天才詐欺師の窮地
暗い話が続きますが読み進めて頂くと有り難いです
黒雲達の会議室は静まり返っていた
いつもの様な姦しいのと反対に緊張感を見せて現れる静寂なのではない。
誰も喋る事が出来ない。喋ると言う選択肢が論外と思える位の雰囲気であった
この場にいる誰もがこれが夢であり目覚めたらいつも通りのメンバーが研究し合い近辺報告に花を咲かせる、そんな当たり前で楽しい日々ならと思うが。
それは現実逃避の為の夢でしかなく便利な夢ではないのだ
それを痛い程理解している当事者たちは額に汗を垂らし言葉を発せて居なかった
そしてそんな状況をいつも打開しようとするのはソラであった
ただ、今回の場合を除いてだが・・・
『あ、あの・・・、次の作戦とかは無いのですか?』
「あると思うか?」
黒雲の冷たく平坦な声はソラに突き刺さった。
先程と違い冷静なのか声を荒げている様子は見えないがそれでも感情を押し殺し複雑な、何が起こっても不思議ではない雰囲気だ
『で、ですが!こんな最悪な状況を打破するのが琥珀さんでは無いですか!』
「最悪な状況?最下の状況だろ?ネズミたちの6割以上が戦闘不能、それに対して向こうの被害は無し。何故相手がこちらの奇襲に気付けたのかすら分からない。そして時間の問題でダンジョンに攻めて来るだろう。これの状況をどうやって打破するんだ?なぁ?教えてくれよ、後2週間で敵の軍勢が来るんだぞ?どうやって打破するんだよ?!」
感情が溢れ出て黒雲が隠しておきたかった、出したくなかった、押さえて置きたかった感情が川の洪水で堤防が決壊する様に声を荒げて口から漏れ出した
『そ、それは・・・、でも何かある筈です!ここでどれだけ考えて、悩んでも私には思いつきません。それは結果的に見たら諦めた方が賢くて無駄な労力を使わないでしょう。でも私は諦めません!どんな人に馬鹿にされても諦めません!』
「何でだよ・・・?何でそんな無駄で馬鹿で非合理的で非効率的で非生産的で嗤われるような事が出来るんだよ!?」
『このダンジョンが好きだからです。好きだからですよ、負ける可能性が濃厚でも一瞬一秒でもこのダンジョンの事を考えて居たい。目を逸らして後悔したくないからです!それに私なら打開策は思いつきません。でもダンジョンマスターであるあなた、黒雲琥珀なら出来ると信じています!根拠はありません、どこにもありません。でも分かるんです!琥珀さんなら出来ると!』
「出来ねぇよ。出来る訳無いだろ!自分を当然の様に下げて思考を放棄した挙句に問題を全て誰かに押し付けるなよ。現実見ろよ、選択肢は限りなく少ないんだ。それはお前でも思いつくし俺でも思いつく、そこに第三の選択が思いつかないのは俺とお前は同じだよ!」
最初の方の口調は平たんに起伏が少なかったが段々と声が波を打って行った
作戦なら黒雲の脳内で思いつく限り全て考えた
そして全てを否定し新たに考えた
それに成果が伴わなかった
黒雲の感じている尋常ではないプレッシャーにソラの言葉は逆効果だったのである。鬱病患者に頑張ってと言ってはいけない事に近く。思考を続けて出した結論が最悪で合った者にまた考えろと言うのは残酷な物なのだ
『し、しかし!・・・私は!』
「いつもは働いて無い癖に偉そうな事を言うなよ。思い付かないのは普段何もしていない自分の責任だろ?勝手にそこを美化するなよ」
「お、お主!黙って聞いてれば・・・。言葉を選べ!それに今やるべき行動がこんなに馬鹿げた事なのか?!こんなに無駄な事をやる時間なのか?!どうなのじゃ?!」
レイニアムが居ても立ってもいられなくなり叫びとも取れる声を出した
ただ、その言葉が黒雲に届く筈が無かった
「うるせぇよ、少しは黙れよ。配下の分際で俺に指示を出すなよ。ホントに失敗したぜ、何で友好的にやろうと思ったのか今にして考えれば馬鹿みたいだよ」
「な、何が言いたいのじゃ・・・?」
「分からないから使えねぇんだよ。俺に対して指示も反論もしない思考放棄した奴隷みたいな配下にすれば良かったって言ってるんだよ!奴隷は短期的に見た時の労働力は高いんだよ、それにお前達は不死身に近く俺の命令には基本的には逆らえない。だったら奴隷並みの高い労働力が永遠と使えるんだからな」
「ほ、ホントに。本心から言っておるのか・・・?」
「これが冗談に聞こえるか?」
『もう、やめてください!こんなの空しすぎます!』
ソラがこの場の雰囲気に勝てなく声を荒らげ黒雲に投げるが笑顔の一つも戻らない
「お前ら、いい加減にしろよ。黒雲!ゼロ!少し落ち着け、ソラは考えを整理しろ。後で再集合で良いだろ?」
「その態度も気に入らないんだよ。自分は全てを客観的に達観的に見て自分の事を正しいと思ってるその考えが!」
「そんな事考えて居ない!」
「だったら物事を客観的にも見れない無能って事か?こっちの奇襲情報がバレたのは何でだ?そして漏れた事に何故気が付かなかった?仕事も出来ねぇ無能が口を挟むなよ」
その言葉で黒雲を含む全ての者達が口を閉ざした
それは最初の誰も喋れる雰囲気ではない独特の雰囲気ではない
誰も喋りたくない、口を開きたくない。そんな雰囲気だった
そしてその重たい空気の中で黒雲が重たい口を開いた
「もう一度奇襲作戦を掛ける。作戦内容は残り4割のネズミの内3割を左右から大きく回り込ませて奇襲だ」
「分かったのじゃ」
その言葉を残しレイニアム達は会議室を後にしようとした
「おい、どこに行く?」
「具体的な経路を決めるんだよ。ネズミたちの進行の最善の道をな」
黒雲はきょとんとした目でゼノンを見た
「何言ってるんだ?ネズミだけじゃなくお前達も出るんだぞ。失敗したらネズミと共に死ね」
そして作戦内容が具体的に決定した
10日後の午前2時に紅葉達の率いる軍勢の前にネズミを陽動として出す。そしてそのネズミが逃げて左右に分かれた所で待機していたネズミたちが本当の奇襲を仕掛ける
戦力は分散されていて少ない残存勢力で勝てる可能性に賭けたのだ
紅葉の居るキャンプでは休憩が開かれていた
「ホントに余裕でしたね」
アルトが戦争中の進軍にも関わらず酒を飲酒し軽く酔っぱらっていた
そして紅葉は飲んではいないが黙認はしていた
「次の作戦内容は左右に戦力を分散させて奇襲ですか・・・。考えましたね」
「しかし、それが筒抜けな我々には関係が無いですね。紅葉様!」
「えぇ、勿論です」
「では、作戦はどのように?」
「軍の大半を相手のネズミの集合場所にします。そしてそれだと気付かれるのでここに幻影魔法で嘘の軍隊を残して相手に信じ込ませます。それを夜に行います」
アルトは大きく手を振り上げて敬礼のポーズを取った
「了解であります!」
(お兄ちゃん待っててね。今行くから。そしてお兄ちゃんの恐怖と憎悪に満ちた顔を見せてね、それも全部知った上で愛してあげるから)
作戦当日
紅葉達のベースキャンプは左側にあった
そしてそこの一番安全である場所で優雅にコーヒーを楽しんでいた
そして紅葉は時計の時を刻む音を心地よく感じながら午前二時に成るのを待っていた
時計の秒針が動く度に気持ちが跳ね上がりいつもの不愛想で無表情な顔がどこか微笑んでいる気がした
秒針が12時をゆっくりと通過した、その間の一秒は紅葉にとっては永遠とも取れる程長い時間だろう。そして分針が2時の元へ上がり移動した
それが開戦の合図であり黒雲の終わりの筈だった
そう、筈だった
それから数分経っても奇襲が来る気配は無かった
紅葉達の移動がバレる訳もなく黒雲達の作戦が変更されることも無い
配下達が勝手に作戦を変えたと考えるがそれが出来ない事を知っている為即座に否定した
そして自分の聞いた時間帯が間違えていたのかと考えディスプレイの映像を過去に戻したが
「な、何で・・・?この時間帯で合っている筈です。作戦が変わる事などあり得ないのです・・・」
それを嘲笑うかのようにふと画面のディスプレイが変わった
そこからは微笑を零した聞き覚えのある笑い声が聞こえた
その声は余裕に満ちていて全ての物事を見通していそうな声だった
雰囲気もその微笑そのものでこの微笑を聞いた事がある者は吐き気を覚えるだろう
それはトラウマに植え付けられた屈辱的な詐欺師の、天才詐欺師の見下した屑な微笑で合った
「よう、久しぶりだな。もしかして本当に俺に勝てると思ってたのか?」
「お兄ちゃん・・・?」
そこに映って居たのは余裕そうで全てを見通している様な目をしていてスーツを着こなしている。数日前とは天と地の差がある
黒雲琥珀だった
どうでしたか?
感想が2通も来たので頑張って二日連続投稿してみました。これからは多分週一、良くて週2ですかね
前回の話は凄く暗くて今回も殆どが暗い話でした。最後のは何だって?次話のお楽しみです
この話も切る所が無くて長く成ってしまいました。もっと短く作者を楽にしたい!
これ位であとがきは良いですかね
感想、リクエスト、ブックマーク、レビュー待ってます
ではまた次回




