に近づける。

なかなか入らない。そもそも持てないのだ。持てば壊れ鍵としての役割を果たせない。かなり変な体勢で鍵穴に鍵を刺そうと努力する。しかし、鍵は一向に刺さってくれない。

「クッソ、、、鍵を開けるだけなのに、、、」

約30分くらい粘っていただろうか。顔の表面は汗でヌルヌルになりかなり良く見えるようになった視界をボヤけさせた。もうこのまま頑張っても開かないのでは、とも感じた。

そんな時、俺はふと思った。

「ひょっとして、、、?」

そそくさに立ち上がり汗を手で拭うと小指の先っちょを少しだけドアに引っ掛けた。幸いにも鍵は開いていた。かけ忘れたのだろうか、それとも俺が帰ってくることを見越して開け置いたのか。どっちにせよ有難いが、不用心だ。ドアノブは回す式ではなく手前に引く式だったのでクッと後ろに体重を倒すだけでよかった。


訂正 よくはなかった。


俺がちょっと体制を倒すだけで扉は猛スピードで開いた。慣性の法則で俺は後方に吹っ飛ばされる。

急いで受け身を取らなくては、と考えた瞬間


バギッ!


ドサッと自分の体が倒れるのと同時に小指はあるものを掴んでいることに気づいた。

それはドアの取っ手の部分だった。

それの方向を見た時の視界に反動で閉まるドアが見えた。

「待て!おい!」

叫ぶと同時に体が動き、閉まり行くドアの間を体が通った。


ドォン!


玄関の奥にある倉庫に自分の体が突っ込んだ。取り敢えず家の中には入れた、、、けど倉庫は自分を中心にほこりが舞った。

やれやれと呟いた瞬間にドアがバタンと閉まった。


ほこりが舞う倉庫から出てリビングに行く。そしてデジタル型の時計を見る。日付は8月4日、どうやら山に行った日から一晩しか経っていないと少しだけホッとした。しかし自分はここに居てはいけない。ここに居ては大切な人たちがたくさん傷つく。


自分が生まれてからずっと過ごしてきた家。


笑って、泣いて、また笑った沢山の思い出が詰まった家。


それとも今日でお別れだ。そう考えるとなんだかとても寂しくなった。


俺はそっと室内を回った。忘れないように、思い出を忘れないために。ちょっとした壁の傷やシミも立派な思い出だ。その1つ1つを思い出しながら家の中を歩く。


気がつけば日は傾き夕方。そろそろ両親も帰ってくる。

俺は幼い時のように親の帰りを待った。



会って甘えるためにではない。



会って別れを伝えるために。



「そういえば玄関のドアを壊してしまったな、、、大丈夫かな。」

少しだけそのことが気にかかった。


そして玄関の方でカチャリと音がする。


親が帰ってきた。


「ただいまー、、、?正希?居るの!?正希!」

俺は黙っていた。ただただ黙っていた。

「正希!どうしたのそんなところに裸で立って!みんな心配したのよ。何があったのかちゃんと話してちょうだい!」

「うん、、、でもお父さんが帰ってきてからでいい?」

「別に構わないけど、、、警察からなんの連絡も来なかったから心配したわ。とにかく無事でよかった。で、なんで裸なの?いくら暑いからって言ってもせめて服くらいは着てちょうだい。はしたないから。」

お母さんは俺のことを何だかんだ心配してくれていた。その優しさがとっても苦しくて胸が締め付けられる。

するとお父さんも帰ってきてくれた。

「正希!お前いったいどこに行ってたんだ!こんなに親を心配させて!まったく、、、いったいどれほどの方に迷惑と心配かけたと思ってるんだ!!」

「ごめん、、、父さん。」

「、、、とにかく無事でよかった。心配したんだぞ?お前のこと。」


父さんも母さんも寄って集って、俺に優しい。

せめて思いっきり叱ってくれれば別れが辛くなかったのに。こんなに苦しむことはないのに。

ふと気がつくと頰を涙がつたっていた。


何秒か何分か黙っていた。言葉が見つからないってこういうことを言うんだろうな。


そして俺はやっと口を開くことができた。


「父さん、、、母さん、、、今まで、、、本当に、、、本当にありがとう!」

「ん?どうしたの正希?」

「俺、、、俺、、、もうここにはいられないんだ。」

「急に何を言い出すの?落ち着きなさ、、、」


バリバリッ!


親の声など聞きもせず、背中に力を込めて弟たちを外に出す。とりあえず弟たちには目の前の人間を傷つけるなと命令した。そして

弟たちの顔がよく見えるようにそっと部屋の中心に寄った。


「正希、、、!?こっこれは!?」

「世界を滅ぼす力。全てを焼き尽くし、破壊尽くすまで止まらない力。それを俺は持ってしまったんだ。もう後には戻れない。

だから、、、だからね、、、その、、、



さよなら。」




俺は部屋を飛び出した。窓を開けてひたすら山吹色の空の中を走った。後ろでは俺を呼び止める声がする。

聞きたくない声。されど聞こえる声。

俺はくれる夕陽に向かってひたすら走った。

切れない息、疲れない体、


もう自分は人間に戻れない。だけど最後に、、、最後に、、、



大切な人にさよならを言えて良かった。



それだけで良かった。


流れる涙を振り切って俺はこの大地の上を走った。






「そんなことが、、、あったんですね。」

「あぁ、だけどあの時の俺はいい決断をしたと思う。お陰で誰も傷つかずに済んだんだからな。」

「でも、親にまた心配をかけたのでは?そんなすぐに家を出てしまっては、、、」

彼は一瞬顔をしかしめた。でもすぐに笑って

「大丈夫。うちの親もわかってくれたと思うよ。それに前、ちょっと確認しに行ったけど2人ともちゃんと元気でやってるっぽいから。」

「そうですか、、、」

私は彼の言葉を聞きながら、心の中でどうするか悩んでいた。彼は人のために自分の身を誰にも迷惑のかからないところまで逃げた。そして今、身寄りのないものを護っている。

「私は、、、私は、、、これからどうすればいいのでしょうか。」

「んー、こればっかりはお前のことだしな。俺がとやかく言うことは出来ないんだよな。」

本当は自分はどうしたいのだろう。私は自分が知りたい。自分が欲しい。本当の自分が。


「私は、、、誰なのでしょうか?帰る故郷もないし、帰り方もわからない。」

「帰るのなら俺が送ってくよ。そこんとこは安心して。ま、ゆっくり決めればいいさ。時間はあるからな。」

そう言うと彼は立ち上がって部屋を出て行こうとした。きっと私のことを気遣ってくれたのだろう。

その優しさが私の胸に突き刺さる。


「まっ!待ってください!!」

痛む喉を必死に抑え彼を呼び止めた。


「わっ!私を!私をこの世界にいさせてください!私に帰る場所をください!!」


叫んだ。帰る場所が欲しかったと叫んだ。すると彼はピタリと立ち止まってクルリと振り返った。


「別に構わんよ。だけど、お別れはしなくていいの?


君の大切な仲間にさ。」


「あ、、、」

そうだ、私には仲間がいる。共に笑顔を分かち合った大切な友達。

彼らのことを忘れて、私は何てことを言ってしまったのだろう。そうすると急に後悔の念が胸に押し寄せた。

すると喉の痛みは消えて代わりに心が痛くなった。

「私、、、私、、、何て酷いことを、、、言って!」

急に大量の涙が溢れ出した。そして喉が張りさけるほど声を上げて泣いた。シーツは涙と鼻水でグシャグシャになってしまった。


そんな震える私の体を誰かがそっと包んでくれた。


「大丈夫だよ。ちゃんと反省したなら良し。頭がパニックになったんだよね、分かるよ。よしよし。」


優しい声は私の胸のクレバスをそっと埋めてくれた。


「私、、、!私、、、!」

「大丈夫、、、大丈夫。今は好きなだけ泣いていいよ。俺が側にいるから。落ち着いたら謝りに行こう?俺も一緒に行ってあげるから。」


「ウッ、、、ウウッ、、、ウワァァァアアアアン!!ヒッグ、、、!エッグ、、、!グゥ、、、ウァアアア、、、アアアアン、、、!」

私は彼の胸の中でひたすら泣いた。

流れる涙が止まるまでずっと。



どれだけの時が経っただろうか。震えていた体はとっくに落ち着いて、喉と鼻がヒリヒリと痛んだ。

私はチーンと鼻をかむと顔を洗いに洗面所に向かった。

鏡に映った自分は酷い顔をしていた。でもその顔を見ると可笑しくって笑った。そうするともっと酷くなってまた笑った。

やっと顔を洗うと目の腫れが落ち着いて涙の跡も消えた。自分はこんな顔をしていたのかとそっと頰に手を置いてみる。フニッと柔らかい感触が自分の手をつたった。

「行くとき言ってくれ。準備すっから。」

「ハァイ。」

準備、、、?いったい何をするんだろう。そう思うと居ても立っても居られなくなった。私は急いで身なりを整えると、彼にオーケーのサインを出した。


「それじゃ行くか。しっかり掴まってろよ。」

「え、、、?どうするんですか?何もないですよ?」

「大丈夫。お前は落ちないことだけを考えていればいい。」

「はぁ、、、」

彼は家の外に出て私をしっかりと掴んだ。私も彼から離れないようしっかり彼の左手を両手で掴む。

「でも本当に、、、何の機械もないのにどうやって?」



「次元を超えるのに装置なんか必要ないんだよ。見てな。」



「、、、へ?」




彼はすっと右手を前にかざした。そしてニヤリと笑って笑った。



グッ!!



彼が何もない空間をグッと握った。するとその周りの景色がグシャリと歪み、割れた。


目の前の異常に脳が追いつていなかった。


「行くぞ。早くしないと戻るから。」


と言いながら彼はグイッと私を空間にできた穴に入れた。

私は理解することができなかった。突然彼が手を握ったかと思えば、急に何もないところが割れて穴を作った。しかもその穴はそこが見えない。


ゴゥ!


「キャッ!」

できた穴は風を吹き込み私をどこかに連れて行こうとしていた。だが、彼はその穴にゆっくりと歩いて行く。手を繋いでいるので私も同じスピードで歩く。

2人が入ると穴は閉じた。私は何も分からなかったので彼の腕をギュウッと掴んだ。


「くれぐれも落ちないでくれよ?救出が大変だから。」

「わ、、、はひ!」

私はそっと下を覗いてみた。まさしく底なしの穴。濃い藍色をした景色がグルグルと歪み、気が狂いそうだ。そんな不思議な空間の中で私は問うた。

「こ、、、ここはいったいどこなんですか?」

「次元と次元の隙間。着いたら詳しく説明すっから。」

「はぁ、、、」

思えば彼は何もない地面を歩いている。かといって宙に浮いているわけでもなさそうだ。私を助けてくれたことには感謝しているもののどこか不思議な雰囲気は私を少しばかり不安にした。

「着いたぞ。多分この辺に、、、」

彼が着いたと言って手探りで何かを探す。いったい何をしているのだろう。

「あったあった。おそらくここ!」


グッ!


また手を握った。するとできた穴は風が外に吹き出した。その風に押されるように私たちは外に出た。


パッ


「へ、、、?」

「落ちるぞ。しっかり掴まってろな。」

穴の先は『空』だった。雲が自分たちと同じ高さにいる。そして下から風がビュウッと吹いた。

下を見るべきではなかったと瞬時に後悔した。


「イヤァァァァァァアアアアアアアアアアッ!!!」


この世の全ての物質は万有引力の法則に従って落ちて行く。もちろんそれはUMAであろうと八岐大蛇であろうと従わなくてはならない法則。


「アアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

私が叫んでる横で彼は呑気に携帯を取り出していた。

そして誰かに電話をかけた。それは今の私には到底気づけなかった。


「あー、もしもし?ななしさん。今、こっちに来たから多分あと2分くらいで着くと思う。え?あぁ、UMAの子は一緒だよ。そんじゃまた後で。」

「ヒィィィイイイイイイイイイ!!!!

死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!!!!!!!!」


ついに私はカクンと意識を失った。

あぁ、結局謝れなかったなぁ、短い人生だったなぁと後悔しながら。


「ん?どうした?あぁ、意識を失っちゃったのね。ま、無理もないか。しょうがないしこのまま落ちるか。」

彼は携帯をズボンにしまうと失神した彼女を抱き寄せながらそのまま文字通り落ちていった。



同時刻

「ボスからの連絡は?」

「あぁ、後2分くらいで着くってさ。それまで気長に待とうよ。」

「2分か、、、まぁまぁ長いなぁ。」

自分たちのボスが空中から落下中に、地上では2人の化け物が話し合っていた。他のUMAは2人とは別の場所に待機させた。


「あ!キタキタ!キタキタ!来たよ、キタキタ!」

「はしゃがないでよ、、、ななしさん。」

ななしさんの視線の先には空から降ってくる男が1人。

「美月!空から我らのボスが!」

「知らん。いいからこっちに来るように呼べ。」

「ヘィヘィ。美月、、、いや、もうその名で呼ぶのはやめたほうがいいかな?」

「どっちでもいいよ。もうそろそろ私たちの仕事も終わりだしね。」

天から降って来るものは何も雨や雪、雷だけではない。時には人間だって降って来る。UMAだって降って来る。



フワッ、、、トン



「よっす、お前ら。久しぶり。」

「ボス〜、お久〜。」

「、、、その手に持っている子は何?」

「あぁ、UMAの子だよ。俺が保護したって連絡したやつ。ほら、起きろ。」

ボスと呼ばれる人が彼女を揺すると、彼女はゆっくりと目を開けた。

「ん、、、ここは何処ですか?」

「ちょっとちょっとあんた!なに、ボスの腕の中にいんのよ!そこに居ていいのは私だけなの!どいてッ!」

急に美月がぷんぷんと怒り出しネス子を跳ね除けるように正希の腕の中に入る。

「快堕天、、、お前はしたないぞ。あまつさえ他人の前で。」

「あ〜ん、ボスゥ〜。会いたかったよぉ。」

さっきまであんなに起こっていたのに、今度は猫のように戯れる美月。そんな彼女の本当の名前は『快堕天』という。

「あ、、、ここまで送ってくれてありがとうございました。」

「えっ、あぁ、うん。1人でも大丈夫か?」

「大丈夫ですッ!心配かけてすみません。」

笑いながら謝るネス子。そんな彼女の姿を見ていた正希は

(ふーん、こいつ、こんな笑顔をしていたのか。)

と思った。一緒にいる中、彼は一度も彼女の笑顔を見ていなかったのだ。それが今、こうして笑っている。そんな明るい彼女の姿を見て彼はホッとした。


「でも、、、いくつか質問させてください!」

「いいよ。答えられる範囲で答えっから。」

「あの、、、さっきの穴は何だったんですか!?景色が急に割れたら変な場所に出るし、、、」

「そのことなら心配なく。あれは次元と次元の隙間、って前にも言ったか。用は世界と世界の境界線みたいなところ。あそこを通るだけでいろんな世界に行ける。ま、迷ったらジ・エンドだけど。」

笑いながら答える彼。規模というか話が大きすぎて若干ついていけない自分がいる。


「じっ、じゃあ!あなたたちはいったいなんなんですか!?私を助けてくれるし、ここまでしてくれるなんて、きっと只者じゃないってことはわかります。だけど、いまいちピンと来なくて、、、」

私は首を傾げて聞いてみた。すると彼らは笑顔で答えくれた。まるでそれでいるのを何のためらいも後悔もしていないように。



「俺は『元神』」



「僕は『元人間』かな。」



「私は『悪魔』、、、へへへ、よろしくね。」


さらにわかんなくなった、、、。

特撮の世界を見ている感じで読んでくれると嬉しいな、、、

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