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酷い男

作者: 八尾文月

初投稿です。テスト投稿として昔に書いた話を引っ張り出しました。

よろしくお願いします。


私の彼氏。

俺様で鬼畜で腹黒でドSで浮気症。

据え膳は食うけど、釣った魚に餌どころか水さえやらないで放置するタイプ。


それでも男女関係なく寄ってくる連中が減らないのは、その見た目が無駄に良いからだろう。

基本的に誘われたら断らないことも原因の一つだが。


人に縛られるのが嫌いなくせに、あの男には何故か恋人がいる。

…私だ。

まあ、肩書きだけの恋人だから、付き合ってはいても向こうはつまみ食いなんて当たり前に止めてないみたいだけどね。

何で私、あいつの彼女なんてやってるんだか。


告白は驚くことに向こうから。

なんか拒否権なかった上にまるで命令みたいだったから、当時は罰ゲームか何かだと思った。

いや、正直言うと今でも疑っている。

これはあの気紛れな男のちょっとした遊びなのだろうと。


すぐに飽きるだろうと付き合い始めてから既に約半年。何故か未だに別れていない。

その間に、大概のことは諦めた。

値踏みされるように見られることも、暴言を吐かれることも、嫌がらせをされることも。

仕方のないことだ。

それは付き合いを了承したときから分かっていたこと。

でも、流石にこれは許容できない。

人の、しかも仮にとはいえ彼女の部屋に女を連れ込むか?普通。

金は腐るほどあるんだから、どっかのホテルにでも行けばいいのに。


寝室から響く嬌声。

あのベッドはもう使えないな。

いや、別に潔癖症な訳ではないけども。他人が(そういう意味で)使った部屋でなんて寝たくないよね。


荷物を置くと、迷わず寝室へ続く扉のノブに手をかける。

自分の部屋だ。躊躇う必要性も感じない。


「随分と楽しそうなことやってるね」


部屋には入らずにそう声を掛けると、振り返った男が淫靡な顔で唇の端を吊り上げた。

図太いことに動じてもいない。


「何よ、あんた!」


代わりに相手の女が金切り声を上げた。

なかなかに気の強い性格のようだ。

服装は乱れているが、様子からしてまだ未遂だったらしい。

結構なとこ際どいけど。


「邪魔しないで、早く出てって!」


煩いな。

この男もまた、何て趣味の悪いのを引っかけたんだ。

内心でそう思いながらも、表面上は無表情を保つ。


「そう言われましても、ここは私の部屋で、どちらかというと貴女達の方が不法侵入者なんですがね?」


自分の部屋で他の女に盛る彼氏。

本来なら泣き崩れてもおかしくない場面だ。

昼ドラ並みの愛憎劇。

見る分にはいいが、当事者になんてなるものではないと思う。


「だとよ」


女が何か言おうとする前に、男が笑った。


「早く出て行けば?」


煙草を取り出しながらベッドを降りる。

部屋に匂いが着くから吸うのは止めてほしい。

そんな心の声が聞こえたわけでもないのだろうが、火はつけずにくわえただけだった。

興味を失ったのか、既にベッドの方を見向きもしない。

縋りついてくる半裸の美女を綺麗に無視している。


あまりの素っ気なさに流石の彼女も諦めたのか、服装を整えると部屋から出ていった。

擦れ違う時に私を睨みつけるのも忘れずに。

何て理不尽な。

こっちは被害者だというのに。


残ったのは、私と彼氏である男。


「…合い鍵なんて、渡した覚えはないんだけど」


「渡された覚えもないな」


私の言葉を肯定しながらも平然と居座るその神経は、ある意味尊敬できる。

こんな唯我独尊な性格で、よく今まで何事もなくこれたな。

顔が良いと何をしても許されるらしい。

男からにしろ女からにしろ、一度くらいは刺されて然るべきだと思う。

むしろ私がやるべきか。


「…さっきの人、良かったの?」


平然を装って尋ねてみる。


「お前がいるからな」


当然のように言われた言葉に、密かに唇を噛み締めた。

なんて残酷な男。

思わせ振りなことを言ったりして。

あの人より私の方を選んだのだと。

最後には私の元に帰ってくるのだと、そう思わせる言葉。

でも、どうせ今の言葉だって大した意味はないんでしょう?


とても最低なのに、とても魅力的な男。

それに惹かれる私は、なんて愚かな女なのだろう。


「ねぇ」


「ん?」


あんたは私を離してくれない。だったら、私から離れて行くしかないじゃない。


「別れよう」


「…あ?」


初めて彼の表情が崩れた。

美形はどんな表情でも美形であるなんて事実を再確認してしまったことが妙に腹立たしくて、そう思ってしまう自分に少し苛立つ。

二目と見られない顔になってしまえばいいのに。


「彼女なんてあんたには必要ないと思うし、もし要るとしてもそれが私でなきゃいけない理由もないじゃない?」


口が裂けても言えないが、私はこの男が好きだ。

それこそ、付き合うようになる前からずっと。

面倒で煩い女が嫌いだと知ってからは、冷静で何事にも取り乱さない性格になろうと努めるくらいには。

この男はそれを知らないだろうし、私も悟らせる気はない。


相手の気持ちも分からないのに、自分だけ本気になっている事実はとても虚しい。


「はっきり言って、飽きたの。あんたの娯楽に付き合うのは」


好きだからこそ、もう限界だった。徹底的な傷をつくる前に、まだ引き返せる内に別れたい。

これ以上、私を掻き乱さないで。


「…分かった」


彼は表情の見えない顔で頷いた。

くわえていた煙草に火を点け、煙が部屋に広がる前に部屋を出ていく。

呆気ない終わり方に、涙さえ出てこない。


「後悔するなよ」


擦れ違いざまに甘さすら感じさせる声で囁く男は、最後まで無情で無慈悲だ。

玄関の扉が閉まる音を聞きながら、私は床に座り込む。

後悔なんて…。

そんなもの、するに決まっている。

愛していた。あんな酷くて身勝手な男を、それでも愛していたのだ。


今日だけは泣いてしまおう。

明日からは何事もなかったかのように過ごさなければいけないのだから。


ただ、この恋が終わる前に一度だけ、窓から見える月に告白しよう。

言わなかったけれど、言えなかったけれど、あの人が好きでした。







それから今日で既に二週間が経つ。


私の生活はほとんど変わらない。

如何に恋人とはかけ離れた付き合い方だったのかが窺える。

だから私達が別れたことなんて周囲は知らず、時折見かけるあいつも変わらなかった。

そのことが尚更、自分達の関係が終わったことを自覚させられる。

どのくらい時間をかければ忘却は訪れるのか。

あの男を過去にできるのか。

それは、私自身ですら分からない。


二週間程度で忘れるなんて無理だと、そう自分を慰めながら自宅に帰った私は玄関に立ち尽くした。

眼前に広がるのは、何もかもが運び出されてしまった部屋。

大家からは解約の旨を知らされ、私の家は無くなった。

そして今、私は別れた筈の男の家にいる。


「…どういうこと?」


茫然自失の私を自分の家まで連れてきた人物は、二週間前のことなどなかったかのように笑った。


「お前の家は、今日からここになる」


決定事項のように言うな。何が悲しくて元彼と一緒に暮らさなくてはならないのだ。


「ふざけないで。私は今、忙しいの」


実家に連絡しなければならないし、新しい住居も探さなければならない。

勝手に解約しくさった誰かが持ち去ってしまった荷物は、もう諦めたほうがいいだろうか。


「荷物もここにある」


「はぁ!?」


開いて見せられた扉の向こうは、私の部屋が寸分違わず再現されている。

目眩がした。


「じ、冗談…」


「そう思うか?」


現実逃避しようとした意識を引き戻された。壁際まで追い詰められる。


「言っただろう? 後悔するなって」


壁に背中を付けたままへたり込んだ私を見て、目の前にいる男はとろけそうなほど甘い笑みを見せた。

腰を屈め、至近距離で視線を合わせる。


「今更、俺から逃げられると思うな」


そう囁いて、彼は私にキスをした。





読んでくださってありがとうございました。

なんだか中途半端でざっくりかつ淡々とした話になってしまったような気がしますが、これで完結です。


このあと、結局絆されて幸せになるもよし、女が男から逃げ出すもよし。

浮気症なのに独占欲の強い男。逃げられそうになったから閉じこめたとか本当に酷いです。

最初から最後まで最低で傲慢な男ですが、女に別れを告げられた原因である浮気は何となくしなくなるのではないかと思います。

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