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あくびの王様

作者: 安岡 真澄

 ある国の王様が、とっても退屈な毎日を送っていました。王様の国は平和で栄えており、問題が起こっても大臣が全部解決してしまうので、王様は椅子に座ってあくびをするくらいしかする事がありませんでした。あまりに退屈な国なので、王様はこっそり国を抜け出しました。問題がたくさんあって、王様が大忙しな国はないものかと探しに行くのです。

 国を抜け出して森の中に入って行くと、一匹の鹿が座り込んでいました。よくよく見ると、鹿は足を怪我しています。


「こりゃあいかん」


 王様は羽織っていた立派なマントをびりびり破いて、包帯代わりに鹿の脚に巻いてあげました。鹿は大喜びして、王様のほっぺたをぺろぺろ舐めながら尋ねました。


「ありがとう、優しい王様。王様は、どこの国の王様なの?」


 王様は、短くなったマントでほっぺたを拭きながら答えました。


「今は、ただの王様じゃ。この辺りに、問題がたくさんある国はないかの?」


「さあね、人間の国のことなんかあんまり知らないよ。それなら、僕の友達のキツツキさんが困っているんだけど、助けてあげてくれないかな?」


 「そりゃあいかん」と言って、王様はキツツキの所へすっとんで行きました。キツツキはひどい風邪をひいていて、ごほごほと咳をしながら、弱弱しく木をくちばしでつついていました。でも、木には傷一つついていません。やがてキツツキはぽとりと木から落ちてしまいました。

 王様はキツツキを優しく手の平で包み込むと、残っていたマントと王冠を使って、ふわふわ豪華なベッドを作ってあげました。ベッドにキツツキを寝かせると、持って来ていたおやつのクッキーをあげて、一晩中看病しました。

 翌朝、元気になったキツツキは、嬉しくって王様の頭をこんこんとつつきながら言いました。


「ありがとう、優しい王様。お礼に、俺が何かできることはないかな?」


 王様は頭をぽりぽり掻きながら答えました。


「かゆいから、そんなに頭をつつかないでおくれ。それともし知っていれば、問題がたくさんある国を教えておくれ」


 キツツキは首をかしげます。


「人間は好き勝手にやってるじゃないか。僕たち動物を鉄砲で撃ったり、木をたくさん切ったりさ。それより、人間の王様なんかやめてさ、俺たちの王様になっておくれよ」


 「それもいいのう」と王様は思いました。王冠もマントもない王様は、人間の王様になるには格好悪そうです。それにこの森に来てから、まだ一度もあくびをしていません。王様は、この森の王様になることを決めました。すると、王冠のかわりに立派なたてがみが生えてきて、マントのかわりにきれいな黄金の毛が全身をつつみました。王様はライオンになったのです。

 ライオンになった王様は、動物たちの問題を大忙しで解決していきました。あくびをする暇もありません。やがて森から問題はなくなっていき、動物たちは王様にとっても感謝しました。しかし、飲まず食わずで働き続けた王様は、どんどん弱っていきました。森の真ん中のベッドでぐったりとしている王様の所に、最初に助けた鹿がやってきました。


「ねえ、ライオンの王様。王様は、王様なのに何も食べてないでしょう。ほら、僕をお食べよ。足の怪我も治って、すっかり大きくなったよ。これも王様のおかげだよ。だから、僕を食べて元気になって」


 王様はぐったりしたまま、ゆっくりと首を横に振りました。

 そこへ、鹿の友達のキツツキがやって来て言いました。


「じゃあ王様、俺をお食べよ。鹿くんは大きくて食べにくいかもしれないけど、俺の大きさなら食べやすいでしょ。今朝イチゴを食べたから、きっとイチゴの味がするよ」


 王様はまたゆっくりと首を横に振りました。そしてにっこりほほ笑むと、大きなあくびを一つして、眠るように死んでしまいました。

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