正月三ヶ日に……。
国民的歌謡番組を見終え白組の勝利に満足し、近くのB神社に初詣に行きくじを引いた。
「一等」だった。それで清酒一升を貰った。もっとも、おれは酒は飲まないので義父に渡すしかなかった。
翌朝(と、言っていいのだろうか?)、元日の早朝、有名な(少なくともおれの住む街では有名な)S神社に夫婦で初詣に行き、おみくじを引いた。
「大吉」だった。
なんて、幸運なんだ!
翌日、つまり正月の二日、有名な(少なくとも近辺市町では有名な)O神社に夫婦で初詣に行った。大変な人出だった。それでも、おみくじを引いた。
「大吉」だった。
なんて、幸運なんだ!
翌日、つまり正月の三日、全国でも有名な(少なくともおれはそう思っている)K神宮に夫婦で、ちょっと遠方なのでJRで初詣に行った。大変な、それこそ大変な人出だった。それでも、またおみくじを引いた。
「大吉」だった。
なんて、幸運なんだ!
信じられないくらいの幸運だ。今年はどんないいことがあるのだろうと思った。
身も軽やかにJRのT駅の陸橋を渡りプッラト・ホームへの下りのエスカレーターに乗ろうとした。
後で妻が何か言った。
で、後の記憶が曖昧になった。
気づくとおれは病院のベッドの上にいた。
「どうしたのだ? 」とおれは傍らの妻に言った。
「T駅のエスカレーターの一番上から転げ落ちたのよ」妻がおれを見下ろして言った。「軽い脳震盪だから、気分さえ悪くなかったら帰っていいって……」
一拍置いて、妻が冷酷に続けた。「JRを訴えようなんて思わないでね! みっともない! あなた、何だか知らないけれど浮かれすぎていたよ! 」
おれは呟いた。「おみくじなんて当てにならない。くじ『一等』におみくじ『大吉』三回連続だったのに! 」
それを聴いた妻がさらに冷酷に、かつ、何時ものように的確に言った。
「くじ『一等』におみくじ『大吉』三回連続に、あんたの今年の運を使い果たしたのよ! 」