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見栄っ張り

人を殴るならどの工具がいいか、男の子にに生まれたからにはだれでも考えるであろうことだろう。代表的なのはモンキーだと思う。よくサスペンスドラマ等で凶器として使われていて、ブルーカラー以外の職種の人でも何となく知っているであろう工具である。だが俺のおすすめはパイレンである。パイプレンチ通称パイレン、主に水道管やガス管など筒状のものを回転させる工具である。モンキーと形は似たりしてるが、パイレンの方が頭が重いので殴るにはちょうどいい。なおかつ大きさがズボンの後ろポケットに入るような小さいものからバットぐらいの大きさまであるわけだから色々と都合がいい。




部屋の扉がノックされたとき俺は小さいパイレンを尻のポケットにいれていた。ここにきて来客は初めてだったし、ラウ以外で他人と話したことがない。もしかしたら強盗の類であろうかとも思ったので、保険程度の気持ちで凶器を隠し持ってはいたが、まあその考えも扉を開けた瞬間改めるしかないわけだが。




例えば白熊にバット一本で立ち向かって勝てるかって話だ。




オークというのだろうか、ガンゴと名乗るこの巨躯の男は見下ろして俺を物珍しそうに見ていた。俺がビビり散らしているとラウが袖を引っ張る。




「知ってる人?」




ラウがうなずく、オークの男は彼女を見いつけてニカっと笑った。笑ったであってるよな。




「おお、お前さん居酒屋んとこの娘じゃねえか。最近みねえと思ったらこげん所いたか。」


「はい、お久しぶりです」


「なんば、姉さん心配してっぞ、顔ぐらいだしたらよいだ」


「ええ…はい…」




ラウはバツが悪そうな顔をしている。話が長くなりそうなので俺らはガンゴを家へ招き入れた。


ラウが率先してテーブルの上にカップを並べて、何とかもてなしの素振りだけは示している。




「それで、ガンゴさんはなぜこちらに?」


「おれぁ、あれよ」




あごでテーブルに置いた紙束を差した。




「ほら、俺のじいさんむかしゃー街長やっとっただろ…。ああ、おめも生まれてねえからわからんか」


「話には伺っています。50年ぐらい前でしたか」


「おうおう、だいだいそん位前だな。その爺さん死ぬ前に俺にこの紙束を預かったんだがね、その時に爺さんが言ったんだがよ。将来ここにケナシの獣人がくっからそいつに渡しといてくれってよ、街灯が点いたとき俺ぇすぐ爺さんの言葉を思い出してさ、んで来てみたらホントにケナシがいんだものよ」




俺を見て言った




「そのケナシってのが自分のことですか?」


「おおよぅ、耳も尻尾もねぇ、頭んぐらにしか毛がねぇそれがケナシってんだが……、あんまいい言葉でもねがったな、すまんねぇ、俺ぁ興奮しちまってだぎゃよ」




ケナシか…、確かに、なんかいい言葉のような気がしないな。ラウを見てみると彼女の眉間にしわが寄っているのが分かった。


ああ、何か怒ってるなぁ。




「そんなこったからソレ受けっとってくんれ」


「まあ、ハイ」




上から何枚か捲ってみた。年季が入っていて随分汚く文字がかすれている、しかも原文は筆記体で書かれた英語だ。これは解読に時間がかかりそうだ。




「そんで今日はソレ渡しに来ただけだけぇ、俺またすぐ街に戻んなきゃならんくってよ」


「もう帰られるんですか?今来たばかりではないですか」


「いやね、街灯が点いたおかげでよ、街はもりあがってんでよ、そっちに行かなきゃなんなくってよ……、朝まで酒飲むっていみだぁ」


「普通にお仕事だと思いましたよ」


「それが仕事なんだぎゃよう。ま、そんな感じだだからよろしくね」




そういってガンゴは本当に帰っていった




しかしまいった、俺は英語はあんまりできないんだよね。困った、困った……


だがちょっと待ってほしい、この一連の流れでラウがなんでか良くデキた犬をしていて驚いた。


食器を並べる速度も早く言葉遣いも丁寧だった。いつも小5くらいの知能指数だったのに、何年相応なふるまいをしているのか。


見栄を張ると言ったらよいか、いつもと違う感じがした。




「ヒロシーそれ読めるの?」




カップを片付けながらラウが聞いた




「だめ、全然読めない」


「そうなの?ガンゴさんが言うにはヒロシみたいな人が昔いたってことなのかなって思ってたけど」


「俺もそう思う」


「でも、読めないんでしょ」


「いやー、これは英語というローカル言語でございましてね、俺はベーシックな日本語しかできないんでして」


「ふーん、そうなんだ」




ラウの尻尾がブンブンと暴れている。


まあ、いつもこんな感じだよな。

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