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姫君への軌跡  作者: 瀬川メル
1章
4/60

4話目:気付いてしまった事

(そっか……隊長、姫の事が好きだったのか……)


 長い廊下をとぼとぼと歩くラクチェア。女官に目一杯手入れしてもらった艶やかな髪も、弱々しく揺れる。

 何かが物足りないような、そんな感覚。


(何でこんなに力が入らないんだろ……)


 庭まで来ると、王子が気付いて歩み寄ってきた。その笑顔を見て、胸の奥がきゅうっと締め付けられる。痛みさえ感じた。


「姫?」


 気付いた時には、視界がぐちゃぐちゃに歪んでいた。何かが頬を伝うくすぐったさに、自分が泣いているのだと悟る。

 慌てて手の甲で拭おうとすると、王子がハンカチを握らせた。


「どうしたの? 大丈夫? ……泣かないで」


 落ちた雫で気付かれたのか。心配そうな彼の声に、涙は更に溢れる。


(本当に、私どうしたの?)


 エディルに憧れ、ただひたすらに走ってきた自分。彼に褒められれば嬉しくて、彼に叱られた日は膝をかかえて夜を過ごした。

 恋仲? 駆け落ち? エディルはラクチェアではなく、セレネディア姫を選んだ。


(ああ、私は……)


 心にぽっかり穴が空いたようだ。きっとその場所を占めていたのはエディルへの思い。

 欠けてしまった恋心。


(好きだったのかあ)


 ふいに、ラクチェアの体が王子の元へ引き寄せられる。服越しに伝わる体温と、背中に回された腕。抱きしめられている。

 王子は何も言わなかった。何も聞かなかった。時折優しく髪を撫でて、頭をぽんぽんと叩く。

 ラクチェアの指も王子の服の裾を握る。少しだけ体重を預け、瞼を閉じた。


(優しい。優しいですね、王子。ごめんなさい、嘘をついて)


 しばらくその体勢のままで二人とも動かずにいたが、遠くで聞こえた女官達の声を合図にゆっくりと体を離す。

 王子が首を傾け、心配そうにラクチェアの手をとる。


「大丈夫?」


 こくりと頷くと、王子はホッとした顔になった。


「なら良かった」


 本当はまだ胸が痛くて苦しかったし、気を抜けば涙が滲みそうだった。けれど心は落ち着いていて、頭の中もすっきりしている。


(失恋したのね、私)


 自覚した時にはもう終わっていた恋。恋と呼ぶには淡く幼かったかもしれない。


「姫、今日は部屋で休んだ方が……」


 王子にそう言われ、ラクチェアは首を横に振る。テーブルまで小走りで移動し、置いてあった紙とペンに手を伸ばす。

 涼しげな風が、濡れた頬を撫でた。


『今日は薔薇園の奥の方まで行ってみませんか?薔薇以外の花もたくさんあるんです』


 渡された紙を見て、王子は微笑む。


「うん。行きたい」


 ベールの中で、ラクチェアも嬉しそうに微笑んだ。

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