双子
「わたしは女将ともう少し話があるから、二重門の前にある茶屋で待っててくれ」
中沢孫右衛門は、そう言って、琴を外に出した。
店を出ると、まだ浴衣姿のままの紅梅と亀が立っていた。
「元気で」
亀が泣きながら言った。
「ありがとう。お亀ちゃんもね」
琴は紅梅を見た。
「じゃあね」
壁に寄りかかっていた紅梅は、素っ気なくそれだけ言うと、琴の頭をポンと叩いて中に入って行った。
琴は二重門の方へ歩き始めたが、途中でふと立ち止まると方向を変えた。
鈴木大蔵と森山繁之介が水戸に戻ったのは、翌日の日も傾いた頃だった。
二人は、案の定、道場主の金子健四郎にこっぴどく叱られた。
しかし大蔵たちは、結局昨日のいきさつについて誰にも話すことはなかった。
「悪いな。わたしのせいで君まで。」
大蔵は、稽古着を着けながら、昨日の様子が嘘のように、常と変わらぬ口調で言った。
「いい経験になった」
繁之介は笑った。
「あんなものを見てしまうと、『愛民』なんて理想に疑問を感じるよ」
「でも、政治だって、最後はあれと同じだろ?」
繁之介は、大蔵の顔をまじまじ眺めた。
そして、禁忌に触れたように、話題を換えた。
「誰だか知らないが、その刀、早く渡せるといいな」
「ああ、いつか志筑に帰ったら。必ずそうするよ」




