呪いと祈り
生と死の狭間がわかりにくくなりやすい人はお控えください。
私たち双子は不思議な力を持っている。
それは、強く思うことで願いが叶うのだ。
ただ、大きな違いが一つある。それは、姉の夜美は、人を呪う。妹の朝美は祈りを。
祈りと呪い。違うようでいて、起源は同じなのかもしれない。実際に私たち双子は形は違えど、思い、願うことでそれを叶えているのだから。
夜美は呪い、人を恨む。朝美は祈り、人を救う。私たちはお互いに足りない部分を補っている。
「ある人物を呪い殺してほしい」
夜美に依頼が入った。依頼人は二十代後半程の女性だった。
「理由は?」
「騙されたんです。結婚の約束をして、婚約指輪まで買ったのに彼は式場に来なかった。今考えると私、貢がされていたんです」
その女性は怒りに震えていた。
「法的処置などでは、貴方の怒りはおさまらないと?」
「はい。許せないんです」
「わかりました。お受けします。ただし、それなりの覚悟はしておいてください。人を呪わば穴二つ。貴方にも身の危険があることをあしからず」
女性は一瞬息をのんだ後
「お願いします」
「では、その相手の資料を頂けますか?何もなしでは、さすがに呪うことは不可能です」
女性は鞄から分厚い紙束を渡してきた。おそらく探偵にでも調べさせたんだろう。
「ご依頼、正式にお受け致しました。この口座に指定の金額を振り込んでおいてください。
あぁ、踏み倒そうとかは考えないでくださいね。私も一度に二人も呪いたくはありませんから」
女性は顔を青くし、頷いた。
「また夜美の依頼だね」
「世の中腐ってるのよ」
「そうだね」
「でも、だからこそ、貴方が必要なのよ。朝美。私の為に祈って」
「もちろん。人を呪わば穴二つ。夜美にも言えることだものね」
「「じゃあ、」」
「呪いましょう。今日は、あの女性の為に」
「祈りましょう。今日は、夜美の為に」
二人で強く願う。
どうか、あの女性の為に、貴方は死んで
どうか、夜美に不幸が訪れないように
二日後、吉報があった。いや、身内の方には訃報でしかない。あの男性が事故死したとのニュースが流れていた。
「死んだね」
「そうだね」
私たちは朝ごはんのトーストをかじりながらそのニュースを眺めていた。
今日は朝美に依頼がきた。
六十代前半の夫婦だ。
「娘が妊娠中なんですが、どうやら良くないようなんです。どうか、無事に、健康に産まれてきますようお祈りをお願いできませんか?」
「お受けします。娘さんと、赤ん坊の資料を頂けますか?」
「こちらです」
育児日記のようなものを渡された。まぁ、支障はない程度のことは記入されていたから、これで受けよう。
「正式にご依頼をお受け致しました。この口座に指定の金額を振り込んでおいてください。赤ん坊が産まれるまで日はありますが、吉報をお待ちください」
「ありがとうございます」
夫婦はとても嬉しそうに帰って行った。
「踏み倒されることはなさそうだね」
「そうだね。この間のは?」
「入ってたよ。自分は呪い殺すのに、殺されるのはいやなんだね」
「そんなもんだよ」
「「じゃあ」」
「祈りましょう。今日はあの妊婦と、赤ん坊に」
「呪いましょう。今日は朝美を邪魔するものを」
幾日か立ち、あの夫婦と、赤ん坊連れの夫婦がやって来た。
「無事に産まれました。本当にありがとうございます」
深々と頭を下げられた。
「祈りが通じて良かったです」
「お金の方はもう振り込んでおきましたから」
「はい」
二組の夫婦は、赤ん坊をとても愛おしそうな目で眺めていた。
「産まれたね」
「そうだね」
「こないだは殺したのにね」
「そうだね。でもそれが」
「「私たちの力。必要とされている」」
これが私たちの存在意義。誰にも否定させない。
来るものは拒まない。
貴方には呪いたい相手はいますか?夜美が依頼をお受けします。
貴方には祈りたいことはありませんか?朝美が依頼をお受けします。
次のご依頼人の方、こちらへどうぞ。
読んでいただき、ありがとうございました。
人を呪いたいほど憎んだり、藁にもすがる思いでいる人もいると思うので、簡潔かつわかりやすい例えで書いてみました。
お気に召した方がいれば幸いです。