表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スノードロップ  作者: ホワイト
1章 【雪の雫】
1/1

第1章 1話【逆境の中の希望】

 小学校の頃、友達がいない彼女に対して先生はアドバイスをした。


「好きだと思って接すれば、相手もそう思って接してくれるよ」


 彼女はその言葉を今でも覚えている。 高校生になった今でも。


 ーー嘘つき。

  走りながらあの時の先生に対して思った。無関係という態度を取っていれば、相手も同じ態度をとってくれる。好きという部分を言い換えればこうなるし、意味は一緒だ。先生を信じるなら、正しい考えのはすだ。なのに、先生は嘘つきだった。この考えは間違っていた。何故ならば、結城ユウキいつ花は今……


「はぁ、はぁっ……」


 無関係という態度を取っていた人に、追われているからだ。


 ♦︎♢♦︎♢


 結城 いつ花は変わり者だった。 人とは180度違う考えをするし、空気の読めない発言をして相手を困らせたりした。でもそれに悪気はないし狙っているわけでもない。これが性格であり、直しようのない現実だ。

  結城は小学校、中学校、そして今と年齢が大きくなるにつれて一人が普通になっていった。男子は結城に話しかけてくれた。その男子の言葉はいつも「付き合ってください」だった。 結城はさらに女子との溝ができ、今は嫌われるだけでなく前よりも陰口をたたかれるようになった。

  今日も高校での一人を終え、結城は帰路についた。


「すみませーん」


  背後から可愛らしい声がした。すみれ色のショートボブの髪を妖艶に揺らし振り返ると、そこにはフードを深くかぶり、目にはゴーグルをした女の子がいた。体格的には同い年だろうか。


「……なに?」


 結城は怪訝そうに尋ねてみた。すると、女の子は懐からマイクを取り出し、大きな声で歌い始めた。結城は意味がわからなく呆然としていると、お腹辺りに熱さを感じた。はっとしてなにが起きているのか確認するためにお腹辺りを見ると、熱さを感じた辺りに音符の形をした炎が飛んできている。

 ーーこれか、これがさっき当たったのか。結城はここで相手が自分に敵意を持っていることを理解した。


 ここ大都市チャリオットでは、みんな能力を持っている。今結城に攻撃してきた少女は恐らく、歌うことにより音符を具現化し、その音符を炎などに変える能力だろう。結城は自分が空気に馴染み、透明になる能力を持っている。その他にも、攻撃手段として相手を凍らしたり出来る。


 そして今、この能力を結城相手に使ってきたということは、つまりそういうことだ。相手は何らかの理由で結城を倒そうとしている。結城は音符を躱し、今自分にできる最大の速さで走った。無愛想な態度で、とにかくこの女の子に対して無関係という態度をとったはずなのに、何故かこちらを攻撃してきた。意味がわからない。本当に嘘つきだ、あのときの先生は。

 

 結城が逃げた途端、女の子は歌うのをやめ追いかける。無関係だと思っていたし、こんな女の子は知らない。けど、相手からしたらなにか関係があるらしい。息を切らしとにかく走る。結城と女の子との距離はあまり開いていない。ずっと走っていると、壁にぶつかりそうになり慌てて止まる。行きどまりだ。女の子は「はーい、逃げ終わり!」と言って笑顔で懐からナイフを取り出す。ナイフまで使うのか、と結城は仰天した。これは覚悟を決めるしかない、と思い能力を発動しようとしたとき。


「えっ、嘘」


 謎の女の子のその言葉を最後に、結城は行きどまりの場所からワープした。


  結城は、ワープしてすぐ男女に覗き込まれた。そんな二人に興味を示さずに辺りを見回すと、ここはどうやら誰かの住宅らしい。この二人の内のどちらかの能力で結城はワープしたのだろうか。


「大丈夫だった!?」


 見回していたら男女の女の方に話しかけられた。結城はなんて返したらいいかわからず、とりあえず首を縦に振っておいた。大丈夫だった、とは、さっきの出来事を見ていたのか?結城は疑問で頭をいっぱいにした。


「あ、えっと、実は私、さっき貴方が追われているの見てたの」


 やっぱりか。結城は小さくため息をついた。走るのに必死で人が見ていただなんて全く気がつかなかった。


「それで、急いで真生……この私の隣の男の子の家に行って、貴方のことを伝えて能力を使ってもらったの。驚かせてごめんね」


 女の子の話は聞き流し、結城は二人の格好を見た。制服で、しかも同じ制服だ。二人のことを校内で見た記憶はないが、同じ高校なことは確かだろう。


「あのー……聞いてるかな?」


「こんなやつ助けずに放っておけば良かったのに」


「真生!ごめんね、気にしないで」


 ごめんね、気にしないでと言われたが、結城はその前の言葉を聞いていなかったから気にするまでもない。とりあえず助けられたのでお礼を言うと、女の子は「どういたしまして!」と真っ直ぐな笑顔を向けた。


「これからどうしようかなぁ。また追ってきそうだよねぇ」


「すぐに来るだろ。何らかの理由でこいつを追ってるなら、こいつの場所もすぐ掴んでくるはずだ」


「あわわ……どうしよう」


 悩む女の子の感情が理解できなかった。自分が追いかけられているわけでもない、名前も知らない他人のことでどうして悩めるのだろう。


「どうして貴方が悩むの?これは私の問題」


「お友達だからだよ!」


「私が貴方と友達になった覚えはない」


 バッサリと言い捨てると、女の子はこちらに一気に近寄り結城の手を取った。無表情な結城の顔に表情を植え付けるかのように、笑顔の花を見せた。


「なら、これからなろう!」


 意味がわからない。またあのときの先生は嘘つきだと確信した。友達になった覚えはない、と拒絶をしたのに、相手は同じ思いで接してくれなかった。それどころか反対だ。本当に訳がわからない。


「はぁ……、菜の花は詐欺に引っかからねえか心配になるぜ。ていうか、お互いの名前知らなくていいのか」


「詐欺になんて引っかからないよ!あ、えっと、私は篠ノシノノイ菜のナノハ高校一年生だよ!よろしくね」


「……結城いつ花。同い年」


「これ俺も言う流れか?俺は上條カミジョウ真生マコトだ。二人と同い年。……まあよろしく」


 自己紹介が終了して小さな沈黙が流れた。静寂の中に一つ音が流れる。ノック音だ。


「まままさか」


 篠ノ井が焦りを示した瞬間、ドアが突き破られた。突き破られた先にいたのは見当通りあの謎の女の子で、結城は身構えた。こんな短時間で来るということと、結城が追いかけられている現場を見てから菜の花が家に行ってワープが間に合ったという点から、ここは行きどまり地点から近いのだろう。


「ま、真生!ワープ!ワープ!」


「うるせえ。俺の能力のワープは一日で一度しか使えねえよ」


「ぶーぶー!真生の役立たずー!」


「本当にうるせえな、緊張感持て!」


 謎の女の子はナイフを宙に投げ、宙から戻ってきたナイフをキャッチした。そしてそのナイフを結城に向かって投げる。結城は颯爽と交わしたが、女の子の攻撃は止まらない。歌って音符を具現化し、それを今度は電気に変えて痺れを与えようとしてくる。上條はどうやら戦闘にはあまり慣れていないらしく、一応は結城の前に立つも音符の電気で痺れを受けて倒れてしまった。どうすればいいものか。


「ねえ……、貴方は何の目的で私を狙うの?」


「貴方が運命の鍵を宿すからに決まってるじゃない。そう、全ては欲望のために!」


 女の子はフードをバサッとあげ、ゴーグルも一時的に首に下げた。すると菜の花が大きく「アイドルのいまりょんだ!」と声をあげた。今はそんなことはどうでもいい。国民的にはアイドルでも、結城的には運命の鍵やら欲望やら訳のわからないことをほざく頭のいかれた女だ。


  いまりょんと呼ばれた女は今度は能力を使うのをやめ近接攻撃を始めた。結城にストレートパンチをしようとし、結城はそれを右手で受け止めた。結城はそろそろ能力を使おうと思い、空気に馴染み透明に変わった。女の子は結城が能力を使ったと同時にゴーグルをした。

 結城は女の子の背後に回り、手に力を込め相手を凍らせようとした。だが、女の子は何故か結城の行動が見えているかのように、すぐに振り向き懐から出したもう一本のナイフで結城の腹を刺した。

  結城は痛みで能力を解除した。血が流れ出ている。熱い。ここまで痛みを感じたのは初めてだ。結城は腰から崩れ落ち、床に倒れこんだ。


「そんな……」


 菜の花が目に涙をためて声を震わせた。菜の花は結城を救いたくても救えない。回復魔法を持っているわけでもない、能力を持っているわけでもないのだ。

  ここ大都市チャリオットでは能力を持って生まれるのが普通だ。だが、菜の花は違った。菜の花は希少で、高校でも唯一の無能力者だった。だから何にもできない。ただ、泣いて声を震わすことしかできない。


「よーし、これで運命の鍵ゲットーー!!わーい!!」


「お友達を傷つけるなんて……許せないよ……」


「ん?あー、無能力者さん!やっほーー!」


 怒りが静かにこみ上げてきた。せっかくできた友達をなんで傷つけられなければならない。菜の花が強く拳を握り叫ぶと、いまりょんと呼ばれた女は足から血を流し体勢を崩した。


「……え?」


 菜の花は訳がわからなかった。真生が攻撃したのかと思い見ても、まだ倒れこんでいる。つまり、これはーー


「私が、出した?」


 散々馬鹿にされてきた。無能力者だといじめられた。それを覆す出来事だった。


「いったぁ〜……、あれれ、無能力者だったはずなのに、凄い能力が使えるようになってる。虹を自由に操れるって……」


 足を抑えながら立ついまりょんに、菜の花は指で四角を作った。すると虹の結界ができ、いまりょんはそこに閉じ込められた。いまりょんは「はぁ!?」と目を白黒させ、どうにか出ようと試しているようだ。


「回復魔法も使えるかな……?」


 わからない。けど、やってみるしかない。学校で習った回復魔法の出し方を思い出し、手のひらに力を込めた。すると緑色の丸い輪っかが浮かびあがり、授業でならった回復魔法の完成形と同じになった。こうなればあとは放置しておけば自然回復する。


「良かった……。これで、あとはどうすれば……」


 そう言っているうちにいまりょんは能力を使い、虹の結界から脱出をした。そしてすぐに結城に使ったナイフを菜の花に刺そうとしてくる。菜の花は虹の盾で防ぎ、虹の剣で相手を刺した。


「いっ……!!」


 いまりょんは左胸から血を流し、左胸を抑えながらうつ伏せに倒れた。


「あ、あああ、やりすぎちゃった……」


「やりすぎじゃない。よくやった」


 復活した結城が、菜の花の肩に手を置いた。その後真生も目を覚まし、倒れたいまりょんを見て「はー」とため息をついた。

 菜の花はやり過ぎたことを懺悔しており、いまりょんにも回復魔法を使う。真生の提案でどこからか持ってきたロープでいまりょんを拘束した。


「いまりょんっていうの、この人」


「そうだよいつ花ちゃん!国民的アイドルで、月宮ツキミヤ伊万里イマリでいまりょんだよ!」


「正に国民的アイドルのイメージ堕落だな」


「感電して倒れてた役立たずは黙っててよね!」


「うるせえ!お前はいつも一言多いんだよ!」


 結城はそんな二人の会話に、静かに微笑んだ。人の会話で笑ったのなんていつぶりだろう、と記憶を辿ってみた。


「……んう」


 いかにも寝起きという声が聞こえてきた。寝起きといったら伊万里しかいない。三人でとっさに身構えた。拘束してるというのに。


「なにこれ!拘束されてる!?」


「そりゃ拘束もするだろ。なんでこの女を狙ったのか話してもらうぞ」


「はぁ……あともう少しだったのに、無能力者がまさか能力を開花させるとは」


「おい、答えろ」


「役立たずに話す話なんてないよ。そこの元無能力者から聞かれたら答えよっかな」


 拘束されているというのに、伊万里はまだ自分が優位に立っているかのように話した。


「それじゃあ聞くよ。どうしていつ花ちゃんを狙ったの?」


「結城ちゃんは、運命の鍵を宿してるの。結城ちゃんを殺せば、その運命の鍵が手に入ってゲートを開いて欲望を叶えてくれる。自分の欲望を満たすために狙ったんだよ」


「お前まさか、天才五人のうちの一人か?」


「それが何か?」


 結城がまたもやよくわからないことを言われ困惑していると、真生が説明してくれた。能力が一般のものより強いとみなされたものは天才とされ、欲望、つまり願いをなんでも叶えてくれるゲートを開く運命の鍵の持ち主の居場所を示す小型スマートフォンが支給される。つまり、結城は願いを叶えるための鍵を所有しているため、願いを叶えるには結城を殺して鍵を奪い取らなければならない。だから結城は殺されそうになった。伊万里を中心に地球が回っているわけではない、と論じたい。


「私、そんな鍵持ってない」


「生まれた時から身体に埋め込まれているのよ。だけど、鍵として正常に機能し出すのは誕生して16年経ってから。つまり、今年から本格的に結城の身体の中にある運命の鍵は、ゲートと直結し始めたってわけ」


 意味がわからない。結城はそんなに特別な人だったのか。結城は何故か笑いが出た。16年間で初めて知った、新たな自分。結城は自分のことを知れて嬉しかった。


「今、新しいフルーツを発見して食べたような気分」


「どういう気分だよ……」


 結城は拘束された伊万里に至近になるまで近寄り、吐息がかかるぐらいになってから口を開いた。


「ありがとう」


「……え?」


「貴方のおかげで私を知れたわ。ありがとう」


「……な、なんでそんな」


 何故か驚かれている。結城は首をかしげ、真生と菜の花は顔を見合わせ苦笑いをした。


「なんでそんな優しいの!?」


「優しい?」


「普通襲われて怒るでしょ!?襲われた相手にお礼言うってなにそれ!」


「なにでもない」


「ほんとに、ほんとに……」

 

 伊万里は長い睫毛を何回も下まつげと合わせ、とびきりの笑顔で結城に抱きついた。


「大好きです付き合ってください!」


「はぁ!?」


 つい真生は声が漏れた。さっきまで敵対していた相手が、結城に、狙っていた相手に告白をしている。おかしい。本当におかしい。結城はポカーンとし、伊万里に抱きつかれるがままだった。


「これ嘘じゃないからね!いまりょんみんなのアイドルだけど、今からいつ花だけのアイドルになるくらい本気だからね!?」


「そんな本気いらない」


「もー、いつ花ったら照れ屋さんなんだから!えへへ、今からいまりょんいつ花だけのアイドルでーーす!」


 何がどうしたらこうも気持ちの切り替えができるのだろうか。恋は盲目ということか。また真生と菜の花は顔を見合わせて苦笑いし、抱きつかれて好き好き言われている結城をみると、先ほどの出来事がまるで無かったかのように思えてくる。


「あっ、さっきはごめんねみんな!謝りの気持ちをこめて、これからはいつ花守るから許してねっ!」


「守る?伊万里ちゃんみたいにいつ花ちゃんを襲ってくる人がいるってこと?」


「もちろん。だって、願いが叶えられるんだよ?しかも天才はまだ四人残ってる。狙ってくるに決まってるよー!」


「それじゃあ、私も協力する!お友達だし!真生もね!」


「はぁ!?」


 とばっちりを受けた真生は、額を押さえてしばらく黙り込むと、「仕方ねえ」と言ったきり喋らなくなった。色々と追いついていけてないのかもしれない。敵だと思っていた相手は結城に告白、結城は運命の鍵所持者となれば、確かに困惑もするだろう。


「あの」


「なにいつ花!なんでも言っちゃってよね!」


「どうしたのいつ花ちゃん」


「制服から私服に着替えたいから帰る」


 予想外の返答が返ってきて菜の花は本日3度目の苦笑いをした。帰る前に、とみんなで携帯のアドレスを交換した。菜の花は携帯を持っていなかったため、家の電話番号をみんなに教えた。


「今日はありがとう。それじゃあ」


「ったく、本当に無愛想な女だな」


「役立たずに言われたくないわ」


「ほんとお前らひどくね!?」


 真生が突っ込んだのは完全スルーで、帰るために通学カバンを持って結城は思い出した。そういえばあの時、空気に馴染む能力で結城は透明になったのに、何故伊万里には見えていたのだろうか。しかも、菜の花を無能力者だと知っていた。誰も教えていないのに。


「貴方、何故私の姿が見えたの」


「能力発動中のいつ花の姿?いまなら愛のパワー★って言えるけど、それじゃ納得しないよね!このゴーグルだよ!このゴーグルには相手の能力が映って、透明とかになる相手は見えるの!ちょー万能ってわけ!」


「だから私が無能力者って……」


「うん!そこの男の子が役立たずなのもすぐわかったよ!」


「俺をいじるのもほどほどにしろ!」


 少し笑いが起きて、結城は通学カバンを背負い直した。軽く手を振り、後をついてくる伊万里とともに、この家を後にした。

  伊万里は運命の鍵関連のことがあるため、アイドルは休業中らしい。いつ花は特に興味が無かったので、腕を組んで話す伊万里も上の空で、自分たちを見下ろす青い空を見つめていた。この青い空の向こうに、ゲートというものはあるのだろうか、とか、どうして自分は運命の鍵を持って生まれたんだろうとか、考えてもわからないことを考えていた。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ