弔合戦
千賀浦部屋の角力だったという勢力富五郎は、平間重助を品定めするように睨めつけた。
「こいつはな、平田の兄貴の弔い合戦だ」
「穏やかじゃねえな」
下村嗣次は、鉄扇の先で顎をかきながら面白がっている。
富五郎の後を継いで、弟分の清滝佐吉が事情を説明した。
「三年前、利根川べりの出入りで、こっちは平田三亀って凄腕の剣客を失い、敵方の飯岡助五郎は、洲崎の政吉って右腕を失った」
「ひょっとして、瓦版屋が書き立ててた、大利根河原の決闘てやつか」
その噂は平間も耳にしたことがあった。
一説には侠客(きょうかく)二百有余人が入り乱れての死闘であったという。
「そうよ!喧嘩ではうちが勝ったが、結局、親分はお尋ね者として、笹川を追われる羽目になった。なりゆき、一家は離散して、俺たち子分もそれぞれ身を隠したんだ。おかしいじゃねえか?喧嘩両成敗って言うのによ。助五郎の野郎は、十手持ちと二足の草鞋を履いてやがったから、遠山金四郎って町奉行に手を廻して放免さ。そのお奉行ってのは、背中に桜吹雪の彫りもんを入れてるって噂もあって、渡世に半分足を突っ込んでるような、いかがわしい役人だぜ?」
「なるほど。それが今になって、あんたらの親分、笹川の繁蔵が戻ってきた訳か」
平間は横目で嗣次を睨んだ。
嗣次は縁台の上で胡坐をかいて、裁着袴の裾を弄っている。
その辺りの事情は既に承知している風だ。
勢力富五郎が、巨体を乗り出して話を引き取った。
「遅かれ早かれ白黒つけなきゃなんねえ。だがぶっちゃけたとこ、俺たちはまだ、昔の仲間を掻き集めたり、以前のシマを取り戻したりで、一家を立て直すのに手一杯だ」
嗣次は頬杖をついて、不敵な笑みを浮かべた。
「てなわけで、俺たちにお鉢が廻ってきたんだな」
「勘違いすんな。別にあんたらにカチ込めとは言わねえ。落とし前をつけんのは、俺らの仕事だ。助五郎の命は俺が取る」
「おう待てよ、でっかい旦那。俺らに、まさかお留守番をしろって話じゃねえよな?そりゃねえぜ?」
嗣次は、情けない声で富五郎にすがった。




