用心棒
「茶番だ」
誰も居なくなった客間に取り残されると、平間重助は吐き捨てた。
嗣次は、今は使われていない囲炉裏の脇で、片膝を立てて刀の目釘を改めている。
「ご機嫌ななめだな」
「下村さん。あんた、どういうつもりでこんな素浪人がやるような仕事を請けた」
「まあ、いいじゃねえか。なんたって、素浪人みたいなもんだしよ」
そこへ、板張りの引き戸を開けて男が入ってきた。
「水戸から来た先生方てのは、あんた達かい?」
猿のような顔をしたその男は、意味ありげに二人の顔を見比べた。
「そういうあんたは」
嗣次は、刀から目を上げず、問い返した。
「おっと失礼。所用で留守にしてたもんで、挨拶が遅れちまったな。笹川一家の子分、三浦屋孫次郎ってもんです」
「拙者、水戸の平間重助と申す」
平間は軽く会釈して、嗣次を見やった。
嗣次は、チラと視線を上げて、
「よろしくな」
とだけ、応えた。
「早速で悪いが、親分がお出かけんなる。お願いしていいかい?」
「いいさあ。その為に来たんだ」
嗣次は、途端に愛想のいい笑顔になると立ち上がった。
孫次郎がそそくさと出て行くと、嗣次は帯を締めなおしながら平間の方を振り返って、声を落とした。
「面白くなってくんのはこっからだぜ。俺たちゃ今夜、繁蔵を斬る」
平間は言葉を失った。
「精々、大向こう受けする決め台詞を考えとくこった」
そう言った嗣次の顔は、いつもより蒼ざめていた。




